第34話 生存(しんか)

文字数 4,568文字

その夜、さっそくこの前からアスラさんが言っていたモンスターの討伐クエストに行くことになり、目的地である黒の密林の奥地のほうに向かっていた。
「二人ともちゃんと睡眠をとりましたか」

「ちゃんととったわよ」
大丈夫かな今日の昼、二人で勝手に出歩いたけどバレていないよね。

「そう、そしたら良かった」

特に疑ったような顔もしてないしよかったバレていないみたい、でもそれほど最近アスラさんも疲れていたってことだよね。
本当だったらバレるはずだから。

「それでどこに行くの?」

「エゼルスィトというアリのモンスターの討伐ですよ」

「そんな凶暴なアリがいるんですか」

「そうそれが今、この山岳都市の麓にある密林地帯に活発に活動して、それに住処を追われた別のモンスターの一部が都市に逃げ込んできて問題になっているの」

「それで、ギルドに入るときに出したギルドカードに魔獣を倒した実績を元にギルドに見られて、この依頼が来たわけっていうことよね」
マーニさんにそう言われると彼はうなずいた。

「そういうことだ」

「でも大丈夫なの、アンタの言っていた四英雄の一人ににバレたりしないの」

「モーガンには既にバレている。
でもそんなことは特に問題ない、僕がいるから」

どうしたんだろう、前はあんなに自分たちがバレないようにしていたのに、状況が変わったのだろうか。

そんなことを考えてから一時間ぐらい後、今歩いている場所は黒の密林と呼ばれている場所で昼でも暗い密林地帯のため、夜は完全な暗闇で俺たちは、獣道のように人が一人歩けるぐらいの一応正規のルートに指定されているところを松明を持ちながら歩いていた。

なぜ正規のルートを歩かないといけないと言うとこの森は一度、そのルートから外れてしまうと、目印か何かがないとすぐに遭難して二度と帰って来れなくなるためである。
それでこの黒の密林は他の呼び名で人喰いの森とも言われていた。

その道を歩いていると、松明に照らされ周りにある地面に水晶のように独特の光沢を放つ結晶が生えていた。
それは草原都市ティルウィングでよく見た結晶体だった。

「これは、魔獣が食べたときに出てくる捕食されたものの残骸、魔獣華。
それもこんなにいっぱい」

「えっと魔獣がエゼルスィトを襲ったのかな、アスラ」
マーニさんが聞くと、その生態を知っているはずの彼は少し驚いた顔で話した。

「いいや違う、逆だ。
エゼルスィトが魔獣を食べたみたいだ」

ザザザッ

バササッ

「キシャァァァ!!!」

突然現れたのは、木々の間に現れた人の数倍はある巨大なヘビのようなモンスターだった。
それが俺のところに苦しそうな声を上げながら向かってきた。

「危ない、マコト」

ガシッ

彼女が背中を引っ張ってくれたおかげでそのモンスターに巻き込まれずにすんだ。

「ご、ごめんなさい、マーニさん」

「気をつけなさいよ、アンタは二人にとって大切な人なんだから」
二人ってどういうことなんだろう?
でもそんなことよりも、なんであのモンスターは苦しそうに。

よく見ると、そのモンスターの周囲や体に黒い斑点のようなものが動いていた。

「キシャァァァ!!!」
バキバキッ
ドシャン!!!

バリバリッ

ビキィンッ
 ビキィンッ

その斑点が動くほど、そのヘビから大量の小さな魔獣華を咲かせていた。

「キシャァァァン!!!」

「あのモンスターは?」

「他のモンスター、もしくは同じ仲間も飲み込んだりするギカントボアと言う巨大な大蛇のモンスター。
そしてあれがエゼルスィトの狩りになる、彼らの進む道は骨しか残らない」

するとマーニさんが腕を組んでウーンと何かを考えながら言った。
「でもアスラ、あれは普通のエゼルスィトの狩りじゃないんじゃない。
あのモンスター、どう見てもあのヘビに魔獣華を咲かせているんだけど。
もしかして魔獣なんじゃないの」

「まさか、モンスターが魔獣になっているの?」

「認めたくはないけど、そうだ。
それとこれは僕の考えだけど、魔獣達はエゼルスィトにわざと食べられたのではないのかな」

「えっ、でもマスターが言っていたのは魔獣は周囲にいる生物全てを襲う凶暴な性格だって言っていたけど」

「魔獣のその凶暴性を作られている源は、他者の憎しみもあるがこの星で生き残るための生存本能さ。
例えば、この地域で確認されている二体の魔獣の主である暴食のリンネが魔獣達の生存を脅かすようなことをしたら彼らも生物として生き残るために何だってするだろうね。
他のモンスターと同化して、子孫を残せなくてもね」

「なぜ、ここまでそんなことするんだろうね。
彼らだって、今までどの魔獣も同化なんかしなかったから本能としてそんなことわかっているのに」

「マコト、エクスカリバーで見ただろうあの骨でできた白い大地を。
誰だって、死が迫るとどんなものにでも希望にすがる」
あの魔獣たちの殺し合いで作られた白い大地、あれも魔獣が生き残るために他の生物を殺すように変容した証拠。
そしたら、魔獣が生き残るために再びこの地で都市エクスカリバーと同じことが起きているのか。

「そうなのね。
それでとりあえず、どうするの」

カンッ

マーニさんにそう言われるとアスラさんは杖を打ち付けて話し始めた。

「あのエゼルスィトは魔獣と同化しているから巣も持てず繁殖も出来ない、ここで倒しきれば街にも被害がでないだろう。
作戦としてはマコトの強者のマギアで閉じ込めて、僕の氷魔術で凍らせて倒す。
マーニは、僕たちに近づいてくる周囲のモンスターを近寄らせないでくれ」

「分かった、任せて」
そう言うと、彼女は木によじ登って、他のモンスターが近づいて来ないか見渡しに行った。

「アスラさん、どうやって俺のマギアで閉じ込めるんですか。
俺のマギアはそんなに大きくできないし」

「僕が魔力を放出させて囮になるよ」

それって、アスラさんごとエゼルスィトを閉じ込めることになるんじゃ。
「いやさすがにアスラさん、危ないんじゃないですか」

彼は少し微笑みながら話した。

「マコト、心配してくれるのはありがとう。
だけど僕を信じてください」

そうだ、今までアスラさんの作戦は彼の言う通りに動けば失敗することなんてなかった。
何で俺はそんなことを言ったんだろう。

「うんごめん、アスラさんは強いから。
絶対に勝つもんね」

「あまりそんなに褒めないで。
それで僕の合図があるまでここで見ていて」
そう言うと、彼は照れ隠すように被っていたトンガリ帽子で顔を隠して、そのモンスターのほうに走って行った。

するとギカントボアを捕食し終わったエゼルスィトが次はその横に走り出した彼に狙いを定めて追いかけて行った。

ザザッ

そしてアスラさんはこちらのほうに向かって走ってきた。

ゾロゾロ
「ふっ、思った通りさすがは魔獣。
少し強い魔力を感じるといっせいにこちらのほうに来た。
マコト!!!
僕がいいと言うまでマギアを使わないように」

「分かった」
大丈夫かな、いや信じないと仲間なんだから。
そして俺は緊張を少し和らげるように槍を強く握ると。

「マコト頼む!!!」

「わかりました」
彼の合図があり、すぐさま槍を地面に置き、両手を広げマギアを発動させた。

ぐぅいん

マギアは彼と迫ってくるエゼルスィトごと囲むことができた。

「では、万物もを凍り付け、コキュートス・ゼノ!!!」

ブゥンッ

ガキィン

彼が杖を一振りすると、マギアを展開させた感覚が無くなり、自身を包み込んだ感覚に戻っている。
これはアスラさんの氷魔術でバリアが壊れている。

「まぁ、こんなものでしょう。
マコト、もうマギアを解除させていいよ」

本人も気付いていないけど、またアスラさん強くなっている。
やっぱり凄い人だ、俺もいつも助けられてばかりだから頑張らないと。

ボゴッ

突然、彼の足元の地面にいくつもの小さな穴が開き、そこから大量のアリが湧き出てきた。

「しまった、地上にいたのは囮か」
彼の声を出したときにはもうすでに魔獣は彼を囲んでいた。
早く、アスラさんだけでも守らないと。

ぐぅいん

「マコト、僕にマギアをかけるな!!!」
彼の言っていることは分かる、多分マギアを突破できない魔獣が次狙うのは俺のほうだから。
それを心配しているのだろう。
でもたまには俺が彼を助けないと、もう自分のマギアを破壊するほどの魔力を消費したから、もうあの数を対処できる魔力なんて無いだろう。

「来い、魔獣達」

ブゥン

迫り来る小さな魔獣の群れ、俺が持っていた槍で薙ぎ払った。
だが、弾き飛ばしたけど数匹ぐらい槍に乗っかってきて俺のほうに槍を伝って、こちらに迫ってきた。

ブワッ

水分を多く含んだ重い熱風は小さな魔獣を吹き飛ばした。

「キシャアッ、キシャアッ、クワァァァ」

硬い牙を打ち鳴らす聞き慣れた声、忘れもしないこの声は。
アイツだ。

「気をつけてマコト、暴食聖域が展開された」

マギアに包まれて恐怖で引きつったアスラさんが言う通り、そう後ろから見えたのは空を飛んでいる暴食のリンネだ。
確かに魔獣がいたからだけどどこから現れたんだ、あのバッタもいなかったし。
ダメだ、死ぬ。

パリーンッ

すると無理矢理、俺のマギアを壊したアスラさんがすぐに目の前に立った。

「マコト、アナタだけでもマギアをまといながら逃げろ」

「でもアスラさんだけ、残らせたくない」

「早く、逃げろ!!!」
彼の言葉を信じたら、また失ってしまう。

「だって、もうモードレッドさんみたいにアスラさんもいなくなってほしくないんだ」

ザザザァーン

「ハッ」

リンネに気を取られ、魔獣達のことを忘れていた。
背を向けていた俺たちを魔獣は、逃げづらいように上からいっせいに襲いかかってきた。

「キシャァァァ!!!」

リンネが耳を千切れそうなぐらいの高い鳴き声を出した。
周囲の透明な暴食聖域が黒く染め上がった。

そして、リンネは四散してかつて俺を襲ったバッタになり、次々に魔獣だけを食べた。

バリバリッ
容赦なく、魔獣を喰らい尽くすその姿に二人とも何も声も出なかった。

そして、俺たちに気付いてはいるが魔獣を食べ尽くした暴食のリンネの群れは、一度こちらの姿を確認した後、すぐに羽音を鳴らしながら集合して元の甲虫の姿のリンネになり空に消えていった。

「なんだったんだ、一体。
そうだ、マーニさんを迎えに行かないと」

なぜ襲わなかったか疑問は残るけどマーニさんは大丈夫なのかと思い、彼女が向かった森のほうに向かうと。

「大丈夫だった、二人とも。
特にアスラは魔力切れ起こしてない」

そこには騒ぎに聞きつけた彼女が走ってきた。

「アナタも前のこと、けっこう言うんですね」
アスラさんは魔力切れを起こしたことを言われて機嫌を悪くしたのか、少し睨みつけながら言った。

「ダメだよ、アスラさん。
マーニさんはイジワルで言っているわけじゃないんだから」

「……そうだよね、ごめん二人とも」

「あはは、そんなにアタシも気にしてないよ。
さっそく帰りましょう」

そして俺たちはそこから去ろうとすると。

ザザザッ

空からゆっくりと降りてきた男の人がいた。
えっ、飛んできたの。

その姿はアスラさんよりは黒っぽい金髪で刈り上げており、腰には銃と手榴弾が装備されており、背中が隠れるぐらいの黒いスナイパーライフルを背負っていた。

「へっ、なんの騒ぎかと思ったら、やっぱり貴様たちが魔王軍三勇者か」

「マコトは下がって」

「えっ、えっとアナタは?」

「俺は四英雄の一人、人からは万武英雄と呼ばれているモーガン・アイハムだ」
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