第30話 大大大告白

文字数 3,096文字

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全ての元凶が微笑む時―――
己の怒りが限界を迎えたとしても―――
君は柔道が楽しいか?
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 敵の副将を易々と破った大原(おおはら)
 大将であり最後の1人である財前富男(ざいぜんとみお)が、青桐(あおぎり)達の前に立ちふさがる。
 場内で敵の大将を待つ副将の大原。
 肝心の財前は、場外で畳の上に座ったまま腕組みをして胡坐をかいている。

「ふぅぅぅぅー……ふぅぅぅぅぅ~~~~!! 不満(カムチャッカ)大爆発(インフェルノ)ぉ"ぉ"ぉ"!!」

 側に置いてあった荷物入れから、注射器を取り出し左腕に突き刺すと、中の薬品を投与していく財前。
 本日2本目のドーピング剤を注入した彼は、使い切った容器を近辺に投げ捨てると、沼の底から瘴気を引きずり出すように、ゆらりと立ち上がり場内へとやってくる。
 対面する2人。
 生ごみから抽出された液体を固めたような瞳は、財前の精神状態を表しているかのように薄汚れており、孔がこれでもかと開いている。

「ワタクシぃ……今までの人生、大概のことは金でどうにかしてきたのですがぁ……ここまで思い通りにならないのは初めてですよ。ワタクシの番が回ってきたら、疲弊(バテ)ている大将を鮮やかに投げ飛ばす予定でしたのに……大、大、大、大誤算ですよぉ」

「……それは残念(おつ)だったな」

「もっと高い金を払って、(クオリティ)のいい傭兵(ぶか)を雇うべきでした。ワタクシ、(パな)く反省してますよ……この試合が終わったら、全員解雇(クビ)にしましょうかね」

「……俺と大将の青桐に勝つ前提で話してるよな? ……どこまで楽観的(ポジティブ)なんだか」

「はぁ~小市民には分かりませんかぁ~……なんて可哀そうにぃぃぃぃ!!」

 大原が勝てば団体戦は即座に終了。
 注目の一戦がついに始まる。
 奇声を上げながら両手を上げ、大原を威嚇する財前。
 例え学校の理事長でも一切手加減をする気が無い大原は、両手に厚氷をコーティングすると、敵との組手合戦に備えていく。

「こいっ!!」

「はぁぁぁ~……やはり理解(わか)っていませんねぇ"ぇ"ぇ"!!」

 大原の頭上から振り下ろされる財前の両腕。
 本来持つような横襟ではなく、首の裏側に近い奥襟を右手で握りしめる財前。
 脇を絞め大原の頭を地面に押しつぶすように組みあう財前は、その巨体にドーピング剤を使用して底上げされた腕力で、小細工を仕掛ける大原の策を真っ向から粉砕していく。

「ぐぅ……!?」

「おほほほほっ!! ワタクシの豊満肉体(ナイスボディ)を見て、タダの肥満(デブ)だと勘違いしていませんでしょうかぁ"ぁ"ぁ"!? 土地や不動産に投資をしているワタクシがぁ"ぁ"ぁ"!! ()()()()()()()していないとお思いでしょうかぁ"ぁ"ぁ"!?」

「……ちっ!! 怪力馬鹿(のうきん)が……っ!!」

「んんんんっ!! 総投資額500億ぅぅぅぅ!! 金力(マネーパワー)を思い知りなさぁぁぁぁぁいっ!!」

 100㎏を超える巨体で押しつぶしにかかる財前と、足を肩幅より開き、歯が折れるほど食いしばりながら耐える大原。
 暴力の塊を退けようと両足に力を入れる彼を、財前は嘲笑うかのように小刈りを繰り出し、足を刈り取ていく。
 突っ張り棒が外されるように体勢を崩す大原の後ろ腰を、肩越しに回して掴み取り、半身になりながら左足の内側を払い上げる内股を仕掛ける財前。
 地面から引っこ抜かれた大原は、宙をジタバタと浮遊すると、数秒後に畳の上に乱暴に着地していく。

「技ありっ!!」

「んんんん!! 寝技で仕留めましょうかねぇぇぇぇぇ!!」

 背中を畳に付け寝転んだ状態で、立ったままの財前を迎え撃つ大原。
 地面に押しつぶすように、前かがみになりながら抑え込みに来る彼を、大原は右手で横襟、左手で中袖を握ると、左足の裏を財前の右足の脛に当て、右足で敵の左足の関節部分へと入れ込む。
 そのまま左足を反時計回りに動かし、財前の巨体を回転させながら畳に投げ飛ばすと、スライドしながら接近する大原。
 先ほど握っていた横襟を左手で持ち、右手は道着の反対方向の襟を持つ彼。
 腕をクロスさせる形で道着の襟を絞っていき、財前の頸動脈を締め上げていく。
 ゆでだこのように顔を赤くする理事長。
 大声を上げると背筋の力だけで、大原に絞められたまま、その場で二本足で立ち上がる。

「……ぐくぅ!?」

「この程度の……絞め技などぉぉ……無駄(ノーダメ)ですねぇぇぇぇぇ!!」

静止(まて)っ!!」

 審判からの待ての合図がかかる。
 締め技を行っていた大原は、両腕を解き、テープの前まで戻って行く。

「ふぅ~……ふぅー……!! 立ち技でダメなら寝技ですかぁ……浅知恵でどうにかなるのですかねぇぇぇ!!」

「……ちっ!!」

 試合が再開する。
 正面突破は厳しいと判断した大原は、体勢を低く保ち、ポイントを取られないように立ち回る。
 先ほどすんなり絞め技に移行できたことから、財前の寝技の技術は小学生以下だと判断した彼。
 なんとか自然に寝技の戦いに持ち込むことで、目の前のデカブツに引導を渡そうとする。

「んんんん……また寝技狙いですかぁ……何度も同じ手を食らうとでも? おろ、おろ、おろかぁぁぁぁぁ!!」

 ガッチリと両手で組み合った財前。
 大原を場外へと押し出したいのか、彼の足は止まることなく前へと進み続ける。
 
「……この、岩かよコイツ……!?」

 場外へと一歩一歩後ずさりするように押し込まれていく大原。
 左足を真後ろへ動かした際、階段を踏み外したような感覚に襲われる。
 それもそのはず。
 畳があるはずの場所は、財前が両足に纏った炎が焼き溶かしており、ちょっとした大穴が開いていたのだった。 
 それによって体勢を崩された彼。
 今度は右足の脛の部分へと、財前の紅に染まり燃え広がる左足が襲い掛かる。
 ハンドルをきるようにしながら足を刈り取り、払っていく技。
 No.20―――

火鼠払(かそばら)いっっっっ!! んんんん……どっこいしょぉ"ぉ"ぉ"っ!!」

「技ありっ!! 合わせて一本っ!!」

 柔皇の足技によって大原の体のバランスを奪った財前は、愛用している技のである内股で投げ飛ばしていく。
 判定は技あり。
 2つの技ありを取られた大原は、財前に敗北の2文字を審判から無言で突きつけられる。
 礼をして大将の青桐に交代していく彼。
 申し訳なさそうに激励ともとれる言葉を、青桐に投げかけていく。
 
「……すまねぇ青桐、俺で決着をつけるつもりだったんだが……」

「おほほほほっ!! さあさあぁ!? あと一人でワタクシの勝ちですねぇぇぇ!!」

「頼む青桐、俺達の理事長を投げ飛ばしてくれ……っ!!」

「えぇ、理解(わか)りました。後は任せてください」

 軽く会釈して大原から視線を財前へと移す青桐。
 泣いても笑っても、最後の戦いが今まさに始まろうとしている。

「さてと……最後(ラスト)は青龍の方ですかぁ……そうですかそうですかぁ"ぁ"ぁ"」

(んん~……どうしましょ? ワタクシ、青龍に勝てますかねぇ……? 何か戦いを有利に運ぶものがないでしょうか……っ!! そう言えば……思い出しましたよっ!! 揺さぶれそうな情報(ネタ)をっ!!)

「あぁ~コホン、小市民……ちょっと良いですか?」

「あぁ?」

夏川鈴音(なつかわすずね)の事故の件ですが……ね? アレ、ワタクシがやりましたぁ~~~」

「……は?」

「ワタクシがぁぁぁぁ!! あの事件を引き起こしたぁ~~~~張本人(くろまく)でぇぇぇす!!」

「…………………………あ"ぁ"?」
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