第9話 異国からの訪問者
文字数 2,899文字
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頂点を狙う者は各地に存在する―――
群雄割拠の世界で戦い続けたとしても―――
君は柔道が楽しいか?
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2020年10月12日月曜日の放課後。
蒼海 大学付属高等学院の道場内では、ウォーミングアップが終わり、打ち込み練習を行う時間となっていた。
本日は飛鳥 が急用のため博多の地下修練場が使用できず、従来通り道場での練習をおこなっている。
畳の擦れる音が何重にも重なり合う中、監督の井上 は、生徒たちが技を打ち込む姿を目に焼き付けていた。
「木場 、引き手が甘いぞっ!! 自分の目線より上だっ!!」
「了解 !!」
「五十嵐 、備品の調達の依頼は出来ているか?」
「備品ですか? ……はい、円滑 ですっ!!」
「そうか……」
「……? 井上監督、なにか考えごとですかっ!?」
「ああ……土曜の試合を思い出していたんだよ」
「……黒い柔道着の集団のことですかっ!?」
「そうだな……このままの指導方法で問題ないのか考えていたところだ。飛鳥 さんの訓練施設が使えるとは言え、あと1年弱の期間でアイツらに勝てるのかどうか……正直見当がつかんな」
「そうですね……私も一応分析しているのですが……あの実力 に勝てるのは、大学生レベルでも怪しいと言いますか……プロ柔道選手が相手にならないと勝てなさそうですねっ!!」
「プロか……青桐 、石山 、伊集院 、木場 、花染 ……彼ら5人の成長性 に賭けるしかないな。五十嵐、花染葵 は今どうしている?」
「葵さんですか? 多分事務の作業をしているはずですっ!!」
「練習試合の予算をどれだけ引っ張れるか確認してきてくれないか? 見積もりを取って来てくれ」
「了解 !!」
右手で敬礼する五十嵐は、威勢よく道場を飛び出していく。
敷地を跨いで5歩ほど進んだ彼女。
忘れ物でもしたのだろうか。
殺人鬼にでも追いかけられているような形相で道場へと戻って来た。
「やややや、緊急事態 いですっ!! なんか、外人がっ!! げほげほっ!! あ、私咽ましたねぇっ!!」
「五十嵐……忘れ物か? 流石にそそかしい……」
「違いますよ井上監督っ!!他 校 の 外 人 がそこに居たんですっ!!」
「他校の外人……?」
目をかっぴらいて訴えかける五十嵐。
彼のか細い人差し指が指し示す方向には、見慣れない4人の外人と、花染 や木場 といった2年生の生徒が良く知る人物が道場を訪ねて来ていた。
今年のインターハイ出場をかけた福岡大会の決勝で、蒼海大学付属高等学院の選手達と戦ったチームの主将、大原乃亜 である。
ホリゾンブルーの色をした金平糖のような髪型をしている彼。
後ろでソワソワしながら周囲を見渡している外人達を尻目に、花染と木場に話しかけてくる。
「よう花染。全国は惜しかったな」
「……風はこう言っている。何しに来たんだお前らはとな。それに……」
「ああ、コイツらはな……見学したいって駄々をこねられてな……気にしなくていい」
「おう大原っ!! てめぇ喧嘩 かましにきたのかぁ!?」
「おいおい、それは流石に物騒 過ぎるだろ……挨拶 だよ挨拶 !! 学校名が変わったから、そのお知らせで来たんだよ」
「あぁ? 学校名が変わった? 城南高等学院じゃねえのか?」
「ああ、色々と学校が吸収合併されてな……これからは城南国際糸島アイランドスクール学院高等高校って名前になった」
「……あぁ~んだって?」
「城南国際糸島アイランドスクール学院高等高校」
「……誰がそんな糞みてぇな名前付けたんだ?」
「うちの財前 理事長だな」
「そいつ馬鹿 なんじゃねぇの……?」
「……そうだなぁ」
花染と木場と話していく内に、どんどん目を背けていく大原。
彼も学内の事情に関しては色々と思う所があるようで、歯切れの悪い言葉しか出てこない。
「……まあ、うん、そういうことだから。それとだ……俺含めて、後 ろ の コ イ ツ ら が来年のレギュラー候補だ。今度こそか勝たせて貰うぜ? んじゃな」
最後に一瞬語気が荒くなった大原。
対照的に、彼に紹介されて無言のまま微笑む外人選手達。
来訪者の5人は、入口で一礼すると、道場を後にしていく。
やることを終えた大原達は、校門前で待たせている外国人コーチの元へと、足早に向かって行った。
「ふー……」
「も~キャプテンだけズルいですヨ!! ワタシ達もお喋りしたかったデス!!」
「シモン、流石に収拾がつかなくなるから勘弁してくれ……」
「そんなコト無いヨ!! オリバーはキャプテンの手腕 ヲ信じてるヨ!!」
「HAHAHA!! なんだ? 俺達もう喋 ってもいいのカ!?」
「It's quite difficult to keep silent. I'm about to have a conversation……(無言を貫くのもなかなか大変ですね。俺もそろそろ会話を……)」
「……あぁぁぁぁ!! やっぱりこうなるじゃんっ!? お前ら、学校に帰るまで口を開かないことっ!! OK!?」
『えェ~?』
「……大原さん、もうよろしいのですか?」
「……!! ええ、もう大丈夫です、ジョンソンヘッドコーチ。無理を言って謝罪 」
「いえいえ、生徒のお願いをなるべく叶えてあげるのが、指導者 としての役割ですので」
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福岡県に存在する能古島という離島。
緑豊かな島だったのだが、現在は、無数の土木作業員がひっきりなしに工事を行っており、商業施設が次々と建設されていっている。
この島を再開発する人間の名は財前富男 。
城南国際糸島アイランドスクール高等学院高校の理事長であり、莫大な財を持って能古島にこの高校を創設した人間である。
彼は今、秘書と今後の打ち合わせを行いながら、豪勢な食事に舌鼓している最中であった。
金髪のアフロに、ワインのように真っ赤な衣服へと袖を通す贅肉だらけの彼。
金に魂が宿った人間と言われても仕方がないような人物である。
「財前様、以上が今後の方針になりますがよろしいでしょうか」
「あー……はいはい、OK ですよ。バッチOK です」
「……あの、本当 でいいのですか? 他校への妨害工作なのですし、もうちょっと細部を詰めた方がいいのでは……」
「煩いですねぇ……煩いですねぇ!! ワタクシが言っているのですから小市民は黙って言う事を聞いていればいいのですっ!!」
「わ、理解 りました!! 失礼します!!」
「あぁー馬鹿 な部下のせいで、怒 になってきましたよぉ……!! 補助金搾取 するんですから、頼みますよぉっ!! それに後で蒼海のバリューを発行しておかないとですねぇ!! ん? 電話ですか……はいもしも~し」
『財前さんッ!! 俺だ、不死原 だっ!! この前言ってた薬 の件、覚えてっかっ!? アレを俺に譲って欲しいんだよっ!!』
「薬 ……あ~アレですか。いいですよぉ~」
『現実 かっ!? 恩に着るぜ、感謝 っ!!』
「あ、はいはい理解 りました。それではよろです~……おほほほほ……おほほほほっ!! 間抜け が引っかかり ましたよぉっ!!」
頂点を狙う者は各地に存在する―――
群雄割拠の世界で戦い続けたとしても―――
君は柔道が楽しいか?
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2020年10月12日月曜日の放課後。
本日は
畳の擦れる音が何重にも重なり合う中、監督の
「
「
「
「備品ですか? ……はい、
「そうか……」
「……? 井上監督、なにか考えごとですかっ!?」
「ああ……土曜の試合を思い出していたんだよ」
「……黒い柔道着の集団のことですかっ!?」
「そうだな……このままの指導方法で問題ないのか考えていたところだ。
「そうですね……私も一応分析しているのですが……あの
「プロか……
「葵さんですか? 多分事務の作業をしているはずですっ!!」
「練習試合の予算をどれだけ引っ張れるか確認してきてくれないか? 見積もりを取って来てくれ」
「
右手で敬礼する五十嵐は、威勢よく道場を飛び出していく。
敷地を跨いで5歩ほど進んだ彼女。
忘れ物でもしたのだろうか。
殺人鬼にでも追いかけられているような形相で道場へと戻って来た。
「やややや、
「五十嵐……忘れ物か? 流石にそそかしい……」
「違いますよ井上監督っ!!
「他校の外人……?」
目をかっぴらいて訴えかける五十嵐。
彼のか細い人差し指が指し示す方向には、見慣れない4人の外人と、
今年のインターハイ出場をかけた福岡大会の決勝で、蒼海大学付属高等学院の選手達と戦ったチームの主将、
ホリゾンブルーの色をした金平糖のような髪型をしている彼。
後ろでソワソワしながら周囲を見渡している外人達を尻目に、花染と木場に話しかけてくる。
「よう花染。全国は惜しかったな」
「……風はこう言っている。何しに来たんだお前らはとな。それに……」
「ああ、コイツらはな……見学したいって駄々をこねられてな……気にしなくていい」
「おう大原っ!! てめぇ
「おいおい、それは流石に
「あぁ? 学校名が変わった? 城南高等学院じゃねえのか?」
「ああ、色々と学校が吸収合併されてな……これからは城南国際糸島アイランドスクール学院高等高校って名前になった」
「……あぁ~んだって?」
「城南国際糸島アイランドスクール学院高等高校」
「……誰がそんな糞みてぇな名前付けたんだ?」
「うちの
「そいつ
「……そうだなぁ」
花染と木場と話していく内に、どんどん目を背けていく大原。
彼も学内の事情に関しては色々と思う所があるようで、歯切れの悪い言葉しか出てこない。
「……まあ、うん、そういうことだから。それとだ……俺含めて、
最後に一瞬語気が荒くなった大原。
対照的に、彼に紹介されて無言のまま微笑む外人選手達。
来訪者の5人は、入口で一礼すると、道場を後にしていく。
やることを終えた大原達は、校門前で待たせている外国人コーチの元へと、足早に向かって行った。
「ふー……」
「も~キャプテンだけズルいですヨ!! ワタシ達もお喋りしたかったデス!!」
「シモン、流石に収拾がつかなくなるから勘弁してくれ……」
「そんなコト無いヨ!! オリバーはキャプテンの
「HAHAHA!! なんだ? 俺達もう
「It's quite difficult to keep silent. I'm about to have a conversation……(無言を貫くのもなかなか大変ですね。俺もそろそろ会話を……)」
「……あぁぁぁぁ!! やっぱりこうなるじゃんっ!? お前ら、学校に帰るまで口を開かないことっ!! OK!?」
『えェ~?』
「……大原さん、もうよろしいのですか?」
「……!! ええ、もう大丈夫です、ジョンソンヘッドコーチ。無理を言って
「いえいえ、生徒のお願いをなるべく叶えてあげるのが、
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福岡県に存在する能古島という離島。
緑豊かな島だったのだが、現在は、無数の土木作業員がひっきりなしに工事を行っており、商業施設が次々と建設されていっている。
この島を再開発する人間の名は
城南国際糸島アイランドスクール高等学院高校の理事長であり、莫大な財を持って能古島にこの高校を創設した人間である。
彼は今、秘書と今後の打ち合わせを行いながら、豪勢な食事に舌鼓している最中であった。
金髪のアフロに、ワインのように真っ赤な衣服へと袖を通す贅肉だらけの彼。
金に魂が宿った人間と言われても仕方がないような人物である。
「財前様、以上が今後の方針になりますがよろしいでしょうか」
「あー……はいはい、
「……あの、
「煩いですねぇ……煩いですねぇ!! ワタクシが言っているのですから小市民は黙って言う事を聞いていればいいのですっ!!」
「わ、
「あぁー
『財前さんッ!! 俺だ、
「
『
「あ、はいはい