第68話 幕引き
文字数 3,201文字
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柔道が語り継いできた幻の技―――
人類の歴史が相手になったとしても―――
君は柔道が楽しいか?
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酒吞童子 の勝利を告げる審判。
歓声が沸き上がる中、副審達と何かを話し合っている主審。
協議の結果、一本は取り消され、場外からの試合続行となったのであった。
「はぁ~!? 今の一本じゃねぇ~のかよ!?」
「おいおい審判、しっかり見とけよっ!! 見えてねぇなら眼科行って来いよっ!!」
観客からの怒号が飛び交う中、審判に同情を寄せている薬師寺 。
戦い続ける黒城 達を見守りながら、内心苦笑しているのであった。
(いやいやいや……主審1人で会場全域見通せるなら、副審2人も要らないでしょ……1人でやっても問題ないのは、審判寺 一族の人間くらいだよ……てか、あの花道 って人……)
場外に出た2人は試合開始の位置まで戻る。
その2人の足元を見比べながら、ぼそりとこう呟くのであった。
「足、でっか……」
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乱れた道着を整えている両者。
酒呑童子は取り消された判定に不満を覚えることなく、次の一手を探っているのであった。
(場外か? ……俺の足が先に出ていたくさいな。ちっ!! どうする? さっきは油断があったから行けたんだろうが……次からは……!!)
「開始 っ!!」
「くっ!! こいっ!!」
「ぬ"ぅ"ぅ"ぅ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
審判の合図と共に、時計の針が動き出す。
試合開始と同時に後方へと飛び、自身の周囲に砂塵を纏い始めた花道。
やがてそれは、試合会場全体を襲う巨大な砂嵐となって、酒呑童子に猛威を振るっていく。
「No.19砂塵壁 か!? 随分練度が……異次元 だなぁ"!!」
酒呑童子は応戦するように右手に炎を纏い、敵目掛けて放っていく。
炎が通り過ぎた畳の表面は、炭のように真っ黒に焦げていき、所々亀裂が入っている。
全てを焼き尽くさんとする真紅の炎。
そんな劫火を、花道は真正面からガードも取らずに受け止めて行ったのだった。
「なにっ!?」
「大変 熱し!! されどこの程度でどうにかなると? 能天気 甚だしいわっ!!」
砂塵を纏った花道は、酒吞童子からの攻撃に怯むことなく、早歩きの速さですり足のまま近づいて来る。
道着が手に届く距離まで強引に近づいて来ると、酒呑童子との組際の攻防に一切の駆け引きをせずに、そのまま乱暴に道着の右襟と左袖を、己の右手と左手で握りしめていく。
後手に回った酒呑童子は、花道に遅れる形で敵の道着を握りしめ、攻撃の隙を窺っているのであった。
(ゴリ押しか? この野郎が……!! 砂塵を纏っている間は、俺の技の威力を弱めるっつってもよぉ~……ここまでビクともしてねぇってなると、感傷的 になるんだが? ってかコイツ……本気 になってから、全然引きずり回せねぇぞ!?)
花道の足元に視線を移す酒呑童子。
常人よりも遥かに大きなサイズの両足が、畳を強く嚙んで離さないのであった。
全てを察したように、視線を戻していく酒呑童子。
大きく一息つく彼の額には、早くも大量の汗が流れ始めている。
(足がデカいからか? なるほどなぁ!! こうも踏ん張りが効く相手だと……強襲 りづれぇ!!)
「ちっ!!」
「ぬぅ? 距離を取るか……!!」
組み合っての攻防は分が悪いと判断した酒呑童子。
両足に雷を纏うと、勢いをつけて敵の組手を切っていき、畳2つ分の距離を取る。
そのまま足を使って攪乱させ、組際に技をかける速攻を仕掛けに行く。
「愚者 めっ!!」
酒呑童子は敵の道着を掴むと同時に、体を左に回転させながら、右足で敵の左足を払い上げる内股を繰り出していく。
相手に自分の道着を組ませることなく技を仕掛けていくも、花道は一連の動きを、両足で地面を噛みしめることで難なく堪えていく。
技が通用しないと見るや否や、動作を中断させ相対する酒呑童子。
同時に花道は宙ぶらりんの両手で、敵の道着を握りしめていく。
「これでも駄目かっ!?」
「駄目なのだっ!! そしてそしてぇ"ぇ"ぇ"~~~!! ここからがぁ~大一番っ!! 柔道における幻の技、しかとご覧あれぇいぃ!!」
道着の左襟を握りしめていた右手を、右襟の部分へと握り替えた花道。
親指は畳に向けるように真下を向かせ、敵の右襟の中に入れる。
人差し指から小指までの4本は、道着の外へ出し天井に向ける変則的な握り方にするこの技。
体を反時計回りに回転させながら、右足の裏を敵の右足の脛に押し当てる。
その後、押し当てた右足に力を入れながら払い上げ、相手の右足が浮いたと同時に払腰のように右腰に敵を乗せ、右脚全体を使って敵の両脚を払い上げようとする。
だが、この技を実践で決めきるのは難しく、一連の動作の最中に左足で片足立ちになった花道は、バランスを崩し、顔面から畳へと倒れ込んで行った。
「ぬ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"!?」
「静止 っ!!」
審判の掛け声とともに試合が中断される。
顔面がトマトのように真っ赤になっている花道。
試合開始の位置に戻ると、酒呑童子は目を泳がせながら彼に問いかける。
「……今の技はなんだ?」
「今のは……失敗 ぉ"ぉ"ぉ"……!!」
「見れば理解 るわっ!! 山嵐か? 山嵐だなっ!?」
(コイツ……なんなんだ?無礼 てんのかさっきから!? つうか、山嵐なんて技、出典が色々あり過ぎてどう受ければ良いか理解 らねんだよっ!! 一応講道館の動きぽかったが……足の裏当てたっけ? 四方投げの改良型って説もあった気が……あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!! ややこしい技使ってんじゃねぇよっ!!)
「開始 っ!!」
「こぉぉぉぉい……!? おい、んだここっ!?」
試合開始と同時に周囲が暗転、歌舞伎の幕を思わせる物体が真横にスライドすると、酒呑童子は歌舞伎の舞台のど真ん中に立ち尽くしていた。
周囲には桜の花びらが舞い、舞台へと続く花道という道には、スポットライトに照らされた黒衣の男が、こちらへと歩を進めながら、口上を語っている。
「時は過ぎ、桜は散り、されど主役は舞い戻る―――」
歩を進める花道の姿が、大量の桜によって隠されていく。
同時に酒呑童子の周囲にも、大量の桜が渦を巻くように舞い、視界が一色に塗り替えられていく。
「性は花道 、名は海老蔵 っ!! 上級国民 に喧嘩 を売るは、世間 を賑わす黒衣の集団っ!! 嘲謔 り難癖 く観衆 よっ!! 我らが怒りを思い知れぇいぃっ!! ENo.48!!」
敵の帯を左手で掴み、己の体を桜と化した後、敵の左腰付近へと重心を落としながら移動し、右手で腰の部分を抱え、後方へとすくい上げるようにして投げ落とす技。
帯落しの強化技、No.48桜落 し。
そこから更に進化した花道オリジナルの技は、桜の中から突如として姿を現し、敵の腰を掴み高々とすくい上げていく。
ENo.48―――
「天桜 ……落し ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"!!」
技が決まった瞬間、宙を舞う大量の桜が一斉にはけていく。
そして勝者の姿をハッキリと映し出す。
背中を地面へと叩きつけられる酒吞童子。
舞台の幕は下り、審判から花道の勝利が告げられた。
「いっぽぉぉぉぉぉん!!」
「……恐縮 のぉ"ぉ"ぉ"極地 ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"~~~!!」
柔道が語り継いできた幻の技―――
人類の歴史が相手になったとしても―――
君は柔道が楽しいか?
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歓声が沸き上がる中、副審達と何かを話し合っている主審。
協議の結果、一本は取り消され、場外からの試合続行となったのであった。
「はぁ~!? 今の一本じゃねぇ~のかよ!?」
「おいおい審判、しっかり見とけよっ!! 見えてねぇなら眼科行って来いよっ!!」
観客からの怒号が飛び交う中、審判に同情を寄せている
戦い続ける
(いやいやいや……主審1人で会場全域見通せるなら、副審2人も要らないでしょ……1人でやっても問題ないのは、
場外に出た2人は試合開始の位置まで戻る。
その2人の足元を見比べながら、ぼそりとこう呟くのであった。
「足、でっか……」
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乱れた道着を整えている両者。
酒呑童子は取り消された判定に不満を覚えることなく、次の一手を探っているのであった。
(場外か? ……俺の足が先に出ていたくさいな。ちっ!! どうする? さっきは油断があったから行けたんだろうが……次からは……!!)
「
「くっ!! こいっ!!」
「ぬ"ぅ"ぅ"ぅ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
審判の合図と共に、時計の針が動き出す。
試合開始と同時に後方へと飛び、自身の周囲に砂塵を纏い始めた花道。
やがてそれは、試合会場全体を襲う巨大な砂嵐となって、酒呑童子に猛威を振るっていく。
「No.19
酒呑童子は応戦するように右手に炎を纏い、敵目掛けて放っていく。
炎が通り過ぎた畳の表面は、炭のように真っ黒に焦げていき、所々亀裂が入っている。
全てを焼き尽くさんとする真紅の炎。
そんな劫火を、花道は真正面からガードも取らずに受け止めて行ったのだった。
「なにっ!?」
「
砂塵を纏った花道は、酒吞童子からの攻撃に怯むことなく、早歩きの速さですり足のまま近づいて来る。
道着が手に届く距離まで強引に近づいて来ると、酒呑童子との組際の攻防に一切の駆け引きをせずに、そのまま乱暴に道着の右襟と左袖を、己の右手と左手で握りしめていく。
後手に回った酒呑童子は、花道に遅れる形で敵の道着を握りしめ、攻撃の隙を窺っているのであった。
(ゴリ押しか? この野郎が……!! 砂塵を纏っている間は、俺の技の威力を弱めるっつってもよぉ~……ここまでビクともしてねぇってなると、
花道の足元に視線を移す酒呑童子。
常人よりも遥かに大きなサイズの両足が、畳を強く嚙んで離さないのであった。
全てを察したように、視線を戻していく酒呑童子。
大きく一息つく彼の額には、早くも大量の汗が流れ始めている。
(足がデカいからか? なるほどなぁ!! こうも踏ん張りが効く相手だと……
「ちっ!!」
「ぬぅ? 距離を取るか……!!」
組み合っての攻防は分が悪いと判断した酒呑童子。
両足に雷を纏うと、勢いをつけて敵の組手を切っていき、畳2つ分の距離を取る。
そのまま足を使って攪乱させ、組際に技をかける速攻を仕掛けに行く。
「
酒呑童子は敵の道着を掴むと同時に、体を左に回転させながら、右足で敵の左足を払い上げる内股を繰り出していく。
相手に自分の道着を組ませることなく技を仕掛けていくも、花道は一連の動きを、両足で地面を噛みしめることで難なく堪えていく。
技が通用しないと見るや否や、動作を中断させ相対する酒呑童子。
同時に花道は宙ぶらりんの両手で、敵の道着を握りしめていく。
「これでも駄目かっ!?」
「駄目なのだっ!! そしてそしてぇ"ぇ"ぇ"~~~!! ここからがぁ~大一番っ!! 柔道における幻の技、しかとご覧あれぇいぃ!!」
道着の左襟を握りしめていた右手を、右襟の部分へと握り替えた花道。
親指は畳に向けるように真下を向かせ、敵の右襟の中に入れる。
人差し指から小指までの4本は、道着の外へ出し天井に向ける変則的な握り方にするこの技。
体を反時計回りに回転させながら、右足の裏を敵の右足の脛に押し当てる。
その後、押し当てた右足に力を入れながら払い上げ、相手の右足が浮いたと同時に払腰のように右腰に敵を乗せ、右脚全体を使って敵の両脚を払い上げようとする。
だが、この技を実践で決めきるのは難しく、一連の動作の最中に左足で片足立ちになった花道は、バランスを崩し、顔面から畳へと倒れ込んで行った。
「ぬ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"!?」
「
審判の掛け声とともに試合が中断される。
顔面がトマトのように真っ赤になっている花道。
試合開始の位置に戻ると、酒呑童子は目を泳がせながら彼に問いかける。
「……今の技はなんだ?」
「今のは……
「見れば
(コイツ……なんなんだ?
「
「こぉぉぉぉい……!? おい、んだここっ!?」
試合開始と同時に周囲が暗転、歌舞伎の幕を思わせる物体が真横にスライドすると、酒呑童子は歌舞伎の舞台のど真ん中に立ち尽くしていた。
周囲には桜の花びらが舞い、舞台へと続く花道という道には、スポットライトに照らされた黒衣の男が、こちらへと歩を進めながら、口上を語っている。
「時は過ぎ、桜は散り、されど主役は舞い戻る―――」
歩を進める花道の姿が、大量の桜によって隠されていく。
同時に酒呑童子の周囲にも、大量の桜が渦を巻くように舞い、視界が一色に塗り替えられていく。
「性は
敵の帯を左手で掴み、己の体を桜と化した後、敵の左腰付近へと重心を落としながら移動し、右手で腰の部分を抱え、後方へとすくい上げるようにして投げ落とす技。
帯落しの強化技、No.48
そこから更に進化した花道オリジナルの技は、桜の中から突如として姿を現し、敵の腰を掴み高々とすくい上げていく。
ENo.48―――
「
技が決まった瞬間、宙を舞う大量の桜が一斉にはけていく。
そして勝者の姿をハッキリと映し出す。
背中を地面へと叩きつけられる酒吞童子。
舞台の幕は下り、審判から花道の勝利が告げられた。
「いっぽぉぉぉぉぉん!!」
「……