第37話  彼女(みらい)

文字数 6,168文字

「んっ、まだ夜か。
となりは明るいけど、誰か起きているのかな」

夜中、目が覚めてしまって再び寝ようとすると。
リビングのほうが明るかった。

なんだ、二人とも起きているじゃん、さてはお腹空いて夜食でも食べようとしているのかな?
それに混ざろうと、自分がそのトビラを開けようとふれると。

ガチャ

二人はそのまま、トビラを開け外に出て行った。
まさかデートなのかな。
普段はケンカばっかりしているけど、実際俺が知らないところで仲が進展しているのかな。
これは見ないといけないね、仲間だから。
うんっ。

✳︎✳︎✳︎

そんなちょっとしたイタズラ心と罪悪感を持ちながら、二人について行くと、かなり歩いて街の郊外の広い名も知らない草原が広がっているところまで歩いて行った。
確か、ここはマーニさんと俺が魔獣たちと戦った場所。

これもしかしてプロポーズなのかな、いやぁここまで進展していたとわ、自分どんだけ鈍感なんだよ。

そして、ニヤニヤしながら俺は近くにある岩陰に隠れながら二人の話しを聞いた。

「それで話ってなんなのよ、アスラ」

「ーー黙れ!!!」

サァァァ

ガキィン

「危なっ、どういうことよ、仲間に何で攻撃するの?」

どういうことだ、いつものケンカならまだしも、あのアスラさんの氷魔術、魔獣とかを倒すときの本気の魔術だ。
どうしようでも今は、まず止めないと。

「アスラさん、やめてください!!!」

「えっ」

ぐうぃん

俺がとっさに前方に発生させたマギアで氷が生成される前に魔術を跳ね返した。

「マコト、助かったわ」

「俺のマギアぐらいだったら、アスラさんの魔術ですぐに壊れるから、今はここから逃げよう」

ザッザッザッ

そして俺はマーニさんを連れて密林の方まで走り去った、一体どうしたんだアスラさんは?
だけど今、そんな疑問よりも彼と一緒に行ったらマーニさんが確実に殺される、いや下手したら自分も殺されるかもしれない。
早く別の街に逃げよう。

だが数十分、全力疾走しているのと、体力が無いのと何を考えているのか分からない彼の恐怖でヘトヘトになって、立ち止まった。

「ハァハァハァ、マーニさん、大丈夫ですか」 

「う、うん、大丈夫。
ありがとうね、マコト」
彼女は恥ずかしながらお礼を言った、どうしたのだろういつもだったら、普通に言うのに。

「良いですよ、でもアスラさんはどうしたんだろうね、いきなりあんなことするなんて」

彼女は銀髪をいじりながら言った。

「いいやアタシも分からないわ。
それよりもマコト、マーニは生きていると思うよね」

「えっ、まぁそれはそうじゃないですか、変なこと言わないでくださいよ」

すると、人が変わったかのようにマーニさんは目を見開きながら睨みつけるように迫ってきた。

「それとアンタはマーニを愛しているの?」

「いやぁなんかそんなの本人の前でそんな言葉を簡単に言うのはやっぱりね。
まぁ、愛しているよりも憧れのほうが強いかな、マーニさんは俺よりも一つ年上なのに怖い魔獣にもすぐに向かっていける勇気があるし、大きい魔獣を剣一つで打ち飛ばしたりする姿がカッコいいから……」

ガシッ

グググッ

彼女は肩を強くつかみ、顔を近づけて今まで見たことのない怒りの表情で睨みつけ、次に首を片手で持ち上げるように締め付けてきた。

「痛い、どうしたのマーニさん」

「彼女は強くない、弱いの、仲間がリンネに襲われたときも恐怖で逃げ出して、それをずっと後悔して再び現れた魔獣と戦い続け、負けても誰にも助けを呼ばなかった。
魔獣とアナタと一緒に戦ったときも、本当は怖かったけど、次は仲間を見殺しにしたくないと思って恐怖を殺しながら戦ったりしていたの。
だけど、またいつかその恐怖で押し潰されるときアンタやアスラを置いて逃げ出すかもしれない。
だから、彼女はそんな自分になるのが怖くて、あの戦いの中で育ての親や仲間を殺したアタシにこう言ったの、私を食べていいからもう人を殺さないでくれと。

恨むべき相手に泣きながら、必死にアタシが断ったときの恐怖で足を震わせながら、目からは涙を出ていたわ。
そんな彼女を見て、アンタはまだ強い剣士で憧れると思うのか!!!」

どういうことなんだ、まさか、あの二人で魔獣と戦ったとき、すでにマーニさんは暴食のリンネに食べられて。
駆け巡る否定したい想像が現実と合わされていく。
そんなことって……

「ーー」

ドサッ

彼女は、動揺して何も答えられない俺を横に投げ捨てた。

「ケホ、ケホッ」

咳きこみながら横たわる自分に彼女はしゃがみ込み明るい笑顔で話した。

「返す言葉もないのか。
でも本当のこと、もちろんアンタの命も取らない、彼女と約束したし。
それとマーニの記憶を見て確信したけど、アンタ、転生者でしょう。
じゃあ良いことを教えてあげる。
転生者は、時間によってリンネへと進化する。
リンネになれば何でもできる、虚無や絶望を撒き散らしたり、それと同時に魔獣や他のリンネに殺された者たちも生き返ることができる」

どういうことなんだ、もしそうだとすればマーニさんを生き返らせることができるんじゃないか。

「どう言うことですか」

「聞いてくれるのか、それは嬉しい。
その名は、輪廻転生。
リンネは殺した者や奪った魂を魔力に変換し、自身の器のようなものに閉じ込めることができる。
それはね、アンタがリンネになれば、アタシの中にあるマーニの魂の元である魔力を奪うことで、そこから彼女を作り、生き返らせることも可能であるんだよ」

「ほ、本当なんですか」

「えぇもちろん、アタシがこの姿でいることがその証明であるのだからね」

「証明?」

「この体は、アンタに近づく目的と本来のアタシの姿に戻れなかったからこそできたことである」

「なぜなんだ」

「それはアンタに対するマーニの愛の形だよ」
そう言うと、彼女は腰に掛けていた魔剣に手をかけた。

「魔剣ティルウィング、願いを込めて一度抜くとその願いを叶え、三回目になると持ち主の命を奪う魔剣……」

「彼女はアタシに食べられる直前にこの剣を抜き、二度願った。
一つ、彼女の魔獣を彼女の支配から解放せよ。
二つ、私を喰らうものに私を器に封印しろ。
これにより、魔獣は異常な進化を果たし、進化の果て自己破滅の道を進み、アタシはあのエゼルスィト魔獣種以降、暴食のリンネになれなくなかった」

まさか、こんなに魔獣を倒せたのはマーニさんが。

「でも、アタシは怨んでいない、いやむしろすごいと思うよ、彼女の人としての生き方を見せてくれたそれによってアタシにかつて無くしたはずの感情が目覚めた。
アタシだって彼女を生き返らせたい、だけど魔剣の呪いによって彼女は器のまま。
だから、アンタがリンネになってもらってアタシごと喰らって欲しい。
いくら魔剣と言えど、二つのリンネの魔力では効果を失うだろう。
でもリンネになったばかりだと色欲のリンネのように他の魂を自身のものにするために暴走して周りにいる生命あるものを全てを殺してしまうからね。
だから、アンタがリンネになってもアタシのように成長するまで抑えてあげるから、そこは安心してね」

「ーーそしたら」

「そいつの言葉には耳を貸すな」
冷たい風、その風を切る杖の音。

ビュッ
ヒュュュ

彼女は一歩下がった。

ダッ

ガキィン

だが、彼女の足元は地面から動けないようにしっかりと凍りついていた。

「なんだアスラですか、マーニの記憶から見て思ったんですけど、アンタはなんでマコトを見るときにいつも慈しみの目で見るんですか。
アンタもマーニと同じでマコトに仲間以外の何らかの感情を持っているのですか?」

すると、痛みが引き、立ち上がろうとした横にアスラさんが止まった。

「ーー黙れ。
それとマコト、彼女から早く離れろ。
奴はリンネだぞ」

「アスラさん、俺は人々からリンネを守ろうとしたマーニさんを救いたいんだ」

「アナタがリンネになって、彼女を生き返らせても一番悲しむのは彼女自身だぞ」
アスラさんの顔は悲しげだった。

「アスラ、マコトの意見を尊重しろ」

「お前は黙れ、暴食のリンネ」
さらにアスラさんは魔術で氷を作り発射させた。

ビュッ
 ビュッ

ガンッ
 ガンッ

だが、彼女は凍りついた足の氷を力技で割り、持っていた魔剣で一気に氷を叩き落とした。

俺はどうすればいいんだ、マーニさんを助けるためにはリンネにならないといけないが、アスラさんが言うには彼女は求めていないと言う。

ガンッ

バキッ

そんなことを考えていると、彼女の刀剣がアスラさんの杖を当てて、弾き飛ばした。

「しまった、杖が」

ガシッ

そこにスキをいれずに首を片手で宙吊りのように持ち上げる。

「これで終わりね、アンタには用はないの」

ぐぅいん

アスラさんと彼女の前にマギアのシールドを作り二人を離れさせた。

「まぁ助けるとは思ったけどね、マコト」

「暴食のリンネ、本当にマーニさんを救うにはそれしか方法がないんですか」

「もちろん」

そうなのか、そしたら俺はもう決めた。

「じゃあ、やるよ。
マーニさんにどんなに思われてもいい、俺は仲間であるマーニさんを助けたい」

ヒュォォォ

ガキィン

俺が彼女のところに歩むと自分を覆うように人が通れない氷の柵が地面から現れた。
するとアスラさんが背中を向けて彼女の前に立った。

「アスラさん……」

「まったく本当にアンタは強引だな、彼が求めているのになぜそれを尊重しない」

「マコトをリンネにさせないためだ」

「そうなの、でもねリンネになることで救われることもあるのよ。
アンタも味わう?」

スタスタッ

「やめて、アスラさん」

彼は止まらなかった。
ここまで反対しているけど、アスラさんごめなさい、もう俺は……

「いいのよマコト、ここまで邪魔するなら一度殺して、アンタをリンネにさせてから、アスラはまたアタシが生き返らせるから。
生きることを願う者の祈りをアンタは知っているからね」

スタスタッ
更に彼女は歩み始めた。
俺はどうすれば。

「黙れ、マコトだけはマコトだけは絶対にリンネにはさせない」

ガンッ

ぶつかり合う剣と杖、今は互角だが剣士ではないアスラさんではスタミナが持たなくてスキができ、もしかしたら殺されてしまう。

「ーーマコト」

「この声はマーニさん、マーニさんの声なの」

そう言うと、再び頭の中に彼女の声が聞こえた。

「ごめんね、こんなことになってしまって」

「俺がこの檻を壊して、今から助けるから」

「……そのことなんだけど、暴食のリンネは嘘をついているわ。
君がリンネになっても私を生き返らせることはできないわ」

「じゃあ、どうすれば」

彼女は迷いのない言葉でこう言った。
「アスラやこの街の人々のためにも暴食のリンネを倒して」

「マーニさん、でもそうしたら」

「倒して、今の私となっているリンネの腰に魔剣ティルウィングがある。
私が残った意識で魔剣の最後の願いを叶えることで一瞬リンネの不死性を無くすことができるはずだから」

昔、先生が言っていた魔剣ティルウィングの三度の願いを叶えると持ち主の魂を奪う呪いを使うのか。

「無理だよ、俺にそんなことできるはずがないよ。
だってそんなことしたら、マーニさんも……」

「キミしかいないの、お願いマコト。
弱い私が原因で誰も苦しませたくない」

「ググググッ」
ビキィビキィ

「本当はこんなことしたくないんだけどね、アスラがここまで粘るからね」

目の前を見ると、今にも首をつかまれながら宙吊りになって必死に抵抗する彼がいた。
「アスラさん!!!」
ガンッ
ガシャーン

彼の魔力が一瞬弱まったことで檻を壊すことができた。
そして、俺が槍を持ってそこに向かおうとすると。

「来るな、マコト、コイツは僕が倒、す」

「危ないアスラが。
マコトせめてキミの手で終わらせて。
魔剣ティルウィング、最後の願いを叶えろ!!!
暴食のリンネの不死性を奪えぇぇぇぇ!!!」

ドグンッ

すると腰にかけていた魔剣ティルウィングから黒いオーラが出てきて彼女を燃やすように包み込んだ。
それに驚き、彼をつかんでいた手を離し、地面に落とされた。

「これが魔剣ティルウィングの三つ目の願いと呪いの効能か、マーニ、アンタもやっぱり最後までアタシを理解してくれなかったの。
アンタもアタシと同じ孤独に生きたものでかの王に運命を狂わせられたもの。
ならばせめてアンタの暴走を止め、アンタとアタシの孤独を埋め合わせる本当の幸せをつかむためにマコトをリンネにさせる」

黒く燃えさかる彼女の鬼気迫る表情に俺は恐怖で動けなくなり、その場に立ち止まった。

彼女が近づいてくる。

ガシッ

「絶対に絶対にさせるものか」
這いずりながらアスラさんが彼女の足をつかみ、歩みを止めようとした。

彼女は驚きの表情を見せて、その直後不気味な笑みを浮かべた。
「あっ、そうだアスラを殺せばマコトは更にリンネになることを望むよね。
誰にでも優しすぎるあの子なら二人を生き返らせるために」

ガシッ、グググッ

再び、彼女はアスラさんの首をつかみ、次は本当に殺そうとしていた。
「ぐっ、なんで僕にはできないんだ、ごめんマコト、マーニ」

ダダダダダッ

「やめろぉぉぉぉぉ!!!」

グシュ

気づいた時には、俺は持っていた槍を彼女の胸に突き刺した。

「えっ」

バサッ

「カハッ、コホッ」
落とされたアスラさんの咳き込む声だけ聞こえる。

「嘘だ、嘘だよね。
なぜ、刺したマコト。
マーニなんだよ、なぜ今殺したの?」
彼女は赤い涙を流しながら俺に尋ねた。

「俺は、俺は、くっ」

「愚かものがぁぁぁ、なぜ殺した!!!
転生者の状態で殺されるとその体は、魂は、魔力はどこにも行けず星海に散らばる。
二度とこの地上には戻れられないのだぞ。
人を殺しまくったアタシはともかく、マーニやアタシが殺した人々も救われなくなったんだぞ。
呪われろ!!!
マコト、貴様はその内に秘めたる星海の呪いによって絶望と虚無を振り撒く獣となってそのなにも成せなかった自身の罪を背負いながら、星が終わるその時まで永遠に絶望しろ!!!」

「あっ、あっ、あっ、俺はアスラさんを助けるために……」
本当に俺がリンネになれば助かっていたのか。
そう思いながら立ちつくしている俺に彼女はただ俺を確実に殺すために拳を思いっきり振り下げた。

ブゥンッ

ガンッ
 
タラー

しかし、あいだに入ったアスラさんによって彼女の攻撃は彼の頭に直撃した。
頭からは顔が赤く染まるほどの血が出ていたが、彼はそれでも彼女の前に立ち塞がった。

「ーーアスラさん」
彼に強者のマギアをまとわせようとしたがマギアが発動しなかった。
まさか、最初に彼女に首を絞められたときに暴食聖域を使い、一時的にマギアの魔力が喰われて使えなくなっていたのか。
それを知って、アスラさんは。

彼は立っているだけでも精一杯のはずなのに、前に進み、彼女が抵抗しないようにせめてもの両腕をつかんだ。

「彼の覚悟、彼女の決断、愚弄するな、暴食のリンネ。
いいや、マシロ•ナギ。
せめて人を憎まず、そのまま安らかに眠ってくれ」

「アスラ……、なぜアタシの忘れた名前を。
でもありがとう、最後にアタシの本当の名前を呼んでくれて」

すると、彼女は糸が切れたように倒れようとしたがアスラさんが受け止めた。

「マコト、マーニさんを安心させるために街まで戻ろう」

俺は何も言えないまま、震えた赤い手を抑えながら彼の後ろに着いて行った。

ザァァァ

この時期は雨があまり降らないと言われるこの地に冷たい雨が降り続いた。
悲しみの涙と混じりながら地面に流れて行った。

太陽は未だに見えない。
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