第7話 日常(ありがとう)

文字数 2,482文字

気持ちの良い朝、窓から入り込む優しい光は部屋に灯りを吹き込んだ。
昨日の看病のおかげで今日は元気になって心地いい朝だ。
それと覚えていない夢でなぜか心がワクワクした、きっといい夢を見たのかもしれない。

そして俺は昨日できなかった朝食の準備をしていた。
どこにどれが置いているのかは、おとといの夕食を作ったときに知っていた為、前回よりも手早くすることができた。

そして、フライパンでウインナーを焼いていると木製のトビラが開く音がした。
入ってきたのは、寝癖で髪の毛が暴れているマーニさんだった。

「おはよう、マコト」

「おはようマーニさん、ちょうどキッチンがあったので使わせてもらっています」

「うーん、別にいいわよ、いい匂いもしてるし」

ジュー、ジュー、ジュー

「マーニさん、今日の朝ご飯はウインナーとパンを焼いたのと薬草のスープだから、外で魔法を練習しているアスラさんを呼んできてくれないかな」

「うーん」
だけど、マーニさんは恐らく、耳には入っているが頭には一方通行しているのだろうか。
返事をした後もそのままテーブルに座りながらウトウトとして眠ろうとした。

「起きてくださーい」

「うーんアスラ、ご飯よ〜。
ぐー、ぐー」

俺が彼女を揺らしても、まだ夢と現実の間だった。
まぁ、俺が行けばいいか。
そして、外で魔法の練習をしていたアスラさんを連れてきたとき、やっと気がついたようで少し寝ぼけながらも朝食をとっていた。

そして、朝食を食べ終わった後、俺たちは今日のギルドで行う依頼について話した。

「それで、マコトは元気になった?」

「うん、元気になりましたアスラさん、それと昨日は二人ともありがとうね」

「いいわよ、困った時はお互い様だからね、それで今日はどうする。
モンスターを狩るのか、それとも魔獣で探索されていない地域で珍しいものを探す?」
 
「それなら、僕がいいのがあるから」

アスラさんが何処からか持ってきた依頼書を手に取り読んでみた。

「なんですかこれは、氷の採取ですか」

「工房の職人さんから北の地域から万年氷を削って持ってきてほしいとのことですね」

「確かにモンスター討伐よりも報酬金も高いし、今後の生活費などにも使えそうだね。
でも、北の地域からだとだいぶ時間がかかると思うけど」

確かにマーニさんの言う通り、俺が見た景色で北の方角に雪の積もった山があったからそこだろう。
確かに行くとすれば、だいぶ時間もかかりそうだしな

「アナタが心配する必要はないです、僕にいい考えがありますから」

✳︎✳︎✳︎

そして俺たちは荷車を引いて木材などを運びながらアスラさんに連れられて、カラド森林地帯の湧水のところにたどり着いた。

「マコト、僕が持ってきたこのナベを使って早くその湧水を沸かして」

「そっか、そういうことなんだね、やっぱりアスラさんはすごいですね」

「どういうことなの、マコト」

「アスラさんはこの水を自分の氷魔術を使って、氷を作るんですよ」

「あぁなるほどね、えっでもアスラの魔力は持つの?」

「持ちますよ、これぐらいなら簡単ですので」
そう言うと、彼は腰のポケットから取り出した、スティック状の芋けんぴみたいなものを食べてから、杖を構えた。

日が真上に来たぐらいの時間……

ボコボコッ
また次の湧水が沸騰した。
すると近くの石に腰掛けていたアスラさんが杖を使いながらゆっくりと立ち上がった。

「マコト、持ってきてくれないかな」

「はい、アスラさん、これが凍らせる分です」

「マコト、後残り何個ぐらい」

「これで17個ですから、後3個ぐらいですけど、本当にアスラさん大丈夫ですか、汗もかいているけど」

「大丈夫です」
本当に大丈夫なのかな、少し呼吸も荒くなっているし。

「いいじゃないのマコト、本人がそう言うんだから」
少し仲が悪いのもあるのかマーニさんは、そっけない態度をとっていた。

「マーニさん、さすがにそれはちょっと酷いですよ」

「なっ、べ、別にそんな意味で言ったわけじゃないから」

「マーニも早く持って来い」
そんなこと言われても彼の手は止めることはしなかった。

✳︎✳︎✳︎

カラカラッ

そして、依頼されたすべての氷が完成させ荷車で押して街まで向かって行った。

「結局、倒れ込んだんじゃないの」

アスラさんはすべての氷を作った後、マーニさんが言うには、魔力切れで倒れ込んでしまったようだ。
仕方ないよね、氷魔術は対象の熱を奪って凍らせる仕組みだから、沸騰した水を凍らせたら、普通に凍らせるよりも魔力を使っちゃうからね。

「ごめんなさいマーニさん、重い荷車のほうを押させてしまって」

「別に構わないわ、まぁ私がアスラを背負ったら、あまり仲良くないから、彼のプライドが傷つくからそうしたんでしょう。
情けないよね、君にも言われたようにもう少し彼とは、仲良くならないといけないよね」
そう言いながら、彼女は少し申し訳なさそうにしてした。

「そういえばアスラさんはこの氷どこに持っていくと言っていましたけ?」

「えーと、街の工房じゃなかったかしら」

そこは、主に剣や鎧など作る工房だった。
そこに依頼書に書かれた工房に氷を持って行くと、自分よりも背の低いヒゲの生えたドワーフが出てきた。

「いやぁ、助かったよ、これで肉を冷やして長期保存できる冷蔵箱というものをお客さんたちに送れるよ」

へぇ、前いた世界で冷蔵庫みたいなものなのかな。
俺も欲しいな。

「えぇっと、そのお客さんは誰なんですか」
そして俺はふと誰が注文したのか疑問に思って尋ねた。

すると工房の職人さんは木で刻まれた注文書のようなものを見て言った。
「確か、マコト様と書いていますね」

えっ、どういうことなの。

何かを知ったのかマーニさんは口をふふっと緩ませた。

「そうなのね、多分この子、君にプレゼントしようとしたのかしらね」

ポロポロッ
するとそれを聞いた途端、俺の心の底から何故か温かい感情が湧き出した。

「あれおかしいな、嬉しいのにこんなに涙が出るなんてね」

ちょっと怖いところもあるけどアスラさんの優しさを感じられて、胸に一杯になりながら、俺たちは夕日を見上げながら家に帰った。

この日常にありがとうと言える、今日はそんな日になりました。
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