第20話 菓子(おくりもの)
文字数 5,324文字
さっそく、俺は朝早く起きて、市場に買い出しに行き必要なものを買いこんだ。
そして、昨日掃除したばかりの綺麗なキッチンを使い、アスラさんに渡すお菓子を作った。
「おはようマコト、アスラに何を作っているの」
お菓子が焼き終わったあと、寝ぼけたマーニさんが横からのぞいてきた。
「クッキーだね、アスラさんに元気になるようにね」
「じゃあ、さっそく味見のためにいただくわ」
そう言うと、彼女はまだアツアツの焼き立てのクッキーを口に入れた、大丈夫かなまだ味見もしてないから、美味しければいいんだけど。
サクッ
「……」
彼女はクッキーを口に入れた途端、黙ってしまった。
もしかして、あまり美味しくなかったのかな?
「でもこんなクッキーよりもお店に売っているほうがおいしいでしょう」
そんな言い訳をしていると、彼女はクッキーをもう一つ口に入れて叫んだ。
「ハァァァァ!!!
このサクサク感を感じたあとに迫りくる甘みの流れが口全体に広がってくる。
マコトがアスラを思う気持ちが感じ取られるそんな味だわ」
ビシッ
腕を組みながら彼女はそう言い終えると、刑事ドラマなどで犯人を示すかのように人差し指を突き出した
「いやいや、マーニさん。
俺はただ、普通にクッキー作っただけですから」
「いや、これは恋人に作るようなものですね。
先輩、分かりますよ〜」
そう言って、否定する俺にマーニさんは人差し指でわき腹をツンツンと突いてきた。
「もう、冷やかさないでください!!!」
朝はそんなことがありながらもアスラさんが入院している病院に向かった。
アスラさんの病室に向かうと、ちょうどカルテみたいなものを見ながら座っていたモードレッドさんがいた。
「こんにちはモードレッドさん。
あの、アスラさんはどうなんですか」
「安心するといい。
すっかり元気になったから」
すると、横にはベッドで座りながら申し訳なさそうに体を縮こませ何か言いたげそうなアスラさんがいた。
「二人ともごめん。
迷惑をかけて」
「いやぁ、迷惑なんてかけてないよ。
でもよかったアスラさんが元気になって」
俺とアスラさんの会話が終わると、モードレッドさんは俺たち二人にそこにあったイスに座るように促して、座ると話しを始めた。
「それで今後のアスラさんのことだが、予防策として、次からは魔石を過剰に摂取しないことだ」
「えっ、魔石の食べすぎなの」
「魔石って、どんなものなんですか」
マーニさんの驚きが気になり俺がそう質問すると、彼は実際にその魔石というものを見せて来た。
確かこれは、アスラさんが湧き水から氷を作るときに食べていたスティック状のものと一緒だ。
「本来のものは、なんらかの原因で魔力が長い年月、土に押しつぶされて石状になったものだ。
アスラさんは魔術師だから魔力切れとか起こさないようにたまに魔力鉱山で取れるものを摂取するものなんだが、今回は過剰に摂取しすぎて中毒症状みたいなものが出たのさ」
「すいません」
「アスラさん、もう二度と摂取をしないように。
これは預からせてもらう。
それと君たちの方からも彼が魔石を摂取しようとしていた時は止めといて欲しい」
そうだよね、都市ティルウィングでもアスラさんに頼ったことが多かったから、無理させないようにもっと俺も強くならないと。
「はい、ありがとうございます、モードレッドさん」
「マコト、それは僕が頭を下げないと」
「仲間を助けてもらったんだ、感謝しないといけないからね」
そう言うと、モードレッドさんは少し微笑んでいた。
「とても仲間思いなんだな、君は」
「そうかな?
あっ、それよりも二人分のクッキー作ったんですけど食べませんか」
先ほど作ったクッキーを取り出すと、モードレッドさんの顔は険しい表情になった。
もしかして、クッキーは嫌いだったのか。
「美味しそうなクッキーなんだが、医者として貰い物はするわけには……
うん、こんな調子だと彼女にまた頭が硬いと思われて笑われてしまう。
ありがとうマコトさん。
アスラさんのほうは病状が良くなってから渡しますから」
「ハハッ……
わかりました、よろしくお願いします」
真面目な人なんだと思いながら俺は苦笑いした。
ガチャ
そして俺たちは病院から出た後、家に帰ろうとしていた。
横にいたマーニさんが歩きながらため息をつきながら頭の後ろを手で組みながら話し始めた。
「まったくアスラは無理しすぎなのよ」
「俺たちも頑張らないとね、マーニさん」
「もう、私だって十分強いのに。
そうだ、この都市の冒険者ギルドで旅費を稼いでいかないと」
「そうだね、アスラさんの治療費も必要だから」
そして、今回ギルドで受けたクエストは採取クエストでアブラサバを釣り上げるものだった。
そのため、街から離れた石でできた防波堤で釣りをしていた。
ちょうど今日は波もあまり高くなく、ちょうどいい釣り日和だった。
「船の燃料の原料になるんですかこの魚。
普通のサバにしか見えませんけど」
「アブラサバは、石油よりも良質な油が取れるからね。
食料には向かないけど、この時期になるとここの冒険者ギルドは総出でこうやって釣りをするのよ。
アブラサバは、別名、海の石油って呼ばれてこの都市の特産品にもなるのよね」
「そしたら、大きい網で取ったほうがいいんじゃないかな」
「漁師の人なら分かっているけど、何も知らない私達は程度を知らないから乱獲しすぎて絶滅するからこの方法が一番いいみたいだよ」
「そうなんだね。
凄いね、物知りだねマーニさんは。」
「ほとんど、マスターに教えられたことだけどね」
そうだマスターのことまだマーニさんに何も言っていないな。
少し落ち込んだ顔をしていたらマーニさんに気づかれたのか彼女は海を見ながら言った。
「別にマコトが気にすることじゃないわよ。
あれはマスターが信じた道を歩んだだけであって、マコトが責任を負ってそこを歩む必要はないからね」
「いややっぱり俺が来たことで色々と迷惑をかけたと思っているから」
すると彼女は、急に立ち上がって真剣な眼差しで言った。
「いいや迷惑じゃないよ。
マコトと出会えて、私は本当に変われたと思っているから」
「えっ」
驚きの声をあげると、彼女は顔を真っ赤にして座って釣りを始めた。
「ほら、早く五匹釣って帰るわよ」
そして俺たちはその日、依頼を達成して家に帰った。
しかし最後までなぜ彼女の眼差しの理由は聞いても答えてくれなかった。
✳︎✳︎✳︎
その次の日もアスラさんのお見舞いに来た。
今日はクッキーではなくて、近くの花屋で買ったピンクのガーベラをお見舞いの花として買って行った。
アスラさんは魔石の影響なのか、昼近くになってもグッスリと眠っていた、それを起こさないようにコッソリと飾った。
起きたら、驚くだろうな。
その花を見ていたモードレッドさんは静かに微笑んでいた。
「ピンクのガーベラですか、花言葉は感謝ですかね」
「そうなんですね、そしたらよかったこの花は、綺麗だったから。
それと今日もありがとうございました、モードレッドさん」
「また、何かあったときはまた来るといい」
そう言えばあれを今聞かないと。
「えーと、それで治療費のほうはどうすればいいんですか」
するとモードレッドさんはアゴを触りながら天井を見て話した。
「そうだなマコトさん、明日自分と付き合ってくれないか。
それが治療費だ」
「えっ???」
そしてまた次の日、クラレントで一番人通りも多く、市場も集まっている病院の隣にある広場で彼を待っていた。
「確か、場所はここだけど。
一体、俺に何のようなんだろう」
すると後ろから誰かの目線を感じて振り向くと、遠くでマーニさんが見ている。
やましいことなんかないのに、付いてこないでって言ったのに、わざわざ付いてきて。
バレたとき、モードレッドさんに失礼だと思うんだけど……
そんなことを思っていると、自分や周りの人と変わらない服装をしたモードレッドさんが走ってきた。
魔王軍幹部の人だから、もう少し豪華な服を着ているのかなと思ったんだけど、別にそうでもないんだ。
確かにマスターや先生も周りの人と変わらない服装だったよね。
「待たせてしまったようだ、すまない。
それにしても待ち合わせより20分も早いなマコトさん、見習いたいな」
「えっへへへ
それでこんにちは、モードレッドさん。
何で俺を呼んだんですか」
「まぁ、それは後で話す、とりあえず着いてきてくれ」
そして彼についていくと、いつも晴れなんだが今日はよく晴れていて少し暑かった。
「もう夏なんですかね、ジメジメはしないですけど暑いですね」
「そうか、もう夏なのか」
そんな話しをしながら、彼が向かった先は……
ええっと何だろう、なんか釣り具屋さんに向かっているんだけど、釣りでもするのかな。
スタスタッ
すると彼は無表情で小走りになりながらこちらに向かってきた。
「マコトさん、人の女性というものは、これとか好きなのか」
彼が手にしたものは、魚を取るときのモリや釣り針だった。
そうかモードレッドさんは、人間の女性の恋人にプレゼントしようとしているのかな。
この街に恋人の人がいるかもしれないな。
だから、恥ずかしくてマーニさんたちの前で言いづらかったのかも知れないな。
そしたら、俺も真剣に答えなければ。
「うーん、あまり女性の人はそんなものは好みじゃないと思いますね」
「結構、難しいな。
この街の女性は喜ぶものなんだがな」
「えへへっ……」
この街は漁業が盛んだから、魚を獲る道具が喜ばれるのかな?
「ところでその人は、どんな人なんですか」
「そうだな、人や他種族であろうとも心優しく真面目な人で、色んな回復の術式を使えて、見栄っ張りで強いフリをしているけど本当は寂しやがり屋な人だな。
そこがかわいいと思っているが」
モードレッドさんの顔は、きらきらとした瞳で空を眺めながら話した。
「そうなんですか、うーん、その人はモードレッドさんのことをどう思っているんですか、好きなんですか?」
すると、苦笑いしながら目線を逸らした。
「自分の片思いだと思う」
「そしたら思い切って、その人に伝えればいいんじゃないですか」
そう言うと、彼は今まで考えたこともなかったのか、驚きで目が点になっていた。
「そ、そ、そうか、それは自分は考えたことがなかったな。
極めて最良の選択だ。
ーーだが、プレゼントを渡すぐらいならなんともないが告白するまでになると考えると、緊張してしまう」
「気軽にいきましょう、モードレッドさん」
「そうだな、魔王軍幹部である自分が恥ずかしいとかの理由で立ち止まるわけにはいかないからな。
それでプレゼントのほうはどうしようか」
そのプレゼントの答えは分かっている、前この世界にいる前に友だちにこの方法でやったら凄くビックリして喜ばれたから。
「自分で何か手作りしたほうがいいのかなって思う。
そっちのほうがほら、自分の気持ちが伝わると思うから」
「そうか手作りかそれはいいな。
しかし、何がいいのだろうか。
そうだマコトさん、この甘い薄茶色の食べ物でキャラメルがいいと思うが、作れるか?
あれだったら、彼女も喜ぶと思う」
「あーあ、キャラメルですね。
いいですよ」
すると彼は遠くのほうを見て、手を振りながら誰かに話しかけた。
「マーニさんも一緒に作ろうか」
バレてるし、さすが魔王軍幹部だ、自然なままに話しているし最初から気づいていた感じだよね。
ごめんなさい、恋人の話は恐らく自分だけに聞かせたかったんだと思うけど。
「ちょうど、今から声をかけようと思いまして」
苦笑いしながら、頭をかかじりながら彼女は歩いてきた。
下手な嘘はつかないほうがいいと思うよマーニさん。
✳︎✳︎✳︎
それから俺たちは、市場で材料を買って、モードレッドさんの広い台所でキャラメル作りを始めた。
「この、シロクロ牛の乳とバター、砂糖を煮込めて混ぜ合わせて、その後冷やせば作れるのか。
お菓子作りとは、極めて緻密で繊細な所業だ」
「最後、難しい言葉でまったく分からないけど、ざっくりと言えばそうだね。
分量と煮込み時間だけには気をつけてね」
「マコトー!!!
助けて!!!」
突然、最初に教えていたマーニさんの叫び声が聞こえ、そこを見ると。
グツグツ、ゴポゴポ
ドス黒いマグマのようなかつてキャラメルだったものがあった。
「マーニさん、こんなに火を強くしたらダメですよ」
キャラメルを煮込んでいた小さなナベをどかした。
すると、マーニさんが申し訳なさそうに舌を少し出していた。
「テヘッ、いやほら、早く作ったほうがいいのかなと思ってん火を強くしたんだけど、ちょっと目を離したすきにね」
「まぁ、次はそんなに慌てないようにしてくださいね」
「はい、ごめんなさい、慌てないようにします」
マーニさんは再び一から作り直すことになった。
そして二人とも残す作業は……
「後は、これを氷鉱石の入った冷蔵庫で冷やしておけば明日にはできあがると思うから」
「果たして、自分が作ったキャラメルが彼女の口に会うのかは未知数だな」
「頑張ってください、モードレッドさん」
「絶対、女の人はお菓子を作れる男の人を好きになれます。
この砂糖ミルクレンガで」
「そうか、頑張るしかないよな」
そして、出来上がった砂糖ミルクレンガじゃなくてキャラメルは、彼の恋の成功を望むかのようにとても綺麗にできあがっていた。
そして、昨日掃除したばかりの綺麗なキッチンを使い、アスラさんに渡すお菓子を作った。
「おはようマコト、アスラに何を作っているの」
お菓子が焼き終わったあと、寝ぼけたマーニさんが横からのぞいてきた。
「クッキーだね、アスラさんに元気になるようにね」
「じゃあ、さっそく味見のためにいただくわ」
そう言うと、彼女はまだアツアツの焼き立てのクッキーを口に入れた、大丈夫かなまだ味見もしてないから、美味しければいいんだけど。
サクッ
「……」
彼女はクッキーを口に入れた途端、黙ってしまった。
もしかして、あまり美味しくなかったのかな?
「でもこんなクッキーよりもお店に売っているほうがおいしいでしょう」
そんな言い訳をしていると、彼女はクッキーをもう一つ口に入れて叫んだ。
「ハァァァァ!!!
このサクサク感を感じたあとに迫りくる甘みの流れが口全体に広がってくる。
マコトがアスラを思う気持ちが感じ取られるそんな味だわ」
ビシッ
腕を組みながら彼女はそう言い終えると、刑事ドラマなどで犯人を示すかのように人差し指を突き出した
「いやいや、マーニさん。
俺はただ、普通にクッキー作っただけですから」
「いや、これは恋人に作るようなものですね。
先輩、分かりますよ〜」
そう言って、否定する俺にマーニさんは人差し指でわき腹をツンツンと突いてきた。
「もう、冷やかさないでください!!!」
朝はそんなことがありながらもアスラさんが入院している病院に向かった。
アスラさんの病室に向かうと、ちょうどカルテみたいなものを見ながら座っていたモードレッドさんがいた。
「こんにちはモードレッドさん。
あの、アスラさんはどうなんですか」
「安心するといい。
すっかり元気になったから」
すると、横にはベッドで座りながら申し訳なさそうに体を縮こませ何か言いたげそうなアスラさんがいた。
「二人ともごめん。
迷惑をかけて」
「いやぁ、迷惑なんてかけてないよ。
でもよかったアスラさんが元気になって」
俺とアスラさんの会話が終わると、モードレッドさんは俺たち二人にそこにあったイスに座るように促して、座ると話しを始めた。
「それで今後のアスラさんのことだが、予防策として、次からは魔石を過剰に摂取しないことだ」
「えっ、魔石の食べすぎなの」
「魔石って、どんなものなんですか」
マーニさんの驚きが気になり俺がそう質問すると、彼は実際にその魔石というものを見せて来た。
確かこれは、アスラさんが湧き水から氷を作るときに食べていたスティック状のものと一緒だ。
「本来のものは、なんらかの原因で魔力が長い年月、土に押しつぶされて石状になったものだ。
アスラさんは魔術師だから魔力切れとか起こさないようにたまに魔力鉱山で取れるものを摂取するものなんだが、今回は過剰に摂取しすぎて中毒症状みたいなものが出たのさ」
「すいません」
「アスラさん、もう二度と摂取をしないように。
これは預からせてもらう。
それと君たちの方からも彼が魔石を摂取しようとしていた時は止めといて欲しい」
そうだよね、都市ティルウィングでもアスラさんに頼ったことが多かったから、無理させないようにもっと俺も強くならないと。
「はい、ありがとうございます、モードレッドさん」
「マコト、それは僕が頭を下げないと」
「仲間を助けてもらったんだ、感謝しないといけないからね」
そう言うと、モードレッドさんは少し微笑んでいた。
「とても仲間思いなんだな、君は」
「そうかな?
あっ、それよりも二人分のクッキー作ったんですけど食べませんか」
先ほど作ったクッキーを取り出すと、モードレッドさんの顔は険しい表情になった。
もしかして、クッキーは嫌いだったのか。
「美味しそうなクッキーなんだが、医者として貰い物はするわけには……
うん、こんな調子だと彼女にまた頭が硬いと思われて笑われてしまう。
ありがとうマコトさん。
アスラさんのほうは病状が良くなってから渡しますから」
「ハハッ……
わかりました、よろしくお願いします」
真面目な人なんだと思いながら俺は苦笑いした。
ガチャ
そして俺たちは病院から出た後、家に帰ろうとしていた。
横にいたマーニさんが歩きながらため息をつきながら頭の後ろを手で組みながら話し始めた。
「まったくアスラは無理しすぎなのよ」
「俺たちも頑張らないとね、マーニさん」
「もう、私だって十分強いのに。
そうだ、この都市の冒険者ギルドで旅費を稼いでいかないと」
「そうだね、アスラさんの治療費も必要だから」
そして、今回ギルドで受けたクエストは採取クエストでアブラサバを釣り上げるものだった。
そのため、街から離れた石でできた防波堤で釣りをしていた。
ちょうど今日は波もあまり高くなく、ちょうどいい釣り日和だった。
「船の燃料の原料になるんですかこの魚。
普通のサバにしか見えませんけど」
「アブラサバは、石油よりも良質な油が取れるからね。
食料には向かないけど、この時期になるとここの冒険者ギルドは総出でこうやって釣りをするのよ。
アブラサバは、別名、海の石油って呼ばれてこの都市の特産品にもなるのよね」
「そしたら、大きい網で取ったほうがいいんじゃないかな」
「漁師の人なら分かっているけど、何も知らない私達は程度を知らないから乱獲しすぎて絶滅するからこの方法が一番いいみたいだよ」
「そうなんだね。
凄いね、物知りだねマーニさんは。」
「ほとんど、マスターに教えられたことだけどね」
そうだマスターのことまだマーニさんに何も言っていないな。
少し落ち込んだ顔をしていたらマーニさんに気づかれたのか彼女は海を見ながら言った。
「別にマコトが気にすることじゃないわよ。
あれはマスターが信じた道を歩んだだけであって、マコトが責任を負ってそこを歩む必要はないからね」
「いややっぱり俺が来たことで色々と迷惑をかけたと思っているから」
すると彼女は、急に立ち上がって真剣な眼差しで言った。
「いいや迷惑じゃないよ。
マコトと出会えて、私は本当に変われたと思っているから」
「えっ」
驚きの声をあげると、彼女は顔を真っ赤にして座って釣りを始めた。
「ほら、早く五匹釣って帰るわよ」
そして俺たちはその日、依頼を達成して家に帰った。
しかし最後までなぜ彼女の眼差しの理由は聞いても答えてくれなかった。
✳︎✳︎✳︎
その次の日もアスラさんのお見舞いに来た。
今日はクッキーではなくて、近くの花屋で買ったピンクのガーベラをお見舞いの花として買って行った。
アスラさんは魔石の影響なのか、昼近くになってもグッスリと眠っていた、それを起こさないようにコッソリと飾った。
起きたら、驚くだろうな。
その花を見ていたモードレッドさんは静かに微笑んでいた。
「ピンクのガーベラですか、花言葉は感謝ですかね」
「そうなんですね、そしたらよかったこの花は、綺麗だったから。
それと今日もありがとうございました、モードレッドさん」
「また、何かあったときはまた来るといい」
そう言えばあれを今聞かないと。
「えーと、それで治療費のほうはどうすればいいんですか」
するとモードレッドさんはアゴを触りながら天井を見て話した。
「そうだなマコトさん、明日自分と付き合ってくれないか。
それが治療費だ」
「えっ???」
そしてまた次の日、クラレントで一番人通りも多く、市場も集まっている病院の隣にある広場で彼を待っていた。
「確か、場所はここだけど。
一体、俺に何のようなんだろう」
すると後ろから誰かの目線を感じて振り向くと、遠くでマーニさんが見ている。
やましいことなんかないのに、付いてこないでって言ったのに、わざわざ付いてきて。
バレたとき、モードレッドさんに失礼だと思うんだけど……
そんなことを思っていると、自分や周りの人と変わらない服装をしたモードレッドさんが走ってきた。
魔王軍幹部の人だから、もう少し豪華な服を着ているのかなと思ったんだけど、別にそうでもないんだ。
確かにマスターや先生も周りの人と変わらない服装だったよね。
「待たせてしまったようだ、すまない。
それにしても待ち合わせより20分も早いなマコトさん、見習いたいな」
「えっへへへ
それでこんにちは、モードレッドさん。
何で俺を呼んだんですか」
「まぁ、それは後で話す、とりあえず着いてきてくれ」
そして彼についていくと、いつも晴れなんだが今日はよく晴れていて少し暑かった。
「もう夏なんですかね、ジメジメはしないですけど暑いですね」
「そうか、もう夏なのか」
そんな話しをしながら、彼が向かった先は……
ええっと何だろう、なんか釣り具屋さんに向かっているんだけど、釣りでもするのかな。
スタスタッ
すると彼は無表情で小走りになりながらこちらに向かってきた。
「マコトさん、人の女性というものは、これとか好きなのか」
彼が手にしたものは、魚を取るときのモリや釣り針だった。
そうかモードレッドさんは、人間の女性の恋人にプレゼントしようとしているのかな。
この街に恋人の人がいるかもしれないな。
だから、恥ずかしくてマーニさんたちの前で言いづらかったのかも知れないな。
そしたら、俺も真剣に答えなければ。
「うーん、あまり女性の人はそんなものは好みじゃないと思いますね」
「結構、難しいな。
この街の女性は喜ぶものなんだがな」
「えへへっ……」
この街は漁業が盛んだから、魚を獲る道具が喜ばれるのかな?
「ところでその人は、どんな人なんですか」
「そうだな、人や他種族であろうとも心優しく真面目な人で、色んな回復の術式を使えて、見栄っ張りで強いフリをしているけど本当は寂しやがり屋な人だな。
そこがかわいいと思っているが」
モードレッドさんの顔は、きらきらとした瞳で空を眺めながら話した。
「そうなんですか、うーん、その人はモードレッドさんのことをどう思っているんですか、好きなんですか?」
すると、苦笑いしながら目線を逸らした。
「自分の片思いだと思う」
「そしたら思い切って、その人に伝えればいいんじゃないですか」
そう言うと、彼は今まで考えたこともなかったのか、驚きで目が点になっていた。
「そ、そ、そうか、それは自分は考えたことがなかったな。
極めて最良の選択だ。
ーーだが、プレゼントを渡すぐらいならなんともないが告白するまでになると考えると、緊張してしまう」
「気軽にいきましょう、モードレッドさん」
「そうだな、魔王軍幹部である自分が恥ずかしいとかの理由で立ち止まるわけにはいかないからな。
それでプレゼントのほうはどうしようか」
そのプレゼントの答えは分かっている、前この世界にいる前に友だちにこの方法でやったら凄くビックリして喜ばれたから。
「自分で何か手作りしたほうがいいのかなって思う。
そっちのほうがほら、自分の気持ちが伝わると思うから」
「そうか手作りかそれはいいな。
しかし、何がいいのだろうか。
そうだマコトさん、この甘い薄茶色の食べ物でキャラメルがいいと思うが、作れるか?
あれだったら、彼女も喜ぶと思う」
「あーあ、キャラメルですね。
いいですよ」
すると彼は遠くのほうを見て、手を振りながら誰かに話しかけた。
「マーニさんも一緒に作ろうか」
バレてるし、さすが魔王軍幹部だ、自然なままに話しているし最初から気づいていた感じだよね。
ごめんなさい、恋人の話は恐らく自分だけに聞かせたかったんだと思うけど。
「ちょうど、今から声をかけようと思いまして」
苦笑いしながら、頭をかかじりながら彼女は歩いてきた。
下手な嘘はつかないほうがいいと思うよマーニさん。
✳︎✳︎✳︎
それから俺たちは、市場で材料を買って、モードレッドさんの広い台所でキャラメル作りを始めた。
「この、シロクロ牛の乳とバター、砂糖を煮込めて混ぜ合わせて、その後冷やせば作れるのか。
お菓子作りとは、極めて緻密で繊細な所業だ」
「最後、難しい言葉でまったく分からないけど、ざっくりと言えばそうだね。
分量と煮込み時間だけには気をつけてね」
「マコトー!!!
助けて!!!」
突然、最初に教えていたマーニさんの叫び声が聞こえ、そこを見ると。
グツグツ、ゴポゴポ
ドス黒いマグマのようなかつてキャラメルだったものがあった。
「マーニさん、こんなに火を強くしたらダメですよ」
キャラメルを煮込んでいた小さなナベをどかした。
すると、マーニさんが申し訳なさそうに舌を少し出していた。
「テヘッ、いやほら、早く作ったほうがいいのかなと思ってん火を強くしたんだけど、ちょっと目を離したすきにね」
「まぁ、次はそんなに慌てないようにしてくださいね」
「はい、ごめんなさい、慌てないようにします」
マーニさんは再び一から作り直すことになった。
そして二人とも残す作業は……
「後は、これを氷鉱石の入った冷蔵庫で冷やしておけば明日にはできあがると思うから」
「果たして、自分が作ったキャラメルが彼女の口に会うのかは未知数だな」
「頑張ってください、モードレッドさん」
「絶対、女の人はお菓子を作れる男の人を好きになれます。
この砂糖ミルクレンガで」
「そうか、頑張るしかないよな」
そして、出来上がった砂糖ミルクレンガじゃなくてキャラメルは、彼の恋の成功を望むかのようにとても綺麗にできあがっていた。