第8話 魔女(デュラハン)

文字数 3,600文字

今回のクエストは、魔獣がいなくなったカラド森林地帯とボルグ草原地帯のあいだの沼地地帯に現れた危険度6の熱鳥ホクホクドリを捕獲することだった。

危険度6で魔獣よりは強くはないモンスターだが、この鳥は炎のような高い体温を持ち、そこに舞い降りるだけでその体温により、山火事の原因を作ったりと危険な鳥である。
しかしその鳥からは、永炎(えいえん)の羽毛と呼ばれる素材がある。
それはその羽毛が体からもむしり取られても一定の高温を放つ特性があるため、地下水が湧くところに入れれば温泉が作ることなどができ、そのモンスター自体、災いの恵みとも呼ばれている。

人よりも少し大きく、俺の世界ではダチョウぐらいの大きさの飛べる鳥と言ったほうがいいかもしれない。
しかし、あまり飛ぶのは得意ではないのか、逃げるマーニさんをずっと走りながら追いかけていた。

「ひぃー」

「クェェェェェ!!!」

「こっちです、マーニさん!!!」

「これが罠ね」

そう、それが俺たちの作戦で足の速いマーニさんを囮にして、事前に仕掛けた罠を絡ませて足止めして、アスラさんの強力な氷魔術で凍らせて捕獲するのが作戦だ。

カチッ

ボジュン

「えっ……」
ホクホク鳥が踏んだ途端、罠は発動する前に一瞬にして燃え尽きた。

「もしかしてマーニさん、よくある植物製の罠を買いましたか」

「えぇ安かったから、最近失敗続きで家計を節約するためにね」

「チッ、早く逃げますよ、マコト」
そう言うと、アスラさんは舌打ちしながらどこかに走って行った。

「えぇっ、置いてかないでください」

「ちょ、まぁ、待ってよー!!!」
俺とマーニさんは彼に着いて行ったのがよかったのか、足の速いホクホク鳥から何とか逃げきれることができた。

そして、街に戻り、冒険者ギルドの前でマーニさんが怒っていた。

「なんで、置いていくのよ、君たちは!!!」

それを聞いたアスラさんはため息をつきながら話しはじめた。
「置いていくも何も、今回はマーニ、アナタが悪いですよ。
罠を間違えるし、分からなかったら僕に相談すれば今回は防げたんですよ。
この前もイクサイノシシの討伐でアナタの追い込みかたを間違えたのが原因でマコトが危うく噛み殺されかけたんですから。
相談もしないで、勝手なことをしないでください」

「アスラさん、ちょっと」
さすがに言い過ぎだと思い、俺が彼を止めようとすると。

マーニさんは自分に何もしないように顔を見て頭を横に振った。
「マコト、私が悪いから、二人ともごめんなさい。
ちょっと、ギルドのところに失敗の紙を出してくるわ」

ガチャ

そして、彼女が冒険者ギルドに入っていくと、アスラさんがこちらのほうに向いて話してきた。

「マコト、僕もちょっと用事があるので行ってきます」

あぁどうしよう、これだとチームがバラバラになっちゃう。

✳︎✳︎✳︎

あぁ二人とも見つからないな、あの時早く追いかけるべきだったな。
そうあの後、マーニさんに迎えに行こうとギルドの中に入ると、マスターから彼女は落ち込んでいて裏口のほうから出て行ったと言われ、その周辺を探したが見つからなかった。

なかなか見つからず、肩を落としていると女性の人に呼び止められた。

「そこの人、悩みごとですか。
もし、よかったらアタシが相談にのりましょうか」

「えっ」

その人は、黒いとんがり帽子に黒い衣装をまとった少しミステリアスな女性の人で占い師なのかテーブルの上に水晶のようなものが置いてあった。
そしてマーニさんと同じように胸が、うん大きかった。

「そうなんですけど、俺お金そんなに持っていないんですけど」

「うんうん、アタシもお話しをしたくてね、無料でいいわよ」

「じゃあ、甘えさせてもらいます」
そして俺は、親切な相談屋さんに対面するイスのほうに座り、話しを始めた。

「最近、ギルドのクエストが失敗続きで仲間との関係もギクシャクしているんですよね」

「ケンカですか、仲間を作るとよくあることですよ」

「そうなんです、でも最近特に激しくて、クエストに行くたびにケンカするんですよね。
俺としては良いチームにしていきたいんですよね」

「そうですか、あなたにとって良いチームとは何ですか?」

「目標や実行力と信頼とかですかね」

そう言うと、彼女はウンウンとうなずき話し始めた。

「分かってはいるようね。
ではアタシのほうから質問します、最初にあなた達の目標は?」

「人々を襲う魔獣やリンネを倒すことです」

「うんうん、目標は明確なのね。
実行力は質問じゃおかしいから、信頼はどうかしら。
仲間に何か隠し事しているんじゃないの」

「そ、そ、それは」

「あなた、マジックスライムと名乗っているのかしら」

「はい……」

すると、占い師の女の人は表情では分からないぐらいの少しのため息をついて言った。

「あなた、嘘をついているでしょう」

「えっ!!!」
いきなり、ズバリと言われた俺は動揺を隠せなかった。

「いや確かにあなたは人間で転生者なのは知っているわよ、アタシもマルスの仲間だから。
それを言いたいのじゃなくて、あなたの嘘はあの話しかただとすると、相手が不審に思っちゃうのよ。
あなたの悩み事のケンカしてしまうのは仕方ないけど、今のうちに信頼を築かないと本当に形だけの仲間になってしまうわ」

「そうですか……」

「でもね、あなたが嘘をつくのもわかるわよ、この街は連合都市ができる以前にもかなり、都市に分かれての人や魔王軍同士での戦争が多かったから魔王軍のお世話になっていて結構人間が嫌いな人たちも多いからね。
でも、その仲間ぐらいなら自分の正体を言ってみれば、もしその仲間があなたに危害を加えるなら、アタシが事情をしっかりと話すから」

「……はい、そうですよね。
やっぱり、隠し事なんて二人の前ではしたくないですから」

「えぇ、頑張りなさい、あなたはマルスに選ばれた人なんだから」

「ところで、アナタの名前は何ですか?」

「ふふっ、よく聞いてくれました。
アタシの名は魔王軍幹部にして別名、万能の魔女モルガーナでございます!!!」

うそっ、幹部の人だったんだ。
魔王軍の幹部もこんな明るい人もいるんだな。
ちょっとイメージが変わったな。

「ですがアタシ、デュラハンですので頭も取れます」
スポッ

「ギャァァァァァ!!!」
いきなり自分の頭を両手でスポッと抜いて、抱え持っていたため、叫び声と一緒に心臓が止まりそうになった。

✳︎✳︎✳︎

それから、俺はモルガーナさんの助言もあって本当のことを話そうと二人をギルドのほうで話しがあると言ってテーブルに座らせた。

「ごめん、二人とも」
いきなり、立ち上がって頭を下げて謝るとマーニさんは驚いた顔で席から立った。

「えぇ、いったいどうしたの、マコト?」

「あれを言うんですか」
テーブルに手を乗せながらアスラさんは表情のひとつも変えずに言った。
やっぱり知っていたんだ。

「う、うん、そのことなんだけど」

「なんなの?」

「すいません、二人とも。
俺はマジックスライムじゃないんです、本当は転生者で人間なんです」

「えっ、そうなのマコトって転生者だったの!!!」
するとマーニさんはなぜか目をキラキラと輝かせながらこちらに歩み寄ってきた。
えぇっと、敵として疑われているのかな、早く誤解を解かないと。

「で、で、でも帝国のスパイとかじゃないですよ、マルスさんから召喚された転生者なので敵ではないです」

「それは、アタシとマスターが保証するわよ」

「モルガーナ先生!!!」
モルガーナさんが現れるとマーニさんは喜んで小さなスキップをしながら彼女のもとへと向かった。

「おっきくなったね、マーニちゃん」

「マーニさんを知っていたんですか」

「えぇ、私に剣士としての心構えを教えてくれた先生ですので」

「ところでアスラ君だっけ、マコト君のことを知っていた素振りだったけど、どうやって知ったのかしら」

「以前、マスターとマコトの話を聞いたから、そんなことよりも僕は、夕食の買い出しに行ってくるから」
彼は立ち上がって、そのまま家の外に出て行った。

「じゃあ、俺も」

トンッ

「マコト、私が行くからいいわよ」
自分がアスラさんの後について行こうとすると、何か嬉しそうにニッコリとした表情をしたマーニさんが肩を少し叩いて代わりに行ってくれた。

「えっ、ありがとうございます」

バタンッ

そして、二人が出て行った後、先生にお礼を言った。
「今回はありがとうございます、モルガーナさん」

「まぁ、これもアタシの役目だし、マスターはすぐ隠す癖があるからね。
まぁそれよりもマコト君、ちょっと相談があるんだけど」

「はい、どうしたんですか」

そう言うと、彼女は小声で耳元に話しかけてきた。

「明日から勉強会を始めますから。
三人と一緒に広場のところまで来なさいね」

その話しの後、外を出るともう太陽は遠くに見える山脈に紅く隠れようとしていた。
何気ない一日だけど、自分が転生者だと言えることができた。
それだけで新たな一歩を進めた一日になったと思うのでした。
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