第27話 転生者(しんじつ)
文字数 4,510文字
「マコト、マコト」
「はっ」
嫌な汗をかきながら、ベットから飛び起きた俺には覚えていないが今見た夢はミーナさんがあまりにも恐ろしかった。
なにか嫌な予感がする。
「すごいうなされていだけど、大丈夫だった」
そこには心配しているマーニさんがいた。
時間を見てみると、もう昼前ぐらいだった。
「ごめんマーニさん、今すぐモードレッドさんのところに行こう」
「えっ、うんいいけど」
そして、すぐに着替えて武器も腰につけて、彼女と共に二人がいる病院に向かった。
ガチャン
「モードレッドさん、ミーナさんは大丈夫ですか」
扉を勢いよく開けると、眠っている彼女の横にポカンと驚いた表情の彼がいた。
「いや別になんともないが、それよりもマコトさんたちはどうしたんだ。
それもそんなに武装して」
「私も勢いで来たけど、どうしたのマコト?」
モードレッドさんたちの質問に答える前に俺は彼を外に連れ出すように腕を掴んだ。
「モードレッドさん、早くこちらにきてください」
ミキィ、メキメキッ
すると、彼の腕を掴むと同時に、彼女の体から巨大な幾つもの植物の根っこが生えてきた。
「なんだ、彼女から根っこが生えていて床を突き破っている。
どういうことだマコトさん、なにか知っているのか」
その氷のように冷たいほどの魔獣以上の殺気。
そう感じた俺は恐怖で口を震わせながら彼に言った。
「あの感覚、マキュリーさんを殺したあの怪物と同じなんですよ」
「まさか、彼女がリンネだと言うのか」
その答えに否定したかったがうなずくしかなかった。
「そうだ、今はここから逃げるほうが先ですよ」
すると、マーニさんの後ろにいつのまにかアスラさんがおり、腕を掴んでいるモードレッドさんのところまで歩いてきた。
「アスラさん……」
「早く、ここから脱出しよう」
冷静な彼の表情にモードレッドさんは睨みつけるように言った。
「知っていたのか」
「えぇ」
ガシッ
バーンッ
アスラさんが迷いもなくはっきりとそう言った瞬間、モードレッドさんは俺の掴んだ腕を振り解き、彼の胸元を握りながら近くの壁に叩きつけた。
そして今にも彼に手を出しそうでもう片方の手で拳を作っていた。
アスラさんが知っていたということに驚き、俺もマーニさんも何もできなかった。
「なぜ言わなかったんだい」
するとアスラさんは眠っている床を突き破って地面に根付かせている彼女を一瞬見てから表情も変えずに話し始めた。
「元々彼女は自分がリンネになることを知っていた、そのために転生者として死のうとアナタの毒である血液を飲んだ。
しかし、彼女の再生のマギアは自身の魔力があるうちにどんなケガや病気、毒をも自動的に回復させるというものだ。
普通の毒ならすぐに回復してしまう、しかしモードレッドさん、アナタはモルガーナ先生に作られた魔獣を殺すために開発された魔力すらも蝕む最強の毒、絶死毒を有している。
彼女はそれにかけて、その毒を体に入れて、魔力であるマギアごと機能停止にさせて自殺しようとした」
「なぜそれでもアナタはその前に話さなかった」
「それを決意した彼女を前にリンネになるということを他人に教えられないですよ。
魔女英雄と呼ばれた名誉のために、そして他人を愛することがなによりも好きである彼女がリンネと言う化け物になるなんて彼女が一番望んでいなかった。
だがそれも本当は伝えるべきだった、それは謝罪する。
すまない」
すると、モードレッドさんは胸元を握っていた手を離し、悔しさをにじませた顔で言った。
「分かったアスラさん、彼女のために言わないでくれてありがとう。
それとすまない、自分も悪かった、怒りに任せて壁に押し付けてしまって。
だけどアスラさんひとつだけ言わせてくれ、転生者は彼女だけではない、マコトも転生者だが、彼もそれになる可能性があるんじゃないのか」
確かにアスラさんの話しによると、俺はリンネになる。
あんな恐ろしい存在が自分の奥底に眠っているのか。
「俺がリンネ……」
驚きと恐怖でその言葉しかいえなかった。
「大丈夫、マコト」
するとマーニさんがショックでフラフラしている俺の体を支えてくれた。
しかし、彼は迷いもなく即答した。
「いいや、そうはさせない。
その為に僕がいるから」
そして俺たちは避難して病院の広場に出ると、木造でできた病院は何重もの植物のツルでがんじがらめに絡まってミシミシと音をたてて壊そうとしていた。
「モードレッド様、どうなされましたか」
その騒ぎに聞きつけたクラレントの兵士たちが走って来た。
「リンネが現れた。
兵士たちはすぐに港にいる帝国軍と協力してこの都市の住民を集めて、近くの島に逃げろ」
「分かりましたが、モードレッド様はどうするんですか」
「自分もリンネを足止めして後から避難するから、気にしなくていい」
「分かりました、ご武運を」
そして、彼らは街の警笛を鳴らして、避難の準備をしていた。
「それで、アスラさんが行うマコトさんをリンネにさせないものは今の彼女にも通じるのか」
アスラさんは目をつぶりながら頭を横に振った。
「いや、通じない。
もう彼女と会ったときにはリンネが進んでおり不可能だった。
それでモードレッドさんはリンネとなった彼女をどうする」
「もちろん、助けるとも」
「そうですか酷なこと言いますが、暴食のリンネを追いかけていた経験としてリンネから転生者に戻すことは不可能だと思います」
「いや、彼女と再び会えたのも何かの運命、その運命とは彼女をリンネから助けるものかなと自分は思う。
あとは自分に任せて、君たちもすぐに避難するといい」
モードレッドさんの苦しそうな表情を見て、俺もできることを思いつき彼の手を握ってお願いした。
「お願いアスラさん、手伝ってください。
俺もモードレッドさんの大事な人を救いたいです」
そう言うと、彼は静かにうなずいた。
「やはり、優しいんですねアナタは。
本当のことは分からない、そんな奇跡もあるかも知れない。
確かに僕が言ったのは結局のところ経験論ですから、僕の経験論を超えた奇跡があるということも、否定できないです」
ギュッ
「ありがとう、アスラさん」
俺は嬉しくなって彼の手を両手で握った。
「さぁて、三人とも行きましょう。
彼女も救ってハッピーエンドにするわよ」
そして彼女の掛け声と一緒に俺らはそのミーナさんのもとに走って行った。
この話している間にもミーナさんだったリンネは成長を続けて枝から果実をつけて、先ほどまであった病院は完全に破壊されていた。
果実からは半透明な果汁とともに色欲に相当する魔獣が生まれていた。
ダッ
ガンッ
ガンッ
ガンッ
キィーン
マーニさんが目の前にあった果実から生まれたての小柄なサソリ型の魔獣やガレキなどを刀剣で叩き飛ばした。
「ありがとう、マーニさん。
二人とも続いてくれ、自分があのミーナの中に入り込む」
「分かりました、マコトは絶対に自身にマギアを纏っているように。
僕たち三人は、自分の対処ぐらいできますので」
「分かりました」
そして、俺たちはマーニさんが切り開いた道を進み、ミーナさんのところに向かった。
走っている横を見ると、遠くでクラレントの兵士達も住民を避難させながら魔獣達と戦っていた。
そうだ、一刻も早くミーナさんを止めて魔獣を生まれさせないようにしないと。
俺はそう覚悟を決めて、目の前にそびえ立つ大樹となった彼女のところに向かった。
✳︎✳︎✳︎
ザッ
俺たちは彼女の近くに行くと数年前、父さんと旅行で見た縄文杉と同じぐらいの圧倒感を感じた。
だが感じる気配は、縄文杉の神秘性には程遠く、どちらかと言うよりも魔獣と戦ったときに感じられる殺気のほうが強かった。
ズボッ
ズボッ
すると彼女に気づかれたのか、地面に埋まっていた根っこがいくつも出てきて襲ってきた。
サァァァ
ガキィン
とっさの攻撃もアスラさんの氷魔術で根を凍らせてくれた。
「油断は禁物だ、下手をしたらマコトのマギアを突破されるから」
「ありがとう、アスラさん」
「クラレント=アイアンカット!!!」
近くでモードレッドさんが声を上げながらその大振りの剣を大地に向かって叩きつけた。
バンッ
バキバキッ
大地に叩きつけた衝撃波と共に地面に生えてくる根っこは全て破壊され、大樹本体にも傷がいくつもついた。
大剣を地面にぶつけただけでこの威力、凄い剣士だ。
バリンッ
ムクッ
ムクッ
リンネの大樹は、古い樹皮を周囲に剥がれ落として更に成長を続けていた。
「まだ成長を続けている?」
「リンネになると聖域というマギアに似た魔力領域が付与される。
彼女の新たな聖域は色欲聖域。
今の彼女はあらゆる攻撃を加えると、それを自身のものとして成長する」
「じゃあ、あの攻撃により彼女に成長を促したのか」
「そうだ、だから気をつけろ。
下手をすれば、自分達も取り込まれる」
「クワァァァン、クワァァ、クワァァァァン!!!」
初めて受けた二人の攻撃に驚いたのか、突然彼女が咆哮をあげると、空に花粉を撒き散らし、それが海風に流されながら都市に降り注いだ。
バババババッ!!!
その瞬間、激しい光と熱が周囲を包み込んだ。
光が収まるとその都市は瓦礫とかして、人が住んでいたとは思えないほどの惨状となっていた。
「この花粉はアルカリ金属の一種が含まれていて水に触れると大爆発を起こすから気をつけろ」
「何か花粉を止める方法はないのか」
大剣を担いだ彼にアスラさんは答えた。
「止める方法はある。
あの花粉は、リンネのエネルギー源でもある、地下深くにある巨大な岩盤であるプレートのマグマの金属を吸い出して放出させている。
だから根っこの部分にモードレッドさんの毒液を入れ込めば、根が腐って多少は花粉を抑えれる」
「分かった、三人とも協力を頼む」
そして、俺はマギアを纏わせた槍を使って襲ってくるいくつもの地面から生えてくる根っこを防ぎ、マーニさんは斬り捨てて、アスラさんはモードレッドさんを援護するように周囲を凍りつかせた。
ザッ
そして、リンネの根元付近に来たモードレッドさんは、厚く大きな剣クラレントを振り下ろした。
「フンッ!!!」
バキッ
先ほどよりも成長が進んでいるのかリンネの体表の硬さも相まって、小さな切れ目程度しか入れなかったが、その切れ目を使って指をわざと切って、そこから毒の血を注ぎ込んだ。
すると根の部分は腐っていき、まるで腐葉土に紛れている木のようにボロボロになった。
「クワァァァァン!!!」
リンネが咆哮をあげると、先ほどまで放出されていた花粉はピタリと止まった。
「三人とも成功したぞ!!!」
ビシッ
ビシッ
「危ない、モードレッドさん!!!」
自分たちに成功の合図を送るため、一瞬目を離してスキを突かれて、彼はリンネに植物のツルで絡まれて動けない状況だった。
しかし、彼は手のひらをこちらに広げた。
「来るな!!!
彼女が助けてと呼んでいるから。
自分は行く、もしかしたらこれが助かるきっかけになると思うから」
そのまま彼はガイコツの顔をした樹木に埋まるように飲み込まれて行った。
彼を助けようと俺とマーニさんが走り出すと、彼が止めた。
「マコト、マーニ、僕たちは今できることをしよう」
そう言うと、アスラさんの視線の先にはリンネの枝葉のところには青色の果実がいくつもできていた。
「はっ」
嫌な汗をかきながら、ベットから飛び起きた俺には覚えていないが今見た夢はミーナさんがあまりにも恐ろしかった。
なにか嫌な予感がする。
「すごいうなされていだけど、大丈夫だった」
そこには心配しているマーニさんがいた。
時間を見てみると、もう昼前ぐらいだった。
「ごめんマーニさん、今すぐモードレッドさんのところに行こう」
「えっ、うんいいけど」
そして、すぐに着替えて武器も腰につけて、彼女と共に二人がいる病院に向かった。
ガチャン
「モードレッドさん、ミーナさんは大丈夫ですか」
扉を勢いよく開けると、眠っている彼女の横にポカンと驚いた表情の彼がいた。
「いや別になんともないが、それよりもマコトさんたちはどうしたんだ。
それもそんなに武装して」
「私も勢いで来たけど、どうしたのマコト?」
モードレッドさんたちの質問に答える前に俺は彼を外に連れ出すように腕を掴んだ。
「モードレッドさん、早くこちらにきてください」
ミキィ、メキメキッ
すると、彼の腕を掴むと同時に、彼女の体から巨大な幾つもの植物の根っこが生えてきた。
「なんだ、彼女から根っこが生えていて床を突き破っている。
どういうことだマコトさん、なにか知っているのか」
その氷のように冷たいほどの魔獣以上の殺気。
そう感じた俺は恐怖で口を震わせながら彼に言った。
「あの感覚、マキュリーさんを殺したあの怪物と同じなんですよ」
「まさか、彼女がリンネだと言うのか」
その答えに否定したかったがうなずくしかなかった。
「そうだ、今はここから逃げるほうが先ですよ」
すると、マーニさんの後ろにいつのまにかアスラさんがおり、腕を掴んでいるモードレッドさんのところまで歩いてきた。
「アスラさん……」
「早く、ここから脱出しよう」
冷静な彼の表情にモードレッドさんは睨みつけるように言った。
「知っていたのか」
「えぇ」
ガシッ
バーンッ
アスラさんが迷いもなくはっきりとそう言った瞬間、モードレッドさんは俺の掴んだ腕を振り解き、彼の胸元を握りながら近くの壁に叩きつけた。
そして今にも彼に手を出しそうでもう片方の手で拳を作っていた。
アスラさんが知っていたということに驚き、俺もマーニさんも何もできなかった。
「なぜ言わなかったんだい」
するとアスラさんは眠っている床を突き破って地面に根付かせている彼女を一瞬見てから表情も変えずに話し始めた。
「元々彼女は自分がリンネになることを知っていた、そのために転生者として死のうとアナタの毒である血液を飲んだ。
しかし、彼女の再生のマギアは自身の魔力があるうちにどんなケガや病気、毒をも自動的に回復させるというものだ。
普通の毒ならすぐに回復してしまう、しかしモードレッドさん、アナタはモルガーナ先生に作られた魔獣を殺すために開発された魔力すらも蝕む最強の毒、絶死毒を有している。
彼女はそれにかけて、その毒を体に入れて、魔力であるマギアごと機能停止にさせて自殺しようとした」
「なぜそれでもアナタはその前に話さなかった」
「それを決意した彼女を前にリンネになるということを他人に教えられないですよ。
魔女英雄と呼ばれた名誉のために、そして他人を愛することがなによりも好きである彼女がリンネと言う化け物になるなんて彼女が一番望んでいなかった。
だがそれも本当は伝えるべきだった、それは謝罪する。
すまない」
すると、モードレッドさんは胸元を握っていた手を離し、悔しさをにじませた顔で言った。
「分かったアスラさん、彼女のために言わないでくれてありがとう。
それとすまない、自分も悪かった、怒りに任せて壁に押し付けてしまって。
だけどアスラさんひとつだけ言わせてくれ、転生者は彼女だけではない、マコトも転生者だが、彼もそれになる可能性があるんじゃないのか」
確かにアスラさんの話しによると、俺はリンネになる。
あんな恐ろしい存在が自分の奥底に眠っているのか。
「俺がリンネ……」
驚きと恐怖でその言葉しかいえなかった。
「大丈夫、マコト」
するとマーニさんがショックでフラフラしている俺の体を支えてくれた。
しかし、彼は迷いもなく即答した。
「いいや、そうはさせない。
その為に僕がいるから」
そして俺たちは避難して病院の広場に出ると、木造でできた病院は何重もの植物のツルでがんじがらめに絡まってミシミシと音をたてて壊そうとしていた。
「モードレッド様、どうなされましたか」
その騒ぎに聞きつけたクラレントの兵士たちが走って来た。
「リンネが現れた。
兵士たちはすぐに港にいる帝国軍と協力してこの都市の住民を集めて、近くの島に逃げろ」
「分かりましたが、モードレッド様はどうするんですか」
「自分もリンネを足止めして後から避難するから、気にしなくていい」
「分かりました、ご武運を」
そして、彼らは街の警笛を鳴らして、避難の準備をしていた。
「それで、アスラさんが行うマコトさんをリンネにさせないものは今の彼女にも通じるのか」
アスラさんは目をつぶりながら頭を横に振った。
「いや、通じない。
もう彼女と会ったときにはリンネが進んでおり不可能だった。
それでモードレッドさんはリンネとなった彼女をどうする」
「もちろん、助けるとも」
「そうですか酷なこと言いますが、暴食のリンネを追いかけていた経験としてリンネから転生者に戻すことは不可能だと思います」
「いや、彼女と再び会えたのも何かの運命、その運命とは彼女をリンネから助けるものかなと自分は思う。
あとは自分に任せて、君たちもすぐに避難するといい」
モードレッドさんの苦しそうな表情を見て、俺もできることを思いつき彼の手を握ってお願いした。
「お願いアスラさん、手伝ってください。
俺もモードレッドさんの大事な人を救いたいです」
そう言うと、彼は静かにうなずいた。
「やはり、優しいんですねアナタは。
本当のことは分からない、そんな奇跡もあるかも知れない。
確かに僕が言ったのは結局のところ経験論ですから、僕の経験論を超えた奇跡があるということも、否定できないです」
ギュッ
「ありがとう、アスラさん」
俺は嬉しくなって彼の手を両手で握った。
「さぁて、三人とも行きましょう。
彼女も救ってハッピーエンドにするわよ」
そして彼女の掛け声と一緒に俺らはそのミーナさんのもとに走って行った。
この話している間にもミーナさんだったリンネは成長を続けて枝から果実をつけて、先ほどまであった病院は完全に破壊されていた。
果実からは半透明な果汁とともに色欲に相当する魔獣が生まれていた。
ダッ
ガンッ
ガンッ
ガンッ
キィーン
マーニさんが目の前にあった果実から生まれたての小柄なサソリ型の魔獣やガレキなどを刀剣で叩き飛ばした。
「ありがとう、マーニさん。
二人とも続いてくれ、自分があのミーナの中に入り込む」
「分かりました、マコトは絶対に自身にマギアを纏っているように。
僕たち三人は、自分の対処ぐらいできますので」
「分かりました」
そして、俺たちはマーニさんが切り開いた道を進み、ミーナさんのところに向かった。
走っている横を見ると、遠くでクラレントの兵士達も住民を避難させながら魔獣達と戦っていた。
そうだ、一刻も早くミーナさんを止めて魔獣を生まれさせないようにしないと。
俺はそう覚悟を決めて、目の前にそびえ立つ大樹となった彼女のところに向かった。
✳︎✳︎✳︎
ザッ
俺たちは彼女の近くに行くと数年前、父さんと旅行で見た縄文杉と同じぐらいの圧倒感を感じた。
だが感じる気配は、縄文杉の神秘性には程遠く、どちらかと言うよりも魔獣と戦ったときに感じられる殺気のほうが強かった。
ズボッ
ズボッ
すると彼女に気づかれたのか、地面に埋まっていた根っこがいくつも出てきて襲ってきた。
サァァァ
ガキィン
とっさの攻撃もアスラさんの氷魔術で根を凍らせてくれた。
「油断は禁物だ、下手をしたらマコトのマギアを突破されるから」
「ありがとう、アスラさん」
「クラレント=アイアンカット!!!」
近くでモードレッドさんが声を上げながらその大振りの剣を大地に向かって叩きつけた。
バンッ
バキバキッ
大地に叩きつけた衝撃波と共に地面に生えてくる根っこは全て破壊され、大樹本体にも傷がいくつもついた。
大剣を地面にぶつけただけでこの威力、凄い剣士だ。
バリンッ
ムクッ
ムクッ
リンネの大樹は、古い樹皮を周囲に剥がれ落として更に成長を続けていた。
「まだ成長を続けている?」
「リンネになると聖域というマギアに似た魔力領域が付与される。
彼女の新たな聖域は色欲聖域。
今の彼女はあらゆる攻撃を加えると、それを自身のものとして成長する」
「じゃあ、あの攻撃により彼女に成長を促したのか」
「そうだ、だから気をつけろ。
下手をすれば、自分達も取り込まれる」
「クワァァァン、クワァァ、クワァァァァン!!!」
初めて受けた二人の攻撃に驚いたのか、突然彼女が咆哮をあげると、空に花粉を撒き散らし、それが海風に流されながら都市に降り注いだ。
バババババッ!!!
その瞬間、激しい光と熱が周囲を包み込んだ。
光が収まるとその都市は瓦礫とかして、人が住んでいたとは思えないほどの惨状となっていた。
「この花粉はアルカリ金属の一種が含まれていて水に触れると大爆発を起こすから気をつけろ」
「何か花粉を止める方法はないのか」
大剣を担いだ彼にアスラさんは答えた。
「止める方法はある。
あの花粉は、リンネのエネルギー源でもある、地下深くにある巨大な岩盤であるプレートのマグマの金属を吸い出して放出させている。
だから根っこの部分にモードレッドさんの毒液を入れ込めば、根が腐って多少は花粉を抑えれる」
「分かった、三人とも協力を頼む」
そして、俺はマギアを纏わせた槍を使って襲ってくるいくつもの地面から生えてくる根っこを防ぎ、マーニさんは斬り捨てて、アスラさんはモードレッドさんを援護するように周囲を凍りつかせた。
ザッ
そして、リンネの根元付近に来たモードレッドさんは、厚く大きな剣クラレントを振り下ろした。
「フンッ!!!」
バキッ
先ほどよりも成長が進んでいるのかリンネの体表の硬さも相まって、小さな切れ目程度しか入れなかったが、その切れ目を使って指をわざと切って、そこから毒の血を注ぎ込んだ。
すると根の部分は腐っていき、まるで腐葉土に紛れている木のようにボロボロになった。
「クワァァァァン!!!」
リンネが咆哮をあげると、先ほどまで放出されていた花粉はピタリと止まった。
「三人とも成功したぞ!!!」
ビシッ
ビシッ
「危ない、モードレッドさん!!!」
自分たちに成功の合図を送るため、一瞬目を離してスキを突かれて、彼はリンネに植物のツルで絡まれて動けない状況だった。
しかし、彼は手のひらをこちらに広げた。
「来るな!!!
彼女が助けてと呼んでいるから。
自分は行く、もしかしたらこれが助かるきっかけになると思うから」
そのまま彼はガイコツの顔をした樹木に埋まるように飲み込まれて行った。
彼を助けようと俺とマーニさんが走り出すと、彼が止めた。
「マコト、マーニ、僕たちは今できることをしよう」
そう言うと、アスラさんの視線の先にはリンネの枝葉のところには青色の果実がいくつもできていた。