第54話 蠢く影

文字数 3,708文字

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地の底から世界を見上げることになり―――
孤独な戦いが待ち構えていたとしても―――
キミは柔道が楽しいか?
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 2020年9月7日月曜日夕暮れ時。
 黒城(こくじょう)達が和歌山県へと移動していた同刻。
 48番目の県である柔県では、先日武道館への宣戦布告を行った7人が、島の主である総帥の元へと呼び出されていた。
 無機質な空間を進んで行く7人。
 靴の音を響かせながら、総帥が待つ室内へと向かって行く。

獅子皇(ししおう)さ~ん、なんすかね、話って?」

「さあな……大方、俺らへの労いだろう。あまり狂騒(はしゃ)ぐなよ烏川(うかわ)

「ちょっ!? 流石にそんな子供(ガキ)みたいなことしないっすよっ!!」

「……」

「あっれぇ~信頼されてねぇぞ……」

「烏川ちゃん、拗ねちゃダメよ? 後でなでなでしてあげるから♡」

「ヒサ姉ぇ~俺のこと完全に子供(ガキ)扱いじゃん……」

「……そろそろ着くぞ。気を引き締めろ」

 先頭を歩く獅子皇の声に、身なりを整える7人。
 廊下の行き止まりまでやって来た彼ら。
 目の前には重たい鉄製の扉が、侵入者を拒んでいる。
 獅子皇達が到着したのは、監視カメラから把握していたのだろう。
 ゆっくりと自ずから扉が開いていくと、若人達は中へと招かれていく。
 室内は前面モニターで埋め尽くされており、ソファに腰を下ろしている総帥は、右手でスマホを弄っている最中であった。

無斎(むさい)総帥、ただいま参りました」

「おやおや……遅かったですね、皆さん。待ちわびていましたよ。昨日の宣戦布告(カチコミ)、素晴らしい物でした。これで私達の存在が、日本中(シャバ)に知れ渡ったことでしょう……革命の第一歩、(おつかれさま)です」

「ありがたきお言葉、感謝(あざっす)

 頭を下げる獅子皇に続き、横に並んでいた他のメンバー達も頭を下げる。
 その姿を一目すると、再び口を開き始める無斎。
 右手に持つリモコンを操作すると、天井から大型のモニターが下りてきた。
 そこに映し出されていたのは4人の選手達。
 赤神(あかがみ)黒城(こくじょう)青桐(あおぎり)白桜(はくら)の姿であった。

「さてさて、コチラの4人の試合を拝見させて頂きました。結果は我々の完全試合(あっしょう)でしたが……これからの1年、彼らは力を付けることで、再び我々の前に立ちふさがる予感がしています……それだけ彼らの潜在能力(ポテンシャル)は計り知れません。今回の勝利は一旦忘れ、今まで以上に鍛錬に励むように……いいですか?」

了解(うっす)っ!!」

「よろしい。ではでは……私はこれからやることがあるので、失礼させていただきます」

 ソファーから立ち上がった無斎は、獅子皇達に一礼すると、ソファーから腰を上げ、室内の奥に備え付けられていたドアから、奥の部屋へと進んで行った。
 用が終わった獅子皇達も室内から退出すると、来た道を引き返していた。

「な~んか期待して来てみたら……こんだけぇ~? って感じぃ……総帥は何処に行ったんすかね?」

「さあな。総帥も多忙ゆえ……数分でも惜しいはずだろう。そんな中、我々のために時間を割いて下さったんだ。文句は言えんさ」

「うげぇ~本気(マジ)っすかぁ……なんかご褒美(おひねり)欲しかったなぁ~」
 
「こぉ~ら、文句(ダダ)を言わないのっ!! 獅子皇ちゃんが困っちゃうじゃないの」

了解(うぃ~す)っす」

「BAHAHA~!! しかしアレだなぁ? 獅子皇は随分と総帥の肩を持つんだなぁ?」

「……そう見えるのか? 刃狼(じんろう)には」

「お"ぉ"よ"っ!! この目にバッチリとなぁっ!!」

「……うぅむ」

「もぉ~男子って本当にTPO(デリカシー)がないのねぇ!! 獅子皇ちゃんが一番初めに拾われたのよ? 柔県の住人第一号(パイオニア)よ? それはもう思い入れがあるもんでしょっ!!」

「あ"ぁ"ん"!? そういうもんなのかぁ"!? 俺には理解不能(イミフ)だぞぉっ!!」

「あぁんもぉ~これだから嫌いなのよっ!!」

「はぁ……落ち着け2人とも。ところで刃狼、例の件についてだが」

「BAHAHA~!! そう言うと思ったぜぇ!! 心配ご無用、安心してなぁ!!」

「そうか。引き続き頼むぞ……我々に喧嘩(ゲバ)かます身の程知らずに、抗議(おれいまいり)しなくてはいかんからな」

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 東京都千代田区に並び立つ政府関係施設。
 現在そこでは、警察庁長官、統合幕僚長、内閣官房長官、柔道大臣の4名が、これから始まろうとしている国会論戦の様子を、2階の観覧席から見守っている最中であった。
 椅子に腰かけ、親友の雄姿を見届けようとしている男達。
 自由柔党所属内角総理大臣、勘解由小路(かでのこうじ)朔太郎(さくたろう)と対峙する、民主柔党所属、巖仏勇(がんぶついさむ)という不遜な男。
 椅子に仰け反って座る傲慢不遜な巖仏と、睨みつけるように背を正し座る勘解由小路。
 議長の言葉と共に、2人の論戦が幕を開く。

「第234回、党首討論(レスバ)を開始する……!!」

「お"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"!! 党首討論(レスバ)の時間だぁ"ぁ"ぁ"!!」

「この私、勘解由小路朔太郎!! 声を大にして言わせて頂こう!! この世界(シャバ)は歪に歪んでいる!! この柔道のランク制もそうだ!! 過剰に競争を扇情(あお)るあまり、柔道に良くない感情を抱く人間が多すぎる!! これでは子供達の人生に悪影響が出るではないか!? 即刻廃止すべき制度だ!!」

「そうだそうだ!! 子供達のことも考えろ!!」

「この売国野郎が恥を知れ!!」

「んぁ~~~? ……本気(マジ)で……失笑(ウケ)るんだがぁ~~~?」

 内閣総理大臣筆頭に、周囲の罵声を一通り聞き終えると、椅子にもたれ掛かっていた巖仏は、その場で跳躍し目の前の机に飛び乗り、大袈裟にお辞儀をしながら反論をかましていく。

「競争があるのはどの業界も必然……みんなで仲良しこよしがお望みかぁ~~~? この制度のおかげで、日の目を見れた人間もいるよねぇ~~~? 有名な高校生選手だと、阪木原(さかきばら)選手を筆頭に、青龍の青桐(あおぎり)選手も、貧しい家庭の生まれじゃないか……実力(ウデ)のある人間なら、生まれた場所を選ばず成り上がれる。そんな制度を廃止ぃ~~~? 階級を固定でもしたいのかなぁ~~~? 本気(マジ)で……失望(ぴえん)なんだがぁ~~~?」

「そうだそうだ!! この制度は結果を残してんだぞ!!」

「この数字アレルギー共が!! 失望(ぴえん)したぞ!!」

()(えん)!! ()(えん)!! ()(えん)!! ()(えん)!! ()(えん)!!」

笑止千万(Fuck you)ッ!! やはりこうなったかッ!!」

 白熱する討論会を眺めていた2階席の面々。
 旧知の中である勘解由小路が押されている状況に、歯軋りをしながら、警察庁長官、統合幕僚長、内閣官房長官、柔道大臣の順番に話し出す。

「あの巖仏という男め……勘解由小路朔太郎(さくちゃん)を攻め立ておってッ!! 悪・即・(Fuck you)だッ!!」

てやんでぇ(Fuck you)ッ!! ちょっち俺がぶった斬ってやろうかぃ?」

「某も……心の激情(Fuck you)が止まらんでござるッ!!」

「ちょいちょいちょい!? 權平善従斎(ごんちゃん)関ケ原久右衛門(せきぼう)
天王寺益荒男(ますらっち)!! 落ち着けって!!」

明星博文(ふみふみ)!! 貴様止めるでないわッ!!」

「いや、止めるだろ普通っ!? 權平善従斎(ごんちゃん)さぁ……立場を考えろって……警察庁長官だろがっ!?」

「そんなものこの際どうでもいいッ!!」

「良くねぇよ!?」

「大体なんだ貴様は!! いつもいつも水を差しおってッ!! 無粋だなッ!!」

「いやいやいや……つ~か、今日集まったのは別の要件だろが……!?」

「おうおうおうッ!! あの黒い柔道着のやつらのことだろ!? 急に湧いて出たかと思ったら、48番目の県なんて作りやがってよぉ~ッ!! 実に無礼(なめ)た野郎どもだぜぇッ!! てやんでぃ(Fuck you~~~)!! つ~か明星博文(ふみふみ)!! んであんな奴らの要求を吞んだんでぃ!? 統合幕僚長の俺なら突っぱねるぜぇ?」

「向こうの情報を引っ張り出すためだよ……今までの連中と比べて、今回の相手は得体が知れなさ過ぎる。考えてみろよな? 人口の島を作り出す財力に科学力……現在理解(わか)っていることだけでも異常だ」

「……ッ!! それは同感だなッ!! 加えて今回の騒動、感化される馬鹿(のうカラ)日本(シャバ)各地で出てくるであろう……警察庁長官として、警備体制の強化が急がれるッ!!」

「某も各要人達との調整をする必要があるでござるッ!!」

「はぁ~コイツは久々に超危機(げきヤバ)案件かぁ~? てやんでぃ(Fuck you)……!!」

 共に最前線で日本の未来を守るために戦ってきた4人も、今回の敵の規模に頭を悩ませ渋い顔をしている。
 重い足取りのまま、観覧席から各々の持ち場に戻って行く中、ある人間から電話がかかってきた明星は、旧知の仲間達から離れ、トイレの個室に向かうと、ズボンのポケットに入れてあったスマホを取り出し通話を始める。

「……はい、(おつかれさま)です。無斎さん」

『はいはい、(おつかれさま)です。それで……どうですか? そちらでの諜報活動(スパイ)は』

「ええ、今の所問題ありません。引き続き任務に当たります」

『そうですかそうですか……よろしく頼みますよ。計画が滞りなく進むように、全力を尽くして下さいね。それでは……』

「はい、失礼します。ふー……諜報活動(スパイ)も楽じゃないな……ん? また電話……はい、もしもし〇〇。〇さん―――」
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