第26話 はなばたけ(深淵)

文字数 2,150文字

ふと目を開くと、眩しい光とともに周囲にはピンクのチューリップ畑が一面に広がっていた。

そして目の前には、イスに腰掛けながら円状のテーブルの上に紅茶らしきお茶を注いでいるミーナさんが座っていた。

「どこなんですか、ここは」

俺がそう尋ねると彼女もこちらに気づき、立ち上がりこちらに近づいて来て嬉しそうに袖を引っ張ってきた。

「よかったキミも来てたのかい、マコトくん。
さっそく二人でお茶会をしましょう」

「ミーナさん、ここはどこですか」

「フフッ、ここはどこなんだろうね」
彼女は微笑みながら鼻歌を歌いながらそう言い、俺をミーナさんから向かい側のイスに座らし、彼女もまた先ほどのイスに腰掛けた。

「あの、ラプマルはいないんですか」

ギロッ

妖精の言葉を出した瞬間、彼女の眉間にはシワが寄り、鬼のような形相で睨みつけてきた。

「誰だよ、そんな人知らないよ。
そんなことよりも、魔王軍幹部であり竜騎死と呼ばれているモードレッドくんの話しをしましょう」

なんだこれは何処かでこの恐怖を感じたことのある、そうだラウさんに銃口を向けられた時と同じだ。
ラプマルもいない以上、ここは慎重に話しをしよう。
目的もないまま存在を消させられるなんて嫌だから……

「そんなに怯えた顔しなくてもいいよ、ほら紅茶も無くなったようだし」
よく見みれば、恐怖で体が震えて紅茶をこぼしていた。

「あ、あ、ありがとうございます。
そのモードレッドさんの話しとは何ですか」

「結論から言うと、どうやったら彼をボクのものにできるかだよ」

「は、はぁ」

「いやほらね、この場合、前のボクにあたるんだけど、他人のことばかり思ってマギアを使い続け、自分の気持ちに蓋をしてずっと我慢していたからね。
それでね、マコト、キミだったらどう選ぶ、秩序を守るか、それとも自分の欲望を選ぶか」

「どちらも間違えじゃないと思う、一つを選ぶよりかはどちらともバランスよくとればいいと俺は思う」

「うんうん、どちらの意見も尊重する、いや実にキミらしい。
だがキミの答えは誤りだよ、人の生き死になんて一回しかない、ボクら転生者は再びその一回を得られることができたんだよ。

かつて人だった頃のボクは、とある奇病にかかった、本当は誰にも感染しない病気だったんだけど、大人たちは恐れてボクを暗い部屋に閉じ込めた。
まぁ、皆んな大した知識もつけないまま、その病気を恐れて閉じ込めたボクを放置した。
それで、ボクはそのまま衰弱して死んだんだけどね。

なら、どうせ死ぬのなら後悔の無いように自身の欲望だけ満たせばいいんだよ、マコト」

嘘だ、前あったミーナさんはそんなことを言う人じゃない、他人を愛する優しい人だったから。

「誰だ、アナタはミーナさんでは無い、誰なんだアナタは」

「ボクはボクさ、モードレッドくんを愛するもの。
先ほど、キミはあの妖精はどうしたんですかと尋ねたよね。
後ろにその答えがあるよ」

彼女に言われるがまま後ろを振り向くと、腕をひもに結ばれ木の板に貼り付けられたラプマルの姿があった。

「……」

「大丈夫ですか、ラプマル」

白い体にはなんの傷もなかったが、顔を覗くと、白目を向いて口からチューリップの花が一輪咲いていた。

「ミーナさん、早く彼を彼を助けてください」

俺が友達を助けるために彼女に助けを乞うと、彼女の体は震え始めた、恐怖、悲しみなのか、いいや違うあれは喜びだ。

「あぁ、かわいい、やっぱりキミはかわいいね。
その誰かのために必死に助けを乞う姿、良い、とても良い!!!
ボクはキミも愛おしく感じちゃったよ」

シュル、シュル

ギシッ、ギシッ

ミーナさんが舌舐めずりすると、地面からチューリップの茎が手足に巻き付き、動けないように強く絡み付いてきた。

「さぁ、皆んな幸せになろう、もう誰も何も束縛はさせない。
皆んな、自由にさせるから」

彼女は涙を流しながら、天に向かって手を広げて喜んでいた。

「うっ……
死ぬ、死んでしまう、嫌だ、俺は存在の意味も知らないまま消えたく無い」

「その生きることに渇望し、恐怖に震える顔、実に愛おしい、キミの全てを愛するよマコト」

「嫌だ、アナタの愛を拒絶する。
だってアナタの愛はただの押し付けだもん」

そう言うと、先ほどまで喜んでいた表情の彼女が急にショックを受けたかのように無表情になった。
だがそれも一瞬、彼女は先ほどラプマルの名前を出したのと同じ怒りの表情をこちらに向けた。

「押し付け、キミも愛を否定するの、人が人を好きになることを否定するの」

ギンッ

すると、植物の茎が首まで巻きつき、強く締め付けられた。
「痛い、離し、て、死に、たくない」

シュン

するとその声が届いたのかは分からないけど、締め付けていた植物は突然無くなった。

「なにっ、ボクの攻撃が消えた」

「ケホケホッ、ハァハァ」

すると、自身の存在が眠りにつきはじめた、これは彼女の力では無い、そうかいつも俺が消える時の感覚、助かった。
いつもは嫌いなことだけど、これが助けになるとは良かった、本当に良かった。

「なんだそう言うことね、また次こちらにキミが来るのを楽しみにしているわ」

何かを知った彼女は消えかける自分を微笑みながら、その眼差しを向けてきた。
この感覚はどこかで感じたことがある。

しかし、伝えないともう一人の俺に。

そのまま存在を消えるまで彼女はただ微笑みかけていた。
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