第5話 彼女(かこ)

文字数 2,922文字

魔獣との戦いで疲れでグッスリと眠っていたが途中で何故か頭痛がして目が覚めてしまった。
となりをみるとアスラさんも眠っていて、さすがに明かりをつけるのは起きそうだから良くないよね。

「うー、どうしよう。
なんか頭が痛くて、全然眠れないんだけど。
ちょっと、夜風にでもあたろうかな」

暗い部屋で目を慣れさせて、外に出るため、寝室の扉を開こうとすると、食事をしたダイニングのほうからマーニさんの声が聞こえた。
彼女はまだ起きているようだ、盗み聞きはいけないことだと思うけど、やっぱり聞きたくなる。

そして部屋の扉をコッソリと開けて、そこを見ると、マーニさんがイスに座りながら、テーブルの上に置いてある小さな写真立てみたいなものに話しかけていた。

「ブラダ、ロラン、私ね。
新しい仲間ができたの。
一人は、誰にでも優しくて、自分のことよりも人のことを考えるブラダみたいな人で、もう一人はちょっと口は悪いけどでも間違えたことをしっかりと怒ってくれるロランみたいな人だよ。
また、私頑張って行けると思うから見といてね。
次こそ私は勇者になるために逃げないから」

やっぱり、盗み聞きなんてよくなかった、彼女の大切な思い出をこんな形で知るなんて良くない。
夜風にあたろうと思ったけど、やっぱりまだベットに潜っていよう。

✳︎✳︎✳︎

そして、朝になりましたが……

「まぁ魔獣との戦いも連続であったし、疲れとかでちょっと風邪をひいているね」

マスターの言われた通り、今俺は風邪を引いています、うーん転生者になっても風邪を引いてしまうとは、想像していなかった、あまり普通の人間と違いはないのかもね。
それとまだ頭も痛いし、夜中のあれはカゼの前触れだったんだろう。

「コホッ、すいません皆さん」

「いいのよ、マコト、今日はクエストに行くのはお休みにしましょう」

すると、アスラさんがいきなり立ち上がり、何やら外に出る準備を初めた。
「じゃあ、僕はちょっと一人で行きますので」

「アスラ、どこかに行くのかい」

マスターにそう言われると、彼は言った。
「決まっているじゃないですか、カゼに効く薬草を買いに行くのですよ」

「あら、そしたら私も行くわ。
アナタ一人だけじゃ、ここの地理わからなさそうだし」

「好きにすればいいよ」

「ごめん、マスター。
私、正直マジックスライムの看病の仕方は分からないの。
だから、マコトのことを頼むわ」

「まぁそれが正しいよ、この街にいるマジックスライムは僕とマキュリーしかいないんだからね。
ギルドのほうもゴブリさん達に任せているから心配しなくていいよ。
くれぐれも二人ともケガをしないように」

「分かっているよ、じゃあマコト行ってくるね」

「ありがとうございます、マーニ」

ガチャ
バタンッ

そして、二人が出て行った。
後で帰ってきたら、ありがとうって言わないと。

彼女らが出て行くと部屋は朝の小鳥達の歌が聞こえた。
マスターが隣で座っている中、俺はベットの中で横になっていた。

ふと横を見ると、小さな丸いテーブルの上に額縁に入れられた小さな絵に目が行った。

その絵は、二人の女の子と一人の男の子が、大きな木の下で走り回っているものだった。

「目の前にある絵、なんか心が暖かくなるような絵ですね」

「あぁ、それはとある魔女が描いてくれた絵だね。
題名が、大きな木の下でだったよね。
彼女の大切な物で思い出でもあるね」

「マーニさんって昔、仲間がいたんですか」
俺はその絵が恐らく、昨日こっそりとのぞいたときにマーニさんが見ていたものだと思い、質問してみた。

「あぁ、その前に最初は彼女の過去から話さないとね。
ーー彼女は元々この街の子じゃないんだな。
昔、いつかは忘れたが何処かから逃げてきたようにボロボロな格好でこの街に来たんだよな」

「何があったんですか」 
そうだったんだ、確かにマスターはマジックスライムだからエルフのマーニさんが子どもなわけないよね。

「いや、それは僕もわからない。
マーニは、相当辛いことがあったんだろう、街に来た時にはすでにその前の記憶はないと言ったから」

「そうだったんですね……」
そうか、だから記憶が無いと嘘をついた俺にここまで親身になってくれたのかもしれないな、真実を話すときはしっかり謝ろう。

そしてマスターは話しを続けた。

「だけど僕と一緒に生活することで、最初はほとんど話さないようなことが多かった段々と慣れていくうちに彼女も明るくなって、誰にでも話すようになったんだよ。
そして、街のモンスター討伐のクエストをこなそうと剣の練習をしていると、その君が言う仲間と会った」

「ロランさんとブラダさんですよね」

「そう、よく知っていたね。
まぁ正確に言うと、その二人のほうが先輩だったんだけどね。
マーニは、今の君のような感じさ。
ケンカもしたりもしたけど、すぐ仲直りしてこの街で最強のチーム、魔剣勇者だったよ」

「最強のチーム、魔剣勇者だったんですか」

「あぁ、だがそれは長くは続かなかった。
突然それは現れて、この街や彼女に絶望と破壊を振りまいた」

「何ですか、それは」

「魔王軍と連合都市との戦争のときにも突然現れたもの、暴食のリンネと呼ばれているものだ」

「暴食のリンネ……」

すると、マスターは穏やかな光が差し込む窓を見ながら、静かに語った。
その声は、悔しさと怒りが混じっていたと感じた。

「もう数年前か、元々ここの街は太古のブナの原生林が生えていたカラド森林地帯の一部だった。
だが突然その木々が何者かに食い荒らされて無くなっていたんだよ。
それを調べようと魔剣勇者は森林の中に入った。
だが、その木々を喰らっていた暴食のリンネに襲われて、マーニだけ逃がすために二人は死んでしまったんだ」

「えっ……」

「それから暴食のリンネは街にも襲撃し、あらゆるものを喰らい尽くした」

「そ、そ、それで最後はどうなったんですか」

「魔王軍幹部であるマキュリーが参戦したことで撃退はできたけど遅かったんだ、この街はほとんどを失ってしまった。
そして、街も今やっと復興したところだ」

ガシッ

暴食のリンネ、それを倒すのが俺の目的か。
だけど、どうやって倒すんだ、強さは魔獣以上だし、俺も今よりも強くならないといけない。

すると、俺が考え込み、何も言わないでいるとマスターは俺の手を握った。

「だからマコトお願いだ、これはぼくのワガママなんだけど、マルスの目的よりも君は無理をしないでくれ。
もし、君が無理して大怪我をしたり、死んでしまったりしたら、またマーニが悲しむから。
もう、ぼくはあの子の悲しむ顔はもう見たくないんだ」

「マスター……
分かりました、俺は絶対マーニさんを悲しむようなことはしません。
でも、生き返らせてもらったマルスさんの願いも同時に叶えるに頑張りますよ」

「ありがとう、君はそう言う子だよね、その優しさをずっと忘れないでくれ」

ガチャ

すると、ちょうどマーニさん達が帰ってきた。

「マコト、大丈夫?」

「ちょっと、痛みは無くなったかな」
 
「すまないね長話に付き合わせて、今はゆっくりしてくれマコト」

そうだよね、今は明るい彼女もそんな過去があったんだよな、この世界に来たときに助けてもらったし、今の幸せだと感じている彼女を守るぞ、もう二度と彼女にそんな思いをさせないために。
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