第46話 ラケシス・空完

文字数 5,149文字

澄み渡る見慣れた青空、数々のモンスターや様々な人種が調和を保ちながら命育んでいる世界。
ここは間違いないエリシオンだ。

アスラさんがまさかあのとき電車にひかれそうになった人だったなんて。

すると今まで外の風景は変わり、どうやら見たことのない大きなシャングリラが特徴の外側は和風で内側は洋風が混ざった城の中にいるようだ。

その城の地下室には、人が入れるぐらいの水のようなものに満たされたガラス状のカプセルに簡単な服を着ていた彼は眠るように目をつぶっていた。

そこには、ラウさんやミーナさんにモーガンさんとあとは初めて顔の見た三人がいた。
一人が男性で二人が女性だった。

男性のほうは、両腰にそれぞれ一本ずつ刀と剣を装備しているから、マスターが言っていた最後の四英雄の一人、刀剣士バートランドさんだろう。

そしてその中でかなり綺麗な銀髪に黒髪の混ざった高貴な雰囲気を持った女性がいた、恐らくあの人がムラマサ帝国の王様だろうか。

最後に一人だけは分からなかった、恐らく四英雄の一人と言われても差し支えないぐらいの感じはするんだけど……
そうか、転生者はリンネになるから、もしかして暴食のリンネになる前の転生者なのか。

そんなことを考えていると、アスラさんは目を開いた。
ガンッ
ザァァァ

それと同時にカプセルは真ん中から割れて、満たされていた水のようなものは床に流れた。

アスラさんも混乱しているのかおぼつかない足で前に進んだ。
それはそうだよね、俺もこの世界に転生したときって、えっ?
おかしい、俺が目覚めたのはマルスさんの前だ、なんで俺にはこんなカプセルみたいなものなんてなかったんだ。
マルスさんたちが別のやり方で転生させたのか。
でも今見とこう。

「ようこそ、神暁アスラ」  

「……はい?
えっとどこですか、ここは」

「この世界はエリシオンで、アナタはこの世界で第二の人生を歩むことになりました」

「えっ、第二の人生?」

「酷なことですが、前の世界のアナタは死んでしまったのです」

「えっ……」
アスラさんは死んでしまったと言う事実を知り、今よりもだいぶ短い金髪から水が滴るまで固まっていた。
そして、金髪から水が一滴落ちると。

ダッ

彼は逃げるように走り出して、扉を開いて廊下を走ったどこかに行ってしまった。

「あっ!!!」
驚いた王様にすかさず、ミーナさんがジト目で少し呆れた様子で言った。

「王様いきなりそう言うと、誰だって混乱しちゃうよ」

すると、真面目な王様なのか申し訳なさそうに声の大きさを下げながら話し始めた。
「ごめんなさいミーナ、あまり私も転生者についてよく分からないことが多いから、それよりも彼を早く追いかけないと」

「う、うん、それはボクに任せてください王様」
さすがに言い過ぎたのかと思って、ミーナさんも少しトーンを抑えた感じの声になっていた。

「うんお願いするわ、ミーナ」
そう言われると、彼女は彼を追いかけるように走って行った。

✳︎✳︎✳︎

そして彼女の後を追いかけると、アスラさんは湖の前で座り込んでいた。
「わけがわからないよ、ここどこの国なんだ」

「ここは、樹海都市帝国ムラマサ。
よろしくね、神暁アスラくん」
そう言うとミーナさんは彼のとなりに座った。

「アナタはさっきの王様みたいな人と一緒にいた」

「ミーナでいいよ」

そして、アスラさんは前の世界でいたことやエリシオンや転生者について色々とミーナさんと話していた。
転生者については俺も知っていることで特に聞いたことがないようなものはなかった。

「それで僕はこの世界で何をすればいいんですか?」
彼女は立ち上がって、湖を背に向けて彼に言った。

「この世界は、ここ数十年前から魔獣と言われるこの世界の生態系を根底から破壊する敵と戦っているの。
その魔獣を倒すためにボク達が呼ばれたの。
ボク達、転生者は王様が目指した理想である全ての魔獣を倒すことを使命で動いているの。
でもね、強制ではないから、キミの意思でこの世界の平和に協力するか決めて欲しいな」

「分かりました、ぜひ協力させてください。
あのとき助けられた人に僕は何もできなかったのだから」

アスラさん、俺のことを思って言っているのだろう。

だが一つ疑問に引っかかるのは、俺達がミーナさん達と会った時はアスラさんと一緒にいたけど両方とも知っている様子じゃなかったし、なんでだろう?

カチャン

そしていきなり風景が変わり、先ほどまで湖の周囲の木々は深い緑だったのに、季節で言う秋なのか木々の葉っぱが赤くなっていた。

「ハァッ!!!」
パキィパキィ
アスラさんの術式を発動するときの声が聞こえる。
よく見てみると氷魔術の練習をしていた。
地面からは今よりかは小さいがいくつもの氷の結晶がタケノコのように生えていた。

それを遠くから見ていた二人がいた、ミーナさんとバートランドさんだ。

「ーーどうですかミーナさん」

「バートランドさん、アスラくんは頑張っていますよ。
帝国で最近魔術として確立された氷魔術をあんなに短期間で使えるようになったんですからね」

確か、クラレントに来るときにミーナさんが驚いていたのはこれだったんだ。
でも、やっぱりなんで二人とも再会しても知らないようなようすだったんだろう。

「ーーそれはよかった、今からアスラさんのマギアの発表があるみたいだから来るといい」

「分かった、アスラくん。
ちょっとこっちに来て」 

「はい、分かりました」

そして、三人とも王様のところに行ってアスラさんのマギアを聞きに行った。
確かにアスラさんのマギアはなんだろう。
そんな興味を湧きあげてワクワクしながらついて行った。

「アスラ、アナタのマギアは心奥、対象の相手に強く念じることでその人の考えていることがわかるマギアよ。
でも転生者にそれをするとその転生者のマギアで邪魔されて見れることはできないから」

「よかったじゃん、アスラくん。
魔獣が次どんな行動するのかわかるから、結構使えるマギアだよね」

「そうなものなんですかね、でも魔獣はいいとしても人の考えていることをそんなに勝手に見るなんてなんか失礼ですよね」

「ーーそればっかりは仕方ないことだ。
マギアというものは、前の世界で死んだものが望んだものなのだから」

そうなんだバートランドの言う通り、俺として考えてみれば、電車に迫ってきて死にたくないという思いが俺の強者のマギアを作ったものだったんだ。
知らないことが多いな、マギアや転生者の関係も。

すると、それを聞いたアスラさんは無言でボロボロと涙を流した。
どうしたんだろう。
「アスラくん、大丈夫?」

「いいえ、僕が願っていたことがあの命を救ってくれたマコトさんの思いを知りたいというものが形になったことに素直に嬉しかっただけです。
だって、僕がこの世界にいても彼に助けられているということを知れたから。
僕も頑張らないと」

「そうよ、頑張らないとね」

アスラさん、そんなに俺のことを思っていたんだ。

それからまた風景が変わり、次は湖に桜に似た花びらが浮かびアスラさんがこの世界に来て一年が経った。

「ハッ!!!」

ガキィン
アスラさんの腕も上達してきて、今とほとんど変わらないぐらいの大きさの氷も一個ずつだけど出せていた。

「やった、やったね、すごいじゃんアスラくん」  

「ミーナさんの指導のおかげです、ありがとうございます。
次はコキュートス・ゼノも出せるように頑張っていきます」

「まぁ、キミの実力ならすぐに覚えれるよ。
アスラくんが強くなって魔獣を倒す実力が認めれば正式に六英雄になるよね。
バートランドくん、モーガンくん、ラウくん、ナギちゃん、アスラくん、そしてボクだからね」

「そうだ、明日王様がまた次の転生者を呼び出すみたいだよ」

「誰なんですか」

「確か、王様がいうには、神楽誠くんとかいう人じゃなかったけ」 

「えっ……」 
するとアスラさんは涙を流して震え出した。

ポロポロッ

「どうしたの、アスラくん」

「良かった、良かった、彼にやっと恩返しができる」 

いやおかしい、俺が目覚めるのはマルスさんのところなのになんでだろう。
でも、今はアスラさんの過去を見るしかないか。

それからアスラさんは毎日、俺が眠っているカプセルを見ていた。

「マコトさん、早く目覚めて欲しいな」

ゴポポポポッ

それから場面は変わり、目の前には王様とミーナさんが話しをしていた。
 
「それで王様、マコトくんの件はどうするんですか。
呼び出された時からずっと眠ったままなんですけど」

「恐らく、彼のマギアである強者に邪魔されているのよ。
だから目覚めるのは、いつかは分からないの」

ダダダッ
すると、それを聞いていたのかアスラさんが走って、王様の腕を握りしめた。

「王様、マコトさんが目覚めることはないんですか」

「アスラ、私もこればっかりは分からないわ」

「今は待つしかないよ、アスラくん」

「分かりました……」
そして、彼は寂しそうな背中を向けながらその場を去って行った。

カシャン

そして、場面が変わると、王様が悩んでいるような表情でアゴに手を当てていた。

「それで被害は、魔王ゴグマゴグ・フールの魂と眠っていた転生者マコトでありますか」

「ーーすみません、魔王軍幹部の三人に襲撃されるとは、ですがどんな処罰でも受けますので」

「バートランド、処罰は魔王軍の追跡を止めることよ。
これ以上魔王軍とも事を争いたくはない、本当の敵は魔獣なのだから。
あなたは今まで通りにモーガン、ミーナ、ラウ、アスラと一緒に各地に現れる魔獣を倒してください」

おかしい、先ほど言っていたナギさんという人物には何も言っていない、まさか彼女はもうすでにいいやただ言っていないだけかもしれない。
そして俺がそんなことを考えていると、扉の影から人の姿が見えた。

「マコトさん、アナタだけは幸せにしてみせます」

その姿はアスラさんだった。

カラカラッ

また場面が変わると、どこかの部屋で機嫌の悪そうに眉間にシワを寄せたモルガーナ先生が机を指でトントンと叩きながら座っていた。

「まったくなぜここが分かったのかしら。
五英雄の一人、アスラ」

「僕のマギアは他人の心を読む能力ですので、元魔王軍に所属していた街の人の心を読みながら転々としているうちに居場所がわかりました。
数年はかかりましたけど」

「それで、私とやりあうのかしら」
先生が立ち上がると、彼は頭を下げた。

「いや、僕を魔王軍に入れさせてください」

すると、先生は先ほどまで警戒していた厳しい顔から一気にポカンと呆然とした表情になった。
確かにいきなり敵だと思っていた人にそう言われると誰だって驚くよね。

「ええっ、それはなんで入りたいのかしら」

「魔王軍ならマコトさんを目覚めさせることができると思いまして」

「心が読めているなら、アナタは分かるわよね。
それがどれほど可能性が低く、どんなことを背負うものなのかもね」

「えぇ、知っています、マコトさんが幸せになれるのなら、僕はどんなことでもやります。
これが僕が彼に対する恩返しの一つになりますから」

カシャン

そして次も場面が変わり、どうやらティルウィングのマスターのいたギルドの中だった。

「本当にいいのか、マルス」

「なに、元々私はリッチーであるため生と死が曖昧なため生と死の境界に辿り着いてもそのまま死の世界には流されないため大丈夫だろう」

「マルスさん、マコトさんをよろしくお願いします」

「満面の愉悦に浸れ少年よ、その願望が叶うのだから」
ははっ、さすがマルスさんらしい言葉は難しくてよく分からないな。

「恐らく魔王様の魂もそこに眠っているから、ちゃんとマコトくんに託しなさいよ。
託さないと彼も目覚めないんだからね」

「分かっている魔女、では行ってくる」

「頑張れよマルス」

「なに、隣の町に行くような気分さ、それとマキュリー、来週はモルガーナの310歳の誕生日だから忘れないようにしろ」

「ハハッ、まいったな確実に忘れていたよ」

「なんで、こんな男を好きになったんだろう私は…………」

ビュンッ

これから俺はマルスさんに目覚めさせられるのか、俺の知らないアスラさん、こんなこともあったんだ。

するとどこからか声が聞こえた。

「マコト、次の彼の記憶はあなたの感情があまり出せずにアスラさんの感情や思いがあなたと同化するようになってしまう」

「それはなんで」

「彼のその記憶に対しての思いの強さがあるからだ。
次から、彼の本当の旅が始まった。
だから、あなたはただ見ているだけでいい、それらを見終わってから、旅を見届けた者としてあなたがどうしたいか選んで欲しい」

「うん、分かった」

「ありがとう。
瞳を閉じたら、彼の旅の続きが始まる」

彼に言われたように俺は瞳を閉じた。
そうだ、俺の知りたかったアスラさんのこと。
なぜ、彼をあそこまで変わってしまったのかそれを知れるのだ。
仲間である俺は知らないといけない。





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