第46話 南阿のガーディアン
文字数 3,880文字
足で翻弄していた今までとは一転、距離を詰めてのインファイトに打って出たガブリエル。
がっぷりと組み合った2人は、守りを捨てた技の応酬を始める。
先手はガブリエル。
体をのけぞらせながら、ハンドルを右へと切るように組立った両手を回す彼。
右足を木場の左足の脛の部分に当てたまま、上体を崩しつつ足払いを仕掛けていく。
「強襲 くゼぇ~!! 振り落とされんナヨッ!!」
「殴り合い ねぇ~……上等だオラァ"ァ"ァ"ッ!!」
足技がかかっている左足に力を込めると、両手だけで敵の体を振り回す木場。
体が流され足技が不発に終わったガブリエルを、畳に押し付けるように道着を真下に引っ張ると、相手が上体を起こすタイミングに合わせて、密着しながら右足で敵の左足の内側を刈り取る大内刈りを繰り出す。
真後ろに押し込まれながら左足を刈り取られるガブリエル。
右足一本で体を支える彼は、後方へ低い軌道のまま跳躍すると、木場との間にスペースを作り出し、その空間に回転しながら潜り込み、背負い投げを仕掛けていく。
己の道着の襟の部分を持つガブリエルの右手を、真下に滑らせるようにして切っていく木場。
相手が背を向けた際に、帯の部分を羽交い絞めのように左手で掴むと、右手を相手の右腋の下を通して前方で道着を掴み、そのまま左後方へと投げ飛ばす技。
裏投げを繰り出す木場。
右手が宙を泳いでいるガブリエルは、いきなり後方へと投げ飛ばされたことに驚き、危うく受け身を取るのが遅れるほどのタイミングで畳に投げ飛ばされる。
寝技へと移行する前に、木場の両手から逃れ立ち上がるガブリエル。
待てがかかり技ありの判定が木場に入る。
仕留めそこなった木場は悔しそうに歯軋りをしており、笑みを絶やさないガブリエルは、ささやかながら冷汗をかいてる。
(ウォ~……危 ッ!? 対処困難 な技使うジャン、あのウニ頭ッ!!)
(……ちっ!! あのガブリエルって野郎、裏投げで投げられる直前、自分から投げられる方向にわざと飛びやがったっ!! 案外技巧派 いのかぁ!? 面倒 ぇ……!!)
たった数秒の間に、おびただしい濃密な技の攻防を繰り広げていく2人。
スタミナ配分を考えない殴り合いにより、体格差によるハンデを背負っているガブリエルの体が悲鳴を上げていく。
「……Oh!? 足が……夢 かヨッ!! ……Hey!! ちょっと休息 しなイ?」
「あ"ぁ"ん"?疲労困憊 のかぁ!? 弱音 吐 ても完全無視 だオラァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!」
試合序盤から試合会場内を、脱兎の如く駆け巡っていたガブリエル。
足を使った翻弄する戦い方は、それ相応に体力を消費する。
加えて腕力でも木場に劣っている彼は、組み合うだけで普段よりも体力を多く消耗していた。
それらが目に見える形で現れた時には、ガブリエルの両脚は、取り返しがつかないほど疲れが溜まっており、鉛のように重くなっていたのだった。
「フーッ!!厄介 日本人 だゼ……!!」
「さぁ~てと!! そろそろ〆と行こうじゃねぇかっ!!」
「……OK、その提案 乗ってあげるヨッ!!」
「あ"ぁ"!?」
(あの野郎……後に下がりやがった、何やる気だ……!?)
攻撃のチャンスはあと僅かだと悟るガブリエル。
木場と組み合うことを辞めると、後方へと下がり距離を取る。
彼の周囲には光の粒子が飛び交っていき、何もない空間を右足で払うと、それらの粒子は三日月のように姿形を変え、木場の足元を刈り取りに飛翔していく。
前方から襲い掛かる無数の三日月。
迎え撃とうと身構える木場が、足元に気を取られていると、ガブリエルは雷を両足に纏い、光の速さで距離を詰めていく。
2つの選択を強制的に同時に迫らせることで、時間差攻撃を行っていく彼。
捨て身の特攻で勝負をかける彼に対して、木場が決断した選択は……
「おぉん……なら、正面突破 と行こうじゃねぇかっ!!」
襲い掛かる無数の三日月に突進していく木場。
足を刈り取られないように、表面が剥がれる程の強さで両足の指で畳を噛んでおり、一歩一歩確実に進んで行く彼。
どちらの攻撃に備えるのかを見極めようとしていたガブリエルは、両方ともねじ伏せに来ようとする木場に、苦笑いしながら突進していた。
(おいおい~日本人 、強攻策 とは過激 過ぎんゼ~……OK……!! どっちが一本負け か、勝負と行こカッ!!)
一切攻めの姿勢を崩す気がない両者。
我先にと相手の道着に手を伸ばす。
先に届いたのは……
「HAHAHA!!勝利 ったゼッ!! No.71 紫電……!?」
(赤い羽……ッ!?)
木場の左袖を先に握ったガブリエルは、紫電の閃光と共に、木場を投げ飛ばそうとする。
そんな彼の目の前に、赤い羽が舞い降りて来た。
それらは2人の周囲をヒラリヒラリと舞い踊り、木場の足さばきに呼応して、粉塵爆破のように燃え広がっていく。
炎圧による衝撃で、技の動きを強引に止められたガブリエル。
対する木場は、爆炎の中で、両膝を畳に付けながら背負い投げの要領で上半身を左回転させていき、左手で握りしめた袖を外へと引いていく。
真下に投げ落としながら行われる背負落しの強化技。
No.72―――
「十火炎天落 し……ヤ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!」
投げるというよりは、真下へと投げ落とす技。
神々しく燃え広がる赤き羽は、ガブリエルを畳に叩き落とした衝撃に寄り、天高く舞い上がっていく。
審判は声を張り上げる。
木場の勝利を伝えるために。
「いっぽぉぉぉぉぉん!!」
「はぁ……はぁ……了解 !! お疲れさん、ホレ」
「ん……Thank you~……いや、参ったゼ、完敗だナッ!! また機会があったら、戦 ろうゼッ!!」
「おうよ」
(……参ったなぁ……速攻 で決着 をつけるつもりだったのによぉ……随分と忍耐 られちまったぜ)
右手を指し出す木場の手を取り、畳から体を起こしていくガブリエル。
互いに礼をしていくと、城南の副将へと交代するため、仲間が待つ場外へと歩を進めていく。
「いや~負けちまったゼ~!! あのとんがりヘッド、ちょ~強 いから気を付けなヨッ!!」
「Understood. thanks for the advice(理解 りました。忠告、感謝 )」
「頼むゼ、アーロンッ!! フ~……」
(……最低限の仕事ハ出来たカ?本当 で頼むゼェ~アーロン……)
笑みの中に悔しさを滲ませているガブリエル。
今は後続の仲間を応援するため、それらの感情を押し殺し、次の試合に視線を戻す。
「次の相手はお前か……お前も確か花火大会にいたよな? えぇと……」
「Aaron Allenze. You can call me Aaron.(アーロン・アレンゼ。アーロンと呼んでいただければ良いですよ)」
「あ、アーロン? で良いんだな……えぇっと……あぁん?」
「……? Oh, you don't understand English, do you? Excuse me, I can hear, but I can't speak.(……? ああ、英語が理解 らないんですか。謝罪 、俺は聞き取りは出来るのですが、喋 ることは出来ないんですよね)」
「お、OKOK、のーぷろぶれむ」
「Let's have a good game. Bet on each other's pride.(ではいい試合をしましょう。互いの誇りを賭けて)」
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高校生ランク54位 回生の火花 「木場燈牙 」
VS
高校生ランク113位 南阿のガーディアン 「アーロン・アレンゼ」
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「開始 っ!!」
決勝戦副将同士の対決。
この試合で勝利したほうが、次の大将戦へと進むことになる。
いよいよ大詰めを迎えて来た決勝戦。
背が非でも勝って、敵の大将を消耗させたい両者は、試合開始と共に、小細工抜きに真っ向から組合に行った。
「……!! コイツ……!!」
「Come on, let's go compete!!(さあ、力比べと行きましょうか!!)」
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『んん~……』
『おや? どうしました松木 さん?』
『ん? いやね、この勝負、どっちが勝つかな~ってアレコレ考えていたんだ。そんで両選手のデータを眺めてたんだけどねぇ~……始めは木場選手が勝つかなって思ってたの。けどさ~……さっきの試合、城南の選手が思った以上に善戦してたじゃない? 体格差があるのに』
『そうですね……軽量級と重量級の選手のぶつかり合いにしては、一方的な戦いにならなかったと言いますか……』
『そうそうそれなんだよ。普通は体格差ってのは大きなハンデになるんだけどさ、相手のガブリエルって選手、上手い事足を使って攪乱してきたよね。序盤は組手争いをなるべく避けて、終盤は技の応酬に持ち込んだ……木場選手はちょっと面食らってんじゃない? 本当ならもっと楽に勝ちたい相手だったのに。スタミナ持つのかなぁ?』
『それだけ一筋縄ではいかないのが柔道の試合。現在は副将同士の戦い……この戦い、一体どのような結末を迎えるのでしょうか!?』
がっぷりと組み合った2人は、守りを捨てた技の応酬を始める。
先手はガブリエル。
体をのけぞらせながら、ハンドルを右へと切るように組立った両手を回す彼。
右足を木場の左足の脛の部分に当てたまま、上体を崩しつつ足払いを仕掛けていく。
「
「
足技がかかっている左足に力を込めると、両手だけで敵の体を振り回す木場。
体が流され足技が不発に終わったガブリエルを、畳に押し付けるように道着を真下に引っ張ると、相手が上体を起こすタイミングに合わせて、密着しながら右足で敵の左足の内側を刈り取る大内刈りを繰り出す。
真後ろに押し込まれながら左足を刈り取られるガブリエル。
右足一本で体を支える彼は、後方へ低い軌道のまま跳躍すると、木場との間にスペースを作り出し、その空間に回転しながら潜り込み、背負い投げを仕掛けていく。
己の道着の襟の部分を持つガブリエルの右手を、真下に滑らせるようにして切っていく木場。
相手が背を向けた際に、帯の部分を羽交い絞めのように左手で掴むと、右手を相手の右腋の下を通して前方で道着を掴み、そのまま左後方へと投げ飛ばす技。
裏投げを繰り出す木場。
右手が宙を泳いでいるガブリエルは、いきなり後方へと投げ飛ばされたことに驚き、危うく受け身を取るのが遅れるほどのタイミングで畳に投げ飛ばされる。
寝技へと移行する前に、木場の両手から逃れ立ち上がるガブリエル。
待てがかかり技ありの判定が木場に入る。
仕留めそこなった木場は悔しそうに歯軋りをしており、笑みを絶やさないガブリエルは、ささやかながら冷汗をかいてる。
(ウォ~……
(……ちっ!! あのガブリエルって野郎、裏投げで投げられる直前、自分から投げられる方向にわざと飛びやがったっ!! 案外
たった数秒の間に、おびただしい濃密な技の攻防を繰り広げていく2人。
スタミナ配分を考えない殴り合いにより、体格差によるハンデを背負っているガブリエルの体が悲鳴を上げていく。
「……Oh!? 足が……
「あ"ぁ"ん"?
試合序盤から試合会場内を、脱兎の如く駆け巡っていたガブリエル。
足を使った翻弄する戦い方は、それ相応に体力を消費する。
加えて腕力でも木場に劣っている彼は、組み合うだけで普段よりも体力を多く消耗していた。
それらが目に見える形で現れた時には、ガブリエルの両脚は、取り返しがつかないほど疲れが溜まっており、鉛のように重くなっていたのだった。
「フーッ!!
「さぁ~てと!! そろそろ〆と行こうじゃねぇかっ!!」
「……OK、その
「あ"ぁ"!?」
(あの野郎……後に下がりやがった、何やる気だ……!?)
攻撃のチャンスはあと僅かだと悟るガブリエル。
木場と組み合うことを辞めると、後方へと下がり距離を取る。
彼の周囲には光の粒子が飛び交っていき、何もない空間を右足で払うと、それらの粒子は三日月のように姿形を変え、木場の足元を刈り取りに飛翔していく。
前方から襲い掛かる無数の三日月。
迎え撃とうと身構える木場が、足元に気を取られていると、ガブリエルは雷を両足に纏い、光の速さで距離を詰めていく。
2つの選択を強制的に同時に迫らせることで、時間差攻撃を行っていく彼。
捨て身の特攻で勝負をかける彼に対して、木場が決断した選択は……
「おぉん……なら、
襲い掛かる無数の三日月に突進していく木場。
足を刈り取られないように、表面が剥がれる程の強さで両足の指で畳を噛んでおり、一歩一歩確実に進んで行く彼。
どちらの攻撃に備えるのかを見極めようとしていたガブリエルは、両方ともねじ伏せに来ようとする木場に、苦笑いしながら突進していた。
(おいおい~
一切攻めの姿勢を崩す気がない両者。
我先にと相手の道着に手を伸ばす。
先に届いたのは……
「HAHAHA!!
(赤い羽……ッ!?)
木場の左袖を先に握ったガブリエルは、紫電の閃光と共に、木場を投げ飛ばそうとする。
そんな彼の目の前に、赤い羽が舞い降りて来た。
それらは2人の周囲をヒラリヒラリと舞い踊り、木場の足さばきに呼応して、粉塵爆破のように燃え広がっていく。
炎圧による衝撃で、技の動きを強引に止められたガブリエル。
対する木場は、爆炎の中で、両膝を畳に付けながら背負い投げの要領で上半身を左回転させていき、左手で握りしめた袖を外へと引いていく。
真下に投げ落としながら行われる背負落しの強化技。
No.72―――
「
投げるというよりは、真下へと投げ落とす技。
神々しく燃え広がる赤き羽は、ガブリエルを畳に叩き落とした衝撃に寄り、天高く舞い上がっていく。
審判は声を張り上げる。
木場の勝利を伝えるために。
「いっぽぉぉぉぉぉん!!」
「はぁ……はぁ……
「ん……Thank you~……いや、参ったゼ、完敗だナッ!! また機会があったら、
「おうよ」
(……参ったなぁ……
右手を指し出す木場の手を取り、畳から体を起こしていくガブリエル。
互いに礼をしていくと、城南の副将へと交代するため、仲間が待つ場外へと歩を進めていく。
「いや~負けちまったゼ~!! あのとんがりヘッド、ちょ~
「Understood. thanks for the advice(
「頼むゼ、アーロンッ!! フ~……」
(……最低限の仕事ハ出来たカ?
笑みの中に悔しさを滲ませているガブリエル。
今は後続の仲間を応援するため、それらの感情を押し殺し、次の試合に視線を戻す。
「次の相手はお前か……お前も確か花火大会にいたよな? えぇと……」
「Aaron Allenze. You can call me Aaron.(アーロン・アレンゼ。アーロンと呼んでいただければ良いですよ)」
「あ、アーロン? で良いんだな……えぇっと……あぁん?」
「……? Oh, you don't understand English, do you? Excuse me, I can hear, but I can't speak.(……? ああ、英語が
「お、OKOK、のーぷろぶれむ」
「Let's have a good game. Bet on each other's pride.(ではいい試合をしましょう。互いの誇りを賭けて)」
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高校生ランク54位 回生の火花 「
VS
高校生ランク113位 南阿のガーディアン 「アーロン・アレンゼ」
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「
決勝戦副将同士の対決。
この試合で勝利したほうが、次の大将戦へと進むことになる。
いよいよ大詰めを迎えて来た決勝戦。
背が非でも勝って、敵の大将を消耗させたい両者は、試合開始と共に、小細工抜きに真っ向から組合に行った。
「……!! コイツ……!!」
「Come on, let's go compete!!(さあ、力比べと行きましょうか!!)」
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『んん~……』
『おや? どうしました
『ん? いやね、この勝負、どっちが勝つかな~ってアレコレ考えていたんだ。そんで両選手のデータを眺めてたんだけどねぇ~……始めは木場選手が勝つかなって思ってたの。けどさ~……さっきの試合、城南の選手が思った以上に善戦してたじゃない? 体格差があるのに』
『そうですね……軽量級と重量級の選手のぶつかり合いにしては、一方的な戦いにならなかったと言いますか……』
『そうそうそれなんだよ。普通は体格差ってのは大きなハンデになるんだけどさ、相手のガブリエルって選手、上手い事足を使って攪乱してきたよね。序盤は組手争いをなるべく避けて、終盤は技の応酬に持ち込んだ……木場選手はちょっと面食らってんじゃない? 本当ならもっと楽に勝ちたい相手だったのに。スタミナ持つのかなぁ?』
『それだけ一筋縄ではいかないのが柔道の試合。現在は副将同士の戦い……この戦い、一体どのような結末を迎えるのでしょうか!?』