第38話 逃亡(こうかい)

文字数 1,189文字

冷たい雨が体に後悔という言葉を刻ませる。

その後悔とは、この世界で初めて会った皆んなを照らす太陽のように明るく、街を守るために過去の辛い経験にも耐えて魔獣やリンネと戦った、憧れた勇者マーニさんを俺自身の手で傷つけたことだった。

アスラさんと一緒に肩を貸しながら、彼女を街まで連れて行く途中で意識を取り戻し、息が絶え絶えになりながらも話し始めた。

「ごめんね二人とも迷惑かけて」

「マーニさん、あと少しで街に着きますから、今はしゃべらないでください」

「ごめんねマコト、これが最後だからしゃべらせて。
マコト、リンネにだけには絶対にならないでね。
キミはずっと人のままでいて欲しいから、キミの人としての暖かさ、優しさ、その全てが私は好きだったから。
こんなお別れになるけど、最後にこの思いだけ伝えられてよかった、ありがとう私の勇者、マコト……」

「マーニさん、マーニさん!!!」

これ以上、彼女は喋ることもなく、息もすることもなかった。

もう、覚えていないぐらいずっと俺は泣いていたようだ。
気づいた時には、教会のようなところで棺桶の中に入っている満足そうな表情で眠っている彼女を見ていた。

その次の日は、その街の人々がほとんど面識の無い彼女の為に花を飾り、涙を流してくれた。

恐らくその人々は、街を守る為に暴食のリンネで戦死したと思っている彼女に対するせめてものお礼なのだろう。

だけど彼女を殺したのは、暴食のリンネでは無く紛れもない俺自身なんだ。

そしてまた次の日、ここの地域の習わしで火葬されることになったが、棺を開けると花だけが飾られて中には誰もいなかった。
昨日からずっと俺とアスラさんで彼女を見ていたから、誰かが持ち出したとかではなく、恐らくマーニさんは、リンネと同化した為、暴食のリンネが言ったように魔力の塊のようなものになって夜のうちに消滅したんだろう。

「マコト、マーニの分まで生きよう」

アスラさんはそんなことを言っていたが俺の終わりもこんなものなんだろうとボンヤリと思った。

それから彼女の葬儀が終わると、俺はその街の裁判所に連れて行かれた、罪はマーニさんの殺人だった。

だが結局のところ、アスラさんや見知らぬ目撃者の人たちによって殺したのはマーニさんではなくリンネと決定し、俺は牢屋の中で二週間過ごしただけだった。

牢屋から出た次の日から、胸が締め付けられるような激しい後悔と何かに怯えるようになった。
 
「マコト」

アスラさんの声で気づいた時に部屋を見ると、家具や床などが潰れていた。
またやったのか、最近俺はふとした時に恐怖を感じ、自身の強者のマギアが無意識のうちに発動して、周囲のものを傷つけたりしていた。

見てみると、アスラさんの足もケガをしている、俺がやったのか。

「ごめん」

「マコト、待って……」

彼の声は聞こえたが俺は走った、アスラさんを傷つけたこととマーニさんを殺したという事実から逃れるために。
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