第61話 弾丸雨に見舞われて

文字数 4,591文字

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己の理想通りの生活を送れず―――
歯痒い日々が続いたとしても―――
キミは柔道が楽しいか?
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「BAHAHA~!! そっちはどうだ(たちばな)ぁっ!? 何か情報(ネタ)見つかったかぁっ!?」

「ん~ボチボチ~? 思ったほどじゃなくて、気分(バイブス)沈鬱(さげみざわ)なんだが~」

面倒(ウゼ)逃亡者(ヤカラ)どもがぁ……!! 捜索(ガサいれ)は……」

「ちょい待ちっ!!」

「あぁ? どぉしたぁ~?」

「……アレ、黒城(こくじょう)じゃねっ!? ウハッ!! ちょ、突然過ぎて爆笑(ウケ)るんだがっ!?」

「は? 何で奈良に黒城が? アイツは大阪じゃ……」

「俺、撤収時間(ケツカッチン)だが交流(アピ)りにゆくぞ~!! 取りあえず(とりま)放棄(ドタ)るが、懇願(よろりんこ)っ!!」

「お、おまっ!? ……()く帰って来いよぉっ!?」

OK(おけまるすいさん)~!!」

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 出会って即座に試合を始めようとした黒城(こくじょう)銃守(かねもり)
 彼らの衝突を意図せず防いだ集団が、コチラへと近づいて来ており、その集団に心当たりのある銃守は、不愉快そうにあしらおうとする。

「……俺の事はほっとけっつったろ」

「そうもいかないんだって!! 先生(センコー)が連れ戻して来いってさぁ……超怒(げきおこ)危険(ヤバ)いんだってっ!!」

「テメェらと練習すると、心が"腑抜(くさ)っちまうんだよ"!! いつも言ってんだろっ!!」

「あのさぁ~……リヴォルツィオーネの実力(ウデ)、テレビで見ただろ? 俺達がどんだけ頑張(きば)っても、アイツらには勝てねぇって。そんな連中が上にいる以上、練習したって時間の無駄だよ」

「俺は誰が相手でも柔道で勝ちてぇんだよ……だがテメェらは違ぇんだろ? 無駄だって思うんなら、テメェらだけで思い出作り頑張(きば)ってろよ、負け犬共がっ!!」

「……っ!! 言わせておけば……!! テメェ自分の立場(カースト)わきまえろよっ!! そんなに猛練習してぇなら、他所の強豪校行けばいいじゃねぇかよっ!! それが出来ねぇからここにいんだろっ!? だったら俺らと足並み揃えろや独善野郎がっ!!」

「あ"ぁ"!? この……」

「はいはい一旦落ち着きましょうねぇ~部外者(おれたち)の事も考えましょうねぇ~? どしたん? 話聞こか?」

 売り言葉に買い言葉。
 殴り合いに発展しそうだった場を制し、仲裁役を買って出た黒城。
 先ほどの口喧嘩の際に何かを閃いたようで、彼の口元は目に見える形で緩んでいる。

「テメェ……部外者(よそもん)がしゃしゃり出るんじゃ……」

「銃守君、ちょっと待ってねぇ……お~いそこの集団!! 今から俺と柔道しようぜぇ!!」

「は? ……ってかお前、落陽山(らくようざん)高校の黒城じゃねぇかっ!? 何でこんな所にっ!?」

「いいのいいのそういうことはっ!! それよりも柔道やろうや」

「いや、誰がお前なんかと……」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()~?」

「……は? 全員っ!? 俺達全員で53人もいるんだぞっ!? たった1人で倒す気かっ!?」

「あぁ、負け犬根性が染みついたお前らなら、何人かかって来ても問題ねぇよ」

「あ"ぁ"?」

「聞こえなかったか? 勝つ気のねぇ腰抜(ヘタレ)がいくらいた所で、俺は負けねぇっつってんだよ、キャンキャン声のうるせぇポメラニアン君よぉ!!」

「この……!! 上等だっ!! テメェ覚悟しとけよっ!!」

「うほっ!! いいねぇ~そうこなくっちゃ!!」

「おい黒城で良いんだな!? テメェ何勝手な事……」

「銃守ぃ~……オメェに俺が本気(ガチ)全国制覇(てっぺん)目指してるって証明するため。以上だ」

「はぁ!? そんだけか!? オメェ馬鹿(パー)なんじゃねぇのっ!?」

「そうだが? へっへっへ……お利口に生きてたら、わざわざこんなとこまで来たりしねぇよっ!!」

 首を鳴らしながら野外道場の場内で、相手集団の1人目を待つ黒城。
 目を閉じ精神統一をしている彼が目を開けると、視界には、敵の他に勝手に審判役を買って出るため乱入してきた人物が、黒城と敵の間に立ち尽くしてる。
 額に巻いている黒いバンダナで、萌黄色の短髪を立たせており、その瞳の中に星の形を宿した青年。
 あまりにも自然にそこにいたその青年に、黒城は名を聞いていく。

「……お前誰?」

「俺、橘玲音っ!! 勝手に審判を務めちゃうぜっ!!」

「……まあいっか!! おう、よろしく頼むぜ、橘!!」

了解()~!!」

 急遽乱入して来た橘を審判にそえて、1対53の変則的な団体戦が始まる。
 審判を務める橘は、襟を正したように胸を張ると、日頃から目にしている審判の動作を頭の中で思い出し、イメージ通りに右腕を伸ばし、開始の合図を伝える。
 
開始(はじめ)っ!! ……おっ!?」

 一礼し距離を詰めに行く2人。
 黒城が先に相手の道着の右横襟、左袖を握りしめると、敵の右足の外側に己の左足を大きく踏み込ませる彼。
 敵の右足の外側を、己の右足の外側で刈り取る大外刈りを組際にかけていく。
 時間にして2秒。
 閃光のように一瞬で敵をなぎ倒していく彼へ、審判の橘は、右手を天へと真っ直ぐ上げて、一本勝ちを選手達に告げていく。

「一本~!!」

「しゃぁっ!! じゃんじゃんいくぜぇ!!」
 
 試合が始まる前に黒城が宣言した通り、この場に集結した柔道家達を、草刈りでもしているかのように刈り取っていく彼。
 その圧倒的な姿を目にする銃守は、近くで観戦している春宮と酒呑童子に事情を聞いていく。

「……そこの(アマ)、名前何て言うんだ?」

「アタイ? アタイは春宮早希(はるみやさき)っすよ。何すか?」

「あの化石頭(リーゼント)、何者なんだ……?」

「ああ、あれは落陽山(ウチ)主将(キャプテン)で、全国制覇(てっぺん)に燃える黒城龍寺先輩っす。高校生ランクは20位っすよ」

「……リヴォルツィオーネが出て来る前は2位だったのか……通りで(えぐ)いわけだ」

「銃守さん、ちょっといいっすか? アタイの分析じゃ、銃守さんはどう考えてもランク100位圏内の実力(ウデ)なんすよ」

「……現実(マジ)?」

現実現実(マジマジ)。そんで、今のランクって7666位じゃないっすか。他所の高校に転入しようって考えなかったんすか? どう考えても環境が合ってないっすよ」

「……試験が」

「ん? 試験……」

「……あ"ぁ"ぁ"!! この際だから暴露(ぶっちゃけ)てやるよっ!! 転入試験が合格(うか)らなかったんだよ!! 面接の態度は悪いって言われるしよぉ……人相(ツラ)が悪いって言われもしたぞ!? ど~なってんだよ!?」

「……理由、愚劣(しょっぺ)ぇぇぇ!! 転入試験に合格(うか)らないって、頭の出来どうなってんすかっ!?」

「ちょっと待て訂正だ、言葉足らずだったよ!! ()()()には合格(うか)らなかったって話だよ!! 流石に弱小校には合格(うか)ったわっ!! 糞が……頭が悪いって言われたらそれまでだけどよぉ……!! こっちも色々我慢してんだよぉ……!!」

「それで弱小校に入学して折り合いが合わずに1人で練習っすか。ランクも殆ど個人戦で稼いだんすかね?」

「ああ。個人戦と柔道タワーのマッチングと、昇格戦とかだな。個人戦で全国にも行ったんだがよぉ……同年代の練習相手がいねぇと、ろくに(えぐ)くなれねんだよ……!!」

 歯ぎしりをしながら、黒城の戦いを憎々しそうに眺めている銃守。
 何かを決意したのか、荒々しい態度は一旦鳴りを潜め、春宮へと何かを尋ねようとしている銃守。
 その真剣な眼差しに、春宮は冗談抜きの対話をするように、気を引き締める。

「……お前ら、本気で全国制覇狙ってんのか?」

「そっすね」

「リヴォルツィオーネって言う黒い柔道着の集団がいるのにか? アイツら本気(ガチ)(えぐ)いぞ」

「そっすね。黒城先輩も、この酒呑童子(しゅてんどうじ)全国制覇(てっぺん)しか狙ってないっすよ。酒吞童子に至っては、わざわざ和歌山まで行って勧誘(スカウト)したくらいっす」

現実(ガチ)かよ……」

現実(ガチ)かだと? 現実(ガチ)現実(ガチ)現実現実(ガチガチ)だっ!! 俺のバイト先に来て、アレコレやるくらい本気(ガチ)だぞアイツ!!」

「……」

 先ほどまでの警戒心はどこかへと消え去り、代わりに彼の心には好奇心が芽生えていた。
 今いる環境では決して芽生えることの無いそれを抱いた銃守。
 試合が行われている最中、グラサンを外しウォーミングアップを始めた彼。
 不思議に思う春宮は、彼に質問を投げかける。

「どしたんすか、急に動き出して」

「……ちょっと血がな……"昂奮(さわ)いじまったよ……!!"」

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「やぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」

「一本~!! 現実(ガチ)っ!? 本気(マジ)で全員投げたじゃん、驚愕(ウケ)る~!!」

「はっ……!! はっ……!! オラどうだっ!! これで全員投げてやったぜぇっ!!」

「全員? よく見ろ!! まだ倒してねぇやつがいるぞ、化石頭(リーゼント)野郎ぉ!!」

「おっ!? おぉっ!? んだよ銃守ぃ……柔道()る気か?」

「あぁ……それともう一言、テメェに言っとくことがある。仲間(ダチ)になってやってもいいぜ」

「おっ!! 現実(マジ)っ!?」

()()()()()()()

「っ!! ……おうおうおう、いいねいいねぇ!! 面白くなってきたぜぇっ!!」

「銃守、やめとけってっ!! 黒城のやつ(えぐ)すぎるっ!! テメェじゃ勝てねぇ……」

「負け犬は黙って見てなっ!! 今いいとこなんだよっ!!」

「っ!?」

(銃守のやつ……笑ってる……?)

 再び場内で相対した黒城と銃守。
 険悪な空気が漂っていた先ほどまでとは違い、今は互いに純粋な殺意を抱いて場内に佇んでいる。

「男に二言はねぇよなぁ"!?」

「あるわけねぇだろ無礼(なめ)んじゃねぇ!!」

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 高校生ランク20位「黒城龍寺(こくじょうりゅうじ)
       VS
 高校生ランク7666位「銃守渉(かねもりわたる)
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開始(はじめ)っ!!」

「しゃぁ!! ……げぇっ!?」

「No.17仙手(せんて)……っ!!」

 開始早々に正面突破を仕掛けに行く黒城。
 そんな彼の目の前に、浮遊する綿雲のような白い物体が出現する。
 それは黒城に狙いを定めると、圧縮された空気の塊が、大砲のように黒城の体にぶつかっていく。
 真正面からノーガードで衝撃を受け止める黒城。
 突進する勢いを削がれた彼は、目の前の敵の分析を行っている。

(あの野郎、遠距離の技持ってんのかよ……どうすっかな……53人抜きして流石にきちぃわ!! 長引くと厄介だし速攻(そく)で決め……)

「おがっ!?」

余所見(めうつり)厳禁(タブー)だぜ……!!」

 距離を取り攻め方を考えている黒城の体勢が、背中にぶつかった衝撃によって、地面に押し付けられるように前のめりに崩れ落ちる。 
 直接銃守に触れられたわけでもなく、かといって先ほどの白い物体が、周囲にあるわけでもない。
 事態を把握しようとしている間にも、黒城の体勢がみるみる崩れていく。
 背中に当たる衝撃から、大よその出所を割り出そうとする彼。
 その方角は、水平方向ではなく頭上を指し示していた。
 野外道場の頭上には、本来なら星がチラホラ見えるはずだが、黒い雷雲のような物体が場内全体を覆いかぶさっていた。
 そこから時折、黒い空気の塊が放出され、雨のように地上へと降り注いでくる。

「んだこりゃっ!? ……オメェまさか……!!」

「そのまさかだ……"悚然(ひよ)っちまいな!!" ENo.17弾丸雨(スコールバレット)っ!!」
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