第24話 墓森亡都(エクスカリバー)
文字数 5,017文字
獣の声がしたとき、その時代は終わった。
その牙、その爪、それらが希望を枯れさせ絶望だけが成長させる、この話に英雄はいない。
その獣はこの大地の全てを喰らい、その後にこの星とは異なる命を産み続けていた。
愛する人の命はあそこに残っているのだろうか、愛した故郷はあそこにあるのだろうか。
そしたら、私も行こうか。
これは、この都市クラレントで伝わる一部のものしか知らない原罪魔獣の恐ろしさを伝えた昔話の言葉だ。
その強さのために魔王様によってその都市ごとこの世界とは異なるところに封じ込められた魔獣、今俺たちはその獣がいるとされる旧魔王都市エクスカリバーへ向かっている。
その都市エクスカリバーはクラレント島から南の方角にあり、百年前まではこの世界で一ニを争うぐらいの栄華を極めていた都市の名前だ。
だが、その都市は先ほども言ったように突然現れた獣によって滅ぼされた。
十二の魔獣の祖、原罪魔獣ニゲルによって。
プニプニッ
そんなことを考えていると、隣に乗っていたマーニさんが頬を指でいつものように突いてきた。
「何ですか、マーニさん」
「表情が硬いから、いつも焼き立てのパンのように柔らかい頬っぺたも硬いのかなと思って」
「試してみてどうだったんだいマーニちゃん」
「聞きたいミーナさん、柔らかかったわよ」
マーニさんは勝ち誇ったかのように親指をグッと上げた。
「二人とも変なことしないでくださいよ」
「それにしてもマーニちゃんは凄いよね。
ボクもモードレッドくんにこれぐらいのことが出来ればさっきみたいなケンカなんかしなくてもすむんだよね」
「まぁ、ケンカするほど仲が良いとかも言うし、でも嫌だったらミーナさんも同じことすればいいじゃないんですか」
するとミーナさんの顔は一気に赤くなった。
「で、でもねマーニちゃん。
ボクにそんなことできるわけないし」
「いいや、ミーナさんだってできるよ。
私も手伝うから」
「そ、そ、そうなの、そのときはよろしくね」
「ミーナ、アルビオンカモメにこの真下に降りるようにしてくれ」
アスラさんが指差したほうには何も見えなかった。
「どういうことなんだい、アスラくん。
全然見えないじゃないか」
「そうか詳しく話してなかったな。
魔王様の力でその島は裏側の世界、名もなき場所にある。
普段は外から内からも出入りできないけど、モードレッドさんがその中に入れるカギをくれたから」
そして彼に言われて俺たちは海しか見えないその真下に降りて行った。
持っているだけで入れるカギのようで段々と降りていくと一瞬何も見えない暗闇に包まれ、その後に先ほどと同じように晴れ渡った空に真っ白な草木も生えていない荒野が現れた。
ガシャ
勢いよくアルビオンカモメのアルビがその地面を踏むと、軽い何かが割れた音が聞こえた。
よく見てみると、それは様々な半分化石のようになった生物の骨だった。
「なんでこんなにいっぱい骨があるんだ」
すると彼は、神妙な顔で静かに話し始めた。
「この骨はかつてこの島や周辺にいた人やモンスターたちのものも含まれているが、そのほとんどは魔獣たちの骨だ」
「どういうことなんですか、アスラさん」
「原罪魔獣はこの島の生物を喰らい尽くした後、種の異なる魔獣を大量に産み出し、その産んだ魔獣たちをこの島で殺し合いをさせて、最終的に十二種の魔獣が生き残り、それらをこの島が封じられる前に他の地域に侵攻した。
この骨は、魔獣同士の殺し合いのときの骨さ」
「アスラ、その話に魔獣の王である暴食のリンネは出てくるの」
「いいや、このときにはリンネはまだいない」
「じゃあ、その話しだと何で魔獣は関係のないリンネに付き従うのかしら。
魔獣たちの集合体とかなのかな?」
マーニさんの言う通り、アスラさんの話しではその原罪魔獣とリンネは直接的な接点もないから、普通なら敵同士になると思ったけど違うんだ。
「これだけは言うが魔獣とリンネは違う、僕の調べた限りではリンネの持つ聖域に魔獣が何かしらの憧れを持っている」
「憧れですか?」
「そう、本来なら何者にも付き従わない魔獣だが、リンネにだけは付き従っている。
何かしら魔獣を魅了するのをリンネは持っている、それを表す言葉は憧れ以外ないと思うから、そう言ったまでさ」
そうなんだ分からないんだ、でも何を魔獣はリンネに憧れているのだろう。
魔獣とリンネ、調べれば調べるほど分からないな。
「とりあえず、前に進もう」
そして俺たちはミーナさんに言われて、アルビから降りて、白の荒野を突き進んだ。
しばらく歩みを進めると、鼻が曲がるほどの臭いとともに鮮やかな緑の玉虫色の何かの巨骨が白い大地に倒れていた。
明らかに普通の生物とは異なる何かがその骸から感じられた。
「なんだこの巨大な骨は」
まだ死んでから時間がたっていないのか、骨にところどころ肉が付いていて、そこから鼻が曲がるほどの臭いを発していた。
だが、まだ自分が小学生のとき、図鑑で色々な動物の骨などを見ていたが、この魔獣の骨は恐らくネコやライオンに近い骨だ。
「見たことのない魔獣の骨だな」
アスラさんが見たことない魔獣。
「それって」
「そうマコトが思っている通り、原罪魔獣ニゲルは何者かによってすでに倒されている」
「でも、モードレッドくんは倒せない魔獣って言ってなかったの?」
ミーナさんに言われて後、彼は立ち上がってその骨を見ながら言った。
「でも現に倒している、魔獣もいくら強力でもリンネと違い、モンスターなどの生物としては同じだから。
恐らく…首のところに骨を断ち切るぐらいの大きな傷跡があるからここが致命傷だ」
「とりあえず早く三人ともここから離れるわよ、この死体の瘴気で病気になりそうだから」
そしてしばらく歩いていると魔獣結晶でできた木々に覆われた森の中に入り、爪が長いチェンソーで尻尾のトゲが回転する円型のノコギリで紫のサソリに似た姿の魔獣テュルペの一匹が倒れている魔獣結晶の木を食べていた。
周囲も見渡さずにただ無心に食べていた様子で恐らくまだこちらには気づいてなかった。
「見つけた、十二魔獣の中で色欲に相当する魔獣テュルペね」
「目的は魔獣の体の一部分、奇襲をしかけて一気にハサミを切断して持って帰ろう」
「分かったとも、じゃあボクから行くよ」
ザザザッ
ミーナさんが音を立てながらわざと大げさに茂みから出てきた。
それに反応した魔獣は倒れた木とは反対側の方向に振り向いた。
「足止めしなさいアルビ」
「エーンッ」
彼女の号令とともに魔獣の後ろから、白い翼を広げた巨鳥が尻尾の鋭利な円状のトゲを太い足で押さえつけた。
ガッ
「キシャァァァ」
突然のことで動けずにいた魔獣テュルペに更なる追い討ちをかけるため、槍を持った俺と隣には剣を持ったマーニさんでその魔獣に接近した。
狙いは一つのチェンソー状のハサミだ。
「マーニさん、同時に行きましょう」
「えぇ、そうね」
ザンッ
マギアを纏わせた魔槍とただ純粋な力と技で練り上げられた魔剣、それらが一つとなってあらゆるものを切断する最強の武器となった。
「キシャァァァ」
パリパリッ
ハサミを切られた魔獣テュルペは暴れないようにアスラさんの魔術によって冷気と共に氷漬けになった。
そして、急いで人と同じぐらいの大きさのハサミを四人で持ってアルビに積み込み、自分たちも乗り込んだ。
少し遠くから騒ぎに聞きつけた他の魔獣の群れがこちらに迫ってきた。
「お願い、頼むわアルビ」
バササッ
そして一気にアルビオンカモメのアルビは空に飛んだが、ハサミが重すぎるのかで先ほどよりも高くは飛ぶことはできなかった。
「ふぅ逃げ切れたね」
それでもなんとか空にまで逃げ切れることができた。
それでも地上では、自分たちが落ちてくるのを祈るように魔獣の群れが声を上げながら、追いかけてきた。
「しかし、本当に魔獣はしつこいわね。
まだ地上から追いかけているわ」
「もうすぐさっきの入り口に近い、そこで逃げ切ることができる」
しかし、空の上に穴のある出口が見えたその矢先、地上から何か巨大なものが立ち上がった。
細長い何かがはたき落とそうとこちら襲いかかってきた。
バササッ
「エーン!!!」
アルビが寸前のところで避けて、落とされることはなかった。
攻撃が来た方向を見ると、そこには骨だけになった魔獣ニゲルの姿があった。
「グヂョォォォォン」
「死んだんじゃないの」
「マギアを張ります」
ぐぅいん
強者のマギアのバリアは間に合って魔獣ニゲルの振り下ろした手を受け止めた。
ガガガガッ
なんだこれは凄い力だ、単純な強さではリンネと変わらないかもしれない。
腕からは傷が浮かび上がり血が噴き出してきた、痛みとともに力負けしているのが感触で分かった。
すると、ミーナさんが肩を掴んできた。
「マコトくん、援護するわ。
再生のマギア展開」
そうすると腕から浮かび上がる傷の血が止まり、段々と痛みと共になくなった。
それと同時に受け止めた魔獣の手の骨は崩れて行った。
競り勝った。
「これが再生のマギア、ありがとうミーナさん」
「見た感じマコトくんのマギアは強力だからね、だからその分消費量も激しいと思ったからね」
すると横からアスラさんがその死んだ魔獣が動いた原因を知っているのか話し始めた。
「あれはシタイウゴキに感染しているな」
「シタイウゴキってなんですか」
「死体に潜んでいるハエの幼虫がその死体を動かして周りにいる生き物の死体を増やすため死体を使って殺しまわる、面倒な奴だ。
でもおかしい、この島には元々いなくて極東の地域にいるはずなのに」
「二回目が来るわ」
再び崩れた手とは別の手で攻撃してきた。
「一気に決める、コキュートス・ゼノ」
ガキィン
グパァッ
彼の攻撃が決まって全身凍らせたがその中でもシタイウゴキに感染した魔獣は動き、氷ごしに魔術を飛んでいる俺たちを逃さないように全方位に魔法陣を展開させた。
その魔術は先生から教えられた魔法陣の色から火、水、氷、雷、光、闇などの全ての属性の魔術。
なんでここまでの魔術を使えるんだ、この魔獣は?
バッ
「多数の魔法陣展開されている、そしたら先手必勝、グロウス!!!」
すると彼女は氷漬けになった魔獣のところに手のひらを向けて、俺が離れたところにバリアを展開するのと同じように魔力を一箇所にためる動作をして、それに魔力を送った。
ボトッ
ボトッ
「シャァァァァァ」
すると骨の中に蠢いていたシタイウゴキが一斉に羽化して、小さなハエのようにになった。
そのため、魔獣は氷を壊しながら骨ごと崩れ去って行った。
「ボクの再生のマギアは対象の細胞などを活性化させるもの、だからシタイウゴキ自体を無理矢理成長させて羽化させればあの魔獣の攻撃は止むかなと思って」
「凄い……」
「えっへん、そうだろうボクは凄いだろうー」
ふざけているミーナさんに急に顔色の悪くなったマーニさんが肩を叩きながら話し始めた。
「とりあえず早く帰りましょう、あれは気持ち悪いわ」
「まぁ、ボクがやったけどあれは無理だね」
確かに彼女の言う通り、氷の中に閉じ込めれたハエが逃げるためにブンブンと飛び回っていた。
それから俺らはその名もなき場所から脱出してモードレッドさんのいるクラレントに戻って魔獣の一部分を渡した。
✳︎✳︎✳︎
それから彼が病院の中の閉じこもって数日後。
目にクマのできた彼は一安心した顔でいつもよりもおっとりとした言葉で話した。
「ありがとう四人とも〜、無事に晶死病の特効薬も作れて、感染者は回復に向かっているよ〜。
一応、後で君たちも薬を飲んでくれ、感染元に行ったわけだからね〜」
早く寝たほうがいいんじゃないのかモードレッドさんは。
眠っていなくてテンションが上がっているのかな。
確かに深夜になるとテンションが上がるって前の世界の友だちのヤマトも言っていたな。
「いやボクのほうが皆んなにありがとうと言わないと」
そしてその話しが終わると彼はいつものように鋭い眼差しで尋ねてきた。
「それで本当に原罪魔獣ニゲルが死んでたのか」
「そうです、恐らく死体の腐り具合を見てここ数ヶ月かと」
アスラさんの言葉に彼は冷や汗をかきながら彼は話し始めた。
「そうか、致命傷になったのは首による切り傷。
暴食のリンネがそうすると考えられないし、新たなリンネなのか。
あの魔獣は転生者でも強大すぎて勝てないし、誰が倒したのか、謎は深まるばかりだ」
魔獣の祖を倒した存在、暴食以外のまだ見つかっていない新たなリンネ、そのなんとも言えない恐怖に俺はただ来ないことを願うしかなかった。
その牙、その爪、それらが希望を枯れさせ絶望だけが成長させる、この話に英雄はいない。
その獣はこの大地の全てを喰らい、その後にこの星とは異なる命を産み続けていた。
愛する人の命はあそこに残っているのだろうか、愛した故郷はあそこにあるのだろうか。
そしたら、私も行こうか。
これは、この都市クラレントで伝わる一部のものしか知らない原罪魔獣の恐ろしさを伝えた昔話の言葉だ。
その強さのために魔王様によってその都市ごとこの世界とは異なるところに封じ込められた魔獣、今俺たちはその獣がいるとされる旧魔王都市エクスカリバーへ向かっている。
その都市エクスカリバーはクラレント島から南の方角にあり、百年前まではこの世界で一ニを争うぐらいの栄華を極めていた都市の名前だ。
だが、その都市は先ほども言ったように突然現れた獣によって滅ぼされた。
十二の魔獣の祖、原罪魔獣ニゲルによって。
プニプニッ
そんなことを考えていると、隣に乗っていたマーニさんが頬を指でいつものように突いてきた。
「何ですか、マーニさん」
「表情が硬いから、いつも焼き立てのパンのように柔らかい頬っぺたも硬いのかなと思って」
「試してみてどうだったんだいマーニちゃん」
「聞きたいミーナさん、柔らかかったわよ」
マーニさんは勝ち誇ったかのように親指をグッと上げた。
「二人とも変なことしないでくださいよ」
「それにしてもマーニちゃんは凄いよね。
ボクもモードレッドくんにこれぐらいのことが出来ればさっきみたいなケンカなんかしなくてもすむんだよね」
「まぁ、ケンカするほど仲が良いとかも言うし、でも嫌だったらミーナさんも同じことすればいいじゃないんですか」
するとミーナさんの顔は一気に赤くなった。
「で、でもねマーニちゃん。
ボクにそんなことできるわけないし」
「いいや、ミーナさんだってできるよ。
私も手伝うから」
「そ、そ、そうなの、そのときはよろしくね」
「ミーナ、アルビオンカモメにこの真下に降りるようにしてくれ」
アスラさんが指差したほうには何も見えなかった。
「どういうことなんだい、アスラくん。
全然見えないじゃないか」
「そうか詳しく話してなかったな。
魔王様の力でその島は裏側の世界、名もなき場所にある。
普段は外から内からも出入りできないけど、モードレッドさんがその中に入れるカギをくれたから」
そして彼に言われて俺たちは海しか見えないその真下に降りて行った。
持っているだけで入れるカギのようで段々と降りていくと一瞬何も見えない暗闇に包まれ、その後に先ほどと同じように晴れ渡った空に真っ白な草木も生えていない荒野が現れた。
ガシャ
勢いよくアルビオンカモメのアルビがその地面を踏むと、軽い何かが割れた音が聞こえた。
よく見てみると、それは様々な半分化石のようになった生物の骨だった。
「なんでこんなにいっぱい骨があるんだ」
すると彼は、神妙な顔で静かに話し始めた。
「この骨はかつてこの島や周辺にいた人やモンスターたちのものも含まれているが、そのほとんどは魔獣たちの骨だ」
「どういうことなんですか、アスラさん」
「原罪魔獣はこの島の生物を喰らい尽くした後、種の異なる魔獣を大量に産み出し、その産んだ魔獣たちをこの島で殺し合いをさせて、最終的に十二種の魔獣が生き残り、それらをこの島が封じられる前に他の地域に侵攻した。
この骨は、魔獣同士の殺し合いのときの骨さ」
「アスラ、その話に魔獣の王である暴食のリンネは出てくるの」
「いいや、このときにはリンネはまだいない」
「じゃあ、その話しだと何で魔獣は関係のないリンネに付き従うのかしら。
魔獣たちの集合体とかなのかな?」
マーニさんの言う通り、アスラさんの話しではその原罪魔獣とリンネは直接的な接点もないから、普通なら敵同士になると思ったけど違うんだ。
「これだけは言うが魔獣とリンネは違う、僕の調べた限りではリンネの持つ聖域に魔獣が何かしらの憧れを持っている」
「憧れですか?」
「そう、本来なら何者にも付き従わない魔獣だが、リンネにだけは付き従っている。
何かしら魔獣を魅了するのをリンネは持っている、それを表す言葉は憧れ以外ないと思うから、そう言ったまでさ」
そうなんだ分からないんだ、でも何を魔獣はリンネに憧れているのだろう。
魔獣とリンネ、調べれば調べるほど分からないな。
「とりあえず、前に進もう」
そして俺たちはミーナさんに言われて、アルビから降りて、白の荒野を突き進んだ。
しばらく歩みを進めると、鼻が曲がるほどの臭いとともに鮮やかな緑の玉虫色の何かの巨骨が白い大地に倒れていた。
明らかに普通の生物とは異なる何かがその骸から感じられた。
「なんだこの巨大な骨は」
まだ死んでから時間がたっていないのか、骨にところどころ肉が付いていて、そこから鼻が曲がるほどの臭いを発していた。
だが、まだ自分が小学生のとき、図鑑で色々な動物の骨などを見ていたが、この魔獣の骨は恐らくネコやライオンに近い骨だ。
「見たことのない魔獣の骨だな」
アスラさんが見たことない魔獣。
「それって」
「そうマコトが思っている通り、原罪魔獣ニゲルは何者かによってすでに倒されている」
「でも、モードレッドくんは倒せない魔獣って言ってなかったの?」
ミーナさんに言われて後、彼は立ち上がってその骨を見ながら言った。
「でも現に倒している、魔獣もいくら強力でもリンネと違い、モンスターなどの生物としては同じだから。
恐らく…首のところに骨を断ち切るぐらいの大きな傷跡があるからここが致命傷だ」
「とりあえず早く三人ともここから離れるわよ、この死体の瘴気で病気になりそうだから」
そしてしばらく歩いていると魔獣結晶でできた木々に覆われた森の中に入り、爪が長いチェンソーで尻尾のトゲが回転する円型のノコギリで紫のサソリに似た姿の魔獣テュルペの一匹が倒れている魔獣結晶の木を食べていた。
周囲も見渡さずにただ無心に食べていた様子で恐らくまだこちらには気づいてなかった。
「見つけた、十二魔獣の中で色欲に相当する魔獣テュルペね」
「目的は魔獣の体の一部分、奇襲をしかけて一気にハサミを切断して持って帰ろう」
「分かったとも、じゃあボクから行くよ」
ザザザッ
ミーナさんが音を立てながらわざと大げさに茂みから出てきた。
それに反応した魔獣は倒れた木とは反対側の方向に振り向いた。
「足止めしなさいアルビ」
「エーンッ」
彼女の号令とともに魔獣の後ろから、白い翼を広げた巨鳥が尻尾の鋭利な円状のトゲを太い足で押さえつけた。
ガッ
「キシャァァァ」
突然のことで動けずにいた魔獣テュルペに更なる追い討ちをかけるため、槍を持った俺と隣には剣を持ったマーニさんでその魔獣に接近した。
狙いは一つのチェンソー状のハサミだ。
「マーニさん、同時に行きましょう」
「えぇ、そうね」
ザンッ
マギアを纏わせた魔槍とただ純粋な力と技で練り上げられた魔剣、それらが一つとなってあらゆるものを切断する最強の武器となった。
「キシャァァァ」
パリパリッ
ハサミを切られた魔獣テュルペは暴れないようにアスラさんの魔術によって冷気と共に氷漬けになった。
そして、急いで人と同じぐらいの大きさのハサミを四人で持ってアルビに積み込み、自分たちも乗り込んだ。
少し遠くから騒ぎに聞きつけた他の魔獣の群れがこちらに迫ってきた。
「お願い、頼むわアルビ」
バササッ
そして一気にアルビオンカモメのアルビは空に飛んだが、ハサミが重すぎるのかで先ほどよりも高くは飛ぶことはできなかった。
「ふぅ逃げ切れたね」
それでもなんとか空にまで逃げ切れることができた。
それでも地上では、自分たちが落ちてくるのを祈るように魔獣の群れが声を上げながら、追いかけてきた。
「しかし、本当に魔獣はしつこいわね。
まだ地上から追いかけているわ」
「もうすぐさっきの入り口に近い、そこで逃げ切ることができる」
しかし、空の上に穴のある出口が見えたその矢先、地上から何か巨大なものが立ち上がった。
細長い何かがはたき落とそうとこちら襲いかかってきた。
バササッ
「エーン!!!」
アルビが寸前のところで避けて、落とされることはなかった。
攻撃が来た方向を見ると、そこには骨だけになった魔獣ニゲルの姿があった。
「グヂョォォォォン」
「死んだんじゃないの」
「マギアを張ります」
ぐぅいん
強者のマギアのバリアは間に合って魔獣ニゲルの振り下ろした手を受け止めた。
ガガガガッ
なんだこれは凄い力だ、単純な強さではリンネと変わらないかもしれない。
腕からは傷が浮かび上がり血が噴き出してきた、痛みとともに力負けしているのが感触で分かった。
すると、ミーナさんが肩を掴んできた。
「マコトくん、援護するわ。
再生のマギア展開」
そうすると腕から浮かび上がる傷の血が止まり、段々と痛みと共になくなった。
それと同時に受け止めた魔獣の手の骨は崩れて行った。
競り勝った。
「これが再生のマギア、ありがとうミーナさん」
「見た感じマコトくんのマギアは強力だからね、だからその分消費量も激しいと思ったからね」
すると横からアスラさんがその死んだ魔獣が動いた原因を知っているのか話し始めた。
「あれはシタイウゴキに感染しているな」
「シタイウゴキってなんですか」
「死体に潜んでいるハエの幼虫がその死体を動かして周りにいる生き物の死体を増やすため死体を使って殺しまわる、面倒な奴だ。
でもおかしい、この島には元々いなくて極東の地域にいるはずなのに」
「二回目が来るわ」
再び崩れた手とは別の手で攻撃してきた。
「一気に決める、コキュートス・ゼノ」
ガキィン
グパァッ
彼の攻撃が決まって全身凍らせたがその中でもシタイウゴキに感染した魔獣は動き、氷ごしに魔術を飛んでいる俺たちを逃さないように全方位に魔法陣を展開させた。
その魔術は先生から教えられた魔法陣の色から火、水、氷、雷、光、闇などの全ての属性の魔術。
なんでここまでの魔術を使えるんだ、この魔獣は?
バッ
「多数の魔法陣展開されている、そしたら先手必勝、グロウス!!!」
すると彼女は氷漬けになった魔獣のところに手のひらを向けて、俺が離れたところにバリアを展開するのと同じように魔力を一箇所にためる動作をして、それに魔力を送った。
ボトッ
ボトッ
「シャァァァァァ」
すると骨の中に蠢いていたシタイウゴキが一斉に羽化して、小さなハエのようにになった。
そのため、魔獣は氷を壊しながら骨ごと崩れ去って行った。
「ボクの再生のマギアは対象の細胞などを活性化させるもの、だからシタイウゴキ自体を無理矢理成長させて羽化させればあの魔獣の攻撃は止むかなと思って」
「凄い……」
「えっへん、そうだろうボクは凄いだろうー」
ふざけているミーナさんに急に顔色の悪くなったマーニさんが肩を叩きながら話し始めた。
「とりあえず早く帰りましょう、あれは気持ち悪いわ」
「まぁ、ボクがやったけどあれは無理だね」
確かに彼女の言う通り、氷の中に閉じ込めれたハエが逃げるためにブンブンと飛び回っていた。
それから俺らはその名もなき場所から脱出してモードレッドさんのいるクラレントに戻って魔獣の一部分を渡した。
✳︎✳︎✳︎
それから彼が病院の中の閉じこもって数日後。
目にクマのできた彼は一安心した顔でいつもよりもおっとりとした言葉で話した。
「ありがとう四人とも〜、無事に晶死病の特効薬も作れて、感染者は回復に向かっているよ〜。
一応、後で君たちも薬を飲んでくれ、感染元に行ったわけだからね〜」
早く寝たほうがいいんじゃないのかモードレッドさんは。
眠っていなくてテンションが上がっているのかな。
確かに深夜になるとテンションが上がるって前の世界の友だちのヤマトも言っていたな。
「いやボクのほうが皆んなにありがとうと言わないと」
そしてその話しが終わると彼はいつものように鋭い眼差しで尋ねてきた。
「それで本当に原罪魔獣ニゲルが死んでたのか」
「そうです、恐らく死体の腐り具合を見てここ数ヶ月かと」
アスラさんの言葉に彼は冷や汗をかきながら彼は話し始めた。
「そうか、致命傷になったのは首による切り傷。
暴食のリンネがそうすると考えられないし、新たなリンネなのか。
あの魔獣は転生者でも強大すぎて勝てないし、誰が倒したのか、謎は深まるばかりだ」
魔獣の祖を倒した存在、暴食以外のまだ見つかっていない新たなリンネ、そのなんとも言えない恐怖に俺はただ来ないことを願うしかなかった。