第51話 黒龍始動
文字数 3,901文字
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学校存続の危機―――
前代未聞の事件に巻き込まれたとしても―――
キミは柔道が楽しいか?
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大阪府花園町付近に存在する落陽山 高校。
部員数こそ極めて少ないながらも、各個人が優秀な成績を収める少数精鋭の高校。
2020年8月16日。
インターハイから帰省したこの高校の柔道部員が、道場の扉を勢いよく開けて入場していく。
「こんにちは !! さぁ~て気合い入れて練習していきましょっかねぇ!! ……はぁー……そうだったよ、今日から俺一人なんだよなぁ~!? 3年生 は引退したし、同級生 はいねぇし、1年生 は0人だったし!! んだよ少子高齢化って凄 ぇなぁ!? 全然人いねぇじゃんかよぉ!!」
「お~い!!黒城 いるっすかっ!?」
「おいコラ春宮 っ!! 俺は一応先輩な? マネージャーでも上下関係は大事にしろや、な?」
「それどころじゃないんすよ、黒城 っ!! 高校の廃校が決まっちゃったんすよっ!!」
「あ? 廃部ぅ? あー……そうだよなぁ~部員数1人じゃやっぱそうなるよなぁー……」
「違うっすよ!!廃 校 だ よ 廃 校 っ!!」
「……はぁ!? 廃校っ!?」
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「校長 っ!! ちょっとお話よろしいでしょうかぁ"ぁ"!?」
道場から飛んでいった黒城龍寺 というリーゼントヘアーの厳つい大男。
汗をかくことなく向かった先は、この高校のトップがいる場所である。
校長室の扉を乱暴に開けていく彼は、そのレモンイエローに染まった爬虫類のような瞳を、彼の登場によって怯えている校長へと向けている。
遅れてやって来たマネージャーの春宮早希 は、緑色のファーコートの中にベージュ色のセーターを着用したマネージャーであり、肩で息をしながら汗を流している。
黒い長髪を頭部左の部分で、サイドテールのような形に整え直すと、これから厄介事を起こすであろう黒城と、校長の会話を聞いている。
「ひ、ひぃ!? 黒城君!? 急に何ですかっ!?」
「美日里 校長 ……聞いてねぇっすよ……なんすか廃校って!? 廃部ならまだしも廃校っすよ!? なんか過程を飛ばし過ぎじゃないっすかねぇ!?」
「そ、そうは言っても……この学校への補助金の獲得が、見込めそうにないので……」
「補助金って……柔皇の補助金の事っすよね!? 何でっすか!? 俺が居るんすよっ!?」
「君 し か い な い から問題なんですよっ!! 3年生 は引退ですし、後輩 はいませんしっ!! この高校の運営資金が底見え なのは知っていますよね!? 柔皇の補助金を受け取るためには、一定以上のランクの部員が最低5人必要なんですよっ!! 不正受給を防ぐためにっ!!」
「ぐ、ぐぅ……そう言えばそうだったなぁ……!! そうだ、エンジョイ勢から連れてくるってのはっ!?」
「移籍は禁止ですっ!! 高校入学時に選択したもので固定ですよ!! 授業で散々言われているでしょ!?」
「そうでしたねぇ!! 完全に忘れてましたねぇ!!」
「ん~お馬鹿!!」
「黒城っ!!大変 っすよっ!! 外、外っ!!」
「おま、また呼び捨てかよっ!? ……あ"ぁ"!? 工事車両が入って来てんじゃねぇかっ!?校長 ぉ"ぉ"ぉ"!?」
「あぁぁぁ!? なんか予定 より早まってませんかぁぁぁぁ!? 国 からの通達では、猶予があったはずなのにっ!?」
「く、お……!! っざけんなよっ!! 糞がぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
「あ、ちょ、黒城っ!? どこ行く気だよっ!?」
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校長室から全速力でグラウンドへと駆け抜けていった黒城。
涙目になり何度も嗚咽している春宮が必死の思いで辿り着いた時には、工事車両の主である人物の前に立ちふさがっていた。
小さな黒い丸眼鏡を駆け、痩せこけた頬に髪を所々剃り上げている、見るからに近づいてはいけない風貌の人間。
黒城よりもさらに長身の大男。
2m近い背丈の彼は、右手に持つメガホンを口の近くに持っていくと、元気いっぱいの大声で、校舎の窓から様子を見守っている全校生徒や教職員達へと挨拶をしていく。
「ひゃ~はははは!! ヤクザの黒岩 でぇぇぇぇす!! こんにちはぁぁぁぁ !!」
「テメェ……何しに来やがったっ!?」
「はぁ~? 何しに来たも何も、解体作業 に来たに決まっとるやんけぇ!! おうお前らっ!! 仮設工事 、よろしゅうなぁ~!!」
「了解 、兄貴っ!!」
「あ、ちょ、待てやっ!!」
「おら邪魔だぞ学生 っ!!」
黒岩と名乗るヤクザの号令の下、高校の撤去作業の準備が始まっていく。
足場を作る資材を運搬していくヤクザの子分達。
必死に止めようと縋り付くも、数十人を超える作業員達に押し返されていく黒城。
ヤクザの親玉を獣のような形相で睨みつける黒城。
それに答えるかのように、黒岩はにこやかに手を振りながら返事をしていく。
「そないに睨まんといてぇな。ワシも気持ちは理解 るでぇ? 昔はようけ柔道に打ち込んどったからなぁ~……けどしゃあないんよ、これが世の中 やねんから……おう、ちょっとア レ 、持って来いや!!」
「え? 兄貴、今日はまだ早いんじゃ……」
「ア レ 使えばビビッて言い返してきぃひんやろ? さっさと持って来んかいっ!!」
「了解 、兄貴っ!!」
ヤクザの部下が高校敷地外へと向かって数分後、工事の解体現場でよく使われる、鉄球付きのクレーン車を運転して舞い戻って来た。
鼻歌を歌いながら運転席へと向かって行く黒岩。
呆気に取られる黒城を背に、彼は独り言を呟いている。
「今の時代、柔道で結果を出せなくなったらなぁ、ぜぇ~んぶ無価値 やねん。恨むなら柔道を恨むんやなぁ。ワシと同じように……ほな!! 景気よくいくでぇぇぇぇぇっ!!」
周囲の人間が動けずにいる間に、クレーン車を稼働していく黒岩。
鉄球を校舎よりも高い位置までセットすると、ボタンを押す前に合掌し、人がいないであろう柔道部が使用してる道場へ狙いを定め、右手の人差し指で丁寧に起動させて……
「ふざけんじゃねぇぞ糞がぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
「は? 黒城先輩っ!?」
「あぁ!? 何やっとんねんあの馬鹿 はっ!?」
道場とクレーン車の間に、雷を纏った黒城が割って入る。
迫りくる鉄球を正面から受け止めにいく黒城。
彼は雄叫びを上げながら、思い出が詰まった道場が取り壊されるのを防ぎに行く。
「がぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!! この、道場にはっ!! 先人達が紡いできた歴史があんだよっ!! それに……先輩達から託されたんだよっ!! 柔道部を頼むってなぁぁぁぁ!!」
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『次はお前が主将 だっ!! まあ、1人しかいないからそりゃそうかって話だけど……けどよ!! 黒城!! この部を頼むぜっ!!』
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「世の中 がどうとか……俺の頭が理解できると思ってんのかぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!? ぜってぇに止めてやんよ……こんな鉄球ごときぃ!! ぜってぇに止めてやんよぉ!! オラァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!」
生身の人間が、巨大なエネルギーの塊を真っ向から受け止めた。
この光景を見ていた全校生徒とヤクザ達は、開いた口が塞がらずにいる。
運転席から降りて来た黒岩は、額に青筋を立て、口から血を吐きながらもその場で仁王立ちしている黒城の前へと歩み寄っていく。
「おう、どういうつもりじゃ」
「どうも、何も……!! テメェらの計画を中止 してやるって言ってんだよっ!! ゲホゲホっ!!」
「はぁ~……一般人 を殺害 ったら、こっちが迷惑やねんけど……」
「……仲間 集めてやんよ」
「……は?」
「仲間 を4人集めてよぉ……!! 全国制覇してやんよぉ……!! そんで……証明してやんよ……この道場が、落陽山柔道部がぁ!! 無価値 じぇねぇってことをよぉ!!」
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『おい黒澤 っ!! 何しに戻って来たんだよっ!!』
『怪我から復帰したから駆けつけてみれば……もう辞めちまえ柔道をよぉ!!』
『試合に勝てねぇプロ柔道家なんてよぉ!!無価値 なんだよぉ!!』
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「……」
「この学生 ……!! 兄貴、コイツ……」
「ええで」
「……あ、兄貴?」
「やってみぃや……まだ取り壊し作業まで期限があるしのぉ……仲間 を集める期限は2021年2月1日までや。そこまでに、部員を5人集められなかったら、速攻 で取り壊すでぇ……これでええな? まあ、出来ると思えへんけどなぁ~……?」
「……この俺を誰だと思ってんだ?」
「あぁ?」
「俺は赤神 の野郎に次いで、全国No.2の実力者だぞ……無礼 んのも大概にしろやぁ!!」
「……」
「この俺、黒城龍寺 ぃ!! 仲間 を4人集めてよぉ~!! 全国制覇してよぉ!! テメェらの計画、中止 にしてやんよぉっ!!」
学校存続の危機―――
前代未聞の事件に巻き込まれたとしても―――
キミは柔道が楽しいか?
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大阪府花園町付近に存在する
部員数こそ極めて少ないながらも、各個人が優秀な成績を収める少数精鋭の高校。
2020年8月16日。
インターハイから帰省したこの高校の柔道部員が、道場の扉を勢いよく開けて入場していく。
「
「お~い!!
「おいコラ
「それどころじゃないんすよ、
「あ? 廃部ぅ? あー……そうだよなぁ~部員数1人じゃやっぱそうなるよなぁー……」
「違うっすよ!!
「……はぁ!? 廃校っ!?」
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道場から飛んでいった
汗をかくことなく向かった先は、この高校のトップがいる場所である。
校長室の扉を乱暴に開けていく彼は、そのレモンイエローに染まった爬虫類のような瞳を、彼の登場によって怯えている校長へと向けている。
遅れてやって来たマネージャーの
黒い長髪を頭部左の部分で、サイドテールのような形に整え直すと、これから厄介事を起こすであろう黒城と、校長の会話を聞いている。
「ひ、ひぃ!? 黒城君!? 急に何ですかっ!?」
「
「そ、そうは言っても……この学校への補助金の獲得が、見込めそうにないので……」
「補助金って……柔皇の補助金の事っすよね!? 何でっすか!? 俺が居るんすよっ!?」
「
「ぐ、ぐぅ……そう言えばそうだったなぁ……!! そうだ、エンジョイ勢から連れてくるってのはっ!?」
「移籍は禁止ですっ!! 高校入学時に選択したもので固定ですよ!! 授業で散々言われているでしょ!?」
「そうでしたねぇ!! 完全に忘れてましたねぇ!!」
「ん~お馬鹿!!」
「黒城っ!!
「おま、また呼び捨てかよっ!? ……あ"ぁ"!? 工事車両が入って来てんじゃねぇかっ!?
「あぁぁぁ!? なんか
「く、お……!! っざけんなよっ!! 糞がぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
「あ、ちょ、黒城っ!? どこ行く気だよっ!?」
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校長室から全速力でグラウンドへと駆け抜けていった黒城。
涙目になり何度も嗚咽している春宮が必死の思いで辿り着いた時には、工事車両の主である人物の前に立ちふさがっていた。
小さな黒い丸眼鏡を駆け、痩せこけた頬に髪を所々剃り上げている、見るからに近づいてはいけない風貌の人間。
黒城よりもさらに長身の大男。
2m近い背丈の彼は、右手に持つメガホンを口の近くに持っていくと、元気いっぱいの大声で、校舎の窓から様子を見守っている全校生徒や教職員達へと挨拶をしていく。
「ひゃ~はははは!! ヤクザの
「テメェ……何しに来やがったっ!?」
「はぁ~? 何しに来たも何も、
「
「あ、ちょ、待てやっ!!」
「おら邪魔だぞ
黒岩と名乗るヤクザの号令の下、高校の撤去作業の準備が始まっていく。
足場を作る資材を運搬していくヤクザの子分達。
必死に止めようと縋り付くも、数十人を超える作業員達に押し返されていく黒城。
ヤクザの親玉を獣のような形相で睨みつける黒城。
それに答えるかのように、黒岩はにこやかに手を振りながら返事をしていく。
「そないに睨まんといてぇな。ワシも気持ちは
「え? 兄貴、今日はまだ早いんじゃ……」
「
「
ヤクザの部下が高校敷地外へと向かって数分後、工事の解体現場でよく使われる、鉄球付きのクレーン車を運転して舞い戻って来た。
鼻歌を歌いながら運転席へと向かって行く黒岩。
呆気に取られる黒城を背に、彼は独り言を呟いている。
「今の時代、柔道で結果を出せなくなったらなぁ、ぜぇ~んぶ
周囲の人間が動けずにいる間に、クレーン車を稼働していく黒岩。
鉄球を校舎よりも高い位置までセットすると、ボタンを押す前に合掌し、人がいないであろう柔道部が使用してる道場へ狙いを定め、右手の人差し指で丁寧に起動させて……
「ふざけんじゃねぇぞ糞がぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
「は? 黒城先輩っ!?」
「あぁ!? 何やっとんねんあの
道場とクレーン車の間に、雷を纏った黒城が割って入る。
迫りくる鉄球を正面から受け止めにいく黒城。
彼は雄叫びを上げながら、思い出が詰まった道場が取り壊されるのを防ぎに行く。
「がぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!! この、道場にはっ!! 先人達が紡いできた歴史があんだよっ!! それに……先輩達から託されたんだよっ!! 柔道部を頼むってなぁぁぁぁ!!」
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『次はお前が
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生身の人間が、巨大なエネルギーの塊を真っ向から受け止めた。
この光景を見ていた全校生徒とヤクザ達は、開いた口が塞がらずにいる。
運転席から降りて来た黒岩は、額に青筋を立て、口から血を吐きながらもその場で仁王立ちしている黒城の前へと歩み寄っていく。
「おう、どういうつもりじゃ」
「どうも、何も……!! テメェらの計画を
「はぁ~……
「……
「……は?」
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『おい
『怪我から復帰したから駆けつけてみれば……もう辞めちまえ柔道をよぉ!!』
『試合に勝てねぇプロ柔道家なんてよぉ!!
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「この
「ええで」
「……あ、兄貴?」
「やってみぃや……まだ取り壊し作業まで期限があるしのぉ……
「……この俺を誰だと思ってんだ?」
「あぁ?」
「俺は
「……」
「この俺、