第45話 回生の火花

文字数 2,811文字

『福岡大会決勝戦も後半戦を迎えております。城南の残り選手は3人に対して、蒼海の選手は残り2人。以前リードは変わらず、このまま試合が決まってしまうのでしょうかっ!?』

『そうだねそうだねぇ~……残り人数では不利だけどさ、残りの2人はどっちも昨年の団体戦のレギュラーメンバーだからねぇ~……まだどうなるか分かんないじゃないかなっ!!』

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 蒼海の副将を務める木場燈牙(きばとうが)が、場内へと向かって行く。
 試合を終え戻って来た伊集院(いじゅういん)と、すれ違いざまにいくつかの言葉を交わし、試合に臨む木場。
 場内で待ち構えていたガブリエルは、顔見知りだと気が付くと、試合前にも関わらず話しかけてきた。

「オッ? ……Youはあの祭りの時に見たようナッ!? よろしくナ~!!」

「随分余裕だなぁ? えぇ? 勝ってるからって無礼(なめ)てんのか?」

「HAHAHA~!! おいおい(おこ)カ? 気分(バイブス)上げていこうゼッ!!」

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 高校生ランク54位 回生の火花 「木場燈牙(きばとうが)
       VS
 高校生ランク142位 南米のトリックスター 「ガブリエル・シルヴァ」
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開始(はじめ)っっっ!!」

 審判の合図により試合が始まる。
 ガブリエルより一回りほど体が大きい木場。
 持ち前の腕力を生かした接近戦に持ち込み、力づくで道着をもぎ取りに行く。
 対するガブリエルは、真っ向からの組手争いは分が悪いと判断し、距離を取りながら木場の出方を窺っている。
 光速で急接近したかと思えば、飛ぶように後退してまともに道着を掴ませようとしない彼。
 独特なリズムで間合いを変え続け、木場に的を絞らせずにいる。

「……ちっ!! 面倒(うっ)ぜぇなぁ!!」

激怒(げきおこ)はだめだゼ~? 試合(パーティー)はこっからだからナッ!!」

 縦横無尽に四角形の試合会場内を動き回るガブリエル。
 木場の反応が遅れた一瞬の隙を突いて急接近すると、雷を纏った右足を、木場の股下を通して奥へと入れ込む。
 伊集院を倒した時と同じように、稲妻を模した足技を繰り出そうとするガブリエル。
 後は右足を手前に引き寄せるだけなのだが、左足の踏ん張りが効かないことに違和感を覚える。
 それもそのはず。
 ガブリエルの肩越しに、道着の背中の部分を右手で掴んでいる木場は、片腕だけで稲妻を纏う敵の選手を持ちあげていたのだった。

「ウラァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ッ!!」

現実()ッ!?」

(コイツ、アーロンと同じくらいの腕力(パワー)じゃねぇカッ!? 危険(クレイジー)過ぎんゼッ!!)

 地面から引っこ抜かれ、足を空中でジタバタと動かしているガブリエル。
 なんとか地面に右足を付けるも、それ目掛けて木場の炎を纏った右足が襲い掛かる。
 背中を掴んでいた右手は横襟へと持ち替え、太陽を味方につけ、照らし揺らめく陽炎となり、獄炎の中から放たれる必殺の一撃。
 No.45陽炎刈(かげろうが)りによって、再び地面から足を離すガブリエル。
 そのまま相手に背を向ける木場は、右足でガブリエルの股の中から、左足の内側を払い上げる内股を繰り出す。
 本来ならこのまま投げ飛ばされるだろう。
 だがガブリエルは、振り上げられる右足を寸前の所で躱すと、木場の足の軌道をなぞるように、左足で彼の右足を払い上げていく。
 内股へのカンター技。
 No.15落雷返(らくらいがえ)しを繰り出していく。
 投げ飛ばすまではいかなくとも、相手の攻撃を相殺することは出来る。
 互いに場外へと突っ込んで行ったため、審判から待てがかかる。
 睨み合いながらもとの位置まで戻って行く2人。
 2人のトラッシュトークは止まることを知らない。

「HA~……肝が冷えたナァ~……やるじぇねぇの日本人(ジャッポ~ネ)

「ちっ!! 忍耐(たえ)るなぁ~……!! 大人しく一本負け(くたばれ)よっ……!!」

「HAHAHA!! 戯言(じょうだん)拒絶(よしこちゃん)だネッ!! 代わりにそっちが一本負け(くたば)ってくれなイ?」

「断るわボケ。つーかさっきからヘラヘラ笑いやがってよぉ……どうせ挑発かなんかだろそれ?」

「おいおい、そんなに殺意(めんち)向け(きら)ないでくれヨ?」

 殺気立つ木場とは対照的に、笑みを浮かべたまま受け答えをおこなうガブリエル。
 試合が再開されるや否や、再び場内を高速で駆け巡る彼。
 先ほど木場に言われた言葉に中指を立てるように、彼は不敵に笑い続けていた。

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『おいお前っ!! 俺の(マミー)に何してんだっ!!』

『うるせぇ!! 動くなって言ってんだろっ!! この銃の餌食になりたくなかったら、とっとと金を出しやがれっ!!』

『……HAHAHA!! 息子よ、ここはお父さん(パピー)に任せるんだっ!! おいそこの悪党(ギャング)憤怒(げきおこ)でまともな判断が出来ないのか? 搾りたての牛乳でも恵んでやろうか? 馬鹿舌でもわかるくらい新鮮な牛乳を、その貧相な胃袋に直接恵んでやるよっ!!』

『あ"ぁ"!? テメェ無礼(なめ)てんのかぁっ!? 何笑ってやがんだぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!?』

『HAHAHA!! なぜ笑うかって!? ……俺が伊達男(ナイスガイ)だからだよっ!! オラァッ!! 降伏(くたば)れぇ"ぇ"ぇ"!!』

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『……ってことがあったわケ。危険(ヤバ)くなイ? 大原(キャプテン)?』

『ガブリエル、お前よく生き残ったな……』

『だロォ~? ブラジル治安が悪すぎて失笑(ウケ)るワ……日本、本気最高(マジかみ)

『そりゃお前……そんな中で生活してたらあんな鬼メンタルになるわな』

『おぉ!? 大原(キャプテン)理解(わか)ってるネェ!! そんじゃコレ、渡すかラ。よろしくちゃン!!』

『ん? ……おいコレっ!? 今日〆きりの同意書じゃねぇかっ!? ちょっと待てガブリエル、逃亡(ばっく)れんなぁ"!!』

『HAHAHA~!! 大原(キャプテン)本気謝罪(マジさっせん)ッ!! 今度なんか(ごち)るんデェ~』

『待てぇ"!! ちょ、足速ぇなぁ"ぁ"ぁ"!? 糞がぁ"ぁ"ぁ"!!』

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 薄々ガブリエルは察し始めていた。
 今の自分の実力では、じり貧になって負けるだろうと。
 それでも彼は余裕の表情を崩さない。
 相手への威嚇のためか、はたまた敵を出し抜くためか。
 試合会場の灯りによって、彼の顔には一瞬影が出来た。
 その僅かな時間に、木場へと急接近していたガブリエル。
 彼の表情は―――

「……面白れぇ……そのにやけ面、ぜってぇ曇らせてやんよぉ!!」

「HAHAHA~伊達男(ナイスガイ)ハ、笑ってなんぼだからナァ? そいつは無理じゃネ~?」

(……無抵抗(タダ)で負けてハやらねぇヨッ? 削れるだケ削ってやんゼッ……!!)
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