第62話 稲妻唸る曇天
文字数 3,359文字
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渇望の果てに臨んだ物が目の前にあり―――
己の欲望に従ったとしても―――
キミは柔道が楽しいか?
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曇天より降り注ぐ弾丸の雨。
踏ん張ることで前のめりになった体を起こすと、相対する銃守 へと視線を向けていく。
「おまえENo 使えんのかよ……先に言っとけよなぁ!?」
「あ"ぁ"!? 手の内晒す馬鹿 がどこにいんだよっ!! こっからが本番だぞゴラッ!!」
距離を取ったままの銃守は、黒城 へ向けて弾丸による波状攻撃を仕掛けていく。
四方八方からの攻撃により、迂闊に動くことが出来ない黒城、その場に姿勢を低くしながら、忌々しそうに突破口を探っている。
(あ"ぁ"~~~鬱陶 いんですけどぉ!? この雨みてねぇな……痛い痛い痛い痛い!! ……威力は大したことねぇけど、不意打ちで食らうと体勢崩されるなぁ!? あー……待て待て待て、落ち着け俺。こういうのって大概、接近したらどうにかなんねぇか?)
両足に雷を纏うと弾丸の雨を交わしながら、銃守へと急接近していく黒城。
銃守の道着に右手が届こうとしたその時、天から弾丸の雨ではなく、汚埃を流れ落す恵みの雨が降り注ぐ。
その雫によって、黒城の動きから勢いが陰り、同時に地面に降り注いだ雨水によって、足元の自由を奪われた彼。
その瞬間を見計らって、銃守は足払いを繰り出していく。
敵の攻撃に対するカウンターの足払い。
No.42―――
「叢雨返 し……!!」
「うぉ……!?」
「俺が遠距離専門だと思ったか? ……両刀 だ馬鹿 野郎っ!!」
黒城の右足を払い取った銃守、続けざまに天空から、弾丸の雨が黒城の背中目掛けて飛来する。
1発1発の威力は低いものの、姿勢を戻す前に立て続けに被弾し続けるリーゼントの彼。
その巨体は、じわじわと傾き始めている。
この攻防で決着をつけにいく銃守は、足元に雲を発生させ、その白雲に紛れた右足で、黒城の右足を内側から刈り取っていく。
No.14―――
「八雲刈 りっオ"ラ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!」
〆の技を繰り出すため、足払いを行った己の右足を、空中で軌道を変えながら、畳に卸していく銃守。
それを天へと振り上げ、同時に滝のように流れる水を、天空へと舞い上げていく。
その水流に飲まれ、上空へとカチ上げられた黒城。
天空から降り注ぐ激流と共に、銃守は対落しを仕掛けていく。
No.65―――
「滝落 し……ヤ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!」
黒城の体が畳へと叩きつけられる。
審判へと視線を移す銃守。
この試合、審判を務める橘 は、眉間に皺を寄せながら、判定を下していく。
「……有効かなぁ~……? 今の規定だとノーポイントつ~わけで」
「現実 かよっ!?」
「現実 、現実 」
「ちっ……糞がぁ~~~」
技ありと一本勝ち以外のポイントである、効果や有効が現行ルールでは廃止されている以上、惜しくも試合を決定づけるポイントを獲得することが出来なかった銃守。
歯ぎしりをする彼とは他所に、命拾いした黒城は、冷汗ダラダラのまま畳から体を起こし、心の中で毒づいていくのであった。
(危険 ぇ!! おわ、終わる所だったぞ今!?)
試合の開始位置に戻り、審判の掛け声とともに試合を再開する両者。
弾丸の雨に対抗するため、黒城も磁場を帯びたリングを会場内に放とうとするも、体力が残り少ない彼にとって、普段のような十分な量を出現させることは叶わなかった。
(おっほほっほ!? あ~連戦の疲れが出てるねぇ~これ!? 流石に50人以上と戦ってるからなぁ!? どどどどどうしましょう? なんか……なんかこう、いい感じの助言 、早乙女 監督言ってなかったっけ!?)
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『頭を使って戦え、さもなくば殺す』
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(……ろくな助言 ねぇなぁ!?)
「糞が……頭、頭頭頭ぁ!!」
「あぁん? ゴチャゴチャうるせぇなぁ!!警察 に苦情 入れっぞゴラァ!!」
(……磁場……磁界輪舞 か。それ使って何する気だ? 量も微微 いしよぉ……体力枯渇 じゃねぇのか?)
黒城の周囲を漂う磁場を帯びた小さな輪。
それらは力なく地面へと落ちていくと、畳に突き刺さっていく。
思考を駆け巡らせる銃守の口元は、チームメイトにも見せたことのない笑みを浮かべているのだった。
その変化にいち早く気が付いた銃守のチームメイト達。
黒城に投げ飛ばされて以降、試合会場外で道着のまま、地面にけつを付けて観戦していた彼ら。
不機嫌な顔しか見たことが無かった彼らにとって、銃守が浮かべる表情に、困惑しているのだった。
「アイツ……笑えたのかよ……? いつも人殺しの目で柔道 ってたアイツが?」
「俺も、アイツのあんな表情、初めて見たぞ……なぁ?」
「ああ。不満 で、ろくに交友 ろうとしなかったアイツが……」
強敵との戦いに血が湧きたつ銃守の戦いを見守る彼のチームメイト達。
自分達では引き出せなかった銃守の本気を引き出す黒城に、無自覚な嫉妬を抱き始めていた。
この場にいる全ての人間の感情を一手に引き受けるリーゼントの彼は、何かを企みながら、時間稼ぎのためか、銃守に口論を仕掛けに行く。
(……もうちょい時間が欲しいなぁ)
「おう銃守、ちょっと談話 しようぜぇ!?」
「断るっ!! 死ねっ!!」
「おいそこまで言わなくても良いじゃねぇかよ!! ……おめぇよぉ、今より上の環境に行きてぇんだろ? この勝負に負けて、俺んとこに来りゃ~いいじゃねぇかよ。少なくとも、今いる場所よりは良いと思うぜ? 練習相手に俺と酒吞童子 がいる。どっちも100位内 だぜ?」
「そりゃ~良い環境だなぁ。喉から手が出るほどのなぁ」
「だったらよぉ」
「断る」
「なんで」
「わざと負けるなんてよぉ……意地 が許すわけねぇだろが。今より上の環境には行きてぇ。 ……がそれはそれとして今はお前に勝ちてぇ。合理的に生きてねぇんだよこっちは。俺の頭でゴチャゴチャ考えるだけ無駄だからなぁ!!」
「ほっ!! いいねぇ~俺と同類感が凄 いねぇ!! ……」
(取り合えず 、準備は出来たな。後はどうにかなりますよ~にっと!!)
一通りの会話を終えると、黒城は再び己の両脚に稲妻を宿し銃守へと突進していく。
迎え撃つ銃守は、再び周囲に暴雨を降らせ始める。
迎撃の用意が出来ている彼に突っ込んでいく黒城。
周囲に磁場を帯びた輪を再び出現させると、彼は先ほどと同じように右手を伸ばしながら……
「あ"ぁ"!? コイツ……畳をひっぺ返しやがった!?」
先ほど畳へと磁場を纏った輪を、豆でもまくように周囲に落としていた彼。
畳に突き刺さったそれらは、黒城の周囲の輪と引き合うように反応し、銃守が踏みしめる畳を上空へとひっぺ返していく。
ほんの僅かに上空へと畳ごと舞い上がった銃守。
意表を突かれカウンターを仕掛けられなかった彼は、黒城に道着を掴まれていく。
その瞬間、天を覆う雨雲を突き破る落雷が、黒城へと降り注いでいく。
その雷を纏い、己の左足を銃守の右足の外側へと、雷の如き加速度で踏み込ませていくと、黒城と接触した銃守は、雷に直撃したかのように、体が痺れ動けなくなる。
そのままの勢いで右足を大きく真上へと振り上げる黒城。
真下へと振り子のように動かし、銃守の右足を勢いよく刈り取りに行く。
大外刈りの強化技であり、柔皇が考案した雷属性最強の技。
No.93―――
「覇光雷轟 っ!! う"ら"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
曇天を引き裂く雷の咆哮。
迸る稲妻を周囲にまき散らしながら、銃守を背中から畳へと叩きつけていく。
決着の合図が、審判から告げられる。
畳に背中をつけたままの銃守。
彼が眺める満点の星空は、いつにも増して、煌びやかな輝きを放っているように見えていたのだった。
渇望の果てに臨んだ物が目の前にあり―――
己の欲望に従ったとしても―――
キミは柔道が楽しいか?
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曇天より降り注ぐ弾丸の雨。
踏ん張ることで前のめりになった体を起こすと、相対する
「おまえ
「あ"ぁ"!? 手の内晒す
距離を取ったままの銃守は、
四方八方からの攻撃により、迂闊に動くことが出来ない黒城、その場に姿勢を低くしながら、忌々しそうに突破口を探っている。
(あ"ぁ"~~~
両足に雷を纏うと弾丸の雨を交わしながら、銃守へと急接近していく黒城。
銃守の道着に右手が届こうとしたその時、天から弾丸の雨ではなく、汚埃を流れ落す恵みの雨が降り注ぐ。
その雫によって、黒城の動きから勢いが陰り、同時に地面に降り注いだ雨水によって、足元の自由を奪われた彼。
その瞬間を見計らって、銃守は足払いを繰り出していく。
敵の攻撃に対するカウンターの足払い。
No.42―――
「
「うぉ……!?」
「俺が遠距離専門だと思ったか? ……
黒城の右足を払い取った銃守、続けざまに天空から、弾丸の雨が黒城の背中目掛けて飛来する。
1発1発の威力は低いものの、姿勢を戻す前に立て続けに被弾し続けるリーゼントの彼。
その巨体は、じわじわと傾き始めている。
この攻防で決着をつけにいく銃守は、足元に雲を発生させ、その白雲に紛れた右足で、黒城の右足を内側から刈り取っていく。
No.14―――
「
〆の技を繰り出すため、足払いを行った己の右足を、空中で軌道を変えながら、畳に卸していく銃守。
それを天へと振り上げ、同時に滝のように流れる水を、天空へと舞い上げていく。
その水流に飲まれ、上空へとカチ上げられた黒城。
天空から降り注ぐ激流と共に、銃守は対落しを仕掛けていく。
No.65―――
「
黒城の体が畳へと叩きつけられる。
審判へと視線を移す銃守。
この試合、審判を務める
「……有効かなぁ~……? 今の規定だとノーポイントつ~わけで」
「
「
「ちっ……糞がぁ~~~」
技ありと一本勝ち以外のポイントである、効果や有効が現行ルールでは廃止されている以上、惜しくも試合を決定づけるポイントを獲得することが出来なかった銃守。
歯ぎしりをする彼とは他所に、命拾いした黒城は、冷汗ダラダラのまま畳から体を起こし、心の中で毒づいていくのであった。
(
試合の開始位置に戻り、審判の掛け声とともに試合を再開する両者。
弾丸の雨に対抗するため、黒城も磁場を帯びたリングを会場内に放とうとするも、体力が残り少ない彼にとって、普段のような十分な量を出現させることは叶わなかった。
(おっほほっほ!? あ~連戦の疲れが出てるねぇ~これ!? 流石に50人以上と戦ってるからなぁ!? どどどどどうしましょう? なんか……なんかこう、いい感じの
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『頭を使って戦え、さもなくば殺す』
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(……ろくな
「糞が……頭、頭頭頭ぁ!!」
「あぁん? ゴチャゴチャうるせぇなぁ!!
(……磁場……
黒城の周囲を漂う磁場を帯びた小さな輪。
それらは力なく地面へと落ちていくと、畳に突き刺さっていく。
思考を駆け巡らせる銃守の口元は、チームメイトにも見せたことのない笑みを浮かべているのだった。
その変化にいち早く気が付いた銃守のチームメイト達。
黒城に投げ飛ばされて以降、試合会場外で道着のまま、地面にけつを付けて観戦していた彼ら。
不機嫌な顔しか見たことが無かった彼らにとって、銃守が浮かべる表情に、困惑しているのだった。
「アイツ……笑えたのかよ……? いつも人殺しの目で
「俺も、アイツのあんな表情、初めて見たぞ……なぁ?」
「ああ。
強敵との戦いに血が湧きたつ銃守の戦いを見守る彼のチームメイト達。
自分達では引き出せなかった銃守の本気を引き出す黒城に、無自覚な嫉妬を抱き始めていた。
この場にいる全ての人間の感情を一手に引き受けるリーゼントの彼は、何かを企みながら、時間稼ぎのためか、銃守に口論を仕掛けに行く。
(……もうちょい時間が欲しいなぁ)
「おう銃守、ちょっと
「断るっ!! 死ねっ!!」
「おいそこまで言わなくても良いじゃねぇかよ!! ……おめぇよぉ、今より上の環境に行きてぇんだろ? この勝負に負けて、俺んとこに来りゃ~いいじゃねぇかよ。少なくとも、今いる場所よりは良いと思うぜ? 練習相手に俺と
「そりゃ~良い環境だなぁ。喉から手が出るほどのなぁ」
「だったらよぉ」
「断る」
「なんで」
「わざと負けるなんてよぉ……
「ほっ!! いいねぇ~俺と同類感が
(
一通りの会話を終えると、黒城は再び己の両脚に稲妻を宿し銃守へと突進していく。
迎え撃つ銃守は、再び周囲に暴雨を降らせ始める。
迎撃の用意が出来ている彼に突っ込んでいく黒城。
周囲に磁場を帯びた輪を再び出現させると、彼は先ほどと同じように右手を伸ばしながら……
「あ"ぁ"!? コイツ……畳をひっぺ返しやがった!?」
先ほど畳へと磁場を纏った輪を、豆でもまくように周囲に落としていた彼。
畳に突き刺さったそれらは、黒城の周囲の輪と引き合うように反応し、銃守が踏みしめる畳を上空へとひっぺ返していく。
ほんの僅かに上空へと畳ごと舞い上がった銃守。
意表を突かれカウンターを仕掛けられなかった彼は、黒城に道着を掴まれていく。
その瞬間、天を覆う雨雲を突き破る落雷が、黒城へと降り注いでいく。
その雷を纏い、己の左足を銃守の右足の外側へと、雷の如き加速度で踏み込ませていくと、黒城と接触した銃守は、雷に直撃したかのように、体が痺れ動けなくなる。
そのままの勢いで右足を大きく真上へと振り上げる黒城。
真下へと振り子のように動かし、銃守の右足を勢いよく刈り取りに行く。
大外刈りの強化技であり、柔皇が考案した雷属性最強の技。
No.93―――
「
曇天を引き裂く雷の咆哮。
迸る稲妻を周囲にまき散らしながら、銃守を背中から畳へと叩きつけていく。
決着の合図が、審判から告げられる。
畳に背中をつけたままの銃守。
彼が眺める満点の星空は、いつにも増して、煌びやかな輝きを放っているように見えていたのだった。