第21話 潜入柔県
文字数 3,925文字
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
敵の本拠地への殴り込み―――
変わり果てた東京の姿を目の当たりにしたとしても―――
君は柔道が楽しいか?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
2020年12月18日金曜日夕方。
修練場から解放された蒼海大学付属高等学院の柔道部員達。
練習後に倒れた青桐 は、石山 に肩を貸してもらい、復路についている最中だった。
顔面真っ青で、よたよたと足を動かし、博多駅前の歩道を歩いて行く青桐。
いつもの1年生メンバーである石山、伊集院 、草凪 は、意識が朦朧としている青髪の青年を茶化しながら、彼の家へと送っていくのだった。
「龍夜 君、この前の俺と立場が逆転 ってるねぇ。とりあえず 、今の感想を聞いても良いかな?」
「…………」
「9割9分9厘、死にかけだな」
「青桐君、大丈夫ばい!?」
「……なんか川が見える」
「9割9分9厘、あの世が近い。手荒 にこの世 へ連れ戻すことを勧める」
「よっしゃ、親友 の俺に任せとけっ!!」
「青桐君、昇天 ったらダメばいっ!!」
青桐の頬を引っぱたき、この世へ連れ戻そうとする草凪と、そんな彼につられて頬を殴るのに加勢する石山。
スマホを弄る石山は、青桐がボコボコに殴られるのをただ眺めている。
数分殴られてようやく意識がはっきりしてきたのか、腫れあがった頬を摩りながら、生気のある目を3人へと向ける青桐。
殴られ過ぎたのか、目に涙を浮かべている。
「わ、わりぃ……死ぬところだった」
「気にすんなよ龍夜、親友 だろ?」
「礼には及ばんよ」
「あ、青桐君、これを毎日やると……? そのうち本気 で死んじゃうばい……」
「だ、大丈夫大丈夫……手当 す人間がいるからさ……それに平日だけだよ。休日は古賀さんの所で稽古をつけてもらうからさ……なぁ? 隼人」
「まあ、それはそうだけどさぁ……俺の想像以上に酷 いことになってんなお前……古賀さんの所に連れて行かない方が良かったか……?」
「あぁ? んな事ねぇよ……こんくらいやらねぇと、リヴォルツィオーネの連中には勝てねぇからな。そんで……不死原はどうだって?」
「警察 が身柄を保護している。9割9分9厘、快晴に向かっているそうだ」
「そーかそーか。後は……コイツらだな」
「おっ!! 青桐発見っ!! 野郎どもっ!! バリュー空売り したかぁ"!?」
「ウォ"ォ"ォ"ォ"!!」
青桐達の姿を見かけるや否や、道着に早着替えして柔道勝負を挑んで来た男達。
挑まれた回数を数える事を放棄するほど、街中で度々勝負を挑まれてきた青桐は、舌打ちしながら言葉を吐き捨てていく。
「……しつけぇなぁ。腐った果実みたいな顔面 しやがってよぉ……!!」
「龍夜、俺が代わりに柔道 ってやろうか?」
「お気遣いど~も隼人。悪いが心配いらねぇよ。コイツら程度なら……フラフラでも一本勝ち れるっつ~の……!!」
明らかに寿命を削っているようにしか見えない青桐。
目を離すとどんな無茶をやらかすか分からない彼を心配する3人は、青桐の希望はなるべく聞きつつも、いざという時のために、片時も目を離さないと心に誓うのだった。
ー---------------------------
2020年12月19日土曜日夕方。
部員全員での合同練習を終えた青桐は、草凪と共に古賀道場で追加の特訓を行っていた。
実業団選手に混じって乱取りを行う青桐は、以前指摘された通り、左右逆の技を実践で試していく。
「……っ!! ここか……?」
右足で相手の右足の内側を刈り取る小内刈りを放つ青桐。
続けざまに、右手で掴む横襟を引きつけ体を時計回りに回転させ、逆方向の一本背負いをおこなう。
意表を突かれた相手選手は、青桐が投げつける方向へ体が流れていくも、青桐自身も足の踏ん張りが効いておらず、相手選手と同じように体が流れていく。
逆方向の一本背負いは不発に終わり、畳にへばりつくように倒れる青桐。
古賀からの厳しい指導が入る。
「龍夜っ!! 両足が揃っているぞっ!!」
「了解 !!」
一段と熱の入った指導を行う古賀に連れられて、周囲の人間にも気合いが入る。
活気づく道場内の別の場所で乱取りを行う草凪は、相手選手としばしの談笑を行っていた。
「いや~今日はなんか熱気 が凄 いっすね」
「そうだねぇ……多分、青桐君の影響じゃないかな?」
「ですよねぇ~」
「最近の子にしては、えらく貪欲 しててさ、30歳越え 達も気合いが入っちゃうね」
「まあ……最近はちょっと熱が入り過ぎっすけどね……あれ? 古賀さんどちらに向かってるんですか?」
「ん? ああ、薬でも飲みに行ったんじゃないかな。持病持ってたからさ」
「そうなんすか……おぉ!?」
「はい隙あり。談笑 るのはこの辺にして、僕達も全力 でやろうか」
青桐の戦いを横目で見ながら、乱取り相手と会話していた隼人。
親友の戦いに区切りがつくと、目の前の実業団選手は燃え盛る炎をその身に纏い始めた。
草凪も全力で応戦すべく、両脚に痺れるような閃光が、きらめきを放ち始めるのであった。
ー---------------------------------
数時間にも及ぶ乱取りを終えた、青桐を含む門下生達。
柔軟体操などのクールダウンを行っていると、古賀が門下生達を1人1人訪ねていき、何かを確認しているようだった。
「……? 何してんだろ古賀さん」
「さぁ……あ、こっちに来たぞ龍夜」
「2人共、ちょっといいかい? 聞きたいことがあるんだけど」
「なんでしょうか」
「こう……スキンヘッドでグラサンをかけた、見るからに怪しい人間を目撃したことがないかい?」
「スキンヘッド……」
「龍夜、アイツらじゃねぇか?」
「……リヴォルツィオーネの?」
「知っているのか、龍夜は」
「そうっすね……この前の文化祭の時なんすけど、古賀さんが言ったような人間が、学園内をウロチョロしてたんですよね。後をつけて話を聞いてたら、どうもそいつ、リヴォルツィオーネの人間らしいです」
「そうか……いやな、最近その人間がこの道場付近を徘徊していて不審に思っていたんだよ。噂では、この近辺の土地の売買にも絡んでいるって言われていてな……この道場が買収されるかもなんて話が出ていたりするんだ」
「え、買収されるんですか、この道場」
「いいや誘いが来ても断るよ。ただ……周囲の土地を買われて、立ち退きを告げられたら厳しいかもな……」
「現実 っすか……」
「まあ、俺は諦めないよ。諦めからは何も生まれないからね……それでさ、スキンヘッドの男達について、ほかに知っている情報はないかな?」
「……えぇっと……そうですね。1月1日に東京湾でどうちゃらこうちゃら……柔県の名前も出ましたね……」
「柔県……リヴォルツィオーネの本拠地 だったな、確か。テレビで龍夜が派手に投げられてるのを見たから、鮮明に覚えているよ」
「ぐぅ……!?現実 っすか……」
「東京湾ね……少し探ってみようか。どうだい? この際だから2人も行く かい?」
「え? 東京に行く んすか?」
「龍夜と隼人のチケット代は俺が出すよ。目撃者に案内してもらった方が、探しやすいと思ってね」
「俺は良いっすけど……隼人は?」
「是非とも行きましょう。不謹慎 ですけど興奮 してきました」
「理解 った。2人の安全は俺が保証する。その代わり2人は、スキンヘッドの男を見つける手伝いを頼むぞ」
「了解 」
ー-----------------------------
2021年1月1日金曜日早朝。
年明けを祝うこの日に、青桐、草凪、古賀の3人は、お台場近くの港でリヴォルツィオーネの関係者と思わしき人間の捜索を行っていた。
東京に飛行機が直接飛ばなかったので、周囲の県を経由して乗り込んだ彼ら。
幾つもの閉鎖された道が彼らの行く手を阻んだが、警備の隙を潜り抜けて東京に侵入を果たしていたのだった。
コンテナが積み上げられた地帯を、しらみつぶしに探していく3人。
彼らのお目当ての人物は見当たらず、代わりに出迎えた人物達は……
「ジュウドウゥ"ゥ"ゥ"ゥ"ッ!!」
「ちっ!! またかよっ!! ……オラァ"ァ"ァ"ッ!!」
「グギャァ!! ……あれ? 俺はどうしてこんな場所に……」
「はぁっ……はぁっ……どうなってんだよ東京はっ!? 進む先々で柔道 を挑まれるって……正気失ってんじゃねぇかっ!?」
「龍夜っ!! そっちはどうだ!?」
「無収穫 です古賀さんっ!! 何処にもいませんっ!!」
「古賀さんっ!! こっちも龍夜と同じっすっ!! なんか危険 ぇ連中に柔道 を挑まれてますっ!!」
「隼人もか……青桐、この状況に心当たりは?」
「……伊集院が以前、東京が危険 ぇことになってるって言ってたんすけど。ここまで意味不明 なことになってんなんて……」
彼らが発見したのは、東京の至る所で発生している不可解な現象だけ。
学園祭で盗み聞きした情報は誤っていたのか?
額に皺を作る3人。
砂漠で砂金を探す行為を行っていた彼らが、一旦諦めようとしていたその時、何処からか声が聞こえてくる。
その声に反応したのは青桐ただ一人。
リヴォルツィオーネの人間かどうかは不明だが、確かに以前聞いたことがある声が聞こえて来た。
急いでその場へと直行する3人。
人影が目に入ると、青桐の表情は凍り付く。
そこにいたのは、スキンヘッドの男ではない。
東京の新人戦で、リヴォルツィオーネの柔道部員達に派手に投げられた人物達。
黒城 、白桜 、赤神 ら3人と、その付き添いの人間が一同に会しているのであった。
敵の本拠地への殴り込み―――
変わり果てた東京の姿を目の当たりにしたとしても―――
君は柔道が楽しいか?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
2020年12月18日金曜日夕方。
修練場から解放された蒼海大学付属高等学院の柔道部員達。
練習後に倒れた
顔面真っ青で、よたよたと足を動かし、博多駅前の歩道を歩いて行く青桐。
いつもの1年生メンバーである石山、
「
「…………」
「9割9分9厘、死にかけだな」
「青桐君、大丈夫ばい!?」
「……なんか川が見える」
「9割9分9厘、あの世が近い。
「よっしゃ、
「青桐君、
青桐の頬を引っぱたき、この世へ連れ戻そうとする草凪と、そんな彼につられて頬を殴るのに加勢する石山。
スマホを弄る石山は、青桐がボコボコに殴られるのをただ眺めている。
数分殴られてようやく意識がはっきりしてきたのか、腫れあがった頬を摩りながら、生気のある目を3人へと向ける青桐。
殴られ過ぎたのか、目に涙を浮かべている。
「わ、わりぃ……死ぬところだった」
「気にすんなよ龍夜、
「礼には及ばんよ」
「あ、青桐君、これを毎日やると……? そのうち
「だ、大丈夫大丈夫……
「まあ、それはそうだけどさぁ……俺の想像以上に
「あぁ? んな事ねぇよ……こんくらいやらねぇと、リヴォルツィオーネの連中には勝てねぇからな。そんで……不死原はどうだって?」
「
「そーかそーか。後は……コイツらだな」
「おっ!! 青桐発見っ!! 野郎どもっ!! バリュー
「ウォ"ォ"ォ"ォ"!!」
青桐達の姿を見かけるや否や、道着に早着替えして柔道勝負を挑んで来た男達。
挑まれた回数を数える事を放棄するほど、街中で度々勝負を挑まれてきた青桐は、舌打ちしながら言葉を吐き捨てていく。
「……しつけぇなぁ。腐った果実みたいな
「
「お気遣いど~も隼人。悪いが心配いらねぇよ。コイツら程度なら……フラフラでも
明らかに寿命を削っているようにしか見えない青桐。
目を離すとどんな無茶をやらかすか分からない彼を心配する3人は、青桐の希望はなるべく聞きつつも、いざという時のために、片時も目を離さないと心に誓うのだった。
ー---------------------------
2020年12月19日土曜日夕方。
部員全員での合同練習を終えた青桐は、草凪と共に古賀道場で追加の特訓を行っていた。
実業団選手に混じって乱取りを行う青桐は、以前指摘された通り、左右逆の技を実践で試していく。
「……っ!! ここか……?」
右足で相手の右足の内側を刈り取る小内刈りを放つ青桐。
続けざまに、右手で掴む横襟を引きつけ体を時計回りに回転させ、逆方向の一本背負いをおこなう。
意表を突かれた相手選手は、青桐が投げつける方向へ体が流れていくも、青桐自身も足の踏ん張りが効いておらず、相手選手と同じように体が流れていく。
逆方向の一本背負いは不発に終わり、畳にへばりつくように倒れる青桐。
古賀からの厳しい指導が入る。
「龍夜っ!! 両足が揃っているぞっ!!」
「
一段と熱の入った指導を行う古賀に連れられて、周囲の人間にも気合いが入る。
活気づく道場内の別の場所で乱取りを行う草凪は、相手選手としばしの談笑を行っていた。
「いや~今日はなんか
「そうだねぇ……多分、青桐君の影響じゃないかな?」
「ですよねぇ~」
「最近の子にしては、えらく
「まあ……最近はちょっと熱が入り過ぎっすけどね……あれ? 古賀さんどちらに向かってるんですか?」
「ん? ああ、薬でも飲みに行ったんじゃないかな。持病持ってたからさ」
「そうなんすか……おぉ!?」
「はい隙あり。
青桐の戦いを横目で見ながら、乱取り相手と会話していた隼人。
親友の戦いに区切りがつくと、目の前の実業団選手は燃え盛る炎をその身に纏い始めた。
草凪も全力で応戦すべく、両脚に痺れるような閃光が、きらめきを放ち始めるのであった。
ー---------------------------------
数時間にも及ぶ乱取りを終えた、青桐を含む門下生達。
柔軟体操などのクールダウンを行っていると、古賀が門下生達を1人1人訪ねていき、何かを確認しているようだった。
「……? 何してんだろ古賀さん」
「さぁ……あ、こっちに来たぞ龍夜」
「2人共、ちょっといいかい? 聞きたいことがあるんだけど」
「なんでしょうか」
「こう……スキンヘッドでグラサンをかけた、見るからに怪しい人間を目撃したことがないかい?」
「スキンヘッド……」
「龍夜、アイツらじゃねぇか?」
「……リヴォルツィオーネの?」
「知っているのか、龍夜は」
「そうっすね……この前の文化祭の時なんすけど、古賀さんが言ったような人間が、学園内をウロチョロしてたんですよね。後をつけて話を聞いてたら、どうもそいつ、リヴォルツィオーネの人間らしいです」
「そうか……いやな、最近その人間がこの道場付近を徘徊していて不審に思っていたんだよ。噂では、この近辺の土地の売買にも絡んでいるって言われていてな……この道場が買収されるかもなんて話が出ていたりするんだ」
「え、買収されるんですか、この道場」
「いいや誘いが来ても断るよ。ただ……周囲の土地を買われて、立ち退きを告げられたら厳しいかもな……」
「
「まあ、俺は諦めないよ。諦めからは何も生まれないからね……それでさ、スキンヘッドの男達について、ほかに知っている情報はないかな?」
「……えぇっと……そうですね。1月1日に東京湾でどうちゃらこうちゃら……柔県の名前も出ましたね……」
「柔県……リヴォルツィオーネの
「ぐぅ……!?
「東京湾ね……少し探ってみようか。どうだい? この際だから2人も
「え? 東京に
「龍夜と隼人のチケット代は俺が出すよ。目撃者に案内してもらった方が、探しやすいと思ってね」
「俺は良いっすけど……隼人は?」
「是非とも行きましょう。
「
「
ー-----------------------------
2021年1月1日金曜日早朝。
年明けを祝うこの日に、青桐、草凪、古賀の3人は、お台場近くの港でリヴォルツィオーネの関係者と思わしき人間の捜索を行っていた。
東京に飛行機が直接飛ばなかったので、周囲の県を経由して乗り込んだ彼ら。
幾つもの閉鎖された道が彼らの行く手を阻んだが、警備の隙を潜り抜けて東京に侵入を果たしていたのだった。
コンテナが積み上げられた地帯を、しらみつぶしに探していく3人。
彼らのお目当ての人物は見当たらず、代わりに出迎えた人物達は……
「ジュウドウゥ"ゥ"ゥ"ゥ"ッ!!」
「ちっ!! またかよっ!! ……オラァ"ァ"ァ"ッ!!」
「グギャァ!! ……あれ? 俺はどうしてこんな場所に……」
「はぁっ……はぁっ……どうなってんだよ東京はっ!? 進む先々で
「龍夜っ!! そっちはどうだ!?」
「
「古賀さんっ!! こっちも龍夜と同じっすっ!! なんか
「隼人もか……青桐、この状況に心当たりは?」
「……伊集院が以前、東京が
彼らが発見したのは、東京の至る所で発生している不可解な現象だけ。
学園祭で盗み聞きした情報は誤っていたのか?
額に皺を作る3人。
砂漠で砂金を探す行為を行っていた彼らが、一旦諦めようとしていたその時、何処からか声が聞こえてくる。
その声に反応したのは青桐ただ一人。
リヴォルツィオーネの人間かどうかは不明だが、確かに以前聞いたことがある声が聞こえて来た。
急いでその場へと直行する3人。
人影が目に入ると、青桐の表情は凍り付く。
そこにいたのは、スキンヘッドの男ではない。
東京の新人戦で、リヴォルツィオーネの柔道部員達に派手に投げられた人物達。