第44話  追憶(ごうよく) 

文字数 4,420文字

全身傷だらけの先生が三体の黒い魔獣と戦っていた。

一人の魔獣は男の姿でスライムのように体を変質させながら戦い、もう一体は女性の姿で一つの刀剣で戦い、最後の一体は男性の姿で自身と同じぐらいの大剣で戦っていた。

「人の思考を読み取って大切な人の姿になるなんてね。
絶対に許さないわ」

ガプッ

ザシュ
 ザシュ

すると三体の魔獣が一斉に先生に襲いかかった。

「先生!!!」
先生の体中黒い服も赤くどんよりと染まっていた。

ビュン

バァーン!!!

するとデュラハンである先生は頭だけ取って、俺のところに投げて、体はその三体の魔獣を抱きしめて自爆した。

三体の魔獣は見る影もなく消し飛んだ。

「先生、先生!!!」

「ハハッ、万能の魔女だから内側から魔力を放出されたらとんでもない爆弾になるのよね。
マコト君ごめんなさいね。
もう疲れたから、皆んなのもとに行くわ」
パァンッ

頭だけになった先生は、最後にそう言い光となって消えた。

「なんで、なんでなんだよ……」
これが現実なのか、これが何もできないものに対する罰なのか、もう嫌だ、嫌だよ。
もう俺から大切な人を奪わないでくれ。

「キャハハハッ」

先ほどの魔獣とは別の黒い魔獣は、何もできない俺をあざけるように笑いながら一斉に襲いかかった。

ガキィン

しかし、アスラさんの作った檻に触れると、魔獣たちは一瞬にして氷漬けになり、その体を粉々に崩壊した。
アスラさん、そうだまだラウさんもアスラさんも生き残っている。

彼らのほうを見ると、ソドムの林檎と黒い魔獣と戦っていた。
涙で汚れても、何もできない俺は手の感覚がなくなっても氷の檻を握りしめた。
こんなものも壊せない俺に。

「パァァァァンッ」
ソドムの林檎は再び浮かび上がり、どこか移動を始めた。

それを阻止すべく、飛行艇アマテラスが黒い魔獣の群れを撃破しながら、向かって行った。

ソドムの林檎は体の一部を槍のような形をしたものに変化して、アマテラスの先端を串刺しにした。

グシュ

ゴキュ、ゴキュ

ボコボコボコッ

「串刺しにしている飛行艇を吸収している……」
そして、ソドムの林檎は吸収して骨組みだけになったアマテラスを地面に叩き落とした。

それと同時に黒い魔獣の攻撃でこちらにアスラさんが飛ばされた。

バァーン
ザザザッ

砂で汚れた顔の彼は、苦虫を噛んだような顔をしていた。

「アスラさん」

「ラウありがとう、アナタの作戦無駄にしない」

ヒュュュ

これは昔聞いたことのある落下音、熱気が感じられるそうかあれは。

「ラウがあの時よりも改良してくれた天の炎カグツチ、これに全てを賭ける」

「ここから出してください、アスラさん」

彼はこちらのほうを見て、安心した顔で腰に着けたバックからスティック状の魔石を取り出し、それを口に入れた。
もうそこまで無理しないで。

「これで決めるから、見ててマコト。
賢者マーリンによって確定した氷魔術最高位にして究極の術式ここに顕現させる。
我が魔力を糧に与え、深淵より溢れろ、世界は氷に閉ざされる。
銀界(ラグナロク)」
ヒュォォォン
 ガキィン、ガキィン、ガキィン

すると、地上から氷の柱がいくつもの竹の子のように生えてきて、一気にソドムの林檎の動きを封じた。

「こんなもの、俺だってアスラさんのために」

ぐぅいん

強固にできていたがアスラさんが術式を使ってこちらのほうに供給する魔力が減ったのか、自身のマギアで何とか壊すことができた。

バキッ

「壊れた。
アスラさん、手伝います」

「マコト、来るな、ゴハッ」
すると、いきなりアスラさんが口から血を吐いて地面に座り込んだ、恐らく魔力が底をつき始めているのか。

「もうやめてくださいアスラさん、死んでしまいます」

「後もう少しなんだ、もう少しで救えるんだ、もう諦めたくないんだ僕は!!!」
何でアスラさん、訳が分からないよ、アナタは何に囚われているんだ。
でも、そこまでアスラさんがこだわるなら……

「手伝いますアスラさん、アナタの願いを叶える手伝いをするよ」

「マコト、僕一人で十分なのに」

座り込んだ彼の前に立って俺は言った。
「そんなに無理しないで、困ったときはお互い様ってマーニさんがいつも言っていたから」
俺の無力さで彼以外みんな大切な人を失ってしまった。
もう誰も失いたくないんだ。

「ーー本当にごめん」

そうすると彼は杖を両手で握りしめて倒れそうな体を支えながら立てたが、立つことでやっとのようだった。
もうアスラさんも限界に近いここで決めないと。

そして、俺は槍を持ち、投げる姿勢をとった。

「これで終わってくれ。
あらゆる障壁全てを突破する、その槍、勇気を乗せ蒼穹を飛び、強者のマギアを具現化したもの……
アロンダイト・ランスロット!!!」
かつてモルガーナ先生に教えてもらった名もなき技を今使う。
思いっきり投げた槍は、強者のマギアを纏い、周囲にいたソドムの林檎の盾になっていた黒い魔獣達、全てを爆散させた。

そしてその槍は、倒すべき敵のど真ん中を貫通させた。

「グワァァァァン!!!」
ソドムの林檎は耳を塞ぎたくなるような不協和音のような声をあげた。
そして、最後は天の炎によって残っていた黒い魔獣ごと燃やし尽くされた。

ドォーンッ!!!

フガク山の麓の湖に落ちたソドムの林檎は落下した衝撃で水柱を立たせて、戦いによって燃えている樹海の火を消した。
そして湖に浮き上がりはするが二度と空に浮かぶことはなかった。

「ハァハァ、勝ったんだ」

水でびしょ濡れになりながらも、焦げて黒くなったソドムの林檎が動かないのを見届けた。

ドンッ
すると、後ろからアスラさんが抱きついてきた。

「あ、アスラさん!!!」

「やったよ、マコト。
勝ったんだよ、ついに勝ったよ」

相当嬉しいのかな、いつもはクールなアスラさんがここまで涙を流すなんてね。
でも、これはラウさんやモルガーナさん、モーガンさん達がつなげてくれた勝利だということを忘れてはいけない。

勝利を喜び二人で抱きしめているいると、アスラさんのその後ろで燃え尽きたソドムの林檎の中から青白い雷が空に昇った。

ババァーン

空に昇ると同時にその雷は俺たちのほうに向かって降り注がれようとした。

「危ない、アスラさん」
彼の前に立って、強者のマギアを展開させた。

ぐぅいん

パリーンッ

「うっ!!!」
なんだ、これはただの雷じゃない。
マギアのバリアを張っても貫通した。
電気は一瞬で流れる痛みなのに、これは液体のようにまとわりつくように断続的に痛みが続いている。
でもそれでもマギアがなかったら、一瞬で黒焦げになっているだろう。 

「マコト!!!」

ブゥンッ

なんとか寸前で彼の氷魔術によって、全身に流れる電流は消えた。

「ハァハァ、ありがとうアスラさん」
バタンッ

「マコト、しっかりして」

倒れた俺が立ち上がろうとすると、目の前にどこからか現れたラプマルがいた。
よかった彼も無事だったんだ。

「そうか嫉妬のリンネ、マーハウス・マンダラ。
君は彼女の望みのためにこの世界を滅ぼすのか」

マーハウス・マンダラ?
あのリンネの名前だろうか。

「嫉妬のリンネがもう既に生まれていたのか……」

「そうだね、アスラ。
それと驚いたあれは、リンネが神に至る前座の黎明(レイメイ)期だ」

「リンネが生まれたばかりなら、普通は臨嶺(リンネ)期になるはずなのに。
何でだ?」

アスラさんはそう言い終わると、悔しそうに顔を歪ませ話し始めた。

「そうか、そうなのか、ソドムの林檎の結界内は外よりも三日の時間差がある。
そしたら、彼女の体内にいたリンネはこの世界とかなりの時間差が発生する。
それとこの黒い魔獣たちも十二の魔獣のどれにも位置しない。
魔獣は原罪魔獣から生まれるから、あの時死んでいた原罪魔獣を素材にして……」

よく分からないアスラさんとラプマルの会話を聞きながら、血で霞んだ瞳にそのリンネを見た。

燃え盛るソドムの林檎の中から現れた、それは海ヘビのような形をして、腕にあたる部分は魚のヒレを長くしたような飛膜があった。
細かく見ると、鱗は苦しみに悶えた人々が空に救いを求めるように手を広げているような形をしていた。
そのリンネは、何本もの鋭い牙の生えた口を開けて、天に向かって吼えた。

「ウワァァァァンッ、ウァァァンッ!!!」
その声は、悲しげに何かを祈るようなそんな声にも聞こえた。

すると、どんよりとした黒雲は突然吹き飛ばされ、空は様々な色彩が混じった、見たことのないこの世の終わりのような景色になった。

その空にリンネは泳ぐように浮かんでおり、その頭上には一つの蒼黒い球体が火花を散らしながら、引き寄せた飛行艇アマテラスの残骸などの金属を融合してその球体を大きくさせていた。

確か、学校で習った金属に電気を与えると磁石になるのと同じ原理なのか。
でもあれは規模が違う、電気のエネルギーが強いのか、その球体周囲の景色が歪んでいるように見える。
そして、夢の中でも何でも知っている彼に尋ねた。

「ラプマル、あの球体がもし地上に落ちたらどうなるんですか」

「それは君の生まれ故郷である地球と同じようにこの星の中心にある巨大な磁石のようなもの地軸が狂って、計算ではこの地域が北の果てになるだろう。
そこまでの気候変動、この星の生物は始生物以外は絶滅するだろう」

「確か残っている転生者はカムイ•バートランド、まさかソドムの林檎に飲み込まれていたがその中でリンネになっていたのか。
だけどマコトを救う為にも……」
すると彼は目から血の涙が出ていた。
しかし、彼は慌てて隠すように顔を隠し服で拭き取っていた。

「あまり無理はしないほうがいいんじゃないかな、魔獣結晶の取りすぎだ。
もう安静にしないと君の中にいるものも目覚めるよ」

「黙れラプマル、僕はそれにはまだならない」
どういうことなんだ、アスラさんは吸血鬼のはずなのに。
それと魔獣結晶って……。

そしてもう彼は飛ぶ気力もないのか、リンネがいるところまで歩いて行った。

ガシッ

「行かないでアスラさん、俺も戦うから」

袖を握り、振り向いた彼は動けない俺を安心させるように穏やかな顔で話した。

「安心して、アナタだけは絶対に守るから」

その瞬間、周囲が真っ暗になった。
恐らく、あの技とリンネの攻撃で気を失ったのか。
なんで、こんなときに。

でもなぜ、アスラさんはここまで助けてくれるんだろう、仲間だからと言われるとそうかもしれないが何か違う。
アスラさんにはそれ以上の何かがある。

俺がそう疑問に感じると、誰かの声が聞こえた。

「マコトは本気で救いたい人がいるのか」

姿は見えない人にそう聞かれた、でも迷う理由なんてない。
「あぁ、俺はアスラさんを救いたい」

「じゃあ問おう、マコトはアスラさんについて何を知っている。
彼の過去、彼の思考、そして彼の真実」

そう言われると、ずっと一緒にいたがアスラさんについては知らないことが多かった。
いや、自分が知ろうとはしないだけだったかもしれない。

「ーーいや、俺はぜんぜん知らない」

「そうかなら、俺についてこい」

「アナタは、誰なんですか」

「俺はアスラさんを裏切った者達だ」
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