第55話  天星庭園(アヴァロン)

文字数 5,968文字

これだけは知っている、俺は強欲のリンネとなり、この世界いいや今あるこの宇宙全てを飲み込んだ。

周囲には何もない。
歩みを進めるとただ白いだけの部屋が広がり続け、その目の前にトビラがあるだけ。

開いてみると。

ガチャン

懐かしい人がいた、新雪が太陽に反射したような短い銀髪のエルフの人がいた。
そうか、これが奇跡なんだ、そう思うと自然と涙が出てきた。

「マコト、なんでキミがここにいるの」

「マーニさん……」
俺は涙を流しながら、立ち止まっていた。
あの時、俺が殺した彼女がいた。
本当は喜びたかった、でも俺にそんな権利はなかった。

ギュッ

バタンッ

「あの時はごめんなさいね、マコトを騙すようなことをしてしまって」
走って来た彼女が泣きながら抱きついてそのまま押し倒した。

「謝らないといけないのは俺なんです。
マーニさんを救えたのに、決断もできなくて」

すると彼女は両肩をつかみながら頭を横に振ったあと、話し始めた。

「いいや、マコトは絶対間違えてはいない。
あそこでキミがリンネになったら、私たちの守ってきた人々や街も全て失うから」

するといつのまにか彼女の腕を握りながら、自分のほうを妬むような目をしながらほっぺたを膨らませた、海のように透き通ったマーニさんとは対照的な長い青髪の女の子がいた。

「お願いマーニ、アタシを一人にしないでくれ」

「その子は?」

「私と同じ忘れられた転生者、暴食のリンネの元となった転生者、マシロ・ナギちゃんよ。
それでごめんね、私ねこの子を一人にしたくないの。
私と一緒でこの子もひとりぼっちの寂しさを知っているから。
だから私、キミが作った新しい世界に行けないの」

「フフッ、俺は元々二人とも助けにきたんですよ、もうそんな勘違いして」

すると、銀髪の彼女は手を伸ばして来た。
あれっ、これって?

ギュッー
「痛い、痛い、ほおを引っ張らないで」

「もう、私のほうが年上なんだからからいじらないで。
威厳が無くなっちゃうから」

「ハハッ、ごめん、ごめん」

するとマーニさんは次は俺の袖を掴んできた。
「でも、ありがとうねマコト、さぁ案内して」

ここで二人にやることは分かっている。

「その前に二人とも俺の手に触れてくれないかな」

「うん?
別に良いけど」

彼女らは何も疑わずに俺の手に触れた。
騙すようなことはしたくなかった、でも嘘を言わない限り、前に進んでくれなかったのだから。

ギュッ

「あれ?
ナギちゃん、ここはどこだっけ?」

「うーん、アタシも分からないし。
なんでここにいるんだろうね?」

「ところで今、誰かいなかった」

「誰かいたかな」
そして、彼女ら二人は、俺が入ってきた扉を開いてこの部屋から出て行った。

そう、強欲のリンネとなった俺は一度この宇宙全てを取り込み、かつて暴食のリンネことナギさんが言った呪いを産み出すリンネ唯一の希望とも言える能力、輪廻転生を使った。
それは一度、自身の体に入れ込み死んだ魂に魔力を使い、修復して死んだものを再び蘇らせる能力。

これを使ってこの世界全てを一度殺して、リンネの魔力を使って蘇らせている。
とんでもない罪なのは分かっている、だけどもう何かできるのにそれをしないなんていうのはしたくないんだ。
これさえすればこの宇宙に溢れる呪いを一度自分の中に入れれるから。

「ありがとう、マーニさん、ナギさん、次の世界はもう魔獣やリンネも存在しない平和な世界だから、幸せに暮らしててね」

えっと、次はだね。

ガチャン

一回だけしか会っていないが、その姿を忘れることはなかった。
そう、俺に希望を託してくれたマルスさんだ。
「そうか、カグラ・マコト、それが貴様の答えか。
まさかリンネの強欲聖域を持って、彼から魔王様の能力を奪い取るとはな」

「うんでもこの魔槍に戻してから、魔王様は復活したと思うから」

すると、彼の隣にアスラの旅の記憶で見た、深い蒼髪をした黒装束の男の人が歩いてきた。
「その通りだ、感謝するぞマコト」

「これは、魔王様もうお目覚めで」
マルスさんがお辞儀をすると、彼はマルスさんの肩をポンッと叩いた。

「すまぬ、お前たちにも迷惑をかけた」

「いいえ、幹部共々、アナタ様の復活を望んでいましたので」
そうすると、彼は静かに微笑んだ。
その後、魔王様が俺のところに歩いてきて、顔を近づけてきた。
うわっ、マルスさんと一緒のことするな。

「それでマコト、どうする。
貴様はリンネとなって、この世界を書き換えて、どうするつもりだ」

その質問の答えは変わらない。

「うん、星海の呪いが存在しない世界を作ろうと思っている。
もう、マーニさんやアスラ達が苦しまなくていい世界を作りたいから」

「フフッ、フハハハハッ」
すると、彼は天井を見上げながら大笑いした。
へぇ、へぇー、こんな人なんだ、クールな人なのかと思っていたけど、でもちょっとひどいなぁ。

「ちょ、ちょっと笑わないでくださいよ。
さっき言ったことが恥ずかしくなりますから」

「魔王様、さすがに失礼かと」
そこで無表情のマルスさんがフォローを入れてくれた。
ありがとうございます。

「フフッ、すまぬ、だがどの世界でも変わらないな貴様は。
その変わらなさを我は祝福しよう、神楽誠!!!
前を向いて歩け、貴様の旅路は困難かもしれないがその思い、その希望を胸に持った貴様なら必ず理想の星に至ることができる!!!」

「ありがとうございます、では俺行ってきます!!!」

「待てマコト。
魔槍が必要無いなら、せめてこれを持っていくと良い」

すると、マルスさんが先端は赤く輝きそれ以外は黒に染まった槍を投げてきた。

ガシッ

それを受け取ると、その槍の先端は更に輝きを増した。
「なんですかこの槍は」

「聖槍アロンダイトだ」

すると魔王様は、驚いた顔をしていた。
「マルス、それは我がアーサー王に渡したものなのだが。
まさか盗んだのか」

「いいえ、あの王自らマコトに渡すために託されたものだ。
せめてもの彼女なりの感謝だとのことだ。
それと今から旅立つマコトに魔槍ゴグ・マゴグ以上の武器一つも無しで見送るなど、非常に薄情というか無責任と思いまして」

「あいかわらず面倒見がいい奴だな、マルスよ」

「ありがとうございます、このマルスさんから託された槍、大事にします」

「いいや、その槍はモルガーナやマキュリーそしての貴様の友であるモードレッドの魔力も込められている。
せめてもの、旅立ちだ。
マコト、皆に忘れられてもその功績と所業は本物だ。
そこは誇れ!!!」

「はいっ、ありがとうございました魔王軍の皆さん」

ガチャ
そして、彼にも別れを告げた、もう覚えていない。
でも、思いは確かに受け取った。

そして、次の部屋は俺のことを思い続けてくれて幸せをずっと望んでくれた人だ。
その人の名前は、神暁明日来。

「マコト良かった」

彼はもう俺がどこにも行かせないためなのか、抱きついたまま離してくれなかった。

「アスラ、俺は最後にやらないといけないことがあってね」

「やらないといけないこと、僕たちが覚えているマコトの全ての記憶を奪い取ることですよね」

もう知っていたんだ。
「やっぱりあなたは頭がいいですね。
そう、俺は星海の呪いと聖域全てを奪って、別の世界に……」

「コキュートス・ゼノ!!!」

ガキィン

すると彼は自分ごと氷漬けにして俺を動けさせないように術式を発動させた。

「強者のマギア。
ごめん、これしか方法がないんだ」
ぐぅいん

俺は、アスラに強者のマギアをまとわせて、彼の術式を簡単に弾き飛ばした。

バラバランッ

ギュゥゥゥ

彼は力一杯、離さないようにどこにも行かせないように抱きしめた。
そして、涙を堪えた声でひとつひとつゆっくりと話し始めた。
「なぜなんです、この世界を救う為に頑張ったアナタの功績も死さえも誰も覚えないまま、皆を新世界に連れて行かせるのですか。
そしたら、誰もアナタを覚えてない、思い出すこともできない、救われない、この世界に存在した証拠もなくなるんですよ」

「だって、もうアスラの苦しむ顔なんて見たくないから。
俺を助けようと何度も何度も終わりが見えない旅を続けるなんて。
いくらなんでも優しすぎるよ、アスラ」

「違う、優しさなんかじゃないアナタに助けてもらった恩返しをしたかっただけなんだ。
マコトは過去よりも今を見て欲しい、過去なんて思い返しても何も変わらないんだから。
早く、その奪った魔王様の能力を僕に戻してくれ。
次こそは絶対、幸せな未来を掴むから」

「ありがとう、でもね、もう決めたことだから。
それを今否定してしまったら、アナタの旅や俺たちの旅全てを否定することになるのだから」

そして、俺は彼の頭に手を当てた。

「やめて、やめてくれぇぇぇ!!!」
もはや涙の枯れた叫び声と共に今までの彼の俺に関する記憶を強欲聖域によって全て奪って、星海の呪いが存在することのないエリシオンに彼を転送した。

ガチャ

そして、扉を閉めた。
「ごめん、アスラ」

すると、後ろに妖精がいた。

「本当にやるのかい、君は。
魔王から複製した再臨の能力を使い、最初の星海の呪いが生まれる時間にまで戻り、呪い自体を取り込み封じ、この星海に生まれる呪いを全て自分に回収するようにして。
……その先の未来の魔獣やリンネ果ては星海を憎むイノチを生まれさせないようにすることを」

「うん、そうだね。
もうリンネになったから、時間はいくらでもあるし」

「そういうことか。
アスラの魔力量では、再臨の能力を連続で使用することはできなかったが今の君は魔力量が潤沢にあるリンネという存在になれたから連続で使用して過去に戻ることも可能と言うことか。
だけど再臨の能力で戻れるのはせいぜい一年前だけ、もうこの宇宙は途方もない時間を経過している、君はそこに戻るまで希望を持って死に続けるのかい」

俺は少し震えていた、確かに恐怖はある。
「でも俺はもう決めたから。
それとラプマルさん、もう一人の俺であったリンネに色々と教えてくれてありがとう」

すると彼は、後ろを振り向き頭を横に振った。

「理解できないね、君に感謝されることが分からない。
ソドムの林檎の発動や星盃計画、この星に星海の呪いをもたらしたのはオイラなのに。
君たちの言葉で罪と呼ぶものに相応しいものを積み上げたものなのに」

「でも、リンネ、いいやもう一人の俺にその様々なことを教えてくれたことには感謝しないとね。
あのまま分からないままでいたら多分彼も絶望と虚無を撒くだけのリンネになっていたから。
でもそのエリシオンに星海の呪いを押し付けてまで、進化への道を作るのはやっぱり分からないけどね」

「そうかいそれで話の続きだが、君はその呪いを取り込み、新たな世界を作り、永遠にそこで呪いから生まれる存在とともに生きるのか?」

「そうだね、星海の呪いもかつて生命から生まれたものだから、その呪いにも楽園を作りたいなと思って」

彼はまた頭を横に振った。
「やはり理解できない、オイラ達が長い時を使ってやっと星海の呪いの使い道が分かった、君はそこまで消滅ではなくて存在させることになぜこだわるのか。
そんなもの君が苦しくなるだけじゃないのか?」

「いいや、これがこの世界に転生した俺の役目、この世界に生きる者たちを都合が悪いから滅ぼしたらいけないと思ったから。
それともう決めたことだから、後悔なんてしないさ」

すると、彼は何かに納得したのか、アゴに手を当てながら話し始めた。
「そうかそれが答えか、ただ単に個人の力ではなく他人の為の献身と犠牲。
これが肉体のある生物の究極の進化の最果ての答えだったのか……」

「またよく分からないことを言って、でも本当にありがとう」

そして俺が彼の頭に手を当てようとすると。

ガシッ

俺の手を止めるように袖を掴んだ。
「その前に聞かせてくれ、肉体ある進化への道は学べた。
だが、この後オイラたちはどうすればいいのか、他人を犠牲にすることしか進化のできなかった獣にすることとは。
それだけ聞かせてくれ」

そうか、ラプマルさんは万能の存在だったがそれ故に自分たちが知り得る全ての疑問に答えを見つけその先に何をするのか分からくなってしまったのか。
それは彼らにとって苦しいことかもしれない、ずっと前だけ向いて答えを見つけるために進んできたのだから。

そして次なる疑問を求めるために俺たちを自身と同じレベルの存在にするまでここまでしたのか、彼らのエゴかもしれない、だけど否定はしてはいけない。
否定したら、さっきの言葉は嘘になる。
でもやっと、彼らを理解することができた、それだけでも良かったのかもしれない。

そして、俺はラプマルさんの目線に合わせてしゃがみこう話した。

「ラプマル、アナタには俺の理想とした星海の呪いの無い世界を見届けてほしいな」

「あぁ、そうなのか。
それが君なりのオイラ達の答えを見つけるための赦しの導きなんだね……」

俺は喜びに震えたラプマルさんの頭に手をかざして、俺がいた存在の記憶を奪い、ラプマルを元の世界に戻した。

「これで終わったね」
辺りを見渡すと、もう誰も何もいなかった。

ブシュ

そして、俺は持っていた槍アロンダイトをを胸に突き刺した。
強者のマギアも簡単に突破して自分の胸には赤い血がダラダラと流れていたな。
やっぱり痛いな、でも頑張らないとアスラさんも頑張っていたから。

✳︎✳︎✳︎

それから、この旅はどのぐらい経ったのだろうか。

ふと気づくと、まだ何もない暗闇に俺は存在していた。

ただ、暗黒と虚空だけが広がっていた無の世界。

そして、それもいた。

その体つき、瞳、髪型、髪色その姿、その名前は知っている。

「かつて自分だったもの。
あなたを倒して、この世界に二度と星海の呪いを生まないようにする」

そう、この世界は長い時間をかけて繰り返されていたのだ。

あれは、恐らく前の世界でこの宇宙が終わるまでリンネとしてラプマルのいう究極の生命になった自分自身だった。

始まりは終わりであり、終わりは始まりでもある。

あらゆる過去に戻り続け星海の呪いを奪った自身の最後は、原初の呪いという始まりの存在となり、再び宇宙に呪いをもたらす。

だからその連鎖を断ち切るために、始まりも終わりも存在しないように自分ごと別の次元に封じる。
今の俺にはそれしかできない。

「……アスラさん、俺に終わりを持ってきたのですか」

あぁ、アスラさんこの世界にもいたんだ、見ていた繰り返しの世界のどれかは分からないけど、彼の想いや願いは無駄では無かったんだ。

彼は何も抵抗しないまま、強欲聖域に侵食され自分自身となった。
アスラさんのおかげで、彼自身も終わりを穏やかに過ごせたんだ。

あとはこの宇宙とは別の宇宙を作り、そこに行けばいいだけだね。
手のひらから放出した熱線は空間を溶かし、亜空間に繋ぐことができた。

これから始まるんだ。
そして、俺はそのただ純粋に光も見えない物質が何もない亜空間に入った。

最後に二人に知ってもらいながらさようならの言葉を聞きたかった……
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