第64話 狂風統べし黒衣の超越者
文字数 3,211文字
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欺き化かす道化師の策略―――
泥沼に沈みゆくことになったとしても―――
君は柔道が楽しいか?
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『さぁ大変なことになっております!! なんとこの昇格戦の決勝戦、強豪落陽山 高校の相手をするのは、夏の大会で宣戦布告 を行った、リヴォルツィオーネ……黒い柔道着の集団ですっ!!』
テレビ局の人間が、カメラに向けて捲し立てるように解説している。
周囲の観衆も互いに顔を見合わせながら、異端の人物達の動向を見守っている。
黒城 達に注目する人間は、ほんのわずかしかいない。
「……なんかよぉ~……俺達脇役 みたいになってねぇか!? んの野郎どもがぁ……夏もそうだったし、今回も話題を掻っ攫いやがってぇ……毎度毎度邪魔しかしてねぇじゃねぇか!!」
「ふ~……みなさんこんにちは ~!! お会いできて光栄です☆」
「やだあの人、端麗 くない? 影がある感じがいい感じよっ!! お~い!! こっちこっち!!」
「ん? どもども~!! 応援、感謝 」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「……おうお前ら円陣組むぞオラァ!!」
前髪の長い陰のある男、名は熊谷風斗 と呼ばれるらしい。
愛想を振りまき、一斉に黄色い声援を浴びる抹茶色の髪をした美男子を前に、黒城達は目を血走らせながら円陣を組む。
「いいかっ!? あの野郎どもに委縮 ってる奴はいねぇよなぁ!? なぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!?」
「了解 っ!!」
「糞チャラ男がよぉ~……柔道はもっと硬派なもんだろっ!? ヘラヘラしてんじゃねぇよ、なぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!?」
「了解 っ!!」
「絶対勝つぞ……この前とは違うってことを理解 らせてやんよぉ!! ぶっ殺すぞぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"!!」
「了解 っ!!」
「ちょっと黒城先輩!! そういう言動のせいで、アタイらの高校、チンピラ高校って呼ばれてんすよ!!早乙女 監督も何か注意して下さいっすよ!!」
「おう黒城っ!! 遠慮はいらねぇ……ぶっ殺せぇ"ぇ"ぇ"ぇ"!!」
「監督ぅ!?」
殺気を高めていく黒城 、酒呑童子 、銃守 、早乙女 監督。
マネージャーの春宮 は、世間体を考えてたしなめるも、周囲の人間は一切聞く耳を持たない。
先鋒の戦いは、黒城と熊谷との戦い。
場内へと進んで行く2人。
互いに相対し、挨拶がてらに言葉を交わす。
「ふ~……初めまして、黒城さん!! 今日はよろしくね✰』
「ぶっ殺しま~すぅ!!」
「ふふ、会話のキャッチボール、する気がないねぇ~☆」
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高校生ランク20位「黒城龍寺 」
VS
高校生ランク5位「熊谷風斗 」
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「開始 っ!!」
「しゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ふ~……こいっ!!」
両足に雷を纏い、真っ向から道着を掴み取りにかかる黒城。
彼の右手が熊谷に触れると同時に、目の前の敵は風に吹かれた白煙のように姿を消していく。
「あぁ!? 幻術かよっ!!」
(この野郎……春宮が言ってた通りの風属性か……!!)
姿を眩ませた熊谷を視界に捉えるため、四方を見回す黒城。
だが、先ほどまで黄色い声援を浴びていた彼は、景色に溶け込んだまま姿を見せない。
「……」
(さぁ~てと……この化石頭 、どう料理してくれようかなぁ……あ"ぁ"?)
息を潜める熊谷。
黒城を仕留めに行こうとする熊谷は、表面上の振舞いに対して、内心では苛烈な激情を抱いていた。
姿を景色と同化させる彼が目にしたもの。
黒城が無数の磁場を帯びた輪を、無差別に放出している姿だった。
(磁界輪舞 か……まぁ、幻術対策なら範囲攻撃だろうなぁ!!)
姿を眩ませていた熊谷は、体を透過させたまま黒城の道着を掴み取りにかかる。
その際にいくつかの磁場を帯びた輪に触れてしまった熊谷。
黒城はそれを見逃すことなく、現在地に当たりをつけ勘で右手を左右に振りまわし、敵の体を捕らえにかかる。
「……おっ!! ここだろっ!!」
「!! ……ふ~やるね✰」
「ったりめ~だろがっ!! こっちは同級生 の花染 と狐塚 で、幻術対策は完璧 なんだよぉ!! おらぁ"ぁ"ぁ"!!」
掴み取った道着を強引に手繰り寄せ、そのまま黒城は左手で、敵の道着の右袖を掴み取る。
今度はその左手を鋼の意思で握り続けると、適当に握っていた右手を離し、所定の位置である敵の道着の襟を握り直す。
熊谷もしぶしぶ両手で相手の道着を握りしめると、相四つの状態になっていく。
「チャラ男君~~~!! 中々やるじゃないかい、柔道技巧 いねぇ~?」
「ん~巧言 が凄 いねぇ~☆」
「……楽観 の朝飯前 も今の内だぞ!! 捕まえたらこっちのもんだっ!! とっとと……!?」
何かを仕掛けられる前に、勝負を決めようとしたした黒城。
左足を前へと踏み込ませようとしたその時、刃のような空気の塊によって、足が大きく刈り取られていく感覚に陥る。
黒城の左足は前へと踏み出されることが無く、真横に動いて行き、体勢は次第に仰け反っていく。
大内刈りの強化技であり、使用した数秒後に風の力によって足を刈り取られていく技。
時間差攻撃を繰り出せる柔皇の技。
No.25―――
「……〆颪送払 い。ちょっと口軽 だよね君✰」
「んぐぅ……がぁぁぁ!!」
体勢を崩される黒城。
両手で敵をハンドルを切るように反時計回りに力を込めて振り回すと、軸にしていた右足で踏ん張りながら、体勢を強引に戻していく。
「……へぇ~戻した。大幹凄 いん……」
「No.40……!!」
体勢を戻したのも束の間、敵の股の下を通すように右足を突っ込むと、そのまま手前へと引き寄せていき、敵の右足を後ろから刈り取りに行く。
地を這うような稲妻を思わせる小内刈りの強化技。
No.40―――
「稲妻刈 り……あぁ!?」
黒城の技が当たる直前に、腰を時計回りに回すことで体の体勢を変えた熊谷。
その後、わざと自分から右足を払い上げられることで、威力を殺しながら受け流していく。
(手応え全然ねぇぞ!? この野郎が……!!)
「No.63、武雷ぎ……」
「武雷斬 りね、はいはいっと✰」
自らを発光させることで相手の視界を奪い、横薙ぎ一閃の足払いを瞬時に行う技。
武雷斬りを行おうとした黒城。
彼が発光すると同時に、自分から手を離した熊谷。
目を閉じながら後方へと飛ぶ彼は、淡々とした態度で、黒城の強力な技を難なく捌いていく。
「……」
「あれ?中断 だったのが胸にこたえた? 謝罪 謝罪 ✰」
「…………」
(あっれぇ……? 俺の技が効かねぇぞ……)
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「おいおい、黒城のやつ押してるぞ!! これいけんじゃねぇか!?」
「ああ!! リヴォルツィオーネかなんだか知らねぇけど、そんなチャラチャラして無礼 た奴、とっととぶん投げちまえ!! 一本勝ち っちまえ!! 黒城ぉ!!
試合開始時こそ注目を集めていなかった黒城。
だが、見かけは押せ押せな試合内容に、次第に彼を応援する狂信的な声が増えてくる。
決勝の試合を観戦していた黒城の後輩である薬師寺 。
彼はこの試合を1人、周囲の人間とは対照的に冷静に分析しているのであった。
「黒城の兄貴……のらりくらり躱されてるって感じだな。一見押してるように見えるけど……うぅ~ん? これ勝てるのか……? 俺ならどう戦おうかな……」
ほんの少し観戦してから家に帰ろうと思っていた薬師寺。
いつの間にか試合に夢中になっていた彼は、かつての先輩の雄姿を見届けるのであった。
欺き化かす道化師の策略―――
泥沼に沈みゆくことになったとしても―――
君は柔道が楽しいか?
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『さぁ大変なことになっております!! なんとこの昇格戦の決勝戦、強豪
テレビ局の人間が、カメラに向けて捲し立てるように解説している。
周囲の観衆も互いに顔を見合わせながら、異端の人物達の動向を見守っている。
「……なんかよぉ~……俺達
「ふ~……みなさん
「やだあの人、
「ん? どもども~!! 応援、
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「……おうお前ら円陣組むぞオラァ!!」
前髪の長い陰のある男、名は
愛想を振りまき、一斉に黄色い声援を浴びる抹茶色の髪をした美男子を前に、黒城達は目を血走らせながら円陣を組む。
「いいかっ!? あの野郎どもに
「
「糞チャラ男がよぉ~……柔道はもっと硬派なもんだろっ!? ヘラヘラしてんじゃねぇよ、なぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!?」
「
「絶対勝つぞ……この前とは違うってことを
「
「ちょっと黒城先輩!! そういう言動のせいで、アタイらの高校、チンピラ高校って呼ばれてんすよ!!
「おう黒城っ!! 遠慮はいらねぇ……ぶっ殺せぇ"ぇ"ぇ"ぇ"!!」
「監督ぅ!?」
殺気を高めていく
マネージャーの
先鋒の戦いは、黒城と熊谷との戦い。
場内へと進んで行く2人。
互いに相対し、挨拶がてらに言葉を交わす。
「ふ~……初めまして、黒城さん!! 今日はよろしくね✰』
「ぶっ殺しま~すぅ!!」
「ふふ、会話のキャッチボール、する気がないねぇ~☆」
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高校生ランク20位「
VS
高校生ランク5位「
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「しゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ふ~……こいっ!!」
両足に雷を纏い、真っ向から道着を掴み取りにかかる黒城。
彼の右手が熊谷に触れると同時に、目の前の敵は風に吹かれた白煙のように姿を消していく。
「あぁ!? 幻術かよっ!!」
(この野郎……春宮が言ってた通りの風属性か……!!)
姿を眩ませた熊谷を視界に捉えるため、四方を見回す黒城。
だが、先ほどまで黄色い声援を浴びていた彼は、景色に溶け込んだまま姿を見せない。
「……」
(さぁ~てと……この
息を潜める熊谷。
黒城を仕留めに行こうとする熊谷は、表面上の振舞いに対して、内心では苛烈な激情を抱いていた。
姿を景色と同化させる彼が目にしたもの。
黒城が無数の磁場を帯びた輪を、無差別に放出している姿だった。
(
姿を眩ませていた熊谷は、体を透過させたまま黒城の道着を掴み取りにかかる。
その際にいくつかの磁場を帯びた輪に触れてしまった熊谷。
黒城はそれを見逃すことなく、現在地に当たりをつけ勘で右手を左右に振りまわし、敵の体を捕らえにかかる。
「……おっ!! ここだろっ!!」
「!! ……ふ~やるね✰」
「ったりめ~だろがっ!! こっちは
掴み取った道着を強引に手繰り寄せ、そのまま黒城は左手で、敵の道着の右袖を掴み取る。
今度はその左手を鋼の意思で握り続けると、適当に握っていた右手を離し、所定の位置である敵の道着の襟を握り直す。
熊谷もしぶしぶ両手で相手の道着を握りしめると、相四つの状態になっていく。
「チャラ男君~~~!! 中々やるじゃないかい、柔道
「ん~
「……
何かを仕掛けられる前に、勝負を決めようとしたした黒城。
左足を前へと踏み込ませようとしたその時、刃のような空気の塊によって、足が大きく刈り取られていく感覚に陥る。
黒城の左足は前へと踏み出されることが無く、真横に動いて行き、体勢は次第に仰け反っていく。
大内刈りの強化技であり、使用した数秒後に風の力によって足を刈り取られていく技。
時間差攻撃を繰り出せる柔皇の技。
No.25―――
「……
「んぐぅ……がぁぁぁ!!」
体勢を崩される黒城。
両手で敵をハンドルを切るように反時計回りに力を込めて振り回すと、軸にしていた右足で踏ん張りながら、体勢を強引に戻していく。
「……へぇ~戻した。大幹
「No.40……!!」
体勢を戻したのも束の間、敵の股の下を通すように右足を突っ込むと、そのまま手前へと引き寄せていき、敵の右足を後ろから刈り取りに行く。
地を這うような稲妻を思わせる小内刈りの強化技。
No.40―――
「
黒城の技が当たる直前に、腰を時計回りに回すことで体の体勢を変えた熊谷。
その後、わざと自分から右足を払い上げられることで、威力を殺しながら受け流していく。
(手応え全然ねぇぞ!? この野郎が……!!)
「No.63、武雷ぎ……」
「
自らを発光させることで相手の視界を奪い、横薙ぎ一閃の足払いを瞬時に行う技。
武雷斬りを行おうとした黒城。
彼が発光すると同時に、自分から手を離した熊谷。
目を閉じながら後方へと飛ぶ彼は、淡々とした態度で、黒城の強力な技を難なく捌いていく。
「……」
「あれ?
「…………」
(あっれぇ……? 俺の技が効かねぇぞ……)
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「おいおい、黒城のやつ押してるぞ!! これいけんじゃねぇか!?」
「ああ!! リヴォルツィオーネかなんだか知らねぇけど、そんなチャラチャラして
試合開始時こそ注目を集めていなかった黒城。
だが、見かけは押せ押せな試合内容に、次第に彼を応援する狂信的な声が増えてくる。
決勝の試合を観戦していた黒城の後輩である
彼はこの試合を1人、周囲の人間とは対照的に冷静に分析しているのであった。
「黒城の兄貴……のらりくらり躱されてるって感じだな。一見押してるように見えるけど……うぅ~ん? これ勝てるのか……? 俺ならどう戦おうかな……」
ほんの少し観戦してから家に帰ろうと思っていた薬師寺。
いつの間にか試合に夢中になっていた彼は、かつての先輩の雄姿を見届けるのであった。