第29話 異国を統べし者
文字数 3,757文字
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戦場駆けし韋駄天―――
目論見が全て狂ったとしても―――
君は柔道が楽しいか?
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「ふぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!? なんですか、あの金髪 はぁ"ぁ"ぁ"!?」
「……えぇっと財前 理事長だっけ? 早 く次の選手を出して欲しいんすけど……へっくしょん!! 冷却 っちまうんすよぉ~」
「あ"ぁ"!? この小市民風情がぁ"ぁ"ぁ"~~~!! 何をしているのです、早 く戦いなさぁぁぁいっマザコンッ!!」
草凪の挑発に易々乗ってしまう財前。
部下のマザコンを急かすように命令すると、鼻息荒く試合の行く末を見届けている。
「対戦、切望 」
「ママぁ"~!! この餓鬼 天狗鼻 |だよぉ!!」
右手を空気を裂くように振り下ろす審判寺。
それを皮切りに、中堅同士の戦いが始まる。
追いつかれた財前チームは、ここで再び引き離したい場面。
連戦している草凪に一息つく間を与えることなく、力づくで横襟を掴みかかりにいくマザコン。
全身を瞬間的に脱力させると、残像が見える程の勢いで右腕を突き出していく、組手専用の技。
No.2―――
「真鶸組手 ぇぇ!! もらった……!?」
右手で強く握りしめ、掴み取った得物を引き寄せようとする敵のマザコン。
確かにその手に感触はあったのだが、数秒後には空気を掴んでいるかのように、たちまち手ごたえがなくなってしまう。
マザコンの目には、翠色の風に包まれ後方へと逃れた、草凪の舐め腐った顔が視界に入っている。
「No.30「」 さばきっと!! ひゅ~危険 ぇ……本当 力が強 いわ」
「この……ちょこまかとっ!!」
頭に血が上った敵のマザコン。
草凪を何としてでも捕まえようとするも、風を纏って姿を消し、雷のように場内を駆け回る彼を捕まえることが出来ない。
その光景は、さながら魚のつかみ取りのようである。
「ざ、財前様、このままじゃ……あいてっ!?」
「沈黙 っ!! いいですかぁ~~~柔皇の技を使うには、気力を消費します。あそこまで連発 してたら、気力が底をついて、そのうち技が使えなくなりますよぉ"ぉ"ぉ"!! じわじわと追い詰めてしまうのですマザコンっ!!」
(ちっ……あの金髪アフロ、狼狽 ってる割にはまともなこと言ってんなぁ……そうなんだよなぁ~このまま攻撃 さないと処分 取られそうだし……どうっすっかな)
外野からの指示を耳に挟みながら、次の一手を考える草凪。
何かを閃いた彼は、その場で足を止めると、敵のマザコン目掛けて一直線に突っ込んで行く。
急に攻め込んで来たことに驚いたマザコンは、反射的に後方へと足を動かし距離を取ろうとする。
狙い通りの行動を行った敵に、思わず口元が緩む草凪。
再度方向転換をすると、バックステップの要領で、場内の四隅まで一気に移動する。
そのまま右足で畳を1度蹴りつけると、敵のマザコンと草凪の周囲に旋風が発生し、マザコンと草凪の位置が瞬時に入れ替わる。
No.41―――
「空蝉 ……!!」
「んんんっ!? この野……」
「静止 っ!!」
距離を大きく引き離されたマザコン。
急いで距離を詰めようとするも、審判から待てがかかる。
それもそのはず。
強制的に移動させられた傭兵は、後方へ距離を取ろうとしていた最中であり、その両脚は丸々1歩分、外へと出てしまっている。
相手と組み合い、攻防の最中に場外へと出るならまだしも、自分から場外へと出る行為を行うとどうなるか。
審判の人間ならこのような言葉を発するであろう。
「……処分 っ!! 開始 っ!!」
右足を後ろに引き、マザコンを右手の人差し指で指し示すと、彼に指導を行う審判寺 。
すぐさま試合開始の合図を出していく。
「へっへっへ~……さぁ来なマザコンっ!!」
「ぐ、ぐぅぅぅ!!」
(ママぁ~聞いてぇ!! この餓鬼 、俺を反則負けに追い込もうとしているよぉ~!! あと2回取られたら反則負けになっちゃうよぉ~俺ぇ!!)
柔道の試合では、指導を規定回数取られてしまうと、反則負けとなってしまう。
草凪の狙いに気が付いた敵のマザコンは、距離を取るとまた位置を入れ替えられると判断し、草凪との距離を詰めるため、一気に距離を詰め接近戦に持ち込む。
「組み合ってしまえばこっちが有利なんだっ!! あっ……」
「感謝 ……っ!!」
指導を取られて心に余裕がなくなってしまったのだろう。
じわじわと攻めればいいものを、早く決着をつけたいがために、前のめりに掴みかかってしまう。
草凪はその勢いを利用して、組際に瞬時に横襟・中袖を掴むや否や、体を左回転させ両足はテンポよく畳を踏みしめ、敵のマザコンを背負い投げで投げ飛ばしていく。
「やぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
「一本っ!!」
指を伸ばし高々と右手を上げる審判。
中堅同士の戦いは、草凪の勝利で幕を下ろす。
肩で息をする草凪。
流石の彼でも連戦による疲労が溜まっているようで、肩で息をしつつ白い煙を口元から出している。
(さぁて……もうひと踏ん張り……しましょうかねぇ!! あぁ~きっつ……!! ちゃんと俺の雄姿を見とけよ、みんなっ!!)
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「ギャァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!」
「一本っ!!」
ガス欠の草凪は、呆気なく敵の副将の数字アレルギーに敗北する。
敵に一礼して青桐達の元へと戻って行く草凪。
両手で顔を隠す金髪の彼に、親友の青髪の青年は手洗い歓迎の言葉を投げつける。
「おら隼人 っ!! テメェもうちょっと粘れや、相変わらず体力ねぇなぁ根性無しがよぉ!!」
「草凪、よくやった!! 後は城南の主将 に任せなっ!!」
「感謝 、大原 さん!! どっかの青桐 と違ってあったけぇっす!!」
城南の主将である大原に労いの言葉をかけられる草凪。
彼と交代するように、労いの言葉をかけた空色の髪色を持つ青年が、敵の副将と対面する。
数字アレルギーから挑発をされるも、大原は敵のことが眼中に無いようで、適当に生返事をしながら財前の方向を睨みつけていた。
「おうテメェ!! 次の相手は俺だぞっ!? 何処見てんだよっ!! あぁん!?」
「あー……謝罪 、眼中に無い なんで」
「あ"ぁ"!? テメェらは生意気な餓鬼 しかいねぇのか!? あの青髪が一番ひでぇけどよぉ!!」
「開始 っ!!」
副将同士の戦いが始める。
城南の選手が出てきたこともあって、財前は露骨に不愉快な表情をしている。
外野からマナー的にはよろしくないヤジを飛ばす財前。
怪訝な顔をしつつ、大原は理事長を煽る言葉を吐き捨てる。
「大原さぁ~ん……ワタクシ、非常に残念ですよ……アナタには期待していたのにねぇ!! 今からでも考え直しませんっ!?」
「おーおー大根 い演技だねぇ!! この粗暴野郎 一本勝ち ったら、次はテメェの番だ。今から言い訳の準備でもしとけ豚野郎っ!!」
「んだと小市民風情がぁ!! アレだけ柔道部に投資したってのに……恩知らずがよぉ"ぉ"ぉ"ぉ"!?」
「おい!! 今の相手は俺だぞっ!? 俺を無視 すんじゃねぇよ!!」
「……No.37霰唄 」
「!? ひゅー……ゴホゴホっ!? なん、ぜぇー……ひゅー……っ!?」
財前に暴言を吐きながら、目の前の相手との組手合戦に臨んでいた大原。
氷を纏った彼の両腕からは冷気がゆらゆらと立ち込めており、数字アレルギーの腕にぶつかる度に、霰のような結晶が周囲に飛び散っている。
その破片を吸い込んだ数字アレルギーは、ほんの数秒で喘息の症状が現れ、苦しそうに呼吸をしている。
「……理事長から俺の戦い方を聞いてなかったのか? ……オメェ捨て駒扱いじゃねぇか」
「ぐぅ……糞がァ"ァ"ァ"っ!!」
互いに両手が空いている状態で、敵の傭兵は空中を右腕で薙ぎ払う。
彼が腕で描いた軌跡には真紅の炎が生み出され、大原に向かって獄炎が襲い掛かった。
No.11赫灼 。
灼熱の炎で敵を怯ませようとする数字アレルギーだったが、氷を纏った腕を両方とも差し出し、威力を相殺した大原。
彼の周囲には光の粒が舞い散っており、次の攻撃に移ろうとしている最中であった。
「用があるのはウチの理事長なんだ。この試合は早々 で決着 を付けさせてもらうぜぇっ!! No.47……蛾眉払 い!!」
酸欠状態の数字アレルギーが最後に見た光景。
大原がその場で払った右足から放たれる、無数の三日月の刃。
そして両足が地面から引きはがされた自分の姿。
再び地面に体が付いた時には、審判寺の右腕が地面に直角に上がっているのが見えた。
「一本っっっっ!!」
「さてと、財前理事長!! ……城南の主将 として、お前は俺がぶん投げてやるっ!! さっさとかかって来いや豚野郎がっ!!」
戦場駆けし韋駄天―――
目論見が全て狂ったとしても―――
君は柔道が楽しいか?
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「ふぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!? なんですか、あの
「……えぇっと
「あ"ぁ"!? この小市民風情がぁ"ぁ"ぁ"~~~!! 何をしているのです、
草凪の挑発に易々乗ってしまう財前。
部下のマザコンを急かすように命令すると、鼻息荒く試合の行く末を見届けている。
「対戦、
「ママぁ"~!! この
右手を空気を裂くように振り下ろす審判寺。
それを皮切りに、中堅同士の戦いが始まる。
追いつかれた財前チームは、ここで再び引き離したい場面。
連戦している草凪に一息つく間を与えることなく、力づくで横襟を掴みかかりにいくマザコン。
全身を瞬間的に脱力させると、残像が見える程の勢いで右腕を突き出していく、組手専用の技。
No.2―――
「
右手で強く握りしめ、掴み取った得物を引き寄せようとする敵のマザコン。
確かにその手に感触はあったのだが、数秒後には空気を掴んでいるかのように、たちまち手ごたえがなくなってしまう。
マザコンの目には、翠色の風に包まれ後方へと逃れた、草凪の舐め腐った顔が視界に入っている。
「No.30
「この……ちょこまかとっ!!」
頭に血が上った敵のマザコン。
草凪を何としてでも捕まえようとするも、風を纏って姿を消し、雷のように場内を駆け回る彼を捕まえることが出来ない。
その光景は、さながら魚のつかみ取りのようである。
「ざ、財前様、このままじゃ……あいてっ!?」
「
(ちっ……あの金髪アフロ、
外野からの指示を耳に挟みながら、次の一手を考える草凪。
何かを閃いた彼は、その場で足を止めると、敵のマザコン目掛けて一直線に突っ込んで行く。
急に攻め込んで来たことに驚いたマザコンは、反射的に後方へと足を動かし距離を取ろうとする。
狙い通りの行動を行った敵に、思わず口元が緩む草凪。
再度方向転換をすると、バックステップの要領で、場内の四隅まで一気に移動する。
そのまま右足で畳を1度蹴りつけると、敵のマザコンと草凪の周囲に旋風が発生し、マザコンと草凪の位置が瞬時に入れ替わる。
No.41―――
「
「んんんっ!? この野……」
「
距離を大きく引き離されたマザコン。
急いで距離を詰めようとするも、審判から待てがかかる。
それもそのはず。
強制的に移動させられた傭兵は、後方へ距離を取ろうとしていた最中であり、その両脚は丸々1歩分、外へと出てしまっている。
相手と組み合い、攻防の最中に場外へと出るならまだしも、自分から場外へと出る行為を行うとどうなるか。
審判の人間ならこのような言葉を発するであろう。
「……
右足を後ろに引き、マザコンを右手の人差し指で指し示すと、彼に指導を行う
すぐさま試合開始の合図を出していく。
「へっへっへ~……さぁ来なマザコンっ!!」
「ぐ、ぐぅぅぅ!!」
(ママぁ~聞いてぇ!! この
柔道の試合では、指導を規定回数取られてしまうと、反則負けとなってしまう。
草凪の狙いに気が付いた敵のマザコンは、距離を取るとまた位置を入れ替えられると判断し、草凪との距離を詰めるため、一気に距離を詰め接近戦に持ち込む。
「組み合ってしまえばこっちが有利なんだっ!! あっ……」
「
指導を取られて心に余裕がなくなってしまったのだろう。
じわじわと攻めればいいものを、早く決着をつけたいがために、前のめりに掴みかかってしまう。
草凪はその勢いを利用して、組際に瞬時に横襟・中袖を掴むや否や、体を左回転させ両足はテンポよく畳を踏みしめ、敵のマザコンを背負い投げで投げ飛ばしていく。
「やぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
「一本っ!!」
指を伸ばし高々と右手を上げる審判。
中堅同士の戦いは、草凪の勝利で幕を下ろす。
肩で息をする草凪。
流石の彼でも連戦による疲労が溜まっているようで、肩で息をしつつ白い煙を口元から出している。
(さぁて……もうひと踏ん張り……しましょうかねぇ!! あぁ~きっつ……!! ちゃんと俺の雄姿を見とけよ、みんなっ!!)
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「ギャァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!」
「一本っ!!」
ガス欠の草凪は、呆気なく敵の副将の数字アレルギーに敗北する。
敵に一礼して青桐達の元へと戻って行く草凪。
両手で顔を隠す金髪の彼に、親友の青髪の青年は手洗い歓迎の言葉を投げつける。
「おら
「草凪、よくやった!! 後は城南の
「
城南の主将である大原に労いの言葉をかけられる草凪。
彼と交代するように、労いの言葉をかけた空色の髪色を持つ青年が、敵の副将と対面する。
数字アレルギーから挑発をされるも、大原は敵のことが眼中に無いようで、適当に生返事をしながら財前の方向を睨みつけていた。
「おうテメェ!! 次の相手は俺だぞっ!? 何処見てんだよっ!! あぁん!?」
「あー……
「あ"ぁ"!? テメェらは生意気な
「
副将同士の戦いが始める。
城南の選手が出てきたこともあって、財前は露骨に不愉快な表情をしている。
外野からマナー的にはよろしくないヤジを飛ばす財前。
怪訝な顔をしつつ、大原は理事長を煽る言葉を吐き捨てる。
「大原さぁ~ん……ワタクシ、非常に残念ですよ……アナタには期待していたのにねぇ!! 今からでも考え直しませんっ!?」
「おーおー
「んだと小市民風情がぁ!! アレだけ柔道部に投資したってのに……恩知らずがよぉ"ぉ"ぉ"ぉ"!?」
「おい!! 今の相手は俺だぞっ!? 俺を
「……No.37
「!? ひゅー……ゴホゴホっ!? なん、ぜぇー……ひゅー……っ!?」
財前に暴言を吐きながら、目の前の相手との組手合戦に臨んでいた大原。
氷を纏った彼の両腕からは冷気がゆらゆらと立ち込めており、数字アレルギーの腕にぶつかる度に、霰のような結晶が周囲に飛び散っている。
その破片を吸い込んだ数字アレルギーは、ほんの数秒で喘息の症状が現れ、苦しそうに呼吸をしている。
「……理事長から俺の戦い方を聞いてなかったのか? ……オメェ捨て駒扱いじゃねぇか」
「ぐぅ……糞がァ"ァ"ァ"っ!!」
互いに両手が空いている状態で、敵の傭兵は空中を右腕で薙ぎ払う。
彼が腕で描いた軌跡には真紅の炎が生み出され、大原に向かって獄炎が襲い掛かった。
No.11
灼熱の炎で敵を怯ませようとする数字アレルギーだったが、氷を纏った腕を両方とも差し出し、威力を相殺した大原。
彼の周囲には光の粒が舞い散っており、次の攻撃に移ろうとしている最中であった。
「用があるのはウチの理事長なんだ。この試合は
酸欠状態の数字アレルギーが最後に見た光景。
大原がその場で払った右足から放たれる、無数の三日月の刃。
そして両足が地面から引きはがされた自分の姿。
再び地面に体が付いた時には、審判寺の右腕が地面に直角に上がっているのが見えた。
「一本っっっっ!!」
「さてと、財前理事長!! ……城南の