第31話 澎湃の渦
文字数 5,214文字
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時間は決して巻き戻らない―――
大罪を犯した人間が相手でも―――
君は柔道が楽しいか?
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夜の船着き場に木霊する悪漢の声。
面食らったようにその場で立ち尽くす青桐 は、試合が始まったにも関わらず、その場から動こうとしない。
企みがが上手くいった財前 は、上機嫌な様子を隠そうとすることなく、青桐の道着を掴み取りに行きながら、彼を必要以上に煽り始める。
「ンフフフっ!! 今話題のリヴォルツィオーネから依頼 が来た時は、どうしようかと悩んだのですが~……あのスキンヘッドの方々、報酬 が良いんですよねぇ~!! ワタクシがガッツリ中抜きしたのもありますが、ぼろ儲け出来てうまうまですよっ!! まっ人生いろいろありますよぉ~~~別の彼女でも作ってみてはいかがですかぁ"ぁ"ぁ"!?」
「ぶっ殺す」
財前の両手が青桐の道着に触れようとした瞬間、回瀾を従えた青桐はそれらをいなし、弾き飛ばしていく。
体が横に流れる財前。
彼が目にした青年は、獰猛な目の奥に冷え切った殺意を抱いており、喉元を噛みちぎらんとする神話上の生き物を、その身に宿しているかのようである。
「ブヒブヒィィィィィ~っ!! ワタクシ、恐怖 !! ではぁ~……早々 で決着 をつけましょうかねぇ"ぇ"ぇ"っ!!」
両足に雷を纏った財前は、青桐の目と鼻の先まで急接近する。
一度は両手を弾かれた彼だが、今度は確実に横襟と中袖を握りしめると、先ほどの試合と同じように力による支配を開始した。
「んんんっ!! さてと……どう倒 してくれましょうかねぇ!! 内股? 支釣込足? 火鼠払 い? さあさあさあぁ"ぁ"ぁ"!?」
「……本当 でよく喋 る豚野郎だ……な"ぁ"っ!!」
財前の横襟を持つ右手に力を込めると、荷物を移動させるように奥へと押し込む青桐。
無理やりスペースを作り出すと、空いた空間へ体をねじ込み、敵の左足を内側から足を刈り取る大内刈りを仕掛ける。
大木に技をかけているようにビクともしない財前。
だがそれは青桐の狙い通りのようで、財前が技を返そうとした瞬間に別の技へと移行する。
目にも止まらぬ早業で、右足と左足を1度ずつ振るう青桐。
財前の体の後方には、牙のように鋭利な衝撃波が生み出されており、財前がその存在に気が付くよりも先に、アルファベットのxを描くように、彼の両足のアキレス腱を断ちに行く。
小外刈りの派生強化技。
No.33―――
「双牙 ……っ!!」
「んんんっ!!」
(油断 ると投げ飛ばされますねぇ。 ……小市民の決め技は主に投げ技ぁ……どっしり構えて受け止めればぁ~すぐさまコチラの攻撃 ですよぉぉ!!)
財前の思惑通り、バランスが崩れた体に追撃を仕掛ける青桐。
雲に紛れた小内刈り、水塊を設置して足が揃った瞬間を刈り取る出足払い……
数々の足技が飛び交う中、本命の投げ技のモーションに入った青桐。
左手の引き手を引きつけ、右ひじを財前の右腋に入れ込む彼。
背負い投げを繰り出してきた彼に絶望を味わわせるべく、腰を落とし、研ぎ澄まされた刀をへし折りにかかる財前……
「あり?」
確かに背負い投げのモーションに入っていた青龍の男。
彼は今、引き手で握っていた財前の中袖を手放すと、今度は右手である釣り手を引きつけ、左腕を財前の左腋に入れ込むと、巨漢の男の左肩を左手で掴み、体を時計回りに回転させながら一本背負いを繰り出していく。
それもただの一本背負いではない。
逆方向、左 の 一 本 背 負 い である。
「お……お"ぉ"ぉ"ぉ"!? 小市民~……貴様ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"~~!?」
「……ベラベラベラベラ煩 い野郎だなぁ……なぁ"ぁ"ぁ"!! 舌噛みたくねぇなら黙ってろやぁ"ぁ"ぁ"!!」
青桐が子供に見える程の巨体を有している財前。
そんな彼が、青桐の技によって、今まさに投げ飛ばされようとしている。
青龍の背中でもがき、間一髪の所で左足の指で畳にしがみついた財前。
投げられるまでには至らなかったが、完全に虚を突かれた悪漢は、張り裂けそうなほどの心臓の鼓動を己の耳で聞いている。
「はっ……!! はっ……!! 左……左ぃ!? ……ちょっ!?」
「ら"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
頭を整理する時間が欲しい財前。
潤んだ目で停戦を訴えかけるが、怒りに燃える青年は受け入れるはずもなく、激流の勢いは増していくばかりである。
右利きがおこなう小内刈りで右足を刈り取ると、今度は左利きの人間がおこなう逆の小内刈りで、財前の左足を刈り取る青桐。
右へ左へ絶え間なく押し寄せる荒波に、防戦一方になる財前は次第に吞み込まれていく。
「ん"ん"ん"ん"っ!! がぁ"ぁ"ぁ"ぁ"っ!!」
「どうしたぁ豚野郎……? え"ぇ"っ!? キャラ付け忘れてんぞっオ"ラ"ァ"ァ"ァ"ッ!!」
「ブヒィ"ィ"ィ"ィ"!! 殺すっ!!」
青桐が成長した後の情報を知らない財前。
じわじわと敗北への道を辿っている彼は、不服な思いを試合中にも関わらずぶちまけていく。
「このワタクシが小市民ごときにぃぃぃぃ!! こんな貧乏人 があぁぁぁぁ!! 資本主義社会の申し子であるワタクシにぃぃぃぃ!! この……汚物 がぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
「静止 っ!!」
「……はい? 審判寺さん、なぜ試合を止め……」
「処分 っ!! 太っちょよ、少し暴言 り過ぎじゃのぉ……喧嘩 るなら他所でやれ。互いに熱くなってた故、今回は甘く見てやったが、次やったら反則負け じゃぞ……? そっちの青髪も同様に処分 じゃ……いいな」
「ちっ!! ……了解 」
「ぐぐぐぐ!!了解 !!」
「開始 っ!!」
財前への指導を行い、中断された時間は再び動き出す。
試合開始直後に、周囲は桜が舞い踊り月夜が静かにたたずむ、水が地平線を満たした世界へと変貌する。
静まり返った水面は、やがて嵐がやってきたかのように、波同士が激しくぶつかり合い、財前を海の底へと引きずり込もうとする。
(この糞小市民めぇ!! 潰す、絶対に潰すぅ……うぉ!?)
「こ、れ、はぁぁぁ……桜花水月 ……っ!? あの小市民はどこへ……」
「ここだよ見えねぇのか老眼がっ……!!」
目を離した隙に、既に上半身が投げのモーションへと入っている青桐。
強化された背負投げを直に受けることを避けるべく、財前は反射的に足が左方向へと動いてしまう。
後出しじゃんけんを行う青桐は、その方向へ投げ飛ばすべく、体を180度逆回転させ、左手から中袖を手放し、逆の一本背負いを繰り出していく。
「……っ!! 2度も、同じ手を、食らうかぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!! あぁ!?」
(今度は何なんでしょうねぇ"ぇ"ぇ"!? ……ワタクシの足に力が入らない!?体力 切れ……? ……っ!! まさか……小市民 っ!?)
「やっと絞め技が効いてきたか。寝技は胸部や首を圧迫する関係上、呼吸が乱れやすいんだよなぁ……さっきの俺との試合で削られた体力 ……激昂 で無暗 に動きまくった代償 は、結構多額 ぇんじゃねぇか? なぁ……理事長っ!!」
場外で観戦する城南のキャプテンである大原 は、先ほどの試合を振り返りながら、背水の陣で戦う学校の理事長へと、語気を強めて突き放した言葉を投げつける。
逆方向への一本背負いを行う青桐。
今までの恨みを晴らすべく、畳から引きはがした巨漢を、力の限り畳へと投げつけていく。
「う……ぉおぉぉぉ!?」
(ワタクシが……一本負け る? こんな奴にぃ? こんな貧乏人にぃ!? ……疑心暗鬼 ?)
「ワタクシ一本負け る? 疑心暗鬼 ぇ"え"ぇ"ぇ"え"ぇ"!?」
「やぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
「一本っ!! そこまでっ!!」
背中から勢いよく投げつけられた財前。
彼は畳の上に散っていった。
この試合の審判を務めた審判寺 は、総括するように口を開き始めた。
「さてと……試合はルーカス・ジョンソン側の勝ちじゃな。約束 通り、財前富男は身柄を確保 らせていただくぞ」
「ちょ、審判時さん!!最後 の投げ技、偽装攻撃 じゃないですかっ!?」
「なんじゃ……ワシの審判に苦情 をつける気か? 小僧が言っておるのは、一本背負いの前の桜花水月 か? ……残念じゃが、上半身だけの動きでは、偽装攻撃 とは言えんのぉ……」
「ぐくぅぅ!! ……くくく!! おほほほほ!! はい、理解 りました、負けましたよっと!! ですがですが~……このまま終了して本当 でよろしいのですかぁ? 負けた時に備えて、別のプランもあるのにぃ!? ……もしもし!! そっちの方はどうですかぁ!? 蒼海の校舎は……」
『財前様ぁ!! 助け……ギャァァァァ!!』
「……ふぁっ!?」
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青桐達が戦いを終えた同時刻。
蒼海高校のグラウンド内には、事前に襲撃を見越して設置された無数の畳の上で、財前の部下と戦い続ける蒼海高校柔道部の人間がいた。
ジョンソンヘッドコーチからの情報を受け、戦いに備えていた蒼海高校柔道部ガチ勢の面々。
監督の井上も彼らと同じように道着に袖を通し、一心不乱に試合を行っている。
「はっ……はっ……!! クソ、何でコイツら待ち構えてやがったんだよぉ"ぉ"ぉ"!? 財前さん話が違ぇじゃねぇか!!」
「ギャァァァァァ!!」
「お、おい!! ……ひっ!?」
「おーおー随分と派手にやってくれんじゃねぇか……覚悟出来てんだろうなぁ!?」
「武人として風上にも置けんな……少しは根性を見せたらどうだ?」
「回生の木場 に……幻術使いの花染 じゃねぇか!? 俺達じゃ勝てっこねぇよっ!! に、逃げるぞ……」
「オリバー見参だヨ!!」
敵う相手でないと判断した財前の部下達が、一目散にその場から逃げようとするも、背後からぬるりと現れた城南柔道部の部員、オリバーの手によってその場に拘束される。
「はぁ!? 何でお前らが……」
「HAHAHA!! そんなに急いデ、何処に行くんダ? もっと楽しもうゼ~!!」
「Fleeing in front of the enemy is... pathetic(敵前逃亡とは……情けない)」
「おい、ちょ、待てって……あ、あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
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渾身の最後っ屁すら不発に終わり、後は捕まるのを待つのみとなった財前。
無言で唇を噛みしめる彼は、脇目も振らず逃亡していく。
ただ一目散に、青桐達から背を向け走り出す悪漢。
タダですら醜い顔面が、潰れたトマトのようにぐちゃぐちゃにしながら奇声を発していく。
「はぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!! やってらんないですぅ"ぅ"ぅ"ぅ"ぅ"ぅ"!!」
「何処へ行く気じゃ」
音もなく財前の目の前に現れた審判寺。
逃亡を図る財前は、汗を流しながら最後の抵抗を始める。
「邪魔邪魔邪魔っ!! どけや老いぼれ がぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
「アホみたいに怒鳴 りおって……そらっ!!」
「っ!?」
「……N o . 9 5 」
右手で財前の道着の襟の部分を握りしめる審判寺。
軽く襟を握られただけで、財前の体勢は大きく前へと崩れていく。
そのまま地面の小石を蹴るように、優しく右足で、財前の左足の裏側を払う審判寺。
100㎏を軽々超える男は、老人の洗練された技によって、畳の上へと投げ飛ばされる。
そのまま取り押さえられた財前。
最後まで悪あがきを続ける彼を抑え込み続ける審判寺は、戦の終わりを告げていく。
「さあ……これで終了 としようかのぉ!!」
時間は決して巻き戻らない―――
大罪を犯した人間が相手でも―――
君は柔道が楽しいか?
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夜の船着き場に木霊する悪漢の声。
面食らったようにその場で立ち尽くす
企みがが上手くいった
「ンフフフっ!! 今話題のリヴォルツィオーネから
「ぶっ殺す」
財前の両手が青桐の道着に触れようとした瞬間、回瀾を従えた青桐はそれらをいなし、弾き飛ばしていく。
体が横に流れる財前。
彼が目にした青年は、獰猛な目の奥に冷え切った殺意を抱いており、喉元を噛みちぎらんとする神話上の生き物を、その身に宿しているかのようである。
「ブヒブヒィィィィィ~っ!! ワタクシ、
両足に雷を纏った財前は、青桐の目と鼻の先まで急接近する。
一度は両手を弾かれた彼だが、今度は確実に横襟と中袖を握りしめると、先ほどの試合と同じように力による支配を開始した。
「んんんっ!! さてと……どう
「……
財前の横襟を持つ右手に力を込めると、荷物を移動させるように奥へと押し込む青桐。
無理やりスペースを作り出すと、空いた空間へ体をねじ込み、敵の左足を内側から足を刈り取る大内刈りを仕掛ける。
大木に技をかけているようにビクともしない財前。
だがそれは青桐の狙い通りのようで、財前が技を返そうとした瞬間に別の技へと移行する。
目にも止まらぬ早業で、右足と左足を1度ずつ振るう青桐。
財前の体の後方には、牙のように鋭利な衝撃波が生み出されており、財前がその存在に気が付くよりも先に、アルファベットのxを描くように、彼の両足のアキレス腱を断ちに行く。
小外刈りの派生強化技。
No.33―――
「
「んんんっ!!」
(
財前の思惑通り、バランスが崩れた体に追撃を仕掛ける青桐。
雲に紛れた小内刈り、水塊を設置して足が揃った瞬間を刈り取る出足払い……
数々の足技が飛び交う中、本命の投げ技のモーションに入った青桐。
左手の引き手を引きつけ、右ひじを財前の右腋に入れ込む彼。
背負い投げを繰り出してきた彼に絶望を味わわせるべく、腰を落とし、研ぎ澄まされた刀をへし折りにかかる財前……
「あり?」
確かに背負い投げのモーションに入っていた青龍の男。
彼は今、引き手で握っていた財前の中袖を手放すと、今度は右手である釣り手を引きつけ、左腕を財前の左腋に入れ込むと、巨漢の男の左肩を左手で掴み、体を時計回りに回転させながら一本背負いを繰り出していく。
それもただの一本背負いではない。
逆方向、
「お……お"ぉ"ぉ"ぉ"!? 小市民~……貴様ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"~~!?」
「……ベラベラベラベラ
青桐が子供に見える程の巨体を有している財前。
そんな彼が、青桐の技によって、今まさに投げ飛ばされようとしている。
青龍の背中でもがき、間一髪の所で左足の指で畳にしがみついた財前。
投げられるまでには至らなかったが、完全に虚を突かれた悪漢は、張り裂けそうなほどの心臓の鼓動を己の耳で聞いている。
「はっ……!! はっ……!! 左……左ぃ!? ……ちょっ!?」
「ら"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
頭を整理する時間が欲しい財前。
潤んだ目で停戦を訴えかけるが、怒りに燃える青年は受け入れるはずもなく、激流の勢いは増していくばかりである。
右利きがおこなう小内刈りで右足を刈り取ると、今度は左利きの人間がおこなう逆の小内刈りで、財前の左足を刈り取る青桐。
右へ左へ絶え間なく押し寄せる荒波に、防戦一方になる財前は次第に吞み込まれていく。
「ん"ん"ん"ん"っ!! がぁ"ぁ"ぁ"ぁ"っ!!」
「どうしたぁ豚野郎……? え"ぇ"っ!? キャラ付け忘れてんぞっオ"ラ"ァ"ァ"ァ"ッ!!」
「ブヒィ"ィ"ィ"ィ"!! 殺すっ!!」
青桐が成長した後の情報を知らない財前。
じわじわと敗北への道を辿っている彼は、不服な思いを試合中にも関わらずぶちまけていく。
「このワタクシが小市民ごときにぃぃぃぃ!! こんな
「
「……はい? 審判寺さん、なぜ試合を止め……」
「
「ちっ!! ……
「ぐぐぐぐ!!
「
財前への指導を行い、中断された時間は再び動き出す。
試合開始直後に、周囲は桜が舞い踊り月夜が静かにたたずむ、水が地平線を満たした世界へと変貌する。
静まり返った水面は、やがて嵐がやってきたかのように、波同士が激しくぶつかり合い、財前を海の底へと引きずり込もうとする。
(この糞小市民めぇ!! 潰す、絶対に潰すぅ……うぉ!?)
「こ、れ、はぁぁぁ……
「ここだよ見えねぇのか老眼がっ……!!」
目を離した隙に、既に上半身が投げのモーションへと入っている青桐。
強化された背負投げを直に受けることを避けるべく、財前は反射的に足が左方向へと動いてしまう。
後出しじゃんけんを行う青桐は、その方向へ投げ飛ばすべく、体を180度逆回転させ、左手から中袖を手放し、逆の一本背負いを繰り出していく。
「……っ!! 2度も、同じ手を、食らうかぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!! あぁ!?」
(今度は何なんでしょうねぇ"ぇ"ぇ"!? ……ワタクシの足に力が入らない!?
「やっと絞め技が効いてきたか。寝技は胸部や首を圧迫する関係上、呼吸が乱れやすいんだよなぁ……さっきの俺との試合で削られた
場外で観戦する城南のキャプテンである
逆方向への一本背負いを行う青桐。
今までの恨みを晴らすべく、畳から引きはがした巨漢を、力の限り畳へと投げつけていく。
「う……ぉおぉぉぉ!?」
(ワタクシが……
「ワタクシ
「やぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
「一本っ!! そこまでっ!!」
背中から勢いよく投げつけられた財前。
彼は畳の上に散っていった。
この試合の審判を務めた
「さてと……試合はルーカス・ジョンソン側の勝ちじゃな。
「ちょ、審判時さん!!
「なんじゃ……ワシの審判に
「ぐくぅぅ!! ……くくく!! おほほほほ!! はい、
『財前様ぁ!! 助け……ギャァァァァ!!』
「……ふぁっ!?」
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青桐達が戦いを終えた同時刻。
蒼海高校のグラウンド内には、事前に襲撃を見越して設置された無数の畳の上で、財前の部下と戦い続ける蒼海高校柔道部の人間がいた。
ジョンソンヘッドコーチからの情報を受け、戦いに備えていた蒼海高校柔道部ガチ勢の面々。
監督の井上も彼らと同じように道着に袖を通し、一心不乱に試合を行っている。
「はっ……はっ……!! クソ、何でコイツら待ち構えてやがったんだよぉ"ぉ"ぉ"!? 財前さん話が違ぇじゃねぇか!!」
「ギャァァァァァ!!」
「お、おい!! ……ひっ!?」
「おーおー随分と派手にやってくれんじゃねぇか……覚悟出来てんだろうなぁ!?」
「武人として風上にも置けんな……少しは根性を見せたらどうだ?」
「回生の
「オリバー見参だヨ!!」
敵う相手でないと判断した財前の部下達が、一目散にその場から逃げようとするも、背後からぬるりと現れた城南柔道部の部員、オリバーの手によってその場に拘束される。
「はぁ!? 何でお前らが……」
「HAHAHA!! そんなに急いデ、何処に行くんダ? もっと楽しもうゼ~!!」
「Fleeing in front of the enemy is... pathetic(敵前逃亡とは……情けない)」
「おい、ちょ、待てって……あ、あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
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渾身の最後っ屁すら不発に終わり、後は捕まるのを待つのみとなった財前。
無言で唇を噛みしめる彼は、脇目も振らず逃亡していく。
ただ一目散に、青桐達から背を向け走り出す悪漢。
タダですら醜い顔面が、潰れたトマトのようにぐちゃぐちゃにしながら奇声を発していく。
「はぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!! やってらんないですぅ"ぅ"ぅ"ぅ"ぅ"ぅ"!!」
「何処へ行く気じゃ」
音もなく財前の目の前に現れた審判寺。
逃亡を図る財前は、汗を流しながら最後の抵抗を始める。
「邪魔邪魔邪魔っ!! どけや
「アホみたいに
「っ!?」
「……
右手で財前の道着の襟の部分を握りしめる審判寺。
軽く襟を握られただけで、財前の体勢は大きく前へと崩れていく。
そのまま地面の小石を蹴るように、優しく右足で、財前の左足の裏側を払う審判寺。
100㎏を軽々超える男は、老人の洗練された技によって、畳の上へと投げ飛ばされる。
そのまま取り押さえられた財前。
最後まで悪あがきを続ける彼を抑え込み続ける審判寺は、戦の終わりを告げていく。
「さあ……これで