第17話 願望(いのち)
文字数 3,302文字
意識が飛んでいたのか、だが目覚める前に体の左部分に思いっきり槍で何本も刺されたかのような激痛が走った。
「クッ!!!」
「マコト!!!」
マーニさんとアスラさんの声が聞こえる、そうだ立ち上がらないといつも二人には心配かけているから。
頭では考えているけど、ピクリとも動かない。
そうかこれが死なのか。
一度目の死は一瞬だったから気づきもしなかったけどごめん、マルスさん、やっぱり俺はこのぐらいの人間だった。
「諦めるな、マコト!!!」
無くなりそうな意識の中でマスターの声が聞こえる。
マスターは無事だったのだろうか。
目をしっかりと開こうとしても、まぶたを開ける力も無く声だけが聞こえた。
「アナタも動かないで、マキュリー」
「いいや、まだ彼のほうが助かる確率が高い、ボクは核の部分をやられた。
だから、モルガーナ後は頼む」
「ハァハァハァ。
ガハッ、コホッコホッ」
確か、マーニさんが言っていた魔獣に致命傷を与えられるとそこから死んだ細胞が魔獣結晶に変換され、最後は完全に結晶になることを思い出した。
リンネも魔獣の王と呼ばれているから、自分はそれに今なりかけているのかもしれない。
「マコト、しっかりして!!!」
「マコト!!!」
呼び止める声、もう誰なのかも判断がつかなかった。
マスターの息を切らしながら焦った声が聞こえた。
「早くしてくれ、あの魔術を使えるのは今、お前しかいないんだ。」
「でも、あれを使うとアナタは死ぬのよ」
「どうせ、ボクは時間さえ経てば死ぬ。
そしたらマコトを助ける可能性がある道を選ぶ、頼むモルガーナ」
「……分かった」
ほとんど、何も考えられない意識の中で誰かの涙の声が聞こえたまま、自分は意識を無くした。
パチッ
「あっ、目を覚ました」
上には魔法で灯された、ふわふわと浮かぶ光の球だろうか、長く目をつぶっており開けてみると慣れておらず少しまぶしかった。
まぶしいと思い、左手をかざすと普通に光を遮った。
いや、おかしいはず。
「左目が見える、確か俺は左腕と左半身が……
なんであるんだ。
化け物に喰われたはずなのに」
「マコト君、マスターが助けてくれたんですよ」
そう先生に言われて隣を見るとアスラさんやマーニさんも傷だらけになりながらも隣で座っていた。
それを気づくと同時に今までの記憶も蘇ってきた。
確か、マスターが俺をリンネから離れさせて……
「そうだ、マスターは俺を庇って。
マスターはどうなったんだ、みんな」
「……」
その言葉に三人とも無言になった後、先生がうつむきながら話した。
「彼はアナタに思いを託したわ」
「そうなのか……
なんで、マスター俺の為にここまで親身になってくれたんだよ。
俺なんかどうしようもない人間なのに」
パァンッ
マーニさんが思いっきり平手打ちしてきた、理由は分かっている。
だけど俺はむしろそれを望んでいたのかもしれない。
俺の命を救うためにマスターが死んだことの罪悪感を少しでも減らすように。
「マコトのバカ。
思いを託したマスターを侮辱しないで、キミはどうしようもない人間じゃない。
キミは私やこの街のみんなのために、命をかけて戦ってくれたじゃない。
そんなこと、そんなこと、本当に言わないで」
バタンッ
彼女は怒りと悲しみが混じった顔でこの部屋の扉を開けて出て行った。
ごめんなさいマーニさん、俺は少しでも過ちから逃れるためにこんなことを言ってしまった。
本当に最低だ。
「モルガーナ先生、俺はなんで転生者に選ばれたんですか。
皆んな、期待しているようだけど、こんなことを言ってしまう人なのに」
マーニさんに叩かれ痛むほおを触りながら先生に聞いた。
先生は、回復の魔法を俺の頬にかけながら話し始めた。
「それはアタシも分からないわ。
でもアナタしかできないことがあるからこそ、運命はアナタを選んだと思うわよ」
運命なのか、なんで俺にこんな現実を見せつけるのだろうか、弱音だと言われるが俺はそう思うしかなかった。
「……あの俺たちを襲った奴はやっぱり暴食のリンネなのですか」
「そうね、あれは、私たちが魔王軍と都市連合で対立していたときに確認された怪物リンネ。
そして都市連合が帝国に統一された後も共通の敵とされている。
そのリンネは魔獣とは異なり、あの奇妙な空間が広がる結界を作って、そこに獲物を閉じ込めて、喰らう恐ろしい存在よ。
それ以外のことはあまり分かっていないの、どこから発生してどこで現れるのかも」
「目的とかも分からないんですか」
「えぇ、まったく分からないのよね。
唯一分かったことは、今確認されている個体はあれしかいないことね」
暴食のリンネ、またあんなのが現れたら、どうやって勝てばいいのだろう。
ベッドで座り込みながら、何もできない自分の無力さに足にかかっている布団を握りしめていると、誰か入ってきた。
「お目覚めですかな、マコト」
覚えてはいないがどこかで聞いたことのある声がした。
「あぁ、紹介が遅れたわね」
先生が向いた視線の先にその人はいた。
「これは初めまして。
小生は人からは王兵英雄と呼ばれている四英雄の一人、ラウ・カリマンという者です」
黒色の軍服を着込み、胸には階級の高さを象徴するいくつもの勲章が飾られていた。
自分よりも少し年上で18歳から19歳ぐらいの若さの男の人だった。
その人は、こちらに握手を求めて手を差し出して来た。
「えっ、アナタが四英雄の一人なんですか」
「まぁ、そうだよね」
その人は、恥ずかしそうに顔を人差し指でかかじりながら口笛を吹くマネをしながらそう言った。
「そうなんですね」
ガシッ
彼の差し出した手を強く握り返した。
そうだ、この人たちは。
「ありがとうございます、天の炎やリンネから都市を守ろうとしてくれて」
そう、少し残っているおぼろげな記憶でこの人たちは、都市を守るために頑張ってくれたんだから感謝しないと。
「まぁ、意味はなかったけど」
彼の表情は少し暗くなりながらそう言った。
それを見かねたアスラさんが話しを変えるように質問した。
「それでなんで天の炎がこちらに向かって飛んで来たんだ」
そう言うと、彼は帝国の紋章の入った黒い軍帽を脱いで、灰色の髪の生えた頭をかかじりながら話した。
「今のところ答えが出てないところだね」
それを聞いたアスラさんは表情ひとつも変えずに次の質問をしようとした。
「そう、それで帝国は以前、魔王軍が襲撃したときに魔王様を封印したものとマコトが奪われたことも覚えていないのか」
彼にそう言われると、ラウさんは腕を組んで覚えていない様子だった。
「確かに魔王が封印された魂が魔王軍の手に渡ったことは知っているが、マコトと言う転生者は知らないな」
「転生者はラウくんの王様が呼び出すから、その彼女も知らなかったの」
「そうだな、もしかしたら何かを隠しているかもしれないな。
それでお願いがあるんだけど、小生を魔王軍に入れてくれないかな?」
「でも、仲間が来るんじゃないのか」
アスラさんにそう言われると、彼は頭をゆっくり童磨横に振った。
「いいや、そのあたりは心配しなくてもいい、そこは小生が帝国の監視網から抜ける特殊な電波を放射させているから、この都市とこの艦隊は先ほどの天の炎によって消失されていることになっているはずだよ」
「でも、直接来たらどうするのよ?」
「それもそうだが、あいにく帝国の大部分は暴食のリンネのほうを追いかけるから、こちらに人員を回すのは小生の部下ぐらいだから、口裏を合わせればバレることはない」
こんなところまで全て考えているなんてやっぱり帝国四英雄の一人、王兵英雄と呼ばれているだけあるな。
そう感心していると、彼は顔を近づけて二人には聞こえないぐらいの小声で話した。
「それとマコト、質問があるが、誰かに銃を突きつけられたことはあるか?」
「えっ?
いや知らないですね」
「やはり、彼はマコト自身ではないのか」
彼はアゴを手で触りながらそう言った。
「どうかしたの?」
先生に言われて彼は頭をかかじって今の言葉をごまかそうとした。
「なに、ただの思い違いだったから気にしなくていいよ」
どう言うことなんだろう、でもそんなことよりもマーニさんのところに謝りにいかないと。
そう思った俺は、ベッドから立ちあがろうとした。
「クッ!!!」
「マコト!!!」
マーニさんとアスラさんの声が聞こえる、そうだ立ち上がらないといつも二人には心配かけているから。
頭では考えているけど、ピクリとも動かない。
そうかこれが死なのか。
一度目の死は一瞬だったから気づきもしなかったけどごめん、マルスさん、やっぱり俺はこのぐらいの人間だった。
「諦めるな、マコト!!!」
無くなりそうな意識の中でマスターの声が聞こえる。
マスターは無事だったのだろうか。
目をしっかりと開こうとしても、まぶたを開ける力も無く声だけが聞こえた。
「アナタも動かないで、マキュリー」
「いいや、まだ彼のほうが助かる確率が高い、ボクは核の部分をやられた。
だから、モルガーナ後は頼む」
「ハァハァハァ。
ガハッ、コホッコホッ」
確か、マーニさんが言っていた魔獣に致命傷を与えられるとそこから死んだ細胞が魔獣結晶に変換され、最後は完全に結晶になることを思い出した。
リンネも魔獣の王と呼ばれているから、自分はそれに今なりかけているのかもしれない。
「マコト、しっかりして!!!」
「マコト!!!」
呼び止める声、もう誰なのかも判断がつかなかった。
マスターの息を切らしながら焦った声が聞こえた。
「早くしてくれ、あの魔術を使えるのは今、お前しかいないんだ。」
「でも、あれを使うとアナタは死ぬのよ」
「どうせ、ボクは時間さえ経てば死ぬ。
そしたらマコトを助ける可能性がある道を選ぶ、頼むモルガーナ」
「……分かった」
ほとんど、何も考えられない意識の中で誰かの涙の声が聞こえたまま、自分は意識を無くした。
パチッ
「あっ、目を覚ました」
上には魔法で灯された、ふわふわと浮かぶ光の球だろうか、長く目をつぶっており開けてみると慣れておらず少しまぶしかった。
まぶしいと思い、左手をかざすと普通に光を遮った。
いや、おかしいはず。
「左目が見える、確か俺は左腕と左半身が……
なんであるんだ。
化け物に喰われたはずなのに」
「マコト君、マスターが助けてくれたんですよ」
そう先生に言われて隣を見るとアスラさんやマーニさんも傷だらけになりながらも隣で座っていた。
それを気づくと同時に今までの記憶も蘇ってきた。
確か、マスターが俺をリンネから離れさせて……
「そうだ、マスターは俺を庇って。
マスターはどうなったんだ、みんな」
「……」
その言葉に三人とも無言になった後、先生がうつむきながら話した。
「彼はアナタに思いを託したわ」
「そうなのか……
なんで、マスター俺の為にここまで親身になってくれたんだよ。
俺なんかどうしようもない人間なのに」
パァンッ
マーニさんが思いっきり平手打ちしてきた、理由は分かっている。
だけど俺はむしろそれを望んでいたのかもしれない。
俺の命を救うためにマスターが死んだことの罪悪感を少しでも減らすように。
「マコトのバカ。
思いを託したマスターを侮辱しないで、キミはどうしようもない人間じゃない。
キミは私やこの街のみんなのために、命をかけて戦ってくれたじゃない。
そんなこと、そんなこと、本当に言わないで」
バタンッ
彼女は怒りと悲しみが混じった顔でこの部屋の扉を開けて出て行った。
ごめんなさいマーニさん、俺は少しでも過ちから逃れるためにこんなことを言ってしまった。
本当に最低だ。
「モルガーナ先生、俺はなんで転生者に選ばれたんですか。
皆んな、期待しているようだけど、こんなことを言ってしまう人なのに」
マーニさんに叩かれ痛むほおを触りながら先生に聞いた。
先生は、回復の魔法を俺の頬にかけながら話し始めた。
「それはアタシも分からないわ。
でもアナタしかできないことがあるからこそ、運命はアナタを選んだと思うわよ」
運命なのか、なんで俺にこんな現実を見せつけるのだろうか、弱音だと言われるが俺はそう思うしかなかった。
「……あの俺たちを襲った奴はやっぱり暴食のリンネなのですか」
「そうね、あれは、私たちが魔王軍と都市連合で対立していたときに確認された怪物リンネ。
そして都市連合が帝国に統一された後も共通の敵とされている。
そのリンネは魔獣とは異なり、あの奇妙な空間が広がる結界を作って、そこに獲物を閉じ込めて、喰らう恐ろしい存在よ。
それ以外のことはあまり分かっていないの、どこから発生してどこで現れるのかも」
「目的とかも分からないんですか」
「えぇ、まったく分からないのよね。
唯一分かったことは、今確認されている個体はあれしかいないことね」
暴食のリンネ、またあんなのが現れたら、どうやって勝てばいいのだろう。
ベッドで座り込みながら、何もできない自分の無力さに足にかかっている布団を握りしめていると、誰か入ってきた。
「お目覚めですかな、マコト」
覚えてはいないがどこかで聞いたことのある声がした。
「あぁ、紹介が遅れたわね」
先生が向いた視線の先にその人はいた。
「これは初めまして。
小生は人からは王兵英雄と呼ばれている四英雄の一人、ラウ・カリマンという者です」
黒色の軍服を着込み、胸には階級の高さを象徴するいくつもの勲章が飾られていた。
自分よりも少し年上で18歳から19歳ぐらいの若さの男の人だった。
その人は、こちらに握手を求めて手を差し出して来た。
「えっ、アナタが四英雄の一人なんですか」
「まぁ、そうだよね」
その人は、恥ずかしそうに顔を人差し指でかかじりながら口笛を吹くマネをしながらそう言った。
「そうなんですね」
ガシッ
彼の差し出した手を強く握り返した。
そうだ、この人たちは。
「ありがとうございます、天の炎やリンネから都市を守ろうとしてくれて」
そう、少し残っているおぼろげな記憶でこの人たちは、都市を守るために頑張ってくれたんだから感謝しないと。
「まぁ、意味はなかったけど」
彼の表情は少し暗くなりながらそう言った。
それを見かねたアスラさんが話しを変えるように質問した。
「それでなんで天の炎がこちらに向かって飛んで来たんだ」
そう言うと、彼は帝国の紋章の入った黒い軍帽を脱いで、灰色の髪の生えた頭をかかじりながら話した。
「今のところ答えが出てないところだね」
それを聞いたアスラさんは表情ひとつも変えずに次の質問をしようとした。
「そう、それで帝国は以前、魔王軍が襲撃したときに魔王様を封印したものとマコトが奪われたことも覚えていないのか」
彼にそう言われると、ラウさんは腕を組んで覚えていない様子だった。
「確かに魔王が封印された魂が魔王軍の手に渡ったことは知っているが、マコトと言う転生者は知らないな」
「転生者はラウくんの王様が呼び出すから、その彼女も知らなかったの」
「そうだな、もしかしたら何かを隠しているかもしれないな。
それでお願いがあるんだけど、小生を魔王軍に入れてくれないかな?」
「でも、仲間が来るんじゃないのか」
アスラさんにそう言われると、彼は頭をゆっくり童磨横に振った。
「いいや、そのあたりは心配しなくてもいい、そこは小生が帝国の監視網から抜ける特殊な電波を放射させているから、この都市とこの艦隊は先ほどの天の炎によって消失されていることになっているはずだよ」
「でも、直接来たらどうするのよ?」
「それもそうだが、あいにく帝国の大部分は暴食のリンネのほうを追いかけるから、こちらに人員を回すのは小生の部下ぐらいだから、口裏を合わせればバレることはない」
こんなところまで全て考えているなんてやっぱり帝国四英雄の一人、王兵英雄と呼ばれているだけあるな。
そう感心していると、彼は顔を近づけて二人には聞こえないぐらいの小声で話した。
「それとマコト、質問があるが、誰かに銃を突きつけられたことはあるか?」
「えっ?
いや知らないですね」
「やはり、彼はマコト自身ではないのか」
彼はアゴを手で触りながらそう言った。
「どうかしたの?」
先生に言われて彼は頭をかかじって今の言葉をごまかそうとした。
「なに、ただの思い違いだったから気にしなくていいよ」
どう言うことなんだろう、でもそんなことよりもマーニさんのところに謝りにいかないと。
そう思った俺は、ベッドから立ちあがろうとした。