第48話 ENo

文字数 3,276文字

 試合会場一面に広がる爆発音。
 天井に燃え広がる火花が、これから戦う戦士の軌跡を鮮やかに彩っている。
 燃え尽きる寸前だった木場(きば)
 彼の体からは、ただならぬ威圧感が滲み出ている。

「続きぃ……やろうぜぇ!!」

「……This technique is certain……! !(……この技は確か……!!)」

 中断していた試合が始まる。
 正面衝突する両者。
 虫の息だった木場の体には、本来の身体能力を軽々超えるほどの力が宿っており、組み合ったアーロンの両腕を、飴細工のように押し曲げていく。

「……!!」

「あんま猶予(ひま)ねぇ~からよぉ!! 速攻(びょう)決着(ケリ)、つけさせてもらうぜぇ"ぇ"ぇ"!!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『これは……紅蓮花火(ぐれんはなび)っ!! 紅蓮花火ですよ、松木(まつき)さん!!』

『な~るほどねぇ!! この技かっ!! こりゃどうなるか理解らなくなってきたねっ!! この技、体力が無くなる寸前にしか使用できない、滅茶苦茶(クッソ)使い辛い技なんだけど……発動出来たら、火事場の馬鹿力を強制的に引き起こせるんだよっ!! ただ……体力は回復しないから、短時間(ソク)決着(ケリ)をつけないといけないけどね。最後の悪あがきがどうなるか……瞬き厳禁だよこれっ!!』

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 上体を押し込まれ、体の軸がズレているアーロン。
 押し返そうと踏ん張る彼を嘲笑うかのように、木場は両腕の力を緩め、敵を前へと突っ込ませる。
 前後へと揺さぶり、体勢を立て直す前に技を繰り出しにかかる木場。 
 敵の腰に右手を回し、帯の部分を掴むと、体を反時計回りに回転させ、敵の左足の内側を、自分の右足で払い上げていく。
 子供を抱えるように敵を持ちあげていく木場。
 両足が2つとも宙に浮いているアーロンは、両手を押し出しもがくことで、間一髪の所で技を中断させる。
 そのまま地面に足を突き刺す彼。
 No.8楔足(くさびあし)を繰り出したまま、更に守りを固めるため、地面から大量の砂を生み出し、それらを使って檻状の物体を作り、中に木場を閉じ込めていく。
 
「No.39 Earthfall Prison...Let me buy you some time. You have almost no physical strength left. If you can endure it like this...!?(No.39地瀑牢……時間を稼がせてもらいますよ。アナタの体力は殆ど残っていない。このま忍耐()えきれば……!?)」

「邪魔だぁ"ぁ"ぁ"!!」

 砂で出来た檻を、両手で無理やりこじ開けながら、脱出した木場。
 目論見が外れ困惑するアーロンを目の前に、木場はそのまま距離を一気に詰めていく。

「What!? (なに!?)

「……こんな脆弱(ショボ)い檻でよぉ、俺を拘束(とめ)れると思ってんのかぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!?」

 何重にも折り重なる砂の檻を、力で強引に食い破って来た木場。
 砂礫舞う空間を突き進み、再びアーロンの道着を掴み取りにかかる。
 迎撃するため、光の粒子を周囲に漂わせ始めるアーロン。
 右足をその場で払いのけると、光の粒子は三日月の形となり、木場の足元を刈り取りにいく。
 No.47―――

「Moon tripped……(蛾眉払(がびばら)い……)」

「邪魔だっつってんだろがぁ"ぁ"ぁ"!!」

 迫りくる三日月状の刃を、足払い一つで強引にかき消していく木場。
 暴走機関車の如き突進をする彼は、アーロンの道着にまで手が届くと、先ほどと同じ技を繰り出しながら、猛り叫ぶ。

「託されてんだわ、青桐(アイツ)のことを頼むってよぉ……!! 青桐(アイツ)約束(ちぎ)ったんだわ、絶対に支えるってよぉ……!! 試合に出れねぇ同級生や後輩(ダチ)が大勢いるのによぉ!! 疲労困憊(ヘロヘロ)になったぐらいで負けるやつなんざぁ……薄志弱行(シャバ)すぎんだろがぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」

 地面に突き刺さる足を引っこ抜き、渾身の力でアーロンを担ぎ上げる木場。
 彼が払い上げる右足は、天へと高々と舞い上がり、2人同時に畳へと体を叩きつけていく。
 審判の時がやって来る。
 判定は……

「いっぽぉぉぉぉぉん!!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『いぽっぉぉぉぉん!! 蒼海の木場選手、この土壇場で、一本勝ちをもぎ取りましたぁぁぁ!!』

『きたねきたねぇ!! それでこの勝利で……蒼海がこの試合、始めてリードを奪ったんじゃない!?』

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 審判の人間が判定を告げる。
 勝者は木場。
 青桐の敗北に始まり、常に劣勢な状況に追い詰められていた蒼海高校の面々。
 この木場の勝利によって、この試合始めて、リードを得ることになった。
 歓喜に沸く試合会場。
 自分の仕事を終えたアーロンは、一礼すると、大将を務める大原(おおはら)の元へと向かって行く。

「Sorry captain. That seems to be it.(すみませんキャプテン。ここまでのようです)」

「No problem. well done. Leave it to me later.(問題ねぇ。よくやった。後は任せな)」

「はっ……はっ……!! ……よぉ大原。オメェで最後(ラスト)だなぁ……!!」

「ふっそうだな。しっかし……やっぱオメェらは(えぐ)いなぁ~!! ……簡単には勝たせてくれねぇか」

「あったりめぇよ……さぁ!! 柔道(やろう)や……!!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 高校生ランク54位 回生の火花 「木場燈牙(きばとうが)
       VS
 高校生ランク70位 異国を統べし者 「大原乃亜(おおはらのあ)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

開始(はじめ)っ!!」

 場内へと歩を進め木場と相対した大原。
 2人の準備が整うと、審判は試合開始の合図を出す。
 その声と同時に、小細工抜きで大原の道着を掴みにいく木場。
 残り体力が少ない彼は、このまま勢いで押し切ろうと前へと出ていく。

「……木場ぁ、オメェ相手に出し惜しみは出来ねぇよなぁ……!! だからよ、見せてやるぜ……!! 俺が城南で歩んで来た、進化(やわら)の道をよぉ!! ENo(エクシードナンバー).47っ!!」

 今までの留学生選手達は、大原から教わった柔皇の技を、好んで使い続けて来た。
 光の粒子を周囲へと漂わせ、三日月状の刃を相手へと浴びせる技。
 ()()()()()()()()
 大原の周囲に漂い始めた光の粒子。
 それらの輝きは、遥か頭上へと舞い上がり、上空にはためく5つの国旗を照らし出す。
 日本、フランス、オーストラリア、ブラジル、南アフリカ……
 共に歩み、切磋琢磨してきた、異国の人間が背負う国旗を生み出した彼。
 天空から降下してきた5つの旗は、木場の四肢を覆い尽くし、その場へと拘束していく。
 見たこともない技に、対処するのが遅れた木場。
 彼が戸惑う僅かな隙に、木場へと急接近する大原。
 5つの国旗に導かれ、木場の足を刈り取りにいく彼の足は、光り輝く黄金の粒子に覆われ、見る者を魅了していく。
 柔皇の技をベースに、今まで歩んで来た全ての経験を元に、新たな形へと昇華させた、彼だけの技―――
 E(ナンバーズを超えし)No(ナンバーズ)―――
 
「……伯豪阿日払(びゃくごうあび)いぃ"ぃ"!!」

 彼が払った足の軌跡が、三日月のように光り輝いている。
 たった一度の足払い。
 本来ならそれは、相手のバランスを崩すために用いられるのが殆どである。
 だが、大原が使ったその技は、他の大技にも勝ると劣らない必殺の一撃を放っていく。
 信じられない光景を目の当たりにしている会場中の人間。
 大原の勝利を疑うことの無かった、チームメイト達だけが、歓喜の声を上げていく。

「見せてやんぜ、俺が過ごしたこの1年の集大成をよぉ!! 城南の大将、甘く見んじゃねぇぞ!!」
 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み