第51話 ゴグマゴグ・魔槍 

文字数 6,730文字

僕は過去に戻り続けるものだ。
マコトの血を吸うことで時を繰り返しているが、その繰り返される日々を嫌った。
血を吸い、何度も沈み上がっていく太陽さえも嫌う、まさにその姿は吸血鬼以外の何者でもないだろう。

そして僕は忘却機関レーテを使って、僕が転生者だと知っている人々の記憶を全て消し去り、吸血鬼アスラと名乗った。
それと同じく、マコトに関する情報も帝国の人々だけ記憶を無くさせた。

その後ボルグ草原に戻り、少し大きな岩に座りながら今後のことを考えていた。
「繰り返すことではっきりしてきたが、暴食のリンネの魔獣たちはこの地域に五十匹はいる。
マコトのマギアに反応しているのだろう。
まず、それらを倒してから、マコトたちと出会うきっかけを作るために二匹ぐらい手負いの魔獣を残すか」

「アスラ、君は一体何をするつもりだ」
草原をかき分けながら奴が歩いて来た。
諸悪の根源で白いろくでなし、ラプラス•マルジン、略してラプマル。

「お前と話すことは何もない」
そう言い、歩き始めると奴も横に来て一緒に歩き始めた。

「オイラが近づけないように結界を作ったり、忘却機関レーテを使って、マコトに関する帝国側の記憶を消すなんてね。
それも君に関する人々の記憶さえ消し去って、何を考えているんだい?」

「……」
僕はただ黙った、奴に余計な情報を与えるとそこから大体の未来を予測し、必ず邪魔をしてくるから。
奴の言葉を無視して、僕は魔獣がいる場所に向かった。
一緒に歩いていた奴も途中で立ち止まった。

「でも何かはあるみたいだ、オイラをそこまで都市ティルウィングに近づけさせない理由が。
おもしろいねアスラ、もしも困ったことがあるならいつでもオイラに聞くと良いよ」

ビュン
そうして奴は、どこかへ消えた。

さっさと帝国に戻れ、このろくでなしが。
でも結界の効果は十分だ。
これでラプラス・マルジンはマコトと接触できなくなった。
もはや、どんな手段も選ばない。
徹底的にやる、彼に嫌われても。

それから都市ティルウィングでマスターがマコトを庇ってそのまま命を落とした。
繰り返した中で知ったがマスターはギリギリ助けることはできる、しかしマコトだけはどんなにやっても僕では助けることはできなかった。
だから今回は……

それが終わった後、都市クラレントに向かう途中、取り続けた魔獣結晶の副作用が出始めた。
マギアから聖域への進化は着実に進んでいるのだろう。
過去の世界線でマコトも自分のためにこの苦しみを味わったと考えると、こんな大事な時に何もできない自分が情けない。
でも絶対にこの世界線では彼を幸せにさせないと。

決意を胸に今はすぐに回復する様に一旦眠ろうとするとモードレッドさんが部屋に入ってきて話しかけてきた。
「アスラさん、この調子だと明日にでも退院できるだろう」

「そうですか、ありがとうございます」

「それでなんだがアスラさん、きみの体を調べたが、吸血鬼ではないな。
人に近いホムンクルスなんだろう。
なぜ嘘なんかついたんだ、マコトさんたちにも」

しまった、何重もの魔力障壁で偽装したつもりだが、さすがに中身までは無理だったか。
でも前の世界線なら僕はここで本当のことを告白するだろう。
だけど、誰にも理解されなくていい、いや助けなんていらない。
もし、自分がそれを望むとその人に情が移ってしまって、マコトを幸せにすることができなくなってしまう。
卑怯で最低な考えだとは思っている、だけど僕は祈りを叶えるためにそれを否定はしない。
いいや、肯定し続けないといけない。

そして、起き上がってベットに座り、僕は答えた。
「理由は話せないですけど、僕が吸血鬼ではないことをマコトたちには言わないでください」

すると、彼は静かに頷いてこう答えた。
「そうか、それは余計なことを聞いた。
だが、もしきみが無理だと思うなら自分に話すといい、話しを聞くことぐらいはできると思うから。
それときみは仲間を守るためにそれを言わないのだろう」

「ごめんなさい」

「いいや、謝る必要はないよ。
きみの仲間を思う気持ちがそれほどまで強いと伝わったから。
また、なにか会ったらここにあるベルを鳴らすといい。
では、自分はこれで」

スタスタッ

ガチャン

ポロポロッ

閉まった扉の音が聞こえた後、涙を流した、もうとっくに涸れたとは思っていたのに。
「モードレッドさん、本当にごめんなさい……
僕は、この最後のやり直しにかけてマコトを助けないといけないから、マスターに続いて、アナタもミーナさんも助けないから」

本当に僕に彼を救えるのか、感情と気持ちが追いつけていないこんな自分に。

それでも残酷なほど時は進む、途中ミーナさんの帝国軍の病気を治すという今までの旅で経験したことのないことは起こったが解決したから問題はない。
だがそれで知ったが、誰にも勝てないとされた原罪魔獣がすでに死んでいたとは。
まぁ、そんなことはどうでも良い。

そして僕は、クラレント周辺にいた魔獣たちも全て倒した。
この魔獣たちを倒さなければかつての世界線でリンネが目覚めたとき、一気に魔獣が攻めてきてクラレントが滅んでしまったから、最悪のケースは避けることはできた、あとはリンネとなる彼女を殺すだけだ。

しかし、いきなり彼女が自殺をしたのだ。
繰り返した中でこんなことは初めてだ、だがそれの犯人を知っている。

「アスラ、君の手で彼女を殺すのか」

自身のマギアの魔力を刃物に変換させそれを持ちながら病室に入ると、奴は眠っている彼女の近くのイスに座っていた。

「ラプマル、貴様にしてはずいぶんと大胆なことをしたな、ミーナさんに真実を話しただろう」

奴は悪びれることなく嬉しそうに話した。
「そうだとも、王様の隠し事に気づいたお姉ちゃんは真実を知りたかったからね。
これはよくオイラのことを大事にしてくれてる日頃の感謝の思いさ」

「お前はどこに行っても、ろくでなしだな」

「そうかい、だけどオイラの本心としては彼女には死んでほしくないし、君にも同じ転生者を殺しなんてさせたくもない」

パリーン

すると突然、奴は近くにあったガラスのコップを持って地面にわざと落とした。

「どういうつもりだ」

「君も殺しなんてしたくないだろう」

フッ

そう言うと、ラプマルはどこかに姿を消した。
しまった、やられた。

ザッ
「ミーナさん、起きたのか」

すると奴の思った通り、その音を聞きつけて、モードレッドさんがその部屋に入ってきた。
自分は諦めて、持っていたナイフを自身の魔力に戻した。

「ごめん、ちょっとミーナがどうなのか少し顔を出したけどガラスのコップに当たって壊してしまった」

「そうかケガはないのか」

「ケガはないですけど、すいません。
なにも言わずに入ってしまって」

「別に気にしなくていいとも。
彼女もそれを聞くと喜ぶから」

「喜ぶですか」

「そう、彼女も理由自体は知らないがアスラさんと会った時初めて会ったという感じではなくて、昔どこかで会ったとか言っていたからね」

そうなのか、この繰り返しの旅でも多少なりともなにかの因果で影響が残り始めているのか、それは繰り返すたびに大きくなるのだろう、だがその前にこの旅を終わるからもう意味はない。

✳︎✳︎✳︎

都市クラレントで真実を話さないまま、彼を見殺しにした。
そして僕は都市シウコアトルで暴食のリンネの同化のマギアによって、リンネとなったマーニと戦った。
本当なら彼に怨まれてもマーニは僕が殺すべきだった。
実際は一番起こってはいけない、マコトの手によってマーニが殺されてしまった。

それを彼は後悔して、どこかに行ってしまった。

マコト、早くアナタを見つけないと、この世界で死なせるわけにはいけない。
だって僕はマーニやマスター、モードレッドさん、ミーナさんなど救えたものを僕は見捨てたのだから。
皆んなを犠牲にして得られたものがアナタの死だなんてもう二度と味わいたくないから。

その祈りが届いたのか、彼はまだ生きてくれて立ち上がってくれた。
よかった、まだ僕に希望は残っている。

✳︎✳︎✳︎

強欲のリンネがソドムの林檎に遭遇する前に誕生しただと。
こんなタイミングはどこの世界線でも初めてだ、だがどんなことがあろうともこの世界線で絶対に彼だけは救ってみせる。
次の世界線は、僕がリンネとなって彼を殺してしまうかもしれないから。

そんなことを考えながら目の前には、強欲のリンネが強欲魔獣デスデモナーを貪っていた。

先ほどまで魔獣で赤く染まっていた空は今は地上の黒の密林を赤く染めていた。

ガブッ
ブチンッ

グシュグシュ
ゴクンッ

「グワァァァァン」
森に積み重なっているのは焼かれた魔獣の肉や焦げた骨。
あの最強の魔獣を一瞬にして、いいや前ならここで諦めていたけど、今度こそは。

そう考えていると、隣のモーガンが話しかけてきた。
「あの強欲魔獣の群れをほんの十秒で……
なんて奴だ、マコトのリンネは。
これほどの相手とはどうする、アスラ」

「いいやマコトは倒さない、まだ完全にリンネにはなりきっていない。
だからまだ人に戻れる」
ごめんモーガン、本当のことは分からない。
だけど、一つの希望はまだ残っている。

「先生、マコトの槍は持っていますよね」

「えぇ」
そして僕は先生からマコトが使っていた赤い魔槍を受け取った。
魔槍ゴグ•マゴグ、遥か昔、魔王様が作った魔力喰らいの槍。
その性質は、あらゆる魔力を喰らう槍。

それをモルガーナ先生とマスターによって魔王様受肉用の槍に改造して、そこにマルスさんが魔王様の魂を封入することで、強力なマコトのマギアと相手の魔力を喰らうことに特化したもの。

本来なら常人が使えば魔力が吸い尽くされて死に至るが、この槍だからこそマコトの聖域の魔力が吸われてリンネになるのを一年伸ばせることができた。

この槍を彼の聖域を生み出す心臓部分に突き刺せば、
一時的に聖域の生成を抑えられてもしかしたら人に戻るかもしれない。
今は信じるしかない。

「僕がマコトにそれを突き刺すので援護してください」
そして槍を構えると先生が肩に手を当てて、魔力を分けてくれてこう話した。

「魔槍ゴグ・マゴグは攻撃することで相手を持つことで自身の魔力を奪う槍。
アスラ君、魔力切れを起こしそうになったらすぐに手放しなさいよ」

「先生、ありがとう」

すると、零式ダインスレイブこと対戦車ライフルを持ったモーガンが不安そうな顔で聞いてきた。
「アスラ、マコトを元に戻したあとその後どうするんだ?」

「どういう意味だモーガン」

「ミーナはリンネになっても元には戻れなかった。
だから、マコトが元に戻る保証なんてどこにもねぇんじゃねぇのか。
それよりかは、いっそのこと今のうちに殺したほうがアイツのために……」

ガンッ

「ふざけるなよモーガン、まだマコトはリンネにはなっていない」
僕は彼を胸ぐらをつかみ、近くの岩壁に叩きつけ、自分でも抑えられない憎悪にも似た怒りの声をあげた。

「離しやがれ、アイツだって覚悟ができているはずだ。
転生者でもないお前に言っても意味は通じないかもしれないがな!!!」

ドサッ
彼の押し返した力は強く、バランスを崩して尻もちをついた。

「モーガン!!!
いくら、それは言ってはいけないことだぞ」
そこに今、飛行艇から降りてきたラウが間に入って来て、モーガンを抑えようとした。
ラウがあそこまで怒った顔なんて初めて見た。

だがそんなことを考えたのは一瞬で、僕はモーガンの言葉に触発されて怒りの声を上げた。

「あぁそうですよ、僕は結局、転生者ではないから。
そんなこと知らない。
別にそんなことなんてどうでも良いんですよ!!!
どうでも!!!
マコトは仲間だから救う、ただそれだけだ」
この怒りは、憎悪でも嫌悪でもなく、ただの純粋な願いからだ。
モーガン、何もするな手を出さないでくれ、マコトを殺さないでくれ。
この世界で彼を失ったら、いいや考えたくもない、モーガンを殺してでも彼を守る。

「アスラ……」

「モーガン、ここはアスラに任せましょう」
すると、それを見兼ねた先生が僕の横に立ち彼に言った。

すると彼も落ち着いて、不満のある顔をしていたが。
「ーーそうか、分かった」

危ない、本当に危なかった

先生にウインクされて僕は少し頭を下げて、槍を持ちながら彼の元へ向かった。

「神楽マコト!!!
アスラだ、早く飛行艇に戻ろう」

そう言うと、彼はこちらのほうに気づいた。

「グググッ、ガァァァァァン」

ガシッ

聞きたくない重厚音な咆哮とともに僕は彼の大木の数倍は大きい手に握りしめられた。

「アスラ君!!!」

「いや先生、僕一人だけで良い、マコトが攻撃してくる」

「グググッ」

すると、彼は何かを考えているかのような様子でじっと見つめていた。
本来なら、ここで即座に攻撃を行うがまだ、マコトの意識が残っているのか。

「マコト、早く帝国に行って何もかも終わらせよう。
僕はいつだってアナタの幸せを願っているのだから」
考えてみれば焦りすぎた。
言葉による説得なんて意味がない、本当ならその彼が考えている最中に心臓部分に槍を突き刺せば良かったんだ。

「ガパッ」
ガンガンガンガン

ガンッ
バババババッ

自分の言葉にリンネとしての他生物を魂に昇華させて喰らうと言う本能によって、彼の背中は燃え上がり、体の葉っぱの筋のような部分は赤く燃えるような色になり、口から空間を融解させ、文字通り空を終わらせる熱線、ラプマルは空完熱線と呼んでいたものを放ってきた。
ダメだ、これは防げない。

「これは俺たちの番だ、アスラ!!!
天地のマギア発動。
ラウ、あの熱に対抗する最強の盾を頼む」

「私の魔力も使いなさい」

「分かった、創造のマギア発動!!!
ヘリウム冷却圧縮弾、機関式大砲発射!!!」

ババババッ

三人の魔力によって作られた巨大な機関銃のようなものが出現し、マコトの口の中の空完熱線に向かって豪雨のような勢いで弾をいくつも放たれた。

ガガガガガッ

ガキィーン

弾の補充が空になった途端、空完熱線は冷却されて溶岩のようになってそのまま地面に落ちて森を燃やした。

僕が振り返ると、三人は魔力切れを起こして口から血を垂らしながら倒れ込んでいた。

「モーガン、先生、ラウ!!!」

「たく、ふざけるんじゃねえぞアスラ。
一人でなんでも背負い込みやがって、俺らだってマコトと同じ仲間だろう。
まぁ、俺は言っちゃいけねぇこと言ったが、お前の正しさを見て、もう一度やり直させてくれ」

ガンッ

「なに、小生もいないことも忘れないでほしいな」

「アスラ君、自分の信じた道を歩みなさい、誰かに批判されても歩む足を持っているのは自分自身なのだから」

三人に言われてやっと気づいた。
マーニさんたちなどの僕が見捨てた人は怨んだまま死んだのか。
いいや彼らはただ他人の幸せを願ってその命を燃やした。
そしたら、僕もその他人の幸せを願う!!!

「ありがとう、みんな。
マコト、今回こそ必ず幸せにしてみせる」
そして、僕はその持っている槍を心臓に向けて投げた。

✳︎✳︎✳︎

「これがアスラさんの過去」

ふと俺が気づくと、白い部屋の真ん中に座っていた。
そして横に立っていた彼が話しかけて来た。

「そしてこの後、あなたはアスラさんに魔槍でリンネになる寸前に止められて、そのまま飛行艇のベットで目覚めた」

「これが、これが俺の知らなかったアスラさんの全てなのか」

「彼を助けて欲しいんだ」

「それでアナタは誰なんだ、俺と一緒の姿をしているけど」

「かつて、アスラさんの思いを裏切った俺たち、そうアスラさんが繰り返された世界の神楽誠たちの集合体だよ。

彼の魔王の能力を奪うと同時に魔力の一部である強者のマギアも同時に摂取し、消費されないマギアはアスラさんの体で生かされて、そして彼が吸血したことであなたの中に入り、また違う俺を作り出した。
それが繰り返され、あなたの中でやっと俺が生まれた。

俺の願いは彼のリンネ化を止めることだ、彼はソドムの林檎を倒した後、彼自身がリンネとなって、あなたの聖域を吸収して、自分はラプマルに捕まる前に太陽まで飛んでいき燃やされ、再生される肉体が燃え尽きるまで無限の死を行おうとしている。
それをあなたに止めてもらいたい」

あんなに頑張ったのにアスラさん、そこまで俺のためにいいや絶対にそうはさせない。
そう思い、俺は彼の言葉にうなずいた

「そうなのか分かった、俺やってみるよ、皆んなの思いを叶えて、そして大切の友達も救うよ」

「ありがとう、俺も強欲のリンネを抑えてあなたの力にさせるから、一緒に戦わせてくれ」

「分かったありがとう、必ずアスラさんを救おう」

やっとわかった、彼の過去、そして俺が救ったことによって苦しんだ人がいたいうことを。
彼の思いを裏切っても俺はやらないといけない、十数年しか生きていないけど、どのようにするかはこの旅で答えが出た。
アスラさん待っていてね。




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