第41話 ※※※※※※※※※※

文字数 3,922文字

『おっとおっとお"ぉ"~~~とっ!? これはとんでもないことになりましたっ!! 決勝戦、先鋒同士の戦いっ!! 勝ったのはシモン選手、シモン選手っ!! 青桐(あおぎり)選手、まさかの敗北ですっ!!』

『おいおいおいおい!? 早速番狂わせ(ジャイアントキリング)が起きちゃったよっ!? 会場騒然(がな)ってるよっ!!』

『解説の松木(まつき)さん、この状況、どう思われますか!?』

『そうだねそうだねぇ~!! 何か想定外(トラブル)でも起きたのかな? 青桐選手、急に動きが悪くなっちゃってね。その隙を突かれてグワーッて感じだねっ!!』

(青龍の呼応の制御を失敗(ミス)った? ……彼ほどの選手が博打で使うと思えないし……今まで制御出来ていたのが、出来なくなっちゃったのかな?)

『さあー大反乱の決勝戦、この試合、どのような結末を迎えるのでしょうか……おっと?』

『んんん? 彼、どうしちゃったんだい!?』

 直視したくない現実が目の前にある時、人はいったいどのような反応をするのだろうか。
 試合に敗北し畳に背を付けて仰向けになっている青桐。
 彼は今、投げ飛ばされたままの状態で、騒然とする会場の天井を視点の定まらない目で見つめている。
 罵倒よりも先に困惑の色を隠せない観客達。
 対戦相手であるシモンも、観客達と同じ反応をし、後方で控えている城南のキャプテンに視線を恐る恐る向けている。

「う、オォ……きゃ、大原(キャプテン)……」

「シモンっ!! 今は……今は目の前の試合に集中しろ……っ!!」

「ッ!! ……理解(わか)りましたタ。 フゥー……」

(青桐さんとの本当(マジ)決着(ケリ)ハ……来年に持ち越シですネ……)

 場外からシモンへとアドバイスを送る城南のキャプテン。
 アドバイスを受け取った留学生選手は、悔しそうな表情で、審判に促されやっと立ち上がり、礼をして場外へと進んで行く青桐を見つめている。
 青ざめた表情で、仲間達の目を見ることなく、消え入るような声で謝罪の言葉を発する。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 決勝の舞台で敗れたキミに送る―――
 多くの人間の期待に応えられず、惨めに負けたとしても―――
 キミは柔道が楽しいか?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「……謝罪(さっせん)……大事な試合なのに、先鋒で、次に繋げる戦いをしないといけなかったのに……!! 俺、俺……っ!!」

「言いたいことはそれで全部か? 青桐」

「……謝罪(さっせん)した。花染(はなぞめ)先輩……」

「そうか。それはそうと今日は随分……()()()()()()

「……っ!! そ、蒼海っ!! 蒼海っ!! 蒼海っ!!」

 この世の終わりのような表情で下を向き続けている青桐。
 そんな彼の謝罪の言葉を一通り聞き終えると、蒼海のキャプテンである花染は、2階で沈黙していた応援団へ向けて、再び声援を送るように促す。
 顔を伏せ続ける青桐に歩み寄る、蒼海のレギュラーメンバー4人。
 彼らは青桐の盾になるように、敵と向かい合うように前へと進んで行くと、青桐に背を向けたまま静かに話し始める。
 
「青桐、反省(ネガ)るのは後だ。今は次のために切り替えろ」

「次って……でも、俺……っ!!」

「……青桐よぉ~……1年前に言った事、覚えてっか? 丁度今頃だったなぁ……夏川(なつかわ)ちゃんが事故った時の奴だよ」

「え……?」

「あの時俺らはこう言ったはずだぜ? ……()()()()()()()()()()()()!!」

「……っ!!」

 青桐の脳裏に過る映像。
 夏川鈴音(なつかわすずね)が事故に遭遇した次の日。
 現レギュラーメンバーが集まり、青桐に誓ったあの言葉を思い出していた。

「俺らの気持ちはよぉ……あの時から何ら変わってねぇ。だろぉオメェら!!」

「9割9分9厘、同意(それな)

「やってやるばいっ!!」

「青桐、お前は蒼海の最高戦力(エース)だ。だが、お前が倒されたからと言って、俺達蒼海が負けたわけではない。個人戦なら話は別だがな。生憎これは……()()()だ……!!」

「……!!」

「青桐、絶望(げんじつ)から逃げるなよ。今は下を向く時ではない。俺達の背中を見ていろ」

「……了解(うっす)理解(わか)りました」

「石山、風と共に頼むぞ!!」

「ふー……理解(わか)ったばいっ!!」

 蒼海高校の次鋒、石山鉄平(いしやまてっぺい)が青桐からのバトンを託される。
 肩、背中、脇腹、穴の順番に叩かれ、気合いを入れられる彼。
 決戦の舞台へ堂々と向かって行くと、100㎏を大きく超える巨体を有する選手が、試合会場内に相対する。
 それを見た審判は、すぐさま試合を始める言葉を告げていく。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 高校生ランク88位 慈愛の巨人 「石山鉄平(いしやまてっぺい)
       VS
 高校生ランク40位 西洋のサムライ 「シモン・ノーブル」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

開始(はじめ)ぇぇぇ!!」

「こぉ"い"!!」

「Hey Come on!!」

 小細工抜きの真っ向勝負。
 トラック同士が衝突したような衝撃が、会場全体へと広がっていく。
 互いに相手の奥襟部分を掴み、内股を仕掛けにいこうとするも、腰を曲げ重心を低くしているため、攻撃に移り切れない両者。
 先ほどまでとは一転して、互いに足を止めた探り合いの時間に移っていく。

『さぁ~始まりました2戦目!! 松木さん、この試合はどのような展開になっていくと予想されますか?』

『ん~そうだねぇ……両選手ともに山属性を持ってるからねぇ~泥仕合(ロースコア)の戦いになっていくんじゃないかな? 下手したら引き分け、良くても優勢勝ちとかになるんじゃない? 守りが得意(オハコ)な選手達なんだしさ』

『現在は試合時間30秒が経過しています。互いに牽制(ジャブ)の足技を放ってはいるのですが、どれも決め手には欠けるものばかりです。このまま時間だけが過ぎていくのでしょうか!?』

『んんん~どうだろね!? こう、痺れを切らして、強引に攻めるのも考え始める時間じゃないのかな? お!! ほらほらほらぁ"!!』

『あぁっと!! シモン選手、静かな攻防に嫌気がさしたのでしょうか!? 強引(ラフ)に石山選手を引きずり始めましたっ!!』

 足を止めていたシモンの両脚に、畳の表面を引きはがすほどの力が込められると、体全体を使って石山を引きずり始める。
 摩擦熱で皮膚が焼けてしまうようなすり足で、それについていく石山。
 攻撃を叩きこむチャンスを探っている彼に、シモンは水属性の連撃を浴びせにかかる。
 石山の巨体を包み込む泡沫を発生させるシモン。
 視界が歪んだ敵の右足の脛へと目掛けて、足払いを仕掛けにいく。

「No.32 泡包(あわづつ)ミ……!!」

 石山の重心が微かに浮いた。
 その僅かな変化を見逃さなかったシモン。
 続けざまに己の右足を後方へ高々と振り上げると、重たい水を纏い、遠心力により破壊力が増した大内刈りを繰り出していく。

「No.56 絶海っ……〆、です、ヨォ"ォ"ォ"ッ!!」

 石山の左足の内側を払いのけたシモン。
 そのまま左足を石山の右足の外側へと大きく踏み込むと、右手をラリアットのように敵の首へと押し当てて、己の右足を前方へと大きく振り上げ、そのまま振り下ろしていく。
 巨体を生かしたダイナミックな動きに、相手は成す術もないだろう。
 大外刈り―――
 必殺の一撃が、石山へと襲い掛かる。
 
「No.79……っ!!」

 攻撃を仕掛けるシモンは、間近で凝視する石山に恐れを抱く。
 荒波に抗いし男は、その巨体全身を、鋼のように強靭なものへと変貌させていく。
 山属性が使う技の中でもその性能は特に守りに特化しており、隙もそれ相応に大きいが、発動が間に合えさえすれば、その姿は難攻不落の要塞と化す技。
 No.79―――

錬鋼山(れんこうざん)っ!! う"ぉ"ぉら"ぁ"ぁ"!!」

「うぉ……オォッ!?」

(これハ……大外刈りデ、倒せそうにないですネェッ!!)

 右足は既に、石山の右足の裏の部分にかかっている。
 後は後方へと動かし、彼の右足ごと刈り取るだけのシモン。
 だがその右足は、地中に深く根を張り巡らせた大木のようにビクともしない。
 徐々に押し返されるシモン。
 雄叫びを上げる石山は、敵の弾丸のような大外刈りを、貫かれることなく弾き返していく。

「お"ぉ"ぉ"お"ぉ"ぉ"お"お"お"!!」

 雄叫びを上げる彼の脳には、日に日にやつれていく青桐の姿があった。
 教室の後方で、彼の後ろ姿をただ黙って見ていることしか出来なかった石山。
 だが今は違う。
 敗北していったチームメイトを思う彼の心は、猛烈な火勢となって熱く燃えている。
 気迫に溢れる石山の姿に、チームメイト達は湧き上がる。
 城南のヘッドコーチであるジョンソンは、静かにその姿を観察していた。
 これから訪れるかもしれない、決定的な勝機を見逃さないように。
 幾多の感情と思考が入り乱れる灼熱の戦場で、石山はただ1人、並々ならぬ決意を固めていた。
 かつての記憶を思い出しながら―――
 
(俺の実力(ウデ)が、どこまで通用するか理解(わか)らんばい……まだ()()()()とも折り合いがついとらんし……けど、それでも今はっ!!)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『それによ、オメェは石山を無礼(なめ)過ぎだぞ……!! アイツは俺と同じように、高校一年生(ちゅーぼうあがり)でランク100位に入った奴だぜ? アイツの実力(ウデ)なら、直ぐにランク100位以内に戻ってこれんだよ』

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

(今だけは……(キミ)の力になりたかけんっ!!)







 ヤワラミチ41話
『キミに捧げた誓いの言葉』
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み