第60話 暴雨の射手
文字数 3,301文字
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1人だけでは大して強くなれず―――
周囲の人間が足を引っ張ったとしても―――
キミは柔道が楽しいか?
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2020年10月23日金曜日夕方。
空を飛ぶ道場に乗り、奈良県に存在する柔道タワーへと向かう、黒城 、酒呑童子 、春宮 の3人。
監督の早乙女 による必死の徹夜での修復作業により、仲間探しを再開した彼ら。
奈良に到着と同時に、ぶっ通しの作業からくる睡魔により、道場内で大の字で爆睡している早乙女を置いていき、足早に柔道タワーへと向かって行く。
「……あぁ? 春宮、まだ居場所探索 てねぇのか? その……銃守 ってやつの」
「そっすねぇ……おっかしいなぁ~? 高校生ランクもそんなに高くないっすし?」
「……ちなみにランクなんぼ?」
「7666位っすね」
「お……おぉ? 上澄みっちゃ上澄みだけどよぉ……俺が求めてんのはランク100位に入ってる人間なんだけど!?」
「実力 的には100位に充分入ってる人間っすよ。ランクがそれに見合ってないだけっす」
「うへぇ~……それお前が分析しただけじゃん。時間無駄にしたくねぇぞ俺!?」
「アタイの分析能力甘くみないで欲しいっす!!実力 は確かなんすよ!!」
「了解 ぅぅぅ~~~~」
「それでどうする? 着いたぞ柔道タワーにっ!! ……俺と同じように、ここにいるとは思えんが」
「んだ? 酒吞童子君は来ないのかい?」
「はんっ!! 耳が遠くなったか? 行くに決まっているだろっ!!」
「おうおう良いねぇっ!! そう来なくっちゃねぇっ!! つ~わけで……道場破り 行くぜぇ野郎どもぉ"ぉ"ぉ"!!!!」
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奈良の柔道タワー最上階。
そこに佇む1人の男がいる。
名は松岡勇佐久 、御年52歳。
屈強な肉体に白髪をぴっちりと整え、日の丸の鉢巻を額にきつく縛り、血走った目のまま熱い指導を行っている彼は、道場内で行われる乱取りを観戦しながら、定期的にため息を吐いている。
選手達に指導するも、熱を帯び過ぎたアドバイスに対する選手達の反応は薄い。
「何でそこで断念 るんだよっ!? 今そこで成長が止まったんだぞっ!? きつくなってからが本番 なんだぞっ!?」
「う、了解 ~……」
「……っ!! もっとこう……お前ら熱くなれよっ!?道場破り するくらいさぁ"ぁ"ぁ"!? なんでそんなに無気力 ってんだよぉ!?」
「松岡 師範っ!! 大変ですっ!!」
「なんだなんだなんだっ!? しょうもない事言ったらぶん投げるぞっ!!」
「道場破り ですっ!!」
「道場破り っ!? ……道場破り ィ"ィ"ィ"!!」
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「うぎゃぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
「うがぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
柔道タワー最上階へ道場破りを仕掛けに行った黒城と酒呑童子。
いつぞやの柔道タワーと同じような歓迎を受け、同じように困惑し、同じように猛練習に投げ込まれた彼らを、マネージャーの春宮は可哀そうに眺めていた。
久々に骨のある人間が挑みに来たことに、柔道タワーの師範松岡は、口から血が吐き出る程の声量で、熱いコーチングを行っている。
「いいねいいねぇ"っ!! そうこなくっちゃねぇ"っ!! 今日から君らが太陽だぁぁぁっ!!」
「ちょ、休憩 、休憩 っ!! つ~かあの!! 師範っ!! ちょっとお話良いっすかっ!?」
「ん~何だいリーゼントの君っ!! ほら言ってごらん、バッチコォォォォォイ!!」
「銃守渉 って人間、知らないっすか!? なんか柔道強 くて、無骨 い高校生っらしいっす!!」
「銃守? ん~……謝罪 、ちょっとそいつは理解 らんなぁ……」
「現実 っすか……ンンン!! どうすっかっ!?」
「……公園の野外道場とか見てみたかい? 心当たりがあるのはその辺かなぁ……」
「野外道場っすか?了解 っ!! 探してみるっすっ!!」
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柔道タワーでの練習を切り上げ、近くの公園を探し始めた黒城達3人。
時刻は18時を過ぎており、日が沈み辺りには闇が漂い始める。
道着のまま奈良の街をぶらつく彼らは、お目当ての人間を見つけることが出来ずにいる。
「……くそ、いねぇ!!無理 だろこんなん!? 春宮ぁっ!!」
「いや~砂金集めしてるみたいでお手上げっすわ~アッハッハッハっ!!」
「断念 るのか? ちなみに俺は限界だっ!!」
途方に暮れて、仲間探しが投げやりになり始める3人。
当てもなくしらみつぶしに探すこと1時間。
それらしき人物を公園の野外道場で発見した際には、普段使わないような言葉遣いになるほど、喜びを爆発させていく。
「ヤダっ!! あの男それっぽくなぁい!? 春宮、やったわよっ!!」
「あぁ~最高 、本気 で最高 っすわぁぁぁ!!」
「おっしゃぁぁぁ!! 行くのか!? 行くんだなぁ"ぁ"ぁ"!!」
「ふー……あん……? あ"ぁ"んっ!? 誰でテメェらっ!?」
「ちょっとアンタ、俺達の仲間 になりなさいよっ!! 歓迎するわよっ!!」
「……テメェら"戯事 てんのか"……?」
青髪をオールバックにし、ヤクザがかけているような細長いグラサンを装着している目の前の人物。
ヤクザの若頭のような風貌の彼は、黒城達に声をかけられるや否や、警戒心を最大まで高めていく。
「……おい春宮、なんかアイツ感じ悪いぞ?本当 で銃守なのか?」
「そっすね、見た目の特徴はあってるっす!! それと、アタイ達のさっきの言動だと、不審者 に見られてもおかしくないっすっ!!」
「……それもそうだな」
「おいっ!! 何コソコソと喋 ってんだっ!? あ"ぁ"!?」
「わりぃ~わりぃ~!! 改めまして……俺の名は黒城龍寺 ってんだよぉ!! オメェ銃守渉 だろ? 俺達は、テメェを勧誘 しに来たんだよ!!」
「勧誘 だぁ……?」
「おうよっ!! 俺達全国制覇 狙ってんだわっ!! そんで部員が足りねぇから、こうやって勧誘 してんのよ。んでオメェが栄えある仲間 2号だなっ!!」
「……」
「感涙 か? ちなみに俺は仲間 1号だっ!! よろしく頼むぞっ!! 仲間 2号っ!!」
「久々に……"怒 っちまったよ"……!!」
「っ!?」
「黙って聞いてりゃぁ~……仲間 ? 全国制覇 ? 俺はテメェらみてぇに、生半可 な気持ちで、柔道してねぇんだよっ!! とっとと消えろっ!!」
「お、お!? んだとぉ……!! 俺らだってなぁ……」
「さっきからの言動で、本気 でやってるように見える訳ねぇだろっ!! 頭にウジでも寄生 てんのか!?」
「っ!! ……っっ!! ~~~っっっ!! 確かにぃ~……」
「無能 先輩、なに議論 で負けてんすか!? ここで負けたら不味いっすよ!!」
「ぐぅ……んじゃよぉ!! 柔道でテメェに勝てば、本気 だって認めて貰えんのかよっ!!」
「……はっ!! 面白れぇ…… 上等だっ!! テメェのその驕傲 、"粉砕 っちまってやんよ"!!」
「銃守っ!! ここにいたのか……探したぜ……」
野外道場で一触即発の状態だった2人。
試合会場を挟んで相対し、一礼して場内へと歩を進める彼ら。
相手へ再び一礼し、試合を始めようとしたその瞬間、銃守の名を呼ぶ声が聞こえて来た。
試合を中断し、その方角を振り向くと、社会に疲れて悟ったサラリーマンのように、くたびれた風貌の男子高校生の群れが、コチラへと近づいて来ていた。
数にして100人前後。
彼らは全員銃守へと、光の無い淀んだ目を向けており、その表情には生気がない。
「はぁー……いい加減さ、お前も納得してくれよ」
1人だけでは大して強くなれず―――
周囲の人間が足を引っ張ったとしても―――
キミは柔道が楽しいか?
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2020年10月23日金曜日夕方。
空を飛ぶ道場に乗り、奈良県に存在する柔道タワーへと向かう、
監督の
奈良に到着と同時に、ぶっ通しの作業からくる睡魔により、道場内で大の字で爆睡している早乙女を置いていき、足早に柔道タワーへと向かって行く。
「……あぁ? 春宮、まだ居場所
「そっすねぇ……おっかしいなぁ~? 高校生ランクもそんなに高くないっすし?」
「……ちなみにランクなんぼ?」
「7666位っすね」
「お……おぉ? 上澄みっちゃ上澄みだけどよぉ……俺が求めてんのはランク100位に入ってる人間なんだけど!?」
「
「うへぇ~……それお前が分析しただけじゃん。時間無駄にしたくねぇぞ俺!?」
「アタイの分析能力甘くみないで欲しいっす!!
「
「それでどうする? 着いたぞ柔道タワーにっ!! ……俺と同じように、ここにいるとは思えんが」
「んだ? 酒吞童子君は来ないのかい?」
「はんっ!! 耳が遠くなったか? 行くに決まっているだろっ!!」
「おうおう良いねぇっ!! そう来なくっちゃねぇっ!! つ~わけで……
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奈良の柔道タワー最上階。
そこに佇む1人の男がいる。
名は
屈強な肉体に白髪をぴっちりと整え、日の丸の鉢巻を額にきつく縛り、血走った目のまま熱い指導を行っている彼は、道場内で行われる乱取りを観戦しながら、定期的にため息を吐いている。
選手達に指導するも、熱を帯び過ぎたアドバイスに対する選手達の反応は薄い。
「何でそこで
「う、
「……っ!! もっとこう……お前ら熱くなれよっ!?
「
「なんだなんだなんだっ!? しょうもない事言ったらぶん投げるぞっ!!」
「
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「うぎゃぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
「うがぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
柔道タワー最上階へ道場破りを仕掛けに行った黒城と酒呑童子。
いつぞやの柔道タワーと同じような歓迎を受け、同じように困惑し、同じように猛練習に投げ込まれた彼らを、マネージャーの春宮は可哀そうに眺めていた。
久々に骨のある人間が挑みに来たことに、柔道タワーの師範松岡は、口から血が吐き出る程の声量で、熱いコーチングを行っている。
「いいねいいねぇ"っ!! そうこなくっちゃねぇ"っ!! 今日から君らが太陽だぁぁぁっ!!」
「ちょ、
「ん~何だいリーゼントの君っ!! ほら言ってごらん、バッチコォォォォォイ!!」
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「銃守? ん~……
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「……公園の野外道場とか見てみたかい? 心当たりがあるのはその辺かなぁ……」
「野外道場っすか?
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柔道タワーでの練習を切り上げ、近くの公園を探し始めた黒城達3人。
時刻は18時を過ぎており、日が沈み辺りには闇が漂い始める。
道着のまま奈良の街をぶらつく彼らは、お目当ての人間を見つけることが出来ずにいる。
「……くそ、いねぇ!!
「いや~砂金集めしてるみたいでお手上げっすわ~アッハッハッハっ!!」
「
途方に暮れて、仲間探しが投げやりになり始める3人。
当てもなくしらみつぶしに探すこと1時間。
それらしき人物を公園の野外道場で発見した際には、普段使わないような言葉遣いになるほど、喜びを爆発させていく。
「ヤダっ!! あの男それっぽくなぁい!? 春宮、やったわよっ!!」
「あぁ~
「おっしゃぁぁぁ!! 行くのか!? 行くんだなぁ"ぁ"ぁ"!!」
「ふー……あん……? あ"ぁ"んっ!? 誰でテメェらっ!?」
「ちょっとアンタ、俺達の
「……テメェら"
青髪をオールバックにし、ヤクザがかけているような細長いグラサンを装着している目の前の人物。
ヤクザの若頭のような風貌の彼は、黒城達に声をかけられるや否や、警戒心を最大まで高めていく。
「……おい春宮、なんかアイツ感じ悪いぞ?
「そっすね、見た目の特徴はあってるっす!! それと、アタイ達のさっきの言動だと、
「……それもそうだな」
「おいっ!! 何コソコソと
「わりぃ~わりぃ~!! 改めまして……俺の名は
「
「おうよっ!! 俺達
「……」
「
「久々に……"
「っ!?」
「黙って聞いてりゃぁ~……
「お、お!? んだとぉ……!! 俺らだってなぁ……」
「さっきからの言動で、
「っ!! ……っっ!! ~~~っっっ!! 確かにぃ~……」
「
「ぐぅ……んじゃよぉ!! 柔道でテメェに勝てば、
「……はっ!! 面白れぇ…… 上等だっ!! テメェのその
「銃守っ!! ここにいたのか……探したぜ……」
野外道場で一触即発の状態だった2人。
試合会場を挟んで相対し、一礼して場内へと歩を進める彼ら。
相手へ再び一礼し、試合を始めようとしたその瞬間、銃守の名を呼ぶ声が聞こえて来た。
試合を中断し、その方角を振り向くと、社会に疲れて悟ったサラリーマンのように、くたびれた風貌の男子高校生の群れが、コチラへと近づいて来ていた。
数にして100人前後。
彼らは全員銃守へと、光の無い淀んだ目を向けており、その表情には生気がない。
「はぁー……いい加減さ、お前も納得してくれよ」