第49話 しんかろん・臨嶺天星 

文字数 9,927文字

グサッ

この世界でも彼を救えなかった。

グシュ

これではマコトさんを救えずに時間だけがただ過ぎていく。
普通の進め方ではダメだ、もっともっと別の進め方でやらないと彼を救えない。

そして僕はボルグ草原やカラド森林にいる魔獣を殲滅して、最初の都市ティルウィングでリンネというこの世界の災厄にして転生者のなれ果てについて調べた。

「暴食のリンネ、転生者のなれ果ての姿がリンネとなるなら、その転生者は誰だったのだろう。
僕以外の四英雄の誰も知らない様子だし、もしかしたらあの王様には何か謎があるのかもしれない。
マコトさんには内緒でこの街を出て行き、帝国に一度戻ってみよう」

僕は、少しでも手がかりを得るためにかつてリンネに襲われた都市ティルウィングの当時の状況の資料などがある図書館のようなところで調べていた。

すると、座っている自分の肩をポンポンと軽く叩かれた。
「アスラさん、アスラさん」

後ろを振り向くと、まだこの運命から救える彼がいた。

「えっと、どうしたのマコトさん」

「いやぁ、なんか図書館によく行っているし、ずっと考えごとしているような顔をしてるからどうしたのかなと思って」

そうか無意識でそんな顔をしていたのか、あまり彼に心配かけたくないし、これからは気をつけないと。
そして話しを続けた。

「これからどうしようかなと思ってね。
四英雄のラウさんが裏切り者の僕を追いかけてくるからどこに逃げようかなとね」

「うん俺はアスラさんがいいと思ったところだったら、どこでも行くよ」

「ごめんね、僕が帝国から逃げたからマコトさんの正体まで知られてしまって」

すると彼は自分と隣のイスに座ってニッコリとした笑顔で言った。
「別にいいよ、だって俺またアスラさんと出会って、本当に嬉しいから。
アスラさんとは、学校も一緒だったから転生する前の話しとかできて、いつまでもあのときの大切な思い出を忘れなくて済むから」

そうなんだ、まだ彼を転生者の運命からは救えていなく、僕にとってはただの通過するだけのこの一日も彼にとってはかけがえのない一日だったんだ。

「マコトさん、ありがとう」

「えへへへ、じゃあ俺ちょっと用事があるから」

やっぱり、四英雄の誰かにマコトさんの居場所が分かる前に先に僕のほうが捕まっておくべきか。

そして、その場から立ち去ったマコトさんのイスの下に何か落ちていた。

なんだろう、なにかの石かな?
そこには紫と黒が混ざった色の石が落ちていた。

✳︎✳︎✳︎

それから僕は、マコトさんとマーニさん二人を残してティルウィングを後にしてラウさんのところまで捕まるため、彼がいるところまで向かった。

その後は、思った通りに捕まって帝国の王様がいるところまで連れて行かれた。

ガチャ

手首に魔力やマギアを無効化する特殊な手鎖をかけられて動けない状態だった。

「まさか本当に裏切っていたとわねアスラ。
ありがとうね、ラウ」

「では小生はこれで、まぁアスラもそれなりに理由がありますので温情にしてくださいね」
そう言うと彼は僕に手を振りながら、その場を後にした。
どこの世界線でも明るい人だな。

「えぇ、それでアスラは一体、いいやミーナから聞いたけど魔王軍に連れて行かれた恩人であるマコトに恩返しをしたかったために帝国を裏切ったのでしょう」

「分かっているなら、裏切り者である僕を処刑しても構いませんよ。
僕は覚悟は決めていますので」
ここで処刑されても、次もある。
もし上手く行かなかったら、また別のやり方で真実を知る方法を見つけるしかないよね。

「……確かに、マコトを目覚めさせられなかったのは私の責任でもあるわけだし、帝国に直接的な攻撃も加えていないし、それを処刑するわけにもいかないわね。
魔王軍がマコトを使って何かをするのか情報を話せば、牢獄行きで済ますわ」

ガシャーン
檻が閉まった。

王様いわくミーナさんのほうが話しやすいと思うから、彼女が到着するのを待つために情報を話すのは明日にすると言うことだ。
こんな優しい人がわざわざ転生者からリンネを作り出すとも考えられないし、謎が深まるばかりだ。

でもその前に作戦通りにここから脱出しないと。

そして僕はポケットの中に仕舞い込んでいた、液体の入ったビンを取り出してそれを檻にかけた。

ガンッ

ジュッッッ

檻は音を立てながら一気に液体状になった。

その液体は、先生がくれたモードレッドさんの毒液。
こんな頑丈な金属でも簡単に溶かすなんて、マギアにも匹敵するだろう。

確か聞いた話だけど、彼自体も元々モルガーナ先生が作り出した魔獣などに対抗するために作り出されたホムンクルスと聞いたことがある。
だけど自分たちのように死んで魂だけの存在をもう一度身体に入れるという方法ではなく。
黄金の毒竜ファフニールの遺伝子を編み込んだ身体に魂を一から誕生させると言うやり方だと聞いた。

そんなことを思い出しながら歩いていると、目の前にこの国特有の文字で彫られた巨大な扉の前まで歩いてきた。
誰の部屋かは分かっている。

「ここが王様の寝室ですね」

ギィー

そうつぶやきながら扉を開けると、グッスリと眠っている王様の姿があった。
ここから自身の心奥のマギアを使って、彼女の隠し持っている転生者の真実を知ることが今回の目的だ。

「じゃあさっそく」

僕が王様のヒタイに触れたら突然苦しそうに頭を抱え込み、彼女は悪夢を見ているかのように歪ませた表情で体を震えさせていた。

その途端、否定したい真実が自身の頭に流れてきた。

「なんだ、なんだ、これは」

「さすが、君なら知ると思ったよアスラ」
後ろからラプマルが現れて、そう言ってきた。

「ラプマル。
どういうことなんだ、お前が宇宙から生じる呪いをこの世界に集めているって」

すると奴はうなずきながら、話し始めた。

「君の言った通り、エリシオンは宇宙全体の生命が輪廻転生する際に生じる現世での祈りや願いや無念さが呪いとして残り、それが集合するところ。

魔獣はオイラたちがその集めた呪いを消費するために作り出したものさ。
まぁ、それで今知ったと思うが、君たちの体も元は魔獣からできているから、魔獣も転生者もリンネもその呪いでできているというわけさ。
その宇宙全体の輪廻転生の呪いのことをすなわち星海の呪いと言う」

「な、なぜそんなことをするんですか」

「簡単に言えば、呪いによる宇宙の崩壊を防ぐのとこの星の生命としての進化を促進するためだね。
その呪いが溜まると、それ自体に意思を持ち、この宇宙全体に滅亡を望むイノチが生まれる。

だから、オイラたちは常にそれを阻止するために、日々宇宙から溢れ出る星海の呪いを回収して、この星と同じように様々な星に回収した呪いを送り続けている。
言うなれば回収者さ。
これによって宇宙は存続されている。

そして、次はこの星の生命としての進化についてだね。
生命の進化とは、常に環境というものに影響されやすい。
それを学んだオイラたちは、都市エクスカリバーで眠っていた魔獣の祖の肋骨に星海の呪いを使って原罪魔獣を作り出して、この世界の種族と殺し合いをさせるように人工的に過酷な環境を作り上げて、生存競争を高め進化を早めたまでさ。
そして最後は進化の果て、この星全ての生命を一つにすることで神を誕生させようと考えている。

まぁ、結局のところ、オイラたちでもあの呪いは止められない、それならばまだ生者たちの祈りから生まれた命から神を作ったほうが終末が来るときは必ず助けてくれるからね」

ガシッ

「そんなことを考えていたのか!!!」
頭をわしづかみにして激しい口調で攻めたが、彼はまるで悪意がないように表情も変えずに話し始めた。

「別に悪意があってやっているわけではない、むしろ期待と希望を持ってオイラたちは行なっている、宇宙の生命たちの希望を作り、なおかつこの宇宙に新たなる進化への道を示せるのだから。
これは祝福だよ」

「黙れ!!!」

バッ
グシュ

そして、僕は煮えたぎるような怒りを感じて、彼を壁に叩きつけた。
しかしその生物は液体状になったが、すぐに再生して話し始めた。

「都合の悪いことは聞きたくないのか、でもその進化の可能性が十分にあるだけ君たちは幸せものさ」

「どういうことだ」

「それはかつてオイラたちの祖先が種としての敗北を知った。
これによって祖先は肉体も失った、一つの進化への極地、魂だけの存在となるように道を選んだ。
だけど今現在、魂だけの存在にはなったものの本当にそれでいいのだろうかとふと疑問を感じ始めた。
その疑問を解消するために肉体を持つ生物の進化の果てが自分たちよりも優れているのかを観測しようと思った。
それで様々な肉体を持つ生命の星を調査し始めたというわけさ。
そしてこの星エリシオンもそれに適しており、その学んだ進化の仕組みを使い、今の状況を作り上げ、神の前座リンネを作ろうと思ったんだよ」

ガシッ

僕は怒りのあまり奴の頭をまたわしづかみに掴んで感情をぶつけた。

「ふざけるな、ふざけるなよ!!!
そんなお前達のくだらない茶番でマコトさんたちやこの星の人々は苦しめているのか」

「まぁ、君には理解はされないとは分かっていたとも。
だが人であれ、オイラであれ知の追求による犠牲、それを止めることは誰もできない。
文明の発達による自然の衰退、火から始まり光までに到達した犠牲。
地球の人もまた知の追求のために数々の犠牲をしてきて、今にたどり着いた。
君はそれを否定するのかい」

「地球を知っているだと……」

「もちろんじゃないか、転生者の一部は地球から連れてきた魂なのだから。
地球もまた一つの観察対象なんだから。
いずれ来るべき、最後のリンネとなったものの向かうべきは地球を含めた様々な生命の星、その星の命を刈り取り、その全てを収穫することで肉体のある生命は知の最果て者をも取り込み進化の極致となり、その答えが証明される」

「お前たちの目的は分かった、じゃあリンネは魔獣と何が違うんだ」

「確かに魔獣は転生者がリンネとなるように同じく魂が星海の呪いによって進化したもの。
似ているが、しかし転生者を作ったものはオイラ達ではない。
君たちがエクスマキナ王と呼んでいる者がオイラたちのそのシステムを応用して作ったものである」

「教えたのか、お前が」

「その前にエクスマキナ王とオイラとの出会いから教えないとね」

彼がそう言うと今までの周囲の景色が何も無くなり、誰もいない円状のテーブルが現れて、そこに一人の女性の人が座り込んで考え事をしていた。
それは王様だった。

「度重なる魔獣達の都市への襲来、それによる難民、イガルク大陸を中心とした魔獣の侵攻地域の拡大、各地で他都市の人類と魔王軍との対立。
長い歴史の中で星を守るのを託された王としてどうするべきか」

そのテーブルに鳥の翼の生えた奴が座り込んできた。
「やはり全ての生命の守護者の魔王と同じくして、星の守護者、✳︎✳︎✳︎✳︎王と呼ばれているもの。
君となら話しができそうだ」

「アナタは」

「オイラの名前は、ラプラス・マルジン。
魔獣を倒す知識を知っているものさ」

「どういうことなの」

「信用していないなら、この知識を君に授けよう」

それから風景が変わり、海水で満たされたガラスでできた円筒状のケースに近くにあるテーブルには様々な十二の魔獣の魔獣結晶と書かれたメモ書きが散乱していた。

目の前に女の子の子供のシルエットが見えるケースの前に話し合うエクスマキナ王とラプマルの姿があった。

「魔獣の肉体と魔王軍のホムンクルス技術を使って、魔獣に対抗できるマギアというこの世界とは違う法則の魔力を入れ込んで新たなホムンクルスを作ろうというのがアナタのやり方なのね」

「今回は試しというものもあって、魔獣に殺された少女の生まれ変わりに応用したが、無事にできて順調だね。
まぁ彼女が星の勇者と多少なりとも縁があったおかげか」

「それで本当にアナタが持ってきた魂を使って彼らを蘇らせて転生者という存在を作るの?」

「そう、まさに君たち好みさ。
カルマ•ギアース、略してマギア。
この世界の法則に適応し呪いによって進化し続ける魔獣にとって新たな脅威となる異なる世界の魔力法則によって進化した魔力体と言う魂。
これによって魔獣問題は時間さえ経てば近い将来解決するだろう」

その話しを聞くと彼女は今まで見たことのない満面の笑みでラプマルに話しかけた。

「そうよね別の星だけど、死んだ人を蘇らせることができるのだから、私は正しいことをしてるのよね。
それで話しは変わるけどラプマル、アナタにお礼をしないとね」

「いいや必要は無い、オイラはこの美しい世界を見ていたい、ただそれだけのことさ。
でも王様、君は本当にすごいよ、あそこまで対立していた人類と魔王軍を人類が主権を握らせるという形で帝国を作り、対立を見事抑え込んだのだから」

「でも、その人類の主権者たちも私の引退と共に付き合わせるわ。
アナタには戦争のない平和な星を見せてあげたいから。
それぐらいしか、恩返しはできないから」

「それは楽しみだね」
今からラプマルに裏切られると思うと、見たくもなかった。
だけど見ないといけない、奴の計画を阻止するためにも。

✳︎✳︎✳︎

再び景色が変わり、王宮のエクスマキナ王の部屋にいるようだ。
あの二人の話から数年経ったのか、先ほどまでいなかった僕とマコトさん以外の転生者たちの姿があった。

目の前には体を震わせながら慌てた様子のミーナさんが王様に何かを尋ねていた。
「どういうことですか、王様、ナギちゃんがナギちゃんが怪物になってしまったんですよ!!!」

「ミーナ、落ち着け」
バートランドさんが近づいてくるミーナさんを止めようとしたが、彼女は怒りと困惑が混合して涙を流しながら怒鳴るように言った。

「これが落ち着けるはずがないでしょう、人を救う転生者が怪物になって街を滅ぼしたんですよ!!!」

ダダダッ

バタンッ

王様はそこから逃げるように走り出して、別の部屋に移り、扉に鍵をかけて閉じこもった。

ダンダンッ

「教えてください、王様!!!
王様!!!」

扉を叩くと共ににミーナさんの声も聞こえた。

「ハァハァハァ」
王様自体も何が起こったのか分からないまま、激しく呼吸することしかしなかった。

それを待っていたと思うように、妖精いいや白い悪魔が静かな足取りでそこに歩み寄った。
そして彼が声を放った。
「まさかね、マギアの一部が進化してこんな結果を起こすとは実に興味深いね」

「ラプマル、どういうことなの」

彼は悪気もないようにいいやその悪気を認め誇るように話し始めた。
「まぁ、転生者の元となる魂の部分であるマギアがこの星の魔力法則や呪いによって変質し、体の部分である生体組織の遺伝子にまで影響し、姿を変えて、君たちのいう怪物というものになったのだろう。
マギア神化論では天星期から臨嶺期の変容と呼ばれている。
まぁ端的に言えば、一個体としての進化さ」

ダンッ

王様は冷や汗をかきながら言葉を震わせながらそう言った。

「知っていたの」

彼は頭を横に振った。
「いやぁ、知るはずがないじゃん予測では思われていたけど、たかが予測程度で本当にそれが起こるのかと結論づけるのは、それはただの妄想さ」

「でも、実際にそれは起こったのよ」

「確かにでもそれはむしろ良い結果になったと思うんじゃないのかな。
オイラもその場を見たけど臨嶺となれば、魔獣の元となるこの星に降り注ぐ星海の呪いを喰らい、そして時間が経てば臨嶺は黎明となり、魔獣を直接喰らい始める。
だからこの星は確実に魔獣の現れない、王様の望んだ理想郷になるはずだよ。
これが祝福だよ」

「騙していたの」

「嘘は言っていない、それは捉え方の相違のようなものさ。
でも王様、本当に恐れているのは転生者が怪物になったことではなく、それを作り出した自分自身の罪なのではないのか。
下手をしたら、帝国にいる各国の貴族たちに主権を奪われ、真実を知った転生者も君から離れるだろう。
魔獣が滅びるよりも前に、確実に魔王軍の生き残りが滅びるだろう」

「魔王軍はそれだけでは滅びない。
それよりも知っているのならナギをどう戻すか教えなさい!!!」

すると彼は、うんうんと頷きながら話した。
「そうか、じゃあオイラが今から作る穴に入るといいそこはとある部屋のトビラにつながっていて、その部屋の中には特殊な機械がある。
その機械は、忘却機関レーテ、忘れるものを設定すればその人とオイラ以外のこの世界の全ての人が設定したものを忘れる」

ガンッ

彼女は握った拳で床を思いっきり叩きつけて話した。
「バカにしないで、記憶から無くすことで彼女自体存在をなかったことにして、人に戻さず怪物のままにするなんて。
私がそんなもの、そんなものを使うはずが」

「オイラはただ君が望んでいたのだから一番最善の方法を言ったまでさ。
彼女は進化したのだから元には戻れない。
それとこれはオイラからの提案なのだが、転生者の進化した姿を怪物と呼ぶのはあまりにも邪悪な存在のような呼び方だ。
代わりにマギア神化論から引用してリンネ(臨嶺)と呼ぶと良い」

✳︎✳︎✳︎

そして、周囲の景色が王様の部屋に戻って目の前に諸悪の根源がいた。
それは悪びれずに喜ぶような口調で話してきた。
「これがオイラたちの出会いさ、アスラ」

「あぁ分かった、お前がとんでもない外道だということをな」

「でも、真実を話さないのは君も同じじゃないのかアスラ。
それゆえに人は真実を知るためにどんな行動も移す、そうだろうマコト」

「マコトさんだって」

ザッ

後ろを振り向くと、救いたい彼が血のついた槍を持ちながら立っていた。
魔獣とでも戦っていたのだろうか。
「アスラさん、転生者だったんですね」

僕はすぐに彼の元まで走って抱きついて涙を流した。
「そうだよ、僕は転生者なんだ。
でも、本当はこんなことは聞かせたくは無かった。
アナタに無理だけはさせたくなかった、だってマコトさんはずっと頑張ったんだから」

そう言うと彼は持ってきたハンカチで僕の涙を拭きながら話した。
「そうなんだ、アスラさんやっぱり」

「気づいていたのマコト?
僕をあのとき電車にひかれそうになったときに助けてくれたことを」

彼は、頭を横に振ったが謎が解けたような納得したような顔で言った。
「いいや今そうなのかと思った、でもよかったやっとアスラさんの思いが分かったからそれだけでも俺はやるべきことが分かったから」

「どういうことなのマコト」
俺のやるべきこととはいったい何なんだ……

「俺がアスラさんのやりたかったことを背負うよ。
ソドムの林檎は俺が倒すよ」

彼がそう言って横を見てみると、王様の姿はなかった。

ゴゴゴゴッ

突然、地面の底を突くかのように揺れに襲われた。
「地震?」

そして、二人でなんとか王宮の外まで脱出した。
王宮を破壊して現れたのは、二度と見たくもない相手だった。
惑星のように丸く、リンゴのように赤いもの、そこから見えるのは、祈る女性の姿。

「まさか、王様がソドムの林檎だったのか」
ダメだもう無理だ、準備もできてない。
リンネですら勝てないのに、もうこの世界線は諦めるしかないのか。

「来たようだねマコト。
あれは、この星が危機に瀕したときにカウンターとして発動する終末兵器ソドムの林檎。
あれはこの星を全て滅ぼし、一から始めるものさ。
今いる皆んなを救うためにはあれを倒さないとねマコト。
彼と彼女を助ける決意をした君なら可能だよ」

「分かっているよラプマル」

そう言うと彼は先端が赤い血に染まった槍を持ち、走り去って行った。

ザッ
ダダダッ

僕は数々の旅の中でソドムの林檎に対する恐怖によってもはや足を動かせずにいなかった。

「あ、あ、あ、待って、マコトさん」
ただ無様に声を発して、手を伸ばすことしか出来なかった。
それだけで彼の決意が無になることもなく、そのまま走り去って行った。

そんな自分に奴は横に立ちながら喜びに満ちあふれた様子で奴は話し始めた。
「自ら、滅びの運命も知りながらも前を見て歩む、彼こそ素晴らしい。
さすがは最強とも言える強欲のリンネにあたる転生者だね。
だが彼女は愚かだった、リンネはいつしか究極の生命に至るもので宇宙の生命たちもより良い道に進められるのに彼女はそれを自らの手で滅ぼすようなマネをするなんてね」

「お前に必死に生きているものたちに批判する権利なんて無い」

「そうかい、それにしても楽しみだね強欲のリンネ、オイラが何度も彼と接触して来た意味があったよ。
生命が捧げられる星盃(グレイル)という名の強欲のリンネ。
その完成が待ち遠しい。
ほら、見てみると良い祝福だよ」

バァーン

信じられない光景だ、あの最強とも言えるソドムの林檎を彼が槍から発した光線によって焼き尽くされ、残ったものは穴の空いた空間だけだった。
「マコトがリンネの力を得るには早すぎる。
なにをした答えろ、ラプマル」

「なに彼にこう言ったまでさ、魔獣結晶を食べれば強くなれると。
もう彼もあの話しを聞けば、ソドムの林檎を倒した後、自分がどのようになるのか知っていると思うけどね」

ガシッ
バァンッ

怒りに任せて奴の頭をわしづかみにして思いっきり地面に叩きつけた。
手は自分とあの忌まわしい妖精の血で混ざって汚れていた。
「ハァハァハァ、魔獣は星海の呪いでできている。
高濃度の魔獣の呪いの塊、魔獣結晶。
それを魔獣からできた転生者の身に入れれば、恐らくマギアが進化し聖域に変化するのが早まり、転生者のリンネ化を進めてしまう。
まさかマコトさん、それを知ってもなお、前に進めるというのか。
そこまで自分を犠牲にして……」

そこに槍を担ぎながら、笑顔で手を振った彼が走って向かってきた。

ザッ
「倒したよアスラさん、それで俺ね」

僕は立ち上がることなく、地面を顔を向けて泣きながら言った。
「ごめん、マコトさんっ!!!
アナタを守りきれなかった」

すると彼はしゃがみ込み、慰めるように肩を掴みながら優しく話した。
「いや、もう俺は決めたんだ、ありがとうアスラさん、もう俺が俺じゃなくなるけど頑張ってみるよ。
強欲のリンネになっても王様が目指した楽園を作るから」

「マコトさん……」

✳︎✳︎✳︎

それから、数ヶ月経った。

「いやいや星盃計画も順調進んでいるよ、アスラ。
さすがは強欲のリンネ、天星期から臨嶺期への変容の時間も短く、また暴食のリンネでさえも結局のところ数年かけてもたどり着けなかった臨嶺期から黎明期の変容をひと月程度で終わらせるなんてね」

「お前らの言う、その進化段階はどれぐらいあるのか」

「そうか、ちゃんと説明していなかったね。
オイラたちのマギア神化論ではその段階は四つに分かれている。
転生者と呼ばれている今のアスラの状態が天星期、そしてリンネと呼ばれる者は臨嶺期、そこからリンネになりながらも感情が芽生えるのが黎明期、そして最後はオイラたちでも未知数で恐らく神に最も近い存在になる星盃期となる」

「そうか」

「それにしてもマコトは健気だね。
君以外の転生者はリンネになる前に殺して、リンネになれば魔獣も滅ぼし、星に降り注がれる呪いもこの星を守るためなのか全てを喰らい続けている。
かつてのムラマサ帝国に住んでいた人々も彼を神と崇めている、素晴らしい世界じゃないかアスラ。
それも君の決断があってのことだったが、忘却機関レーテを使い、エクスマキナ王や魔王、転生者全ての情報を自分とオイラ以外全ての人々の記憶を無くし、マコトを神のように皆んなに信じ込ませるなんてね」

「あんな優しい人がこれ以上傷つけることなんて僕にはできないんだ。
でもやっぱりダメなんだよ、僕は彼を幸せにさせるそれだけを祈ってきたのがこれだなんて」

「君も優しいんだねアスラ」

すると、最初の転生者の原型となった彼女が歩いてきた。

「アスラ、ラプマル、リンネ様に捧げる刀剣の儀式があるんだけど二人とも剣はちゃんと準備したかしら」

「準備はしたけどマーニさん、マコトさんって言う人を知っていますか」

「うーん、誰だろう分からない」

そうだよね、彼女の記憶を消したのは僕だ、彼との思い出も。
なんでそんな分かりきったことを聞いたのだろう。

グシュ

僕は迷いなく、マコトさんに捧げる魔剣ティルウィングを腹部に突き刺した。
願った三度の願いは、この世界の自身の死。

「ちょっとアスラ、アスラ。
なんでいきなり刺したの、今から回復させるから」
慌てて彼女は回復魔術を行なっていた、その横で目を閉じて諦めたようにため息をついた奴がいた。

「まったく、愚かだよアスラ。
君のリンネはどんなに美しかったのだろうか、ぜひとも見てみたかったものだったよ。
マコトも待っていただろうに」

こんな、こんな現実、こんな世界認めたくない、僕は彼を幸せにするんだ、その願いのためにはもうどんな手段も選ばない。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み