第22話 豊穣海山(ケートス) 

文字数 2,340文字

その前日、モンスターの中でも神話の時代と呼ばれる太古の時代から生きていた始生物と呼ばれるモンスターが発見された。
その名は、晶鯨ケートス。
別名、豊穣の海山。

始生物は、その数が少ないのと長い年月を生きたゆえに磨かれた生存本能からの警戒心の強さによってその生態もほとんどが魔獣並に分かっていない幻の生物。

そして俺たちは、晶鯨ケートスの背中にある様々な素材を採取するためにクラレントの兵士達と一緒に軍艦に乗った。
その素材は背中から採取するようで、聞いた話によると、その背中から出てくる老廃物はアブラサバと混ぜれば爆発性の火薬ができると聞いた。
恐らく、いつか現れる魔獣に対する戦力の増強のためなのだろうか。

今回、病み上がりのアスラさんは街に残り、マーニさんと俺と二人だけで軍船に乗った。

「マーニさん、ケートスって言うモンスターはどんな姿をしているんですか」
しばらく船が進み、潮の匂いを感じながら彼女に聞いてみた。

「マスターから聞いた話だけど、この船の数倍は大きくて、小島ぐらいの大きさの魚みたなものかな?」
マーニさんが手を使って大きさを表していると。

「現れたぞ、ケートスだ」

会話をしていると、それは現れた。

「オォォォォォン!!!」

波を割り大海から顔を出したそれは、顔に三対の槍のように尖った角を生やした、藤のような色をしたクジラだった。

縄張り意識が高いのか、それとも魔獣のように凶暴なのか、自分たちに気づくと三対の槍に魔力の塊のようなものを溜め込んでいた。

「ケートスの波状魔力攻撃、アラナミが来るぞ、魔術師達はすぐに前線に出て防御魔法を張り巡らせろ」
指揮をとっていたモードレッドさんの号令の元、船に乗っていた魔術師たちは、前方に盾のような障壁を張り巡らせていた。

「じゃあ、俺も行ってくる」

ガシッ

走ろうとした俺を慌ててマーニさんが止めた。

「マコト、行ったらダメよ。
転生者と知られたら、いくらモードレッド様がいても何されるか分からないから」

「そうですよね、ごめんなさい」
そうだった、この都市でどれぐらいの人が帝国や転生者に怨みを持っているか分からない。
自分の今の行動はあまり軽率だった。

「別に良いよ、それであの晶鯨ケートスの作戦は覚えているよね」

マーニさんの言うケートスの作戦とは、ここに出発する前にモードレッドさんからそのモンスターの鉱石採取についての説明があった。

ケートスは一度相手を威嚇する為に咆哮し、それでも引かない場合は、アラナミと言われている波状魔力攻撃を行い、それで対象が怯んだ時にその巨体を生かして突撃していると教えられたから。

「複合防御術式、アイギスシールド!!!」
すると、そのアラナミを止める魔術師たちのグループが同時に詠唱を始めた。

パァァァ

キィーン
 ガガガガガッ

「グワァァァァン」

ザパパパパァァァン

「突撃してきたぞ船体を避けて、高音笛(コウオンテキ)を鳴らせ」

その船のリーダーであるモードレッドさんが言っていた高音笛とは、ケートスが発する鳴き声を模した笛でそれを吹けば、そのモンスターが眠りにつく音を出すことのできる音響兵器である。

ツー、ツー

「あんまり、聞こえないわね、笛の音でているのかしら」
マーニさんのいう通り、兵器は作動しているのにあまり音は聞こえなかった。

「もしかしたら、俺がいた世界にもクジラっていうあれほどは大きくはないけど、その生物も人には聞こえない音で会話したりしているって聞いたことがあるから、それと一緒なのかな?」

「物知りね、マコトは」

「そ、そ、そうかな」

そんな会話をしていると、笛の音で先ほどまで興奮していたケートスは、海にプカプカと浮かびながら眠っていた。
本当に動かなければ、このモンスターの背中は小島に見えなくもないな。

ザザザザッ

「未だ、奴の上に乗り込め」

そう、これはまだ始まりである。
その次は、巨大なケートスの背中に乗り込み、そのモンスターが目覚める前に一気に背中の素材となる老廃物や生えている珍しい海藻を採取しなければならない。

カンカンッ

「うりゃぁぁぁ!!!」
いつも刀剣を振るっているからなのか、マーニさんはツルハシで何度も何度も岩状になった老廃物を削っていった。
普段、刀剣を振るっているのかその姿に一切の無駄はなかった。
そして自分は人員が少なくなっていた運搬係のほうを手伝った。

数時間後……

夕日が地平線に光の水滴を垂らす時、それを追いかけるように泳いでいるケートスの姿が見えた。

「皆、ご苦労様であった。
あとは街に帰るまでだから、十分休息を取ってくれ」

モードレッドさんの労いの言葉を聞いた後、俺とマーニさんは呼び出された。
俺たちは、船の船長室にあたる部分に入った。

「今回は手伝いをありがとう、だいぶ助かったよ」

「それはこちらこそありがとうございます。
それで俺たちに何か用ですか」

「とある兵士が拾ったのだが、これを何だと思う」

「何ですかこの毛は」

「その毛は、魔獣ギプソフィラというヤギに似た魔獣だ」

「魔獣ギプソフィラ……
魔獣がこの街周辺にも現れたんですか」

「君たちが戦った、魔獣シンビジウムに近い種類でヤギに似た姿を持っている」

「そしたら、魔獣がいると言うことは近くにリンネがいたりするんですか」

「確かに今確認されているものは暴食のリンネだけなのだが、リンネがいなくても魔獣達は、普通に現れるからな。
そこは十分、気をつけて欲しい」

「分かりました」

話しが終わった後、船が街に着いた後、外に出るとアスラさんが松葉杖を突きながら待っていた。

「おかえり、二人とも」

「ただいま、アスラさん」

彼の顔が夕焼けに照らされながら、その日は終わった。
街はケートスの素材採取の成功でお祭りをあげていた。
人々の楽しそうな声、ずっとこんなのが続けばいいと俺は思っていた。
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