第56話 龍vs鬼

文字数 3,298文字

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人の心は移り変わらず―――
そう易々とは理解を得られないとしても―――
キミは柔道が楽しいか?
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 高校生ランク20位「黒城龍寺(こくじょうりゅうじ)
       VS
 高校生ランク26位「酒吞童子(しゅてんどうじ)夜叉丸(やしゃまる)
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開始(はじめ)っ!!」

「しゃ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!

「お"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"!!」

 柔道タワー最上階で始まった模擬戦。
 管理人である神無月(かんなづき)が審判を務め、2人の青年たちが火花を散らす。
 共に雷を両足に纏い、試合会場内全域を使って駆け回りつつ、組手合戦に臨む黒城達。
 酒呑童子を仲間に引き込むため、絶対に負けられないリーゼントの彼は、周囲の人間が目で追うのもやっとな動きを見せる中、目の前の敵を冷静に分析している。

(この野郎……俊敏性(スピード)は俺よりちいと鈍足(のろ)いか? ……問題は腕力(パワー)かっ!!)

突撃(かま)すぜぇ突撃(かま)すぜぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"!!」

 稲光に紛れて鬼の剛腕が振り下ろされる。
 迫りくる右手を払いのけようと、両手で自分の体の左側へといなそうとする黒城。
 受け身の体勢に入った彼の思惑を打ち砕くように、払いのけようとする両腕を、片腕だけで押し返していく。

「こんなものかぁ? 生温(へちょ)いぞぉ"ぉ"ぉ"!!」

「く、この……あ"ぁ"!! 腕が切れねぇなぁ糞がぁ"ぁ"ぁ"!!」

 道着の横襟を掴まれた黒城。
 左手で、敵が掴む右腕の道着の襟の部分を握ると、右手は酒呑童子の右手首を掴むようにして握り、真下へと押し込み、道着を滑らせる形で敵の組手を切り離そうとする彼。
 だが、酒吞童子が有する想像以上の握力は、その試みを防いでいく。
 
「なんだなんだぁ~? 俺を仲間(ダチ)にすると試合前に言っていたが……この調子じゃ無理そうだなぁ!!」

「うるせぇ近くで叫ぶな鼓膜破れんだろっ!! つ~か俺のこと無礼(なめ)んのも大概にしとけよなぁ!! 勝ったらぜってぇ仲間(ダチ)になって貰うぞぉ!!」

「それは不可能だと今言っただろぉ!! 理解力小学生(ガキ)かぁ!? 一から勉強し直してくるがいいっ!!」

「あぁ!? んだとぉ!!」

()るのかぁ!? ()るんだなぁ!!」

静止(まて)っ!!」

「げぇ!? 神無月さん、今いいとこなんすけど……」

「そうだね、僕的にも愉快(ツボ)る所なんだけどね、これ一応柔道の試合中だからね? 暴言過多で処分(しどう)を取るからね、2人共だよっ!!」

現実(マジ)っすかぁ"ぁ"ぁ"っ!?」

「俺もか? 俺もなのかぁ"ぁ"ぁ"!!」

 白熱する野次り合いに待ったをかけた審判の神無月。
 本人的には続行したかったのだが、柔道タワーの管理人としての役割に従い、互いに指導を言い渡していく。
 その2人の戦いを観戦していたマネージャーの春宮(はるみや)と、監督の早乙女(さおとめ)監督は、呆れた表情で行く末を見守っていた。

「早乙女監督、仮に酒呑童子が仲間(ダチ)になったら、黒城先輩みたいな馬鹿(ぼんくら)がもう1人増えたって認識で良いんすか?」

「そ~だなぁ……」

「アタイ、アイツら世話(サポ)るの嫌なんっすけど!!」

「春宮、廃校がかかってんだ、我慢するんだぞ? アタシも頑張(きば)るからさ」

「うぅ……こんな奴だったとは……!! もうちょっと調査(ググ)っとけばよかった……!!」

「んだっけ? アイツ炎属性と雷属性の選手なんだっけ? 黒城に張り合えるとはなかなかやんじゃんかよ」

「伊達にランク26位なだけないっすね。リヴォルツィオーネが来なければ8位ぐらいっすからね。上澄みも上澄みっす」

「……んでそんな奴が公式戦に出てねぇんだよ。勿体ねぇなぁ~……ちょっと神殺し(アルコール)飲酒(キメ)るか」

「監督、帰りのヘリっ!! 飲酒運転っ!!」

「あぁ~……そうだったなぁ~面倒(うっ)ぜぇ……」

「ってか監督、何か黒城先輩に助言(アドバイス)しなくていいんすか!? 」

「あぁ? いらねぇだろ。つ~か、コイツぐらいアタシの助言(アドバイス)無しで倒して貰わねぇと、話になんねぇよっと」

 黒城の戦いにいくつか不満がありそうな早乙女監督。
 今回は試合中に助言を行わないと決めているようで、彼女は機嫌を悪くしながら静かに試合を眺めている。

開始(はじめ)っ!!」

戦闘()るぜ戦闘()るぜ戦闘()るぜぇぇぇ!!」

「……」

(この野郎……証拠にもなく真っ向から突進(かま)しに来やがった。上等だぜぇ……受けてやんよぉ!!)

 試合開始位置から最短距離で突っ込んでいく2人。
 真っ向からの力の勝負を挑みにいく酒呑童子を前に、黒城も同じく真っ向から勝負を挑みに行く。
 彼の得意分野であるスピード勝負を……

「もらっ……躱されたっ!?」

(このリーゼント(とんがり)頭……さっきより動きが速ぇぞ!? ……雷で書かれた陣……避雷陣(ひらいじん)かっ!!)

 酒呑童子が右腕を振るい落とすコンマ数秒前、黒城は足元に、己を円の中点に見立てて、稲妻を発するサークルを作り出していた。
 侵入して来た敵の動きを雷が感知し、サークル内に存在する人間は、脊髄反射を超える速さで敵の動きを自動で回避していく技。
 No.69避雷陣を繰り出していた黒城。
 躱すと同時に酒吞童子の右襟左袖を握りしめると、体を180度反時計回りに回転させ、敵が自分の道着を掴むよりも前に、内股を繰り出し酒呑童子の左足を内側から払い上げに行く。
 
一本負け(くたばれ)ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"!!」

「ぬぅ"ぅ"ぅ"ぅ"!! No.11……赫灼(かくしゃく)っ!!」
  
 フリーになっている左手に炎を纏う酒呑童子。
 そのまま地面に敷き詰められた、真下の畳へと劫火を叩きつけていく彼。
 畳の表面は焼け焦げ、無数の亀裂が生まれていく。
 左足で地面を踏みしめていた黒城は、脆くなった畳に足を捕られ、バランスを崩し技が不発となっていった。

「どっわ!? テメェ試合会場ぶっ壊してんじゃねぇよ!! 器物破損で訴えんぞゴラァ!!」

喋喋(ゴチャゴチャ)(べしゃ)る野郎だなぁ……舌噛んでも知らんぞっ!! No.74―――」

 繰り出した技をすかされたような形になり、背を向けたまま自分だけ前へと突っ込んでいく黒城。
 酒吞童子と正対しようと振り返るも、振り向き際に彼はコチラの右横襟と左袖を各々両手で掴み取り、缶ジュースを振るように瞬間的に小さく上下に動かしていく。
 小さな揺れはやがて大きな振動を生み出し、ガードを固める相手の体勢を問答無用で崩していく技。

鎧崩(よろいくず)しぃ"ぃ"ぃ"!!」

 衝撃波が体を貫いていく感覚と共に、体の正面が、がら空きの無防備な状態になる黒城。
 トドメを刺すべく詰め寄る酒呑童子。
 左回転しながら懐へと潜り込み、横襟と腕下の袖を握りると、右足を黒城の両脚がかかるまで伸ばし、一度膝を曲げた反動を利用してばねのように払い上げていく。
 布団をひっぺがえされたかのような動きで畳へと投げつけられる黒城。
 審判の甲高い声と共に、待ての合図がかかる。

「技ありぃぃぃぃ!! 静止(まて)っ!!」

「ちっ!! 技ありかっ!!」

「……ククク」

「なんだ混乱(バグ)ったか?」

「ばぁ~か、違ぇよ!! テメェが(えぐ)いから思わず笑っちまったんだよ」

「誉め言葉か? なかなか素直……」

「やっぱ(えぐ)いやつ程よぉ~倒しがいがあるからなぁ"~!! 興奮(あが)って来たぜぇ"ぇ"ぇ"!!」

 畳の上に仰向けで倒れていた黒城。
 地面からゆっくりと体を起こしながら声を荒げると、彼の周囲に磁気を発するドーナツ型の小型のリングが無数に漂い始める。
 首を鳴らしながら酒呑童子を睨みつける黒城。
 ここからが本番だと言わんばかりに、不敵に笑う彼の目は、好物を見つけた獰猛な肉食動物のようであった。

「No.53……磁界輪舞(じかいりんぶ)!!」
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