第21話 こい(彩)

文字数 3,184文字

ザパァン

グラッ

また見知らぬ場所が広がり、外から波音が聞こえ、部屋全体が規則的に揺れていた。
恐らく船の中だろうか。

その部屋にはもう一人の女の人がいた。
春の木々のように新緑と同じ髪色をした四英雄の一人、魔女英雄と呼ばれているミーナさんである。

彼女は不安げに何か絵の描かれた紙を見ながら、落ち着きがなかった。
「モードレッドくんがあんなに怒るなんてね、ボクはちょっと転生者と波長の似た魔力を感じたから、帝国に連れて調べてもらおうとしただけなのに。
もしかして、嫌われたりはしてないよね」

「あのミーナ様、エクスマキナ王から通信がありまして」

「うん分かった、王様あんな状態なのにわざわざボクに通信してくるなんてね」

そして、彼女は持っていた杖をコトコトと床に打ち付けながら、隣の部屋まで歩いて行った。

その隣の部屋にあった水晶に王様が映し出されていた。
王様の表情は真剣そうに彼女を見ていた。
「ミーナ……」

「はいっ、なんでしょうか」

「体の調子はどうなの」

「ええと、特になにもないですけど」

「ウソはつかないで欲しいですね。
最近、ちょっと気を失ったり、寝ているときに急に歩いたりすることがあるんじゃないですか」

「知っているんだったら、聞かないでくださいよ王様〜」
ミーナさんがおどけたようすで泣き真似をすると王様も口もとを緩ませ笑みを浮かべた。

「フフッ、それもそうね。
でも、無理はしなくてもいいのよミーナ、アナタは頑張ってきたんだから」

「いいえ、王様の理想の世界にするために必ずこの世界を巣食う魔獣とどこかにいる暴食のリンネを倒してみせます。
それと昔、誰かと約束したんですよね、みんなのために楽園を作ろうと。
言葉はぼんやりだから、誰に言われたのかは覚えていないんですけどね。
でも、ボクにとって大事な約束だと思うから」

その話しを聞いた後、王様の顔から笑顔が消えた。
「そう、なの……
こんなことを押し付けてしまって本当にごめんなさいねミーナ」

パチンッ

そして、水晶から映し出された映像は消えた。
最後は何やら悲しげな様子で、王様との会話は終わった。
「そうだよボクが頑張らないと。
また、王様にも初めて会った頃のような笑顔にしないとね。
それでこのボクに何のようだね、物陰からチラチラ見てて気になって仕方ない」

「アナタにも見られるようになりましたか」

「なっ、君はマコトくん!!!
どこから入ってきたの、見張りの兵士たちは?
もしかしてお化け?」
そう言うと、彼女は持っていた杖を構えて、今にも攻撃を加えようとしていた。

ガチャ

「ヒィッ俺、お化けじゃないです」

「確かにそうかもしれないね、ボクが追っているマコトくんはモードレッドくんとクラレントにいるはずだよね。
その目で見たからね」
すると彼女は杖を振り上げて、周囲にあった飾っていた植物たちを成長させた。

シュルシュル

ギシッ

飾られていた植物のツルは自分の体にまとわりつき、動きを封じられた。

「痛い、やめてください」
動けば動くほど、ツルは締め付けられて完全に動けなくなった。

「でもね君から感じられる、その魔力、今まで感じたことの無いものだ。
クラレントにいるマコトくんとは似ているけど何かが違う感じなんだよね。
君には申し訳ないけど、帝国まで来てくれないかな」

するとミーナさんの後ろに白髪の桜色の鳥のような羽を持った妖精が飛んできた。
「ラプマル!!!」

すると彼は、彼女の前に立って手を広げて、攻撃しないように伝えていた。
「お姉ちゃん、その人は大丈夫だよ」

「ラプマルちゃん、何でここにいるの」
すると彼はこちらにウィンクしてきた。
意味はわからないけど、今は彼に任せるしかない。

「それはね友だちが困っているから、助けに来たの」

「友だち……
分かったわ。
ごめんなさいね」
ラプマルにそう言われると、彼女の魔法が解かれて、植物のツルが縛り付けることはなく、そこからなんとか抜け出すことができた。

「イタタッ」
抜け出しても、身体中が痛くて、ちょっと立ち上がれなかった。

しかし、また立ち上がろうとすると痛みがだんだんと無くなった。
目の前を見てみると、ミーナさんが俺に恐らく回復の魔法をかけてくれたのだろうか。

すると横にいたラプマルが話しかけてきた。
「マコト、あまりお姉ちゃんを責めないでね、お姉ちゃんも悪気があってしたわけじゃないから」

「う、うん。
それで、俺のことやっぱりマコトに見えるんですか」

「そうだよね、そっくりだよね。
若干、赤髪に金色の髪が混じっているぐらいの違いだけど、キミは一体何者なんだい?」

「分からない、俺が何のために存在しているのか、何の意味で生きているのかも」
俺はただそう答えるしかなかった、やっぱりそのあっちのほうのマコトとはほとんど姿は変わらないのか、違うのは少し金髪が混ざっているぐらいか。

「ラプマルちゃんも何も分からないの」

彼も頭を横に振った。
「うんそうだね。
でも分からないマコトの為にオイラが色々と教えているのさ」
彼はえっへんと胸を張りながらそう言った。

すると彼女はクスリと口に手を当てて微笑んだ。
「そうなの優しいのね、ラプマルちゃんは」
かわいい人だなと思い少し見とれてしまった。

「ところでさミーナお姉ちゃん、聞きたいことがあるんだけど」
するとラプマルが話し始めた。

「どうしたのラプマルちゃん」

「最近、何か無意識なときとかない?」

「そうね、王様にも言われたけど、確かにふと気づくと時間があっという間に過ぎていたり、なんか分からないけどさっきまで出されていた物がいつの間にか片付けていたりという感覚になるときがあるね。
それがどうしたの?」

「いや、ただ聞いてみただけ、お姉ちゃんも物忘れすることとかあるんだなと思って」

プニプニ
すると人差し指でラプマルのほっぺたを突いていた。
彼も嬉しいのか、エヘヘと笑っていた。
どこかで見たことある光景だ。

「もうラプマルちゃんに心配されるなんて、でも物忘れとかじゃなくて、ど忘れって言ってよね」

パサッ

すると彼女の長袖でフードのある魔法使いの服から一枚の紙が落ちてきた。
その紙を見てみると、紫に近い黒い鎧を身にまとった大剣を持った黒騎士だった。

「ミーナさん、このカッコいい騎士さんは誰ですか」

「ヴァァァァァッッッ!!!」
すると彼女は顔を赤くしながら叫び始めた。

「どれどれ、それは魔王軍幹部のモードレッドだね。
下のほうにミーナお姉ちゃんのサインが描いている。
間違いなくお姉ちゃんが描いたものだね」

バシッ

赤くなった彼女は強引にその紙を自分から奪って服の中にしまった。

「ラプマルちゃん、王様には内緒ね」
そのモードレッドさんの描かれた紙を取り上げた後、微笑みながらラプマルに口止めしていた。
怖い、普通に怖いです。

「うんうん、お姉ちゃんの秘密がまた増えたね」
それで笑顔で答えるラプマル、よくあることなんだなと思った。

そんなことを考えていると体の感覚がなくなり始めた。
あぁ、これはいつものこの世界から去る合図だな。

「ありがとう二人とも、なんか久しぶりに嬉しい気持ちになったよ」

すると彼女は寂しそうな顔をしながら近づいてきた。
「キミは消えちゃうのかい」

「いいや、彼はまた帰ってくるとも。
オイラたちはただ待てばいいよ、時間は味方してくれるから。
彼もまた同じ転生者なんだから」

「そうなの、ラプマルちゃん」

「えっ、ラプマルは俺のことを知っているの」

「まだ予測の範囲内だけどねマコト、話しが長くなるからキミにはまた次に話すよ」

「分かった、ありがとうラプマル」

「どうして感謝なんかするんだい」

「だって俺のために色々調べたり、考えたりしてくれたんだから」

「そうかい、よくは分からないが。
今は感謝と受け取っておこう」

そう言って、彼女らに別れを告げた、未だに自分が何者なのかなぜ存在するのかも分からない、だけどいろんな人と話すことで自分を取り戻しているような気がしてきた。
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