第19話 孤島都市(クラレント)

文字数 6,176文字

空と海の狭間に広がる蒼の波。
太陽に照らされるとダイヤモンドが浮いているかのように光り輝いていた。

俺たちは今、交易船にのって都市ティルウィングの惨状、暴食のリンネが出現したことを伝えるため、孤島都市クラレントに向かっていた。

ザパァーン

すると、後ろから自分たちの乗ってる船の倍はある、黒い金属で包まれた一隻の軍船が近づいて来た。

「マコト、マーニ、僕たちは隠れましょう。
帝国の軍船が来ましたので」

そして、俺たちはアスラさんに言われて交易船の船長に頼んで空の木箱に隠れた。
そこにあった隙間から覗いてみると。

しばらくすると軍船はその交易船を止めて、ラウさんとは違ったが白い軍服を着た兵士達を引き連れてアスラさんとは対照的な白と所々に紫色が見える魔術師の格好をして女の人が歩いてきた。
ボーイッシュな短髪で春の新緑のような髪色の人だった。
恐らく、あの人がラウさんが言っていた四英雄の一人ミーナさん。

「これでここの交易船の人数は全員かしら」

「はいしかし、四英雄の一人であるミーナ様がなぜこの海域におられるのですか」

交易船のヒゲの生えた船長がそう尋ねると彼女は話し始めた。

「この海域にかなりの数の魔獣が現れてね、キミたちも気をつけたほうがいい。
見つけたら、煙幕弾を打てばすぐに向かうから」

「それはわざわざありがとうございます」

船長がそう言い終えると、彼女はこちらのほうに指をさした。
「それとその箱もらってもいいかな」

「その箱は……」
船長も自分たちが隠れているのを知っているため、かばおうとしてくれた。

「ボクは彼らと話すだけだから、それと魔王軍のモードレッドにはボクに脅されたと言っておけばいいよ」 
船長たちとの会話が聞こえなくなると、俺が入っていた箱はいきなり動いた。
どうしようバレちゃった、これからどうなるんだ。

そしてしばらくしたら箱は開けられて、そのまま引きずり出された。

「はじめまして、そしてごめんなさいね。
こんな手荒なマネをして。
キミからマギアを感じられたから転生者なのかなと思ってね。
それでキミの覚えているところまででいいから教えてくれるかな?」

「嫌だと言ったら」

「そうね教えないのなら、彼女達がどうなってもいいの?」
彼女の指差す方向には、兵士達に捕らえられたマーニさん達がいた。

「ごめんマコト、捕まっちゃった」

「マーニさんやアスラさんも捕まったのか」
なにもできないと感じた俺は口を開いて真実を話そうとしたとき。

「それはさせない、マコトは自分の信じる道を進んで欲しいから」

その声、足に流れる冷たい空気、アスラさんやっぱり凄いな。

ヒュー

ガキィン
 ガキィン
  ガキィン

バキィッ

二人を見ると、先程ついていた手枷が凍りつき破壊されていた、地面には壊れた破片しか残っていなかった。

「どういうこと、その手枷は魔力を無効化するのに。
普通に術式が通るなんて、まさかキミは魔獣の魔石を使ったの」

「みんな、一斉に抑えろ!!!」

船にいた兵士達が一斉に二人を抑えようとした。

「うわぁぁぁっ、来ないで」
マーニさんはさすがに人に対して魔剣を振ることはできずに走って逃げることしかできなかった。

ビュンッビュンッ
「冷たっ」

そこにすかさず、アスラさんが足止めするように兵士達の足を氷漬けにさせた。

「ありがとう、アスラ」

「僕がマコトを助けるから、マー二は剣のサヤを使って他の敵と戦ってくれ」

「任せなさい、これなら相手を傷つけずに済むわね。
よし早く脱出しよう」

ガンッ

バキィッ
 バキィッ

「ぐわー!!!」
マーニさんが次々と兵士を剣で叩き飛ばして気絶させていった。

ドサッ

「魔王軍、まだこんな戦力を隠していたとはね。
だが、そうはさせない」

「アナタの相手は僕です」

マーニさんを止めよう向かったミーナさんの前に立ち止まった彼は、杖を構えてすぐにでも魔術を放とうとしていた。

「アスラさん、俺も手伝うよ」
近くにいた俺も協力しようとアスラさんの隣に行こうとしたが、彼は手を俺のほうに向けた。

「いいやマコトは来なくていい」

「ほら、よそ見しない」
彼女はそう言うと持っていた杖を振り、赤、緑、蒼の燃え盛る炎色の魔力の塊をこちらに向かって撃ってきた。

ビュンッ

ガンッ ガンッ
 ガンッ

「魔王軍の炎魔術ですか、氷槍絶火!!!」

ビュン、ビュン、ビュン

「帝国の氷魔術と魔王軍の炎魔術の融合魔術を槍状に連射する術式、嘘だ、魔王軍や帝国でもこんな技は知らないわよ」

アスラさんが放った炎をまとった氷柱の弾は、炎の魔力全てを撃ち落とした。

ザッ

「ごめん、アスラさん」
彼に頼りっぱなしの俺はそう言うしかなかった。

「そんなことよりもマーニを連れて、早くここから脱出しよう」
アスラさんが振り返りそう言うと、彼の背後に直接杖で攻撃しようと彼女が近づいた。

カンッ、カンッ、カキィーン

だけどアスラさんも気づいており、すぐに振り向き、杖を盾がわりにしてその攻撃を受け止めた。

バッ

「アスラと言ったかしら、キミやるわね。
なら、これはどうかしら。
ボンズ・リンク!!!」
彼女は攻撃が受け止められると、すぐさま後ろに下がり、持っていた杖を輝かせた。

パギャァァァァ
ザパァーン

「ギィシャャャ」
海から巨大なウツボのような生物が水しぶきを上げながら現れて、こちらを睨みつけてきた。

「なに、あれ」

「あれは、確か大昔の船乗りから恐怖の王と呼ばれていた。
魔獣とは異なるが同等の強さを誇る絶滅したモンスター、水竜生物種、潮騒の海竜ジャバニクス」

グパァッ
 ドンッ、ドンッ

そのジャバニクスと呼ばれるモンスターは牙を剥き出して、こちらを噛みつこうと船に乗り上げ突っ込んできた。

ガキィン

だが、なんとかアスラさんの氷の盾で防ぐことができた。

「アスラさん、俺も手伝います」

「いや、奴らは僕が倒す。
マコトは離れていて」

「う、うん分かったよ」

「ボクも舐められたものだね、だけどその傲慢さはいつか身を滅ぼすわよ」

「アイス・シールド」

彼女のいくつもの炎魔術の攻撃は彼の氷の盾にぶつかると次々と凍らせていった。

ガキィン

「やっぱり、アスラさんはすごいな」

すると、ミーナさんは少し驚きの表情を見せた。
なんだと思い、アスラさんの顔を見てみると口元から、赤い血が滴っていた。

パリーン
ガキャャャャ

彼の作り出した氷の盾が壊れた、それと同時に彼の口から大量の血が咳き込むと同時に出てきた。
おかしい、攻撃自体は氷の盾で防いでいるのに。

「アスラさん!!!」
ジャバニクスの水流ブレスことウォーターカッターの動作を取り彼を襲おうとした。
助けないと。

ガパッ
ブシュー

バッ

バババッ

ザッ
ぐぅいん

さすがの速さにマギアのバリアも完全に発動できずにもろに脇腹を直撃した。
鎧で守られてはいても、生身の体に思いっきり巨大なハンマーで叩かれたような激痛が走り、気を抜くとすぐに気を失いそうだった。

「マコト!!!」

「大丈夫、大丈夫だから……」

だけどその場で倒れるわけにはいかない、するとアスラさんもまだ口に血を垂らしながら、立ち上がろうとしたがバランスを崩した。

グラッ
ガシッ

ズキッ

痛いけど、アスラさんを倒れることは防いだからよかった。

「マコト、しっかりして」

「マコト!!!」
すると、倒れていた俺にマーニさんが騒ぎに聞きつけて、こちらに来てくれた。

まだここで立ち止まるわけにはいかない。
そうして、俺は痛みを我慢しながらなんとか立ち上がることができた。
「アスラさん、ごめんアナタにばっかり頼って。
マーニさん、アスラさんを頼みます。
後は、俺に任せてください」

「やめて、マコト。
アナタでは勝てないです。
ゴホッ、ゴホッゴホッ」
彼も必死に止めようとしているが、服のほうは口から出た血によって赤くなっていた。

「無理しないで、アスラさん」

「随分と仲間思いなんだね、キミは。
でもね、魔力調節もうまくいかない子を戦わせるのは感心できないわね。
ジャバニクス、彼らを動けない程度にしなさい」

「ギシャァァァ」

さっきのジャバニクスのウォーターカッターをくらって、脇腹が痛いな。
さて、どうしよう、接近戦はあの巨体さで簡単に弾き飛ばされるし。

そうだ、確かマルスさんや先生が槍に魔力を込めれば、魔弾として放てれる、それとマギアも魔力の一種類と言っていたから。
そしたら……

立ち上がって槍を構えると、ジャバニクスは大口を開けて、こちらに突っ込んできた。

ガパッ
バババッ

ザッ

少し距離があったため、寸前のところで避けることができ、その瞬間を狙い、ジャバニクスの岩のように硬い皮膚に無理やり、槍を突き刺した。

ガキィン

しかし、槍は突き刺すことは出来ずに槍を当てた感じのようになった。
でも、これでもいい。

「これなら、どうだ」

俺が自身にまとっていたマギアを解き、全てを槍に集中させた。

ガキィン

槍は真ん中から割れて、その中から恐らく俺のマギアが固まったものが球状になったものが出てきた。
それを一気に槍の先端にあるジャバニクスの頭に炸裂した。

ぐぅいん

ボゴッ
バキバキィ

ジャバニクスの頭はシールドによって船の甲板に押し付けられるように沈んだ。

「ハァハァハァ」

攻撃は成功したけど、思った以上に疲労感とそれに伴ってか睡魔にも襲われた。

「キシャァァァ」

バシッュ

その瞬間、頭が船に沈まれて驚き慌てたジャバニクスの尾びれがあたり、俺はバランスを崩しそのまま倒れ込んでしまった。
そこに彼女が歩いてきた。

「まさかジャバニクスをここまで追い込むなんてね、中々やるわね。
もしかしたら、まだその技を磨けば、ボク達四英雄に匹敵するほどの実力を持てるかもしれないわね。
でも彼女らのことを思うなら、無駄な抵抗はしないことね」

後ろを振り向くと、帝国の兵士たちが二人に剣を構えていた。

「離せ、マーニ!!!」

「だめ、アスラ、これ以上無理をすると」

「分かりました。
アスラさん、もういいです。
俺を連れて行けば、帝国も何もしませんから」

「仲間思いなのね、いい心がけだわ、そしたら着いてきなさい。
最初に三人の治療からするから」

ザパァーン

突然、海から一瞬サソリに見えるが、爪はチェンソーのような形になっており、カチカチと鳴らしものを挟むこともできそうだ
そして、次に目に行くのが、サソリの尻尾の部分である。
尻尾は、爪とは異なり円型のチェンソーになっており、実際回転しており、さわっただけでも大怪我しそうだった。

キシャァァァ

「あれは魔獣アネモネ、なぜここに。
マコトくん危ない、避けて」

バシュン
ミーナさんが発射させた魔力弾も当たらずにサソリの姿をした魔獣は近くにいるアスラさんとマーニさんのほうに狙って行った。

アスラさんもマーニさんもすぐには動けない、強者のマギアの発動も間に合わない、この槍で突き刺すしかない。

俺は持っていた槍で思いっきり突き刺そうとして走ったが、脇腹が痛み無様にこけてしまった。

だが、突然魔獣の横から人影が見えた。

グワッ

ヒタッ

ガギャァァァァ

シューシューシュー

その人が魔獣に触れると、魔獣が突然苦しみはじめた。
その人の手には赤い血が滴っていた。

「ほっ、さすがねあの魔獣さえもいとも容易く骨にするなんて」

「誰なんですか」

マーニさんがそう言うと、アスラさんは知っているのか荒い呼吸をしながら話し始めた。
「ハァハァハァ、彼の血液の中には、黄金の毒竜ファブニールの能力である黄金以外全てを触れることで腐食させる能力
絶死を持つ竜人種。
魔王軍幹部、竜騎死ファブニル・モードレッド様です」

「早く撤退したほうが得策なのではないかミーナ」

「ミーナ様、他にも都市クラレントの軍船が迫ってきました。
早く、ご命令を」

「分かったわ、助言をありがとう。
ボクたちは避難用の船に移るわ。
マコト、またキミを迎えに来るわ。
アスラのほうを優先したかったけど彼はそれを望まなさそうだから、せめてキミだけでも。
再生のマギア発動」

ヒュン
すると、彼女が俺の頭に触れるとみるみるうちに痛みが無くなった。
そして、すぐに帝国の兵士とジャバニクスとともにその船から降りて行き、別の軍船に移っていった。

ミーナさんはなんで俺にこんなことをしたんだろう。

そんなことを思っていると、背中にその人以上の大きさの大剣を背負った海に沈む真っ赤な太陽のような髪の青年が手を差し出した。
よく見てみると、頭には二本の角や竜の尻尾のようなものも生えていた、この人が竜人種でマスターたちが言っていた魔王軍幹部モードレッドさんなんだ。
いいや、そんなことよりもアスラさんが。

「モードレッドさん、アスラさんをお願いします!!!」

「そうか分かった」

✳︎✳︎✳︎

彼に連れられて重傷のアスラさんをモードレッドさんがやっている都市クラレントの病院に連れて行き、彼を緊急治療しており、俺とマーニさんはイスに座って待っていた。

すると緊急治療が終わったのかアスラさんの治療室とは違うモードレッドさんの部屋に招かれた。

そこにあったイスに座って最初に聞くことを聞いた。
「それでアスラさんはどうだったんですか」

「恐らく魔力切れだろうが最初に医者としての立場なのに、すまない。
彼の魔術障壁は何重にもそして複雑に重ねられているから詳しいことが分からないんだ。
とりあえず、体内で魔力を生成できる薬を投与したことでなんとか安定したから、あとは経過観察だろう」

俺のせいでごめんなさいアスラさん。
そんな落ち込んでいる俺の気を紛らわせようとしたのか彼は別な話しをした。

「ところでマコトさん、貴方がマルスさんによって目覚めさせられた転生者だろう」

「はい」

「モードレッド様、マコトは転生者ですけど、こちらに来たばかりで魔王軍の味方ですので帝国とは関係ないですので」
マーニさんが少し慌てた様子で言葉を付け加えた。

すると、彼は一礼した。
「すまない、誤解のある言い方をしてしまった。
今日のところはアスラさんは入院でここに泊まるのも大変だろうから、この地図を持っていくといい」

そう言われて彼から手渡された何かの地図を受け取った。

「家のほうは準備しているから先ほど乗っていた交易船から荷物を取りに行って、そこに彼が治るまでその家を使うといい」

そうなんだ、自分たちの準備してくれた家の地図だったんだ。

「ありがとうございます」

そして俺らは病院を後にして最初に乗っていた交易船に積んでいた荷物を受け取り、地図を見ながら家まで歩いていた。

「アスラさんは大丈夫かな。
とりあえず、元気になるまでこの街に滞在するんだよね」

「そうよね」

「思ったけど、あのモードレッドさん、剣士なのに医者もしているんですね」

「確かにね、マスターが言うには幹部の身分隠してわざわざ帝国に医者の勉強しに行ったみたいだよ」

「えっ、バレなかったんですかね」

「バレなかったみたいだね、そのまんま帝国の医師免許もさっき部屋に飾られていたし。
いやー、そこまでモードレッド様を動かす何かがあったんですかね、でもそこがカッコいいと思いますよね」

「そうだね、俺も頑張らないと。
それにしても、辺りも暗くなってきたな」

「そうね、明日、アスラが目覚めたときに何か買っていかないとね」

「買うよりかは、なんかお菓子でも作ったほうが喜ぶんじゃないかな」

「確かにマコトの作ったお菓子だったら喜びそうね」

「うーん、どうなのかな?」

そして、俺たちはモードレッドさんに紹介してもらった空き家に着き、荷物を置いて掃除をして、そのまま一日が終わった。
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