第18話 地下造船所
文字数 3,518文字
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地下に眠りし秘密の場所―――
弱き者達が奴隷として扱われていたとしても―――
君は柔道が楽しいか?
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2020年11月7日土曜日夕暮れ時。
11月の昇格戦を終えた青桐 は、博多駅前の正面広場で、スマホをいじりながら時間を潰していた。
今月の蒼海柔道部は、福岡各地の柔道タワーへ、満遍なく人数がばらけるように参加しており、まだ見ぬ強者達と熱い激闘を繰り広げていた。
幸いどのメンバーも試合では好成績を残しており、昨月100位圏内から脱落した石山も、今日の昇格戦で再び100位圏内へと昇格していたのであった。
「……石山 はっと……おっ!! 101位から100位になってんな」
「お~い龍夜 ~待った~?」
「鈍足 ぇよ、道草食ってたのか隼人 」
「んなわけねぇだろっ!! 俺今日は飯塚市の柔道タワーに行って来たんだぜぇ? 電車の乗り降りでくたくただわ」
「へいへい、乙 ~」
待ち合わせしていた草凪 と合流した青桐。
帰宅する人々の列を搔き分けて、博多駅前から妙見岬へと移動するため、電車に乗り姪浜駅へと向かって行く2人。
駅近くのコンビニエンス道場に滞在している伊集院 と石山 を拾っていくため、電車を降りるや否や、談笑交じりに足早に進んで行く。
「んでよぉ龍夜 、古賀さんの道場に行かずに今日は何処に行く気だよ。つ~か糞遠いなここ」
「あぁ? ……城南のシモンって奴に誘われたんだよ。この前の柔祭りで連絡先交換しててさ。なんか面白 る場所見つけたって言うもんだからよ、そこに行く予定なんだわ」
「シモン……? 誰だ?」
「あぁー……隼人この前いなかったな……今年の福岡大会決勝戦で戦った高校の留学生選手なんだよ。城南が何か吸収合併で馬鹿デカい高校になったのは知ってんだろ? 俺達に嫌がらせしてる財前 って野郎が運営してる高校の人間だな」
「ほ~ん……そんで何すんの?」
「さぁ? ……本当 で何すんだろな?」
「龍夜、それ本当 で遊戯 たのか? 何か面倒 事に巻き込まれそうじゃね?」
「そん時はそん時だ。柔道で決着つければいいだろ」
「流石、全自動柔道機械 は言う事違うねぇ~!! ……痛えっ!! 殴んなよっ!?」
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「9割9部9厘、面白 るな……同伴 させてもらうぞ」
連絡で指示を受けた場所までやって来た青桐達2人。
どうやら向こうが先に青桐達に気が付いたようで、左手に握ったタオルで額の汗を拭いながら、伊集院がこちらへとやってきた。
試合帰りに筋トレを行っていたようで、右手にはグリップを握りしめており、額から流れ落ちる汗の量から察するに、そこそこ長い時間道場内にいたことが推測できる。
「さっきは割と冗談で言ったんだけどな……本気 でいいのか?」
「ああ、丁度筋トレも終わったところだ。最後の握力も……この893回目で終了だ。これ以上の筋トレは、無駄に筋細胞を痛めつけるだけだと9割9部9厘答えが出ている」
「おっし、そんじゃ頼むぜ。 ……アレ?石山 はいないのか? ここに仲間 がいるって……」
「俺はここばい!!」
青桐と伊集院の会話に入って来た声の主。
それは彼らが、視線を真下の畳へと向けることで判明したのだった。
畳の上で柔軟運動を行ている、青桐と同級生の石山。
開脚した右足と左足は一直線になっており、体が地面と平行になるまで前屈し、100㎏を超える巨体が可愛らしく思えてしまうくらい、体を地面と一体化させていた。
「仲間 外れは嫌やけん、俺も同伴 るばい。準備するけんちょっと待っとって」
「5分以内に終わらせる。適当に時間を潰していてくれ」
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それなりの人数になった御一行。
柔道タワーでの試合をそれぞれ振り返りながら、マリナ通りを進んで行く。
走り込みを行っている中年サラリーマンと思わしき人物達と何度かすれ違うと、目的地の目と鼻の先にまで到着する。
待ち合わせをしているシモンの姿を探す青桐。
辺りが暗くなってきていることもあり、人探しに手を焼いているようだった。
「……アレ? どこだ……」
「おいおいお~い!! なにやってんすか龍夜先輩~!! しっかりしてくだ……痛ぇ!! 急に殴んじゃねぇよ!! このDV男 がっ!!」
「あ"ぁ"?女 殴ってそうなテメェが言ってんじゃねぇよ。ちょっと黙ってろ、集中出来ねぇだろが腑抜け 火遊び常習犯 !!」
「遊んでませぇん、柔道一筋ですぅぅぅ!!」
幼馴染故の気安さなのだろうか。
道端で取っ組み合いの喧嘩を始めた2人。
その様子に何か思うことがあるようで、石山と伊集院は、荒事を静かに見守っていた。
「……青桐君、前よりはマシになっとーね。こげん元気な姿は久々に見るばい」
「9割9部9厘、草凪のおかげだろうな。見知っている人間が側にいるだけでも、心の持ちようは変わるだろう」
「本来はここに、夏川さんもおるっちゃけど……」
「……だな」
「この暴言、青桐さんですよネッ!! 探しましたヨ~!!」
青桐と草凪の暴言の言い合いを聞いて駆け付けて来た人物達。
その先頭を走る男が、今回青桐と待ち合わせをしていたシモンという外国人留学生である。
後ろには、青桐が柔祭りで対戦した選手達も着いて来ており、総勢4人の留学生が、青桐達と合流したのだった。
「久しぶり シモン、柔祭り以来か?」
「そうですネ。いや~今日は感謝 ですヨ!! 探索するの二、人手が要りそうだっだのデ」
「探索……?」
「こっちですヨッ!!」
シモンに招かれるまま、小戸公園内を進んで行く青桐達。
次に彼らが足を止めた場所は、白い万能板に囲まれた巨大な工事現場であった。
夜間のため工事は行われておらず、静まり返ったこの現場。
万能板に囲まれているため、中の様子を見ることは出来ないが、接続の甘い板の隙間から顔を見せる重機の数々が、ここで大規模な工事が行われていると無言の主張をしている。
「公園内に……何だこれ? ビルでも建つのか?」
「看板にハ、ここから能古島まデ、橋がかかるって書いてましたネ。ただおかしいんですよネ。もう工事は終わってるぽいんですヨ。ほら、この隙間から中ヲ……」
「現実 だ。もう通れるじゃん」
万能板に隠された空間の向こう側。
シモンに言われた通りに板の隙間から中を覗いてみると、そこには既に工事が完成した連絡橋が佇んでいた。
世間一般にはお披露目されていないが、明日から運用を開始しても問題ないくらいの完成度であった。
「なんか怪しくないですカ? 行ってみまス?」
「ん~……個人的には行きたいけど、流石に危険 そうだしなぁ……」
「あの~すみません、道を聞いてもよろしいでしょうか?」
「え? ……隼人、ちょっと頼むわ」
「あいあ~い」
「んでどうする? 俺は止めといたほうが……」
「うわぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!?」
シモンの提案に難色を示す青桐。
どうしたものかと考え込んでいると、背後から聞こえて来た草凪の悲鳴に、体を一瞬震わせる。
見ず知らずの人間に道案内をお願いされた彼は今、突如生まれた巨大な大穴と共に姿を消していた。
道案内を申し出て来た人物も姿を消しており、2人共大穴へと落ちて行ったと推測できる。
「……はっ!? 隼人……落ちたっ!?」
「青桐さん、これっテ……」
「ちっ!! しゃぁねぇ、俺達も追うぞっ!! ……穴から飛び降りるか?」
「9割9分9厘、その選択は進めない。行くならそこのエレベーターだな」
敷地内を除いていた伊集院が指し示す方向には、工事現場で使っていると思わしき、工事車両運搬用の大型エレベーターが、敷地内に存在していた。
進行方向は地下。
なぜそんなものが工事現場内にあるのか。
アレコレ考えている余裕の無い青桐達は、万能板をよじ登り、無断で敷地内へと進入すると、エレベーターを呼び寄せ地下へと向かって行く。
3分程待つと、目的の場所に到着した。
そこは薄暗い洞穴でもなく、ましてや想像するような塵の舞う採掘所でもない。
壁は鉄製の頑丈かつ奇麗な板で敷き詰められ、周囲には幾多の重機が立ち並び、中央には大型の豪華客船が、現在進行形で整備されていた。
地上で姿を眩ませていた作業員も、この地下にはアリのように至る所に存在し、しきりに怒鳴り声を上げている。
ドーム状の建築物が何個も収まりそうなほどの巨大な空間が、青桐達の目の前に出現した。
「んだよここは……地下造船所っ!?」
地下に眠りし秘密の場所―――
弱き者達が奴隷として扱われていたとしても―――
君は柔道が楽しいか?
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2020年11月7日土曜日夕暮れ時。
11月の昇格戦を終えた
今月の蒼海柔道部は、福岡各地の柔道タワーへ、満遍なく人数がばらけるように参加しており、まだ見ぬ強者達と熱い激闘を繰り広げていた。
幸いどのメンバーも試合では好成績を残しており、昨月100位圏内から脱落した石山も、今日の昇格戦で再び100位圏内へと昇格していたのであった。
「……
「お~い
「
「んなわけねぇだろっ!! 俺今日は飯塚市の柔道タワーに行って来たんだぜぇ? 電車の乗り降りでくたくただわ」
「へいへい、
待ち合わせしていた
帰宅する人々の列を搔き分けて、博多駅前から妙見岬へと移動するため、電車に乗り姪浜駅へと向かって行く2人。
駅近くのコンビニエンス道場に滞在している
「んでよぉ
「あぁ? ……城南のシモンって奴に誘われたんだよ。この前の柔祭りで連絡先交換しててさ。なんか
「シモン……? 誰だ?」
「あぁー……隼人この前いなかったな……今年の福岡大会決勝戦で戦った高校の留学生選手なんだよ。城南が何か吸収合併で馬鹿デカい高校になったのは知ってんだろ? 俺達に嫌がらせしてる
「ほ~ん……そんで何すんの?」
「さぁ? ……
「龍夜、それ
「そん時はそん時だ。柔道で決着つければいいだろ」
「流石、
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連絡で指示を受けた場所までやって来た青桐達2人。
どうやら向こうが先に青桐達に気が付いたようで、左手に握ったタオルで額の汗を拭いながら、伊集院がこちらへとやってきた。
試合帰りに筋トレを行っていたようで、右手にはグリップを握りしめており、額から流れ落ちる汗の量から察するに、そこそこ長い時間道場内にいたことが推測できる。
「さっきは割と冗談で言ったんだけどな……
「ああ、丁度筋トレも終わったところだ。最後の握力も……この893回目で終了だ。これ以上の筋トレは、無駄に筋細胞を痛めつけるだけだと9割9部9厘答えが出ている」
「おっし、そんじゃ頼むぜ。 ……アレ?
「俺はここばい!!」
青桐と伊集院の会話に入って来た声の主。
それは彼らが、視線を真下の畳へと向けることで判明したのだった。
畳の上で柔軟運動を行ている、青桐と同級生の石山。
開脚した右足と左足は一直線になっており、体が地面と平行になるまで前屈し、100㎏を超える巨体が可愛らしく思えてしまうくらい、体を地面と一体化させていた。
「
「5分以内に終わらせる。適当に時間を潰していてくれ」
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それなりの人数になった御一行。
柔道タワーでの試合をそれぞれ振り返りながら、マリナ通りを進んで行く。
走り込みを行っている中年サラリーマンと思わしき人物達と何度かすれ違うと、目的地の目と鼻の先にまで到着する。
待ち合わせをしているシモンの姿を探す青桐。
辺りが暗くなってきていることもあり、人探しに手を焼いているようだった。
「……アレ? どこだ……」
「おいおいお~い!! なにやってんすか龍夜先輩~!! しっかりしてくだ……痛ぇ!! 急に殴んじゃねぇよ!! この
「あ"ぁ"?
「遊んでませぇん、柔道一筋ですぅぅぅ!!」
幼馴染故の気安さなのだろうか。
道端で取っ組み合いの喧嘩を始めた2人。
その様子に何か思うことがあるようで、石山と伊集院は、荒事を静かに見守っていた。
「……青桐君、前よりはマシになっとーね。こげん元気な姿は久々に見るばい」
「9割9部9厘、草凪のおかげだろうな。見知っている人間が側にいるだけでも、心の持ちようは変わるだろう」
「本来はここに、夏川さんもおるっちゃけど……」
「……だな」
「この暴言、青桐さんですよネッ!! 探しましたヨ~!!」
青桐と草凪の暴言の言い合いを聞いて駆け付けて来た人物達。
その先頭を走る男が、今回青桐と待ち合わせをしていたシモンという外国人留学生である。
後ろには、青桐が柔祭りで対戦した選手達も着いて来ており、総勢4人の留学生が、青桐達と合流したのだった。
「
「そうですネ。いや~今日は
「探索……?」
「こっちですヨッ!!」
シモンに招かれるまま、小戸公園内を進んで行く青桐達。
次に彼らが足を止めた場所は、白い万能板に囲まれた巨大な工事現場であった。
夜間のため工事は行われておらず、静まり返ったこの現場。
万能板に囲まれているため、中の様子を見ることは出来ないが、接続の甘い板の隙間から顔を見せる重機の数々が、ここで大規模な工事が行われていると無言の主張をしている。
「公園内に……何だこれ? ビルでも建つのか?」
「看板にハ、ここから能古島まデ、橋がかかるって書いてましたネ。ただおかしいんですよネ。もう工事は終わってるぽいんですヨ。ほら、この隙間から中ヲ……」
「
万能板に隠された空間の向こう側。
シモンに言われた通りに板の隙間から中を覗いてみると、そこには既に工事が完成した連絡橋が佇んでいた。
世間一般にはお披露目されていないが、明日から運用を開始しても問題ないくらいの完成度であった。
「なんか怪しくないですカ? 行ってみまス?」
「ん~……個人的には行きたいけど、流石に
「あの~すみません、道を聞いてもよろしいでしょうか?」
「え? ……隼人、ちょっと頼むわ」
「あいあ~い」
「んでどうする? 俺は止めといたほうが……」
「うわぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!?」
シモンの提案に難色を示す青桐。
どうしたものかと考え込んでいると、背後から聞こえて来た草凪の悲鳴に、体を一瞬震わせる。
見ず知らずの人間に道案内をお願いされた彼は今、突如生まれた巨大な大穴と共に姿を消していた。
道案内を申し出て来た人物も姿を消しており、2人共大穴へと落ちて行ったと推測できる。
「……はっ!? 隼人……落ちたっ!?」
「青桐さん、これっテ……」
「ちっ!! しゃぁねぇ、俺達も追うぞっ!! ……穴から飛び降りるか?」
「9割9分9厘、その選択は進めない。行くならそこのエレベーターだな」
敷地内を除いていた伊集院が指し示す方向には、工事現場で使っていると思わしき、工事車両運搬用の大型エレベーターが、敷地内に存在していた。
進行方向は地下。
なぜそんなものが工事現場内にあるのか。
アレコレ考えている余裕の無い青桐達は、万能板をよじ登り、無断で敷地内へと進入すると、エレベーターを呼び寄せ地下へと向かって行く。
3分程待つと、目的の場所に到着した。
そこは薄暗い洞穴でもなく、ましてや想像するような塵の舞う採掘所でもない。
壁は鉄製の頑丈かつ奇麗な板で敷き詰められ、周囲には幾多の重機が立ち並び、中央には大型の豪華客船が、現在進行形で整備されていた。
地上で姿を眩ませていた作業員も、この地下にはアリのように至る所に存在し、しきりに怒鳴り声を上げている。
ドーム状の建築物が何個も収まりそうなほどの巨大な空間が、青桐達の目の前に出現した。
「んだよここは……地下造船所っ!?」