第41話 こたえ(覚悟)

文字数 3,035文字

カッ、カッ、カッ

外は誰もが寝静まる深い夜。
聞こえるのは誰かの足音。

いつぶりだろうか、この世界に存在することができたのは。
ここは、ラウさんの飛行艇の甲板だ。

しかし、こんな夜も遅いのに、一体誰がいるのだろう。
俺はそう思いながら、音のほうに行くと。

そこにいたのはラウさんで、アスラさんと恐らくもう一人の別の俺が一緒に眠っている部屋の前に立っていた。

彼はため息をついた後、何か覚悟の決めた顔で銃を持ちながら、もう片方の手でトビラを開けようとしていた。

「ラウさん……」

自分は彼の名前を呼んだ。
あのとき、疑われて殺されそうになって怖かったはずなのに。

「だ、誰だ」

いきなりの声に驚いた彼は、あたりを見渡していた。

「俺です。
以前ここで会ったきりですね」

自分の顔を見ると、彼は目を見開きながら冷や汗をかきながら困惑した様子で、手に持っていた銃を隠そうとしていた。

「まさか、もう一人のマコトか……」

「それでそんな銃なんて持って、なにをしようとしていたんですか」

「……」

カチャ

バァーンッ

問い詰めると撃ってきた、無言のままで。
後ろの壁は、粉を落としながら小さな穴ができていた。

「それが答えだ、もう覚悟は決まっている。
小生は今からこれを使ってアスラに真実を聞く」

「なんで、そんなことをするんですか」

「信用できないんだよ、小生は別行動をとってアスラの言う通り、ソドムの林檎やリンネなどについて調べていた。
だが、モーガンの聞いた話ではアスラは最初からソドムの林檎やリンネについて知っていた。
それをわざわざ小生に調べさせようとした。
もしかしたら、自分がそれらを調べている間に何かしらの計画を進めていると思ってな。
案外、ソドムの林檎も彼が引き起こしているかもしれないしな」

「違う!!!
アスラさんがそんなことするはずが無い」

「結局のところ、本人しかそれを知らない。
だからそのもう一人のマコト、そこを退いてくれないか」

「嫌だ、だってその銃を持っているなら、殺すことだってあり得る。
彼にそんな俺と同じものを味わってほしくない」

カチャ
「次は脅しで言う。
そこをどいてくれ、もう一人のマコト」

彼はそう言い、静かに銃を向けた。
怖いという恐怖はある、だけどアスラさんを守らないといけない。

えっ、一体なんでだろう。
なぜアスラさんの名前を聞いて、こんなことを言っている自分がいるのだろう。

だけど、口に出してみると何か無くしてしまったものが見つかったような気持ちが泉のように湧いてくる。
もしかして、これが俺の探していたものなのか。

「嫌だ!!!」

自分の叫び声とともに誰かの足音が聞こえてきた。
騒ぎに聞きつけたのだろうか。

「どうかしましたか、元帥殿。
二人で何かしているようですが」

「ラウ、あんなカッコいいこと言った後、そんな危ないものなんて振り回すなよ」

するとそこには、白い軍服姿の女の人のアマギさんとモーガンさんがいた。

✳︎✳︎✳︎

二人とも一部始終を見ていたようで、モーガンさんは彼を落ち着かせるために、彼と一緒に別の部屋に行った。
それを見届けた後、彼女は軍隊の帽子を脱いで黒い長髪をさらした。
その髪は、煌めいていてとても綺麗だった。

自分もやっと不安と緊張から解放されて廊下だったけど、座りこんだ。
それを見ると、彼女はいきなり頭を下げた。

「すいません、マコト殿」

「えっ、いきなりどうしたんですかアマギさん」

「また、あの人が何かしたかと思いまして」

「でも、なんであそこまで明るいラウさんが思い詰めてしまったんですか」

「あの人は、明るそうに振る舞っていますがそれは上辺だけなんですよ。
本当は常に色んなことに不安を覚えているんですよ」

「何が原因で」

すると彼女は、廊下に座りこんでいた自分の横に座りこんで話し始めた。

「聞いた話しですけど、あの人はこの世界に来る前は、偉大な国の軍隊の最高司令官の息子だったみたいなんです。
しかし、その国はクーデターによって崩壊したんです。
それの混乱で父親は殺されて、あの人も母親などの家族と一緒に牢屋に送られて、父親の隠していた財産などを吐き出させるために激しい拷問をさせられて。
それが原因で自殺してしまって今に至るんです。
だから、あの人の奥底は自分以外の人はほとんど信じていないんです」

「ラウさんにそんな過去があったなんて」

「だから、貴方にやったあの行いも許してください。
あれはあの人の苦しみでもありますから」

彼女がそう言い終えると、後ろから誰かの気配がした。

「それで話しは終わったか」

バァーンッ

後ろにいたのはラウさんでいきなり自分の首根っこを掴んで壁に叩きつけた。

「ぐぅ!!!」

「なにをなさるんですか、元帥殿」

「アマギは黙っててくれ!!!
君も見ただろう、あのマコトが怪物となった姿を。
彼はもう一人のマコトと言っているが、すぐにあの怪物になるかは分からない。
だから、ここで殺さないと、殺さないといけないんだ!!!」
興奮している彼の目からは赤い涙が出ていた、まさかもう彼にもあのときが来ているのか。

すると、アマギさんが自身の頭に持っていた銃で突きつけていた。

カチャン
「じゃあ、私も覚悟を決めています。
彼を撃ったら、私もこの頭を撃ちます」

「自殺するのか、どれほどあれが恐ろしいものか知らないのか」

「えぇ、知らないですよ。
ですが、彼を殺した後も元帥殿もそのままその恐ろしいことをするんでしょう。
私はそれを止めたいために貴方と同じ位置に立ちたいがゆえに今こうしているんです」

「バカなのか、君は」

「ラウ元帥、いいやラウ•カリマン。
正直に言う、私は貴方のことが好きだ、愛している。
明るく、皆んなを楽しくさせようと冗談を言う貴方を。
だけど次は私が貴方と一緒に隣で歩けるようになりたい、貴方の苦しみも辛さも一緒に背負って」

「ーーふざけるなよ。
これじゃあ、撃てないじゃないか」

「もうその手は、銃を撃つための手ではなく私を抱きしめるのに使ってください」
彼の赤い涙は、流されて透明なものに変わっていった。

ダダダッ
しばらくしてから、ものすごい勢いでこちらに向かってくる足音が聞こえた。

それは、手首などにヒモで結ばれた後のあったモーガンさんだった。

「すまん二人ともヘマしちまった。
ラウは?」

「大丈夫だよ」
目の前には、抱き合う二人の姿があった。
確か、ラウさんの国の文化で愛を伝えるときのものだったよね。
あれ、そんなこと教えられたことないのに、なんか思い出してきた気がする。

そんな嬉しい気持ちになっていると、こちらも口角をあげながら嬉しそうな人がいた。
「へっ、そう言うことか。
結構やるじゃねぇか、アマギ司令官よ」

「じゃあ、俺は行くね」
もう、彼がアスラさんに何も危害を加えないと思い、彼に別れを告げ、後ろを振り返り歩こうとすると。

「そうか、お前はもう一人のマコトか。
やっぱりその別人なんだな」

「うん」

「それで、お前が探している答えは見つかったのか」

「見つかったと思う、まだはっきりとは分からないけど。
でも、きっとその大切な人を救うために俺はここにいると思えるようになったから」

バンッ

「痛っ」

彼に背中を強く叩かれて、驚きの声を出した。

「頑張れよ、その大切な人を救ってみろよ」
後ろを振り向くと、笑顔で親指を上げて応援してくれている人がいた。
そうだ、頑張らないと、やっと答えを見つけれたんだから。

「頑張るよ、モーガンさん」

そう言って、俺はこの世界から存在を消した。

この瞬間が夢でもいい、だけど答えを見つけた自分にもはやなんの恐れも無かった。
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