第16話 ふあん(自身)

文字数 2,148文字

「ハァハァハァ」
またここに存在することができた、存在できたことは嬉しいが同時に消え去るかもしれない。
この前と同じ感情を味わうと考えると、不安になってきた。

しかし、ここはどうやら前に来たことのある宮殿であの四英雄と王様が会議をしていた場所のようだ。
次は、もう少し相手のことを知ってから話をしよう。
話す相手は、俺にはなにも分からないからね。

一人の兵士が前回までラウさんと話していた王のところに震えた声で言っていた。
「飛行艇アマテラスの反応が消えました」

「ラウ、ごめんなさい……」
立ちつくす王の顔はまばたきもせずに目から涙が出ていた。
あれは悲しみなのだろうか、何とかしてあげたいけど彼女から見えない俺には何もできない。

そんな何もできない無力な自分に対してむちゃくちゃにしたい気持ちはなんだろう。

「王様、ラウの都市から天の炎が発射されたと聞きましたが、どちらに放たれたのですか」
そんなことを思っていると兵士と入れ替わるようにラウさんの仲間である四英雄の一人がやって来た。

あの女性はミーナさんと言う、俺のことが見えていた妖精さんのお世話をしていた優しそうな人だ。
その人は魔術師では大事なはずの杖を落とし、ラウさんを失った悲しみで崩れそうな王様に駆け寄った。

「ミーナ……」

「答えてください、王様」

「ラウのほうよ」

立ったままの王は涙を流し、口を震わせながら目の前にいた彼女に抱きついた。

「王様……」

「ごめんなさいミーナ、ごめんなさいミーナ。
アタシとんでもないことをしてしまったわ」

✳︎✳︎✳︎

そして、王様はこの宮殿のメイドさんに別室に連れて行かれ、そこに残っていたラウさん以外の帝国四英雄の三人が話していた。

「それで王様はどうなったんだミーナ」

「モーガン、今は落ち着いて寝込んでいるけど、かなり心身とも疲れ果てているわね」

「チッ、一体何が原因なんだよ、帝国に裏切り者でもいるのか」

「これが原因のようだな」

「死んだ虫?」
バートランドさんが二人に見せたその虫はバッタのようでどこかで見たことのあるようだった、ハッキリとは思い出せないけどあまりいい感じはしなかった。

「ーーいや虫のように見えるが、調べてみるとこの虫は同質という、自身を周囲のものと同じものにして自分のものにできるという性質を持っている」

「まさかこの虫一匹が天の炎を誤射させたのか」

「ーーそうだ、それも正確にラウを狙ってな。
恐らく、この虫が天の炎の発射装置に入り込み自身の肉体を変化させ、安全装置を破壊して、発射のプログラムを作り直し、彼を狙ったようにしたと言ったほうがいいだろう」

「じゃあ、この虫の正体ってのはアイツなんだろう?」

バートランドさんは、一息ついた後眉間にシワを寄せてこう言った。
「ーー暴食のリンネだ」

「やはりリンネか、各地の都市を襲っている魔獣の王にして災厄に近い存在、それがまた現れたというのか」
腕を組みながら考え込んでいるモーガンさんを見て、彼は話し始めた。

「ーーそうだ、そのために二人にお願いがある。
まずモーガンさんは最強の魔獣がいる大陸のほうに向かってくれそこの結界が最近調子が悪いようだから、そしてミーナさんは更に西に行って、クラレント海域の魔獣たちとそのリンネの調査をしてくれ」

「あぁ分かったバートランド、さっそく準備しねぇとな」

「うん、ボクも絶対にラウを倒したリンネを倒すから」

「ーーあぁ、この帝国ムラマサとその他の都市は私が絶対に守るから頼んだ」

その三人から見えないが、さすがに近くで立っていて聞くのもなんか見えたときが不安になって、廊下のところで盗み聞きしていた。

「こんなところでどうしたの、君は」

「ワッ!!!」
後ろから優しげな声がして驚き、後ろを振り向くと。
声に反して見た目は幼く、翼の生えたまさに妖精のような少年のような少女のような子どもが立っていた。

「なんだ、えっとなんて呼べばいいかな」

「そうかそれは、自己紹介が遅れたね。
オイラはラプマルと呼んでいいよ」

「こんにちはラプマル、それでアナタには見えるんですか」
すると彼はコクリとうなずいた。

「もちろん、ずっと見えていたよ。
君が見えないと思っていたときからね。
この前も君が現れた時もラウには見えてたようだね、恐らく微小な魔力体の存在である君が少し成長したことでやっと魔力量の少ない彼でも姿が見えたのだろう。
ところで君の名前は」

そう聞かれると、頭に思い浮かんだその名前を言った。
「俺の名前は……、恐らくマコト。
マコトだ」

「それは、本当かい。
本来の君は都市ティルウィングにいるはず。
不思議なものだね、それとほかに思い出せることは、何かあるのかい」

「いいや、今やっと名前が思い出しただけで、それ以外は何も」

「そうなのか、なに分からないことがあればオイラに聞くといい」

「ありがとう、でもなんで俺にそこまで」

「それは君のことに興味が湧いてきたからさ。
大丈夫、オイラは君の味方さ」

「そうなんですか、それともう俺は帰らないと」

「どこに帰るんだい」

「それは分からないけど、でもどこかに帰らないといけない」

そして彼に別れを告げて、俺はいつものようにそこから存在を消した。
俺の存在の意味は未だ探している、だけどあきらめなければいつか見つかると信じる。
今は時の流れに身をまかせるだけ……
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