第47話 炎天に舞う紅蓮の火花

文字数 3,362文字

 組み合ったまま相手の出方を窺う2人。
 先ほどまでの動き回る相手と打って変わって、足を使った動き回る戦い方をしてこないアーロン。
 その代わりに、その並外れた腕力によって、木場が掴む道着を切り離しにかかっている。

「はぁ……っ!!」

(この野郎ぉ~……一般人(パンピー)が想像するような外人選手だなぁ……!!)

 少しでも気を抜けば、たちまち形勢が不利になると直感的に把握している木場。
 道着を握りしめる両手に、更なる力を込めつつ、上半身で左右に揺さぶりをかけ、相手の動きを牽制していく。

「Even among Japanese people, there are people with this much horsepower... Interesting...! !(日本人でも、これほど馬力(パワー)のある人間がいるのですか……面白(ウケ)ますね……!!)」

 アーロンの右足から、畳を焼き溶かす高温が地面を伝っていく。
 組み合う最中、木場の左足は、熱によって焼け溶けた大穴に嵌り体勢を崩す。
 その瞬間を狙い、アーロンの左足は、穴に嵌った足の逆の足を狙って押し込むように払っていく。
 襟を持つ右手を釣り上げながら足払いを仕掛けていく技。
 払釣込足の強化技。
 No.20―――

「Fire rat wipe(火鼠払い)……!!」

「あっっっつ!? この野郎がっ!! ……あ"ぁ"っ!?」

 つまずくようにバランスを崩す木場は、技を食らったと同時に体勢を立て直しつつ、反撃を行うため、右足で敵の左足を刈り取ろうとする。
 だが、敵の左脚は地中に深く刺さる鉄柱のようにビクともせず、木場の攻撃を難なく防いでいった。

楔足(くさびあし)か……っ!!」

「To think that they would immediately counterattack... I'm glad I strengthened my defenses carefully.(直ぐに反撃してくるとは……念入りに守りを固めて良かったですよ)」

 地面に突き刺した左脚を引き抜き、即座に反撃に移るアーロン。
 攻めと守り、メリハリのついた試合運びに、対応していく木場はじわじわと体力を削られていく。

「木場っ!! 相手のペースに乗せられるなっ!! 引きずって場内を広く使えっ!!」

「はっ……はっ……!! 了解(うぃ~~~~す)っ!!」

(井上監督の言う通りなんだがなぁ~……参ったな、引きずろうにも……背筋力? って言えばいいのか? (パワー)(パな)くて全然姿勢が崩れそうにねぇわ。岩石かよコイツ……!!)

「Foー……(ふー……)」

「アーロンっ!! 力比べじゃ負けてないっ!! お前の得意(ぶき)押し付け(ぶちかまし)ていけっ!!」

「......! ! Captain...I understand. follow the instructions.(……!! 大原(キャプテン)……了解(うっす)。指示に従いましょう)」

 道着が千切れる程の力で組み合う2人。
 互いに場外で指示を送る仲間達のアドバイスを耳にする。
 膠着状態が続く中、走馬灯のように過去の映像が頭を過るアーロン。
 来日し、城南のキャプテンである大原と出会った日々を思い出していた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『……は? 日本に留学……? 父さん、それ本当?』

『ああそうさ!! 推薦してもらったんだ。お前の学校での成績がとびきり優秀でな……先生達が将来のお前のことを思って、日本の高校に留学出来ないか頑張ってくれてたんだよ。留学費は無料(タダ)らしい。なんでも、日本の高校の理事長が、優秀な生徒を集めているそうでな……柔道が(えぐ)いなら留学費なんて投資みたいなものだってさ』

『……そうなんだ』

『そうだな……そうだアーロン。お前もぐずぐずしてられないぞ? 直ぐに日本に行かないと行けないからな』

『……直ぐに? いつ?』

『3日後』

『…………は?』

『3日後までに日本に行かないといけないんだよ』

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『This is Japan...my new world...it's a beautiful place...but...no one speaks English...(ここが日本……俺の新天地……綺麗(オシャン)な場所ですね……ただ……英語を話せる人がいない……)』

『あの人……外国人? なんか困惑(パニク)ってるけど……』

『私達じゃちょっと無理そうだよね~』

『ね~』

『……I can't make out what you're saying. Was it seen by a suspicious person?  ……you're sweating strangely.(……何て言っているのかが聞き取れない。不審者(きょろじゅう)に見られたのでしょうか? ……変な汗が出てきましたね)』

『Are you Aaron Allenze?(……アーロン・アレンゼか?)』

『Who are you?(……アナタは?)』

『My name is Ohara. Jonan's judo captain. Best regards from now on.(俺の名は大原。城南の柔道のキャプテンだ。これからよろしくな)』

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

(日本語が全く出来ないあの頃……大原キャプテンがいなかったら、どうなっていたのでしょうね……あの時の恩が返せそうですよ!!)

「heat haze cuttin……!?(陽炎刈……!?)」

一致(おそろ)だなぁ!! オラァ"ァ"ァ"ァ"!!」

 陽炎を生み出す程の高温を足に纏い、相手の足を刈り取る陽炎刈り。
 柔皇の技を()()()()()()()()()()()()()両者。
 鍔迫り合いのように押し比べをすると、火花を飛ばしながら互いの足は弾き返されていく。

「……!!」

「悪いなぁ~……こっちも負けらんねぇんだわ……可愛い可愛い後輩(しゃてい)との約束(ちぎり)があっからよぉ!!」

 ココが正念場と踏んだ木場は、闘志を体全体から漲らせ、目の前の敵へと攻撃を仕掛けに行く。
 両手に握りしめる道着を真下へと引きつけそのまま……

「…… It seems that the power has fallen considerably compared to the previous time.(……先ほどと比べて、随分(あくりょく)が落ちているように見えますが)

「……!!」

 先手を打ち、アーロンの姿勢を前方に崩そうとした木場。
 だが、今の彼の握力では、道着を掴むことで精一杯であり、そこから更に引き付けようとすると、途端に道着から手が離れてしまうだろう。
 握力の消耗を見抜いたアーロン。
 右手を道着の横襟から離すと、木場の腰へと回し、体を180度左回りに回転させ、右足を木場の股の中に入れ、そのまま天へと払い上げていく。
 左足をすくい上げられる木場。
 上体は大きく前のめりに飛んでいき、背中を畳へと叩きつけられる。
 判定は技あり。
 そのまま寝技に移行しようとしたが、亀の体制をとる木場の姿を見たアーロンは、そのまま試合開始の位置まで戻って行く。
 待ての合図がかかり、定置へと戻って行く両者。
 試合が進むにつれて着実に消耗していた木場は、苦しそうに肩で息をしている。

(仕留め損ないましたね……ただ……あの状態なら恐れるに足りません。もう殆ど余力が残っていないですからね。ガブリエルが消耗(バテ)させたおかげです、後でお礼を言わないと……)

「……もう勝った気になってんなぁお前」

「……?」

「お前も炎属性の選手なら、これから何が起こるか理解るんじゃねぇかぁ!?」

「……!! No way……! !(……!! まさか……!!)」

()()()()()()()()()()だぜっ!!」

 辺りは真夏の夜を思わせる闇が漂い始める。
 直後に、天へ高々と駆け上がる火の玉。
 それは木場の遥か上空へと到達すると、闇夜に紅蓮の花を咲かせていく。
 体力自慢の炎属性の選手が、力尽きようとする瞬間に発動可能になる、起死回生の一手。
 火事場の馬鹿力を強制的に引き出すその技は―――

「No.78……紅蓮花火(ぐれんはなび)……!!」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み