第50話 リンネテンセイ・神化論 

文字数 3,971文字

グサッ

また、次の時間軸に移った。

ラプマル、王様の知識から読み取ったその名前はラプラス・マルジン。
その実体は、肉体を捨てて魂だけの存在となったもの。

彼らの目的は転生者をリンネという不老不死の生物に進化させ、この星を含めた宇宙にある命をそのリンネに注ぎ、更なる進化をさせて神という存在を作ろうとしている。

彼らはそれらを星盃(グレイル)計画と呼んでいる。

僕はそれを知り阻止するため、彼らを殺そうと何度も試したが無駄だった、本体はこちらからは手の届かない異なる次元にあるため、何度攻撃してもまた代わりを用意している。
成果としては、彼らの本体の存在の認識と目的の予測ぐらいしか出来なかった。

そこで僕は、奴らを諦め、新たな答えを見つけるため、以前漁っていた図書館のようなところで更に古い書物を漁って調べた。

成果はあることにはあった。
ソドムの林檎についてだ。

ソドムの林檎、元は天章ムラマサに記されている宙の大敵ドミニオンを倒すために人々が作り出した伝説の魔力兵器。
その起動には一人の人間の命が使われる。
別名、救済の箱舟。

しかし、またそれも資料があまりなく、それぐらいしか知ることができなかった。
帝国で調べるのもいいが、またラプマルがどう出るか分からない以上何もできない。

本当に僕一人で星盃計画の阻止、ソドムの林檎を倒し切ることができるのだろうか。

「どうしたんですかアスラさん、そんな思い詰めた顔をして」
大切な人が自分に語りかけてくる。
いいや僕は一人じゃないんだ、このまま隠すよりかはいっそのこと彼に話したほうがいいだろう。

「マコトさん……。
アナタには、どうしても話さないといけないことがあるんですよ」

「えっ、いきなりなんですか」

「転生者はリンネになるんですよ」

「えぇっと、どういうことなの?」

そして、僕は自身が転生者であることや転生者の真実をマコトさんに教えた。

「ーー本当なんですか。
まさか、俺やアスラさんもあの暴食のリンネのようになってしまうんですか」

「えぇ、そうです」

「嘘ではないんだよね」
彼は震えた声でそう言った、その意味は分かっている。
あの旅を続けた中でも彼は魔獣やリンネにはいつも恐怖を感じていた。

僕は彼を安心させるため、震えている両手を優しく包み込むように手で握って話した。

「大丈夫、僕がいるからそんなに震えないで。
でもこれは僕たち二人の秘密にしてください」

彼も震えた声を抑えながら、僕のためなのか精一杯の笑顔で明るく話してくれた。
「う、うん、そうだよね、マーニさんにこんな話しできないよね。
ちょっと一人で考えさせてくれないかな」

彼はそう言い、どこかに歩いて行ってしまった。
言ったほうが良かったのかな、マコトさんをあんな思い詰めた顔にさせてしまったけど。
でもいつか知ってしまうことなんだから、これで良いと思う。
今はそう信じるしかなかった。

そして僕はモードレッドさんを犠牲にして色欲のリンネを倒し、次の都市に向かって行った。

その船の外でマコトさんから話しがあると言われて外に出ると彼は夜空を見上げて待っていた。

「そういえばアスラさんは、転生者がリンネになれるのをどこで知っていったんですか」

理解されなくてもてもいい、でも必ずアナタを幸せにして見せる、だからこれだけを言わないといけない。

「マコトさん、その僕は本当は時間遡行ができるんです」

「えっ、えーとどう言うことなの」

その後、僕は色んなことを話したマコトさんを助ける為、何度も前の時間に戻ってきたことや、彼が僕の恩人であることも、伝わらなくてもいい。
だけど知ってもらいたかった。

「うーん難しいけど、それってアスラさんが俺を助けるために何度も時間をやり直していんだよね」

「そ、そうなんです」
僕は、いつのまにか体の震えが止まらないでいた、そう知っていたのにマスターやモードレッドさん、ミーナさんを救わなかったこと、それらの犯した罪を責められる恐怖に対して。

ガシッ
すると彼はそんな自分の震えた手を止めるように握ってくれた。

「ありがとう、何度も何度も苦しかったんだよね。
でも今回でそのアスラさんの旅も終わらせてあげるから」
彼は目を光らせ慈愛の顔で僕の罪を照らしてくれた。
僕の罪は許されず、贖罪もできない、だがもう逃げるのはやめようと思った。

「マ、マ、マコトさん」

「辛かったんだよね、誰にも言わないから今日ぐらいは泣いてもいいんだよ」
そう言われると自然と涙が出てきた。
そうか、自分は彼から見れば泣きそうだったんだ。
でもよかった理解してもらえた、やっぱり彼には分かってもらえた。
それだけで僕の今までの努力は無駄じゃなかったと思えた。

涙を流しきった後、彼は自分の部屋まで着いてきてくれた。
「じゃあ、また明日ね。
アスラさん」

「おやすみなさいマコトさん」
今回こそ必ず救ってみせる、まだ確実な答えは出ていないけど、この意思さえあれば彼を絶対に救える。

✳︎✳︎✳︎

その次の朝、いつもだったら朝ごはんを作っているのにまだキッチンには彼の姿がなかった。
「珍しいなマコトさんがこんなに朝が遅いなんて」

今まで溜め込んでいた気持ちを彼に伝えるだけで、こんなに気持ちが軽くなるなんてね。
もっと早く話せばよかったのかもしれない。
そんなことを考えながら彼のいる部屋のトビラの前に立った。

コンコンッ

トビラを叩いても反応がなかった。
「入るよ、マコトさん」

ガチャ

トビラを開いたそこには……

「ハァハァ、やっと来たのねアスラ……」

そこにいたのは、雪の銀髪が血で汚れ、うつむいたマーニさんがいた。
なぜ、どういうこと?
ベットに寝ていたマコトさんは!?

そこにいた彼にはもう息は無く、胸が赤く染まっていた。
顔は彼女がやったのかは分からないが布が被されていた。

「どういうことですかマーニさん!!!」

すると、マーニさんは怒りを抱え突き刺すような鋭い目つきで睨みつけて立ち上がった。

「キミ達こそ知っていたなら何で隠し事なんてしてたのよ!!!
転生者であることや転生者はリンネになることを」

「それよりもなぜ彼を殺したんですか、そこから答えてくださいマーニさん!!!」

彼女は口元を震わせながら話し始めた。
「アスラ、キミも見たでしょう、暴食のリンネや色欲のリンネの恐ろしさを。
転生者があんな怪物になって人を殺すんだよ。
私の私の大切な人を愛する人をそんなことにはさせたくない。
彼を救うためには、もう殺すしかないじゃない」

「何で、こんなことにどこで僕は間違えた」
僕はあまりの絶望に足が震えその場に倒れ込むように座り込んだ。

「アスラ、ごめんなさいね。
私が弱いから弱かったから」
彼女は顔を歪ませて、涙も流しながら剣で僕の頭を叩き斬ろうと振り上げた。

ブゥン

ザッ

ザシュ

ボタッボタッ

寸前のところで頭を動かして避けて、少し切った程度で済んだ。
しかし、頭からは血が止まらない。

殺される、その恐怖で僕は座ったまま動けず、下半身のほうが濡れた感触がした。
そうか、恐怖を感じるならまだ死にたくはないんだ。

「嫌だ、まだ僕はここでは立ち止まれない」

「早く楽になりなさいよ、キミも苦しいのでしょう。
だって、キミが好きなマコトが何度も死んだ時間を繰り返し、いつもマコトや私と話す時、何か諦めた表情をしているのでしょう」

「何を、何を知っているんですか!!!
転生者でもない、アナタに何が分かるんだ!!!」

床にはかじりかけの魔獣結晶が落ちており、彼女の涙が血の涙になっていた、まさか。
「ーー私は、キミ達とは少し違うけど星海の呪いによって作られた初めての転生者だから、私もリンネになっちゃうのよ。
だから、キミ達の苦しみぐらいは分かるわ。
マコトだってキミの言葉を聞いた後からずっと苦しんでいた様子だったの。 
私は彼を愛していたの、私の苦しみを救ってくれたあの人を。
だから次は私がマコトをこの苦しみから救いたかった。
そのためにラプマルから聞いて、マギアの上を行く聖域を使うために魔獣結晶を食べた。
あぁ、だんだんと自分が薄れて来る、死ぬのが嫌だったら、せめて私だけでも殺して」

ザパァーン
 ザパァーン
もう動かない船と旅、ただ波の音だけが響く。

何をやっているんだろう僕は、彼らとは同じ時間にいるのに段々と離れていく。
理解と感情が。
理解はしてくれたけど、結果的に彼を苦しませた。

彼を何回捨てて、何回殺したのだろう、彼の幸せを願い続けるたびに彼を苦しませてしまう。

やっぱりこんな弱い僕では、彼を救うことができないのか……

すると、マコトさんからもらった杖が少し輝いた。

いいや僕しかいないんだ、この最悪の運命から彼を救うのは。

「ウァァァァッ!!!!」

バキバキッ

船の外から聞こえる悲しみと絶望が混じったマーニさんの声が、いいやリンネの鳴き声だ。
姿は金属の鎧のようなものに包まれた人型のような機械だった。
その強欲のリンネにも劣らない巨体で振り下げた大剣で船は破壊されて、僕は海に落ちた。

そのまま海の底に沈んでいく。

ただ暗く、ただ静かな、息苦しさはあるがこんな静かな死は初めてで心地よい感じもした。
自分は壊れているんだ。
そしてこれがこの世界での僕の死なのか。
だけどこの死で最後にさせる、立ち止まったら僕もすぐに彼女と同じになるのだから。
残された時間はもう少ないと思う。

「キャラララ
  キャララララ」

胸の奥底で僕のリンネの鳴き声がした、僕はマギアの持っている転生者の中ではマギアが弱かったのもあったのかリンネになるのにもそれなりに時間が必要だったのだろう。
だけどそれがもう来るのか。

いいや来るな、まだ僕はここで立ち止まるわけにはいかないんだ、マコトさんを幸せにするまでは。
次こそ、どんな彼に軽蔑されても嫌われても良い、だけど彼だけは絶対に幸せにさせる。

神楽マコト、僕の恩人にして命よりも大切な親友、次こそアナタを幸せにさせる!!!
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