第65話 六道の刃
文字数 3,239文字
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仮面を被り欺く風―――
真実を隠さざるを得なくても―――
君は柔道が楽しいか?
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試合時間は1分を過ぎようとしていた。
互いに道着を握りしめ、小内刈りや小外刈りで牽制するも、互いに決定打を出せずにいる。
観覧席で見守る黒城の後輩である薬師寺 は、その様子を見守り続けていた。
「……」
(決定打がない? いや……黒城 の兄貴が攻めあぐねてるって感じだな。相手の熊谷 って人、どうもまだ余裕があるって言うか……全力 じゃない感じがする……)
後輩の視線を受ける黒城は、後輩が考えていることを自身もぼんやりと考えていたようで、敵の体勢をどう切り崩すかに四苦八苦している最中であった。
(この前髪優男がぁ~……全然本気 じゃねぇだろ!? どうする? 技の再使用時間 は問題ねぇし、仕掛けるか? いやぁ……また幻術併用で技を失中 されるのが良いとこだろ……)
「ふ~……どうしたの黒城さん☆ 仕掛けないならこっちから強襲 っちゃうよ?」
「……のわりにはさっきから仕掛けてこねぇ~じゃねぇか。どうした?怖気 ってんのか? お? お?」
「…………………はぁー……見かけによらず面倒 いね、お前」
にこやかな笑顔は変わらず、握りしめられる道着からは、怒りにも似た感情が伝わってきている黒城。
熊谷の地雷を踏んだ様な気がした彼。
のらりくらりとした態度の敵の攻撃に、腰を低くして備えている。
「はぁー……後悔すんなよ」
力むように力を入れていた熊谷。
それに対抗するように、同じように力を込め、左足を引いて自分の元へと敵の道着を引き付ける黒城。
綱引きのようになったのも束の間、熊谷が急に力を緩める。
自分だけが引っ張るような形になった黒城は、力の均衡が崩れたことによって、体勢が真後ろへと崩れていく。
「おっとっとぉ"~!?」
「ほい」
体勢を立て直すため、右足を後方へと動かす黒城。
重心が左足から右足側へと動く前に、黒城の左足を熊谷の右足が外側から刈り取っていく。
小外刈りを繰り出した熊谷。
そのまま右足に翠色の風を纏い、黒城の右足の内側から刈り取りに行く。
60Fで繰り出される足払いの当たり判定を、任意の時間で設定できるこの技。
威力こそ極端に低いが、敵の意表を突くことに特化した、風属性を象徴するこの技。
No.7―――
「旋風刈 りっと」
黒城は続けざまに後方へと重心を崩し続ける。
元の姿勢に戻ろうと前方へと体を動かす彼。
その動きに合わせるように、背を向けながら、右足を軸に左足を反時計回りに動かす熊谷。
左足を回し込んだ後、黒城の両足がかかるように突っ張り棒のように右足を伸ばし、襟を掴む右手と右腕前面を黒城の体に押し付け、前方へと引き落とすように投げ落とす体落しを繰り出す。
(……あぁ? No.69の避雷陣 か、うっぜぇ!!)
熊谷は、心の中で毒づく。
前方へと引き込まれていく黒城は、己を中心に雷で書かれた陣を生み出していた。
その陣の中に敵が侵入した際には、自動で体が回避動作を行うようになっており、現在の攻防を捌き斬るのが無理だと判断した黒城は、咄嗟に技を繰り出す。
突っ張り棒のように伸ばされた熊谷の両足を、ハードル走者のように飛び越えて行った黒城。
掴まれていた道着を切り離し、距離を取る黒城。
畳2間分の場所から、次の技を繰り出す準備に入る彼。
出鼻を挫こうと距離を縮めようとする熊谷は、背中に違和感を感じると、その場の重力が狂ったかのように、地面へと押しつぶされそうになる。
「背中に何か……さっきの体落しの時か……!?」
「その通り !! 磁場よ磁場!! 俺の得意技 よっ!! そんでよぉ……これで避けらんねぇよなぁ!?」
先ほどの攻防の際に熊谷が背を向けた瞬間、磁場を帯びた輪を気付かれないように背中へと付着させていた黒城。
同時に地面にもばら撒いており、それらが強く引き合う影響で、熊谷の体は拘束されてしまう。
隙を見せた彼に大技を仕掛けるため、天空より雷が降り注ぎ、黒城の体に迸るような稲妻を身に纏わせる。
雷の如く加速する彼は、突進する勢いのまま左足を熊谷の右足の外側に踏み込ませ、右足を大きく振り上げ、そのまま振り下ろしつつ敵の右足を後方へと刈り取りに行く。
大外刈りの強化技であり、雷属性最強の技を繰り出していく。
No.93―――
「覇光雷轟 ……」
(なんだ……? 手応えがねぇぞ? 力が伝わってる感じがしないんだが……)
黒城の感覚は正しかったようで、両手で握りしめる道着の右襟と左袖の部分。
本来の場所から5cmほど離れており、引手と釣り手が上手く敵の体の動きを制していないため、技の力が正確に敵へと伝わっていないのであった。
ここにきて初めて、自分が幻術によって嵌められていたと自覚した黒城。
踏み込みを甘くさせるため、自身の位置から5cmほど前に自分の姿をした虚像を見せていた熊谷。
薄気味悪い笑みを浮かべながら、黒城へと囁くように呟いていく。
「居場所が特定 てるからね……距離感を狂わせるために使わせて貰ったよ✰ そんでもって……そ の 勢 い 、貰うぜぇ……!!」
左足を引きながら、襟を掴む右手で、黒城の左肩を持ち上げるように動かし、左手は袖を真下へと引っ張るように動かす熊谷。
周囲は透明な黒いドームが2人を覆っており、円状の地面は6等分に区切られており、それぞれ6つの属性の色が描かれている。
投げ落とす瞬間、カマイタチのような6つの刃が黒城を切り刻み、視界は暗転。
時空を切り刻む無数の刃によって、黒城の体勢は大きく崩され投げ飛ばされていく。
使用する選手の属性によって、その性質を大きく変える浮落しの強化技。
No.87―――
「六道儘戯 ……や"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
「いっぽぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ん!!」
右手を高々と掲げる審判。
黒城の体は宙を一回転し、そのまま畳へと投げ落とされていた。
自身の技の勢いを利用される形で、敵に投げ飛ばされた黒城。
一礼し仲間の元へと戻る彼は、下を俯いたまま、ボソボソと何かを呟いている。
「……申し訳ございませんでした。いや、なんか、こう……完敗っすね、へへっ」
「笑ってんじゃねぇよ殺すぞ」
「謝罪 っ!!」
「反省点は理解 ってんだろうな? おい」
「了解 !!」
「そうかい……んじゃ次、銃守 !! 行ってきな!!」
「了解 !!」
「敵は黒城と戦って削られてるよ。それも踏まえて戦ってきな!!」
「了解 !!」
早乙女監督に檄を入れられる銃守。
耳にかけているヤクザが身に着けるような眼鏡を外すと、一礼して試合会場内へと向かい、汗を道着の袖で拭っている熊谷に相対する。
「ふー……次は銃守さんだね✰ よろしく✰」
「……」
「あのー……」
「こっちは集中してんだろうがタコ……"投殺 っちまうぞ"!! あ"ぁ"ん!?」
「はー……ここの高校、恫喝 ってばっかじゃねぇか」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
高校生ランク6574位「銃守渉 」
VS
高校生ランク5位「熊谷風斗 」
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「開始 っ!!」
「しゃぁぁぁぁ!!」
「ふー……こい!! ん?」
開始早々、熊谷はある異変に気が付く。
太陽に雲がかかったように、周囲が薄暗くなる。
銃守から一旦距離を取り、天を見上げる熊谷。
そこには、銃守が作り出した雨雲のようにどんよりとした雲が、上空一面を覆っていたのだった。
(こんな技知らねぇ……ってことは)
「君、ENo使えるの? やるね……☆」
「どうもど~も……!!」
(はっ!! ……いいねぇ、飄々男 のこの殺気……!! これよこれ、俺が求めてたのはよぉ!!)
仮面を被り欺く風―――
真実を隠さざるを得なくても―――
君は柔道が楽しいか?
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試合時間は1分を過ぎようとしていた。
互いに道着を握りしめ、小内刈りや小外刈りで牽制するも、互いに決定打を出せずにいる。
観覧席で見守る黒城の後輩である
「……」
(決定打がない? いや……
後輩の視線を受ける黒城は、後輩が考えていることを自身もぼんやりと考えていたようで、敵の体勢をどう切り崩すかに四苦八苦している最中であった。
(この前髪優男がぁ~……全然
「ふ~……どうしたの黒城さん☆ 仕掛けないならこっちから
「……のわりにはさっきから仕掛けてこねぇ~じゃねぇか。どうした?
「…………………はぁー……見かけによらず
にこやかな笑顔は変わらず、握りしめられる道着からは、怒りにも似た感情が伝わってきている黒城。
熊谷の地雷を踏んだ様な気がした彼。
のらりくらりとした態度の敵の攻撃に、腰を低くして備えている。
「はぁー……後悔すんなよ」
力むように力を入れていた熊谷。
それに対抗するように、同じように力を込め、左足を引いて自分の元へと敵の道着を引き付ける黒城。
綱引きのようになったのも束の間、熊谷が急に力を緩める。
自分だけが引っ張るような形になった黒城は、力の均衡が崩れたことによって、体勢が真後ろへと崩れていく。
「おっとっとぉ"~!?」
「ほい」
体勢を立て直すため、右足を後方へと動かす黒城。
重心が左足から右足側へと動く前に、黒城の左足を熊谷の右足が外側から刈り取っていく。
小外刈りを繰り出した熊谷。
そのまま右足に翠色の風を纏い、黒城の右足の内側から刈り取りに行く。
60Fで繰り出される足払いの当たり判定を、任意の時間で設定できるこの技。
威力こそ極端に低いが、敵の意表を突くことに特化した、風属性を象徴するこの技。
No.7―――
「
黒城は続けざまに後方へと重心を崩し続ける。
元の姿勢に戻ろうと前方へと体を動かす彼。
その動きに合わせるように、背を向けながら、右足を軸に左足を反時計回りに動かす熊谷。
左足を回し込んだ後、黒城の両足がかかるように突っ張り棒のように右足を伸ばし、襟を掴む右手と右腕前面を黒城の体に押し付け、前方へと引き落とすように投げ落とす体落しを繰り出す。
(……あぁ? No.69の
熊谷は、心の中で毒づく。
前方へと引き込まれていく黒城は、己を中心に雷で書かれた陣を生み出していた。
その陣の中に敵が侵入した際には、自動で体が回避動作を行うようになっており、現在の攻防を捌き斬るのが無理だと判断した黒城は、咄嗟に技を繰り出す。
突っ張り棒のように伸ばされた熊谷の両足を、ハードル走者のように飛び越えて行った黒城。
掴まれていた道着を切り離し、距離を取る黒城。
畳2間分の場所から、次の技を繰り出す準備に入る彼。
出鼻を挫こうと距離を縮めようとする熊谷は、背中に違和感を感じると、その場の重力が狂ったかのように、地面へと押しつぶされそうになる。
「背中に何か……さっきの体落しの時か……!?」
「
先ほどの攻防の際に熊谷が背を向けた瞬間、磁場を帯びた輪を気付かれないように背中へと付着させていた黒城。
同時に地面にもばら撒いており、それらが強く引き合う影響で、熊谷の体は拘束されてしまう。
隙を見せた彼に大技を仕掛けるため、天空より雷が降り注ぎ、黒城の体に迸るような稲妻を身に纏わせる。
雷の如く加速する彼は、突進する勢いのまま左足を熊谷の右足の外側に踏み込ませ、右足を大きく振り上げ、そのまま振り下ろしつつ敵の右足を後方へと刈り取りに行く。
大外刈りの強化技であり、雷属性最強の技を繰り出していく。
No.93―――
「
(なんだ……? 手応えがねぇぞ? 力が伝わってる感じがしないんだが……)
黒城の感覚は正しかったようで、両手で握りしめる道着の右襟と左袖の部分。
本来の場所から5cmほど離れており、引手と釣り手が上手く敵の体の動きを制していないため、技の力が正確に敵へと伝わっていないのであった。
ここにきて初めて、自分が幻術によって嵌められていたと自覚した黒城。
踏み込みを甘くさせるため、自身の位置から5cmほど前に自分の姿をした虚像を見せていた熊谷。
薄気味悪い笑みを浮かべながら、黒城へと囁くように呟いていく。
「居場所が
左足を引きながら、襟を掴む右手で、黒城の左肩を持ち上げるように動かし、左手は袖を真下へと引っ張るように動かす熊谷。
周囲は透明な黒いドームが2人を覆っており、円状の地面は6等分に区切られており、それぞれ6つの属性の色が描かれている。
投げ落とす瞬間、カマイタチのような6つの刃が黒城を切り刻み、視界は暗転。
時空を切り刻む無数の刃によって、黒城の体勢は大きく崩され投げ飛ばされていく。
使用する選手の属性によって、その性質を大きく変える浮落しの強化技。
No.87―――
「
「いっぽぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ん!!」
右手を高々と掲げる審判。
黒城の体は宙を一回転し、そのまま畳へと投げ落とされていた。
自身の技の勢いを利用される形で、敵に投げ飛ばされた黒城。
一礼し仲間の元へと戻る彼は、下を俯いたまま、ボソボソと何かを呟いている。
「……申し訳ございませんでした。いや、なんか、こう……完敗っすね、へへっ」
「笑ってんじゃねぇよ殺すぞ」
「
「反省点は
「
「そうかい……んじゃ次、
「
「敵は黒城と戦って削られてるよ。それも踏まえて戦ってきな!!」
「
早乙女監督に檄を入れられる銃守。
耳にかけているヤクザが身に着けるような眼鏡を外すと、一礼して試合会場内へと向かい、汗を道着の袖で拭っている熊谷に相対する。
「ふー……次は銃守さんだね✰ よろしく✰」
「……」
「あのー……」
「こっちは集中してんだろうがタコ……"
「はー……ここの高校、
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高校生ランク6574位「
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高校生ランク5位「
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「しゃぁぁぁぁ!!」
「ふー……こい!! ん?」
開始早々、熊谷はある異変に気が付く。
太陽に雲がかかったように、周囲が薄暗くなる。
銃守から一旦距離を取り、天を見上げる熊谷。
そこには、銃守が作り出した雨雲のようにどんよりとした雲が、上空一面を覆っていたのだった。
(こんな技知らねぇ……ってことは)
「君、ENo使えるの? やるね……☆」
「どうもど~も……!!」
(はっ!! ……いいねぇ、