第48話 あゆみ・開闢
文字数 3,999文字
「アスラ、アスラ」
バッ
「はっ、ラプマルさん」
ラプマルさんの呼び声でふと目を覚ますと、そこには心地よい緑の匂いがしていた。
こんな晴れ渡ったのどかな天気で草原に囲まれていて、まるで先ほどあの寒く乾いた空気や悲しみがウソのようだった。
「どうしたんだい、それにしても君のその杖はそんな形をしていたのか」
確かに彼の言うとおり僕が持っていたのは、帝国で作られた杖ではなくて、マコトさんが作ってくれた月杖アルテだった。
そうなんだ、やっぱりあれは本当にあったことだ、悪い夢なんかじゃないあれは未来の物語だ。
そしたら、絶対にもうあんな未来にはしない、未来を知っている僕が転生者をこの世界で救わないと。
「そんなことよりも僕はここで何をしているんですか」
「えっ、それは君がマコトを迎えに行くんじゃないのかい」
これが魔王様の再臨の性質なのか、本当にマコトと出会うときに戻っているのか。
そしたらさっきも思ったがやることはわかっている。
グピピッ
イノシシの群れを全て倒して、その後ろに驚きで倒れ込んでいる人がいた。
「えぇ、一体どういうことなの?
アナタが一人で倒したの?」
怯えている彼を安心させようと手を握った。
「マコトさん、次はアナタを助けるから」
「えぇっと?」
分かっている今の彼は、あの僕と共に冒険したことやあの辛かったことや楽しかったことも知らない。
でもそれでいいんだ、次こそ彼を転生者を人々をこの世界を救ってみせる。
その日の夜、マーニさんとも合流してマコトさんと一緒にチームを組んだ、そして彼を僕の家に泊めることができた。
ここまでは前の世界でも変わらない。
でもそれとやらないといけないことがある。
「魔王様がいうには、能力を受け継ぐのは能力の元となる血を吸うこと。
マコトさんを信じたいのだけれど、もしものときがあるから。
ごめんなさいマコトさん」
そして僕は彼の指を切ってそこから出てくる血を飲んだ。
これで彼に溶け込んでいる魔王様の魔力は補充できた、これで使うことはないとは思うけど次の再臨の性質を使うことができる。
✳︎✳︎✳︎
何もできなかった、あれを知ってもなお僕には何も変えられなかった。
マスターや先生やラウは僕たちが残ったことで救えた。
だがミーナさんはリンネとなり、彼女を倒すためにモードレッドさんも死んでしまった。
そして、マーニさんもいつそうなったのまではわからないが、彼女が一人でいるときにもう自身が暴食のリンネになっていたと思う独り言が聞こえた。
本当ならここで今自殺して、またやり直せばいい。
だけど、自分もいつリンネになるかわからない、リンネになってしまったら誰も救えなくなる。
そしたらもう、残る方法は……
「マーニさん、ごめんなさい」
グサッ
「なぜアタシがリンネと分かったんだアスラ」
そう魔剣の願いによって不死性を無くした暴食のリンネを殺したのだ、殺したんだ。
腕はべっとりと赤くなっており、そのまま窓から入る朝焼けはもはや動かない彼女を照らし、自身の罪の重さを赤く照らした。
それから数時間後。
「マーニさん、マーニさん、しっかりしてください!!!」
︎彼が彼女の呼ぶ声が聞こえた。
そうだ、マコトさんはまだ知らなかったんだった。
「マコトさん、ごめんなさい。
あの時はもう、あれしか方法が無くて」
「いや良いんだよ、ラプマルから教えてもらったけど彼女はもうマーニさんではなかったんだよね。
本当は俺がやるべきだったんだよ」
「いいやそんなことはない、あのときは僕がやらないといけなかったんだ、アナタをリンネにさせないためにも」
「ごめんねアスラさん、アナタにばっかりいつも辛いことを押し付けてしまって。
でも俺、怖いんだよ。
自分がリンネになって大切なアスラさんも傷つけることが。
そしたらもういっその事ね、こっちのほうが誰の迷惑にもならないし」
彼がそう言うと、持っていた槍を強く握りしめていた。
まさか。
カランッ
「やめて、マコトさん!!!」
グサッ
声は虚しく、彼は自分の胸に思いっきり槍で突き刺した。
ガシッ
そして、立つこともままならず倒れ込む彼を僕は床に頭から落ちる前に支えた。
すると、彼は口から血を流しながら、穏やかに微笑んだ。
自分を思ってだろうかはわからない。
「ゴホッゴホッ、ごめんこんな弱い俺で、もう俺は誰かを犠牲にしてまで、その先に傷つけるものになんてなりたくないんだよ」
「そんな、そんな……」
そしてそのまま彼はもう呼吸をすることはなかった。
いくら不老の存在といえど不死ではないのだから心臓を突き刺せば死んでしまう。
それを知って彼は突き刺したんだ、ここまで彼を追いつめていたのか僕は……
「それでどうするんだアスラ」
ずっと見ていたのだろうか、後ろからラプマルさんの哀しげな足音と声が聞こえた。
「また戻るに決まっているじゃないですか」
そう振り向いて言うと、彼はしょんぼりとした顔で話し始めた。
「そうか、また頑張るといい。
それと、この世界線では遅いがマコトがなぜあそこまで強力なマギアを持ち得たか、やっと分かったよ」
「なんですか、それは」
「人の祈りだよ」
「祈り、どういうこと」
「他者に願いを込めるときその言葉を使う、マコトのマギアが強力になったのはそれだ」
「意味が分からない、もう少し詳しく」
「マコトは召喚された転生者として最後に位置するもの。
それを知っている帝国の人々は一刻でも早く魔獣のいない世界を望み、それを祈った。
そしてまた、エクスマキナ王もそれを無意識に望んだ。
その祈りを一身に受けたマコトの転生者としての魔力の源であるマギアは、自身に影響を及ぼすほどまで変質した。
君たちには失礼な話だけど、結論として彼らはこの世界を変える英雄を望んだんだよ、そして文字通り最強のマギア、強者のマギアを授かった」
ギュッ
「そうかそうだったんだ、ありがとうラプマルさん」
そう言い感謝のために手を握ろうとすると、彼は手を払って僕に背を向いた。
「早く行くといい、君はこの世界にはもう用はないんだろう」
「さようなら、ラプマルさん」
僕は一礼して、持っていた杖で胸を突き刺した。
「次の地が君の安らぎになることを祈るよ」
この世界の最後は、彼の祈りの言葉だった。
カチャ
そして三回目の世界も転生者の力の源であるマギアのシステムを知ったのにそれでも何もできなかった。
それと再び、自身の愚かさと罪を告げるかのようなその怪物がいた。
「グワァァァァン、ゴーーーンッッッ」
その声は大地と大気の底を震わし、聞いたものに絶望と恐怖の感情を刻ませる。
口から放出される熱線は周囲の空間すらも溶かして、溶かされた空間が溶けた金属のようにボタボタと落ちて行った。
そして、溶かされた空間は恐らく周囲の空間や物質などを引き寄せてその穴を埋め合わせ再生することで元の空間に戻っていた。
その再生時、ブラックホールのような黒い大穴が作られて地上にある木々などが根こそぎその空間の隙間に吸い込まれていった。
彼がその気になれば、この星もろともその穴に飲み込めれることもできるだろう。
この世界でも誰も救えなかった、だがそれでもひとつ疑問に残ることがある。
「転生者はリンネになるのには数年かかるはずなのに、なぜマコトさんはたったの一年ぐらいでリンネになるんだ」
するとその質問に答えるもの目の前にいた。
「元々、彼自体のマギアが強かったからね。
でもやはりすごいよね、マコトの強欲のリンネは。
エクスマキナ王に感謝しないと。
これなら計画も進めれそうだね」
「計画、どういうことなんですかラプマルさん」
「どういうことって、そういえば言っていなかったね。
転生者をリンネにさせる計画だよ」
「えっ」
彼は僕の反応に疑問に思ったのか頭をかしげた。
「そんなに驚いた顔をしなくてもいいよアスラ。
なぜかはわからないが君は知っているのだろう」
自身が理解された喜びで微笑む妖精。
じゃあ、あの前の世界の悲しげな彼は?
それはすぐに結論が出た。
そうか、あれはマコトさんがリンネになる前に死んでしまったことに悲しんでいたのか。
そう考えると、胸の奥底が焼けるような怒りが生まれ頭で考える前にもう両手は彼の首を掴んでいた。
「アナタが、アナタがマコトさんをリンネにさせたんですか!!!」
「そんなに怒鳴っても何も変わらないよ、少し落ち着こうアスラ」
すると彼は何事もない顔でそう言った。
もう、自分の怒りが止まらなかった、彼に対する感情、彼を善人だと思い込んでいた自身の未熟さなど、それがミキサーをかけたように混ざり、一種の自分とは無縁と思っていた衝動に駆られた。
そして、彼は泡を吹きながら動くことはなかった。
「ハァハァハァ」
そう自分は初めて感情によって妖精とはいえ人に近いものを殺したのだ。
もう僕は壊れてしまったのだろうか。
そんな僕をあざ笑うかのようにあの忌々しい声が聞こえた。
替えがいるのかこの妖精は。
「ふぅん、まあいいともそれもまた個人の自由さ。
そんなことよりもアスラ、これだけは言わせてくれ。
あの強欲のリンネである彼はマコトなんだよ、マコトの幸せをそこまで望むのなら、魔王の能力を使って別の時間軸に逃げるよりもあのリンネになったマコトを祝福すべきだと思うけどね。
ちょっと凶暴性が増したり姿が変わっただけで結局あれは彼自身なのに、なぜ人は怪物になったと認識するのかまるで意味が分からないな、エクスマキナ王にしろ、君にしろね」
「よく分かった、お前がこの世界の敵だということを。
お前たちの思い通りにはさせない」
そして僕はもう一体の奴の首を絞めて、そのまま自身が持っていたマコトさんの槍で胸を突き刺した。
「この幾億年も繰り返される生命の進化への答え、神の創造。
君もその証明に当てはめられているのに止められるのかな」
妖精がそう目を閉じる自分に言った。
「止める、止めてみせる、彼をこの世界を救うためなら」
その祈りと願いだけはどんな壁が来ても絶対に諦めたくはない。
バッ
「はっ、ラプマルさん」
ラプマルさんの呼び声でふと目を覚ますと、そこには心地よい緑の匂いがしていた。
こんな晴れ渡ったのどかな天気で草原に囲まれていて、まるで先ほどあの寒く乾いた空気や悲しみがウソのようだった。
「どうしたんだい、それにしても君のその杖はそんな形をしていたのか」
確かに彼の言うとおり僕が持っていたのは、帝国で作られた杖ではなくて、マコトさんが作ってくれた月杖アルテだった。
そうなんだ、やっぱりあれは本当にあったことだ、悪い夢なんかじゃないあれは未来の物語だ。
そしたら、絶対にもうあんな未来にはしない、未来を知っている僕が転生者をこの世界で救わないと。
「そんなことよりも僕はここで何をしているんですか」
「えっ、それは君がマコトを迎えに行くんじゃないのかい」
これが魔王様の再臨の性質なのか、本当にマコトと出会うときに戻っているのか。
そしたらさっきも思ったがやることはわかっている。
グピピッ
イノシシの群れを全て倒して、その後ろに驚きで倒れ込んでいる人がいた。
「えぇ、一体どういうことなの?
アナタが一人で倒したの?」
怯えている彼を安心させようと手を握った。
「マコトさん、次はアナタを助けるから」
「えぇっと?」
分かっている今の彼は、あの僕と共に冒険したことやあの辛かったことや楽しかったことも知らない。
でもそれでいいんだ、次こそ彼を転生者を人々をこの世界を救ってみせる。
その日の夜、マーニさんとも合流してマコトさんと一緒にチームを組んだ、そして彼を僕の家に泊めることができた。
ここまでは前の世界でも変わらない。
でもそれとやらないといけないことがある。
「魔王様がいうには、能力を受け継ぐのは能力の元となる血を吸うこと。
マコトさんを信じたいのだけれど、もしものときがあるから。
ごめんなさいマコトさん」
そして僕は彼の指を切ってそこから出てくる血を飲んだ。
これで彼に溶け込んでいる魔王様の魔力は補充できた、これで使うことはないとは思うけど次の再臨の性質を使うことができる。
✳︎✳︎✳︎
何もできなかった、あれを知ってもなお僕には何も変えられなかった。
マスターや先生やラウは僕たちが残ったことで救えた。
だがミーナさんはリンネとなり、彼女を倒すためにモードレッドさんも死んでしまった。
そして、マーニさんもいつそうなったのまではわからないが、彼女が一人でいるときにもう自身が暴食のリンネになっていたと思う独り言が聞こえた。
本当ならここで今自殺して、またやり直せばいい。
だけど、自分もいつリンネになるかわからない、リンネになってしまったら誰も救えなくなる。
そしたらもう、残る方法は……
「マーニさん、ごめんなさい」
グサッ
「なぜアタシがリンネと分かったんだアスラ」
そう魔剣の願いによって不死性を無くした暴食のリンネを殺したのだ、殺したんだ。
腕はべっとりと赤くなっており、そのまま窓から入る朝焼けはもはや動かない彼女を照らし、自身の罪の重さを赤く照らした。
それから数時間後。
「マーニさん、マーニさん、しっかりしてください!!!」
︎彼が彼女の呼ぶ声が聞こえた。
そうだ、マコトさんはまだ知らなかったんだった。
「マコトさん、ごめんなさい。
あの時はもう、あれしか方法が無くて」
「いや良いんだよ、ラプマルから教えてもらったけど彼女はもうマーニさんではなかったんだよね。
本当は俺がやるべきだったんだよ」
「いいやそんなことはない、あのときは僕がやらないといけなかったんだ、アナタをリンネにさせないためにも」
「ごめんねアスラさん、アナタにばっかりいつも辛いことを押し付けてしまって。
でも俺、怖いんだよ。
自分がリンネになって大切なアスラさんも傷つけることが。
そしたらもういっその事ね、こっちのほうが誰の迷惑にもならないし」
彼がそう言うと、持っていた槍を強く握りしめていた。
まさか。
カランッ
「やめて、マコトさん!!!」
グサッ
声は虚しく、彼は自分の胸に思いっきり槍で突き刺した。
ガシッ
そして、立つこともままならず倒れ込む彼を僕は床に頭から落ちる前に支えた。
すると、彼は口から血を流しながら、穏やかに微笑んだ。
自分を思ってだろうかはわからない。
「ゴホッゴホッ、ごめんこんな弱い俺で、もう俺は誰かを犠牲にしてまで、その先に傷つけるものになんてなりたくないんだよ」
「そんな、そんな……」
そしてそのまま彼はもう呼吸をすることはなかった。
いくら不老の存在といえど不死ではないのだから心臓を突き刺せば死んでしまう。
それを知って彼は突き刺したんだ、ここまで彼を追いつめていたのか僕は……
「それでどうするんだアスラ」
ずっと見ていたのだろうか、後ろからラプマルさんの哀しげな足音と声が聞こえた。
「また戻るに決まっているじゃないですか」
そう振り向いて言うと、彼はしょんぼりとした顔で話し始めた。
「そうか、また頑張るといい。
それと、この世界線では遅いがマコトがなぜあそこまで強力なマギアを持ち得たか、やっと分かったよ」
「なんですか、それは」
「人の祈りだよ」
「祈り、どういうこと」
「他者に願いを込めるときその言葉を使う、マコトのマギアが強力になったのはそれだ」
「意味が分からない、もう少し詳しく」
「マコトは召喚された転生者として最後に位置するもの。
それを知っている帝国の人々は一刻でも早く魔獣のいない世界を望み、それを祈った。
そしてまた、エクスマキナ王もそれを無意識に望んだ。
その祈りを一身に受けたマコトの転生者としての魔力の源であるマギアは、自身に影響を及ぼすほどまで変質した。
君たちには失礼な話だけど、結論として彼らはこの世界を変える英雄を望んだんだよ、そして文字通り最強のマギア、強者のマギアを授かった」
ギュッ
「そうかそうだったんだ、ありがとうラプマルさん」
そう言い感謝のために手を握ろうとすると、彼は手を払って僕に背を向いた。
「早く行くといい、君はこの世界にはもう用はないんだろう」
「さようなら、ラプマルさん」
僕は一礼して、持っていた杖で胸を突き刺した。
「次の地が君の安らぎになることを祈るよ」
この世界の最後は、彼の祈りの言葉だった。
カチャ
そして三回目の世界も転生者の力の源であるマギアのシステムを知ったのにそれでも何もできなかった。
それと再び、自身の愚かさと罪を告げるかのようなその怪物がいた。
「グワァァァァン、ゴーーーンッッッ」
その声は大地と大気の底を震わし、聞いたものに絶望と恐怖の感情を刻ませる。
口から放出される熱線は周囲の空間すらも溶かして、溶かされた空間が溶けた金属のようにボタボタと落ちて行った。
そして、溶かされた空間は恐らく周囲の空間や物質などを引き寄せてその穴を埋め合わせ再生することで元の空間に戻っていた。
その再生時、ブラックホールのような黒い大穴が作られて地上にある木々などが根こそぎその空間の隙間に吸い込まれていった。
彼がその気になれば、この星もろともその穴に飲み込めれることもできるだろう。
この世界でも誰も救えなかった、だがそれでもひとつ疑問に残ることがある。
「転生者はリンネになるのには数年かかるはずなのに、なぜマコトさんはたったの一年ぐらいでリンネになるんだ」
するとその質問に答えるもの目の前にいた。
「元々、彼自体のマギアが強かったからね。
でもやはりすごいよね、マコトの強欲のリンネは。
エクスマキナ王に感謝しないと。
これなら計画も進めれそうだね」
「計画、どういうことなんですかラプマルさん」
「どういうことって、そういえば言っていなかったね。
転生者をリンネにさせる計画だよ」
「えっ」
彼は僕の反応に疑問に思ったのか頭をかしげた。
「そんなに驚いた顔をしなくてもいいよアスラ。
なぜかはわからないが君は知っているのだろう」
自身が理解された喜びで微笑む妖精。
じゃあ、あの前の世界の悲しげな彼は?
それはすぐに結論が出た。
そうか、あれはマコトさんがリンネになる前に死んでしまったことに悲しんでいたのか。
そう考えると、胸の奥底が焼けるような怒りが生まれ頭で考える前にもう両手は彼の首を掴んでいた。
「アナタが、アナタがマコトさんをリンネにさせたんですか!!!」
「そんなに怒鳴っても何も変わらないよ、少し落ち着こうアスラ」
すると彼は何事もない顔でそう言った。
もう、自分の怒りが止まらなかった、彼に対する感情、彼を善人だと思い込んでいた自身の未熟さなど、それがミキサーをかけたように混ざり、一種の自分とは無縁と思っていた衝動に駆られた。
そして、彼は泡を吹きながら動くことはなかった。
「ハァハァハァ」
そう自分は初めて感情によって妖精とはいえ人に近いものを殺したのだ。
もう僕は壊れてしまったのだろうか。
そんな僕をあざ笑うかのようにあの忌々しい声が聞こえた。
替えがいるのかこの妖精は。
「ふぅん、まあいいともそれもまた個人の自由さ。
そんなことよりもアスラ、これだけは言わせてくれ。
あの強欲のリンネである彼はマコトなんだよ、マコトの幸せをそこまで望むのなら、魔王の能力を使って別の時間軸に逃げるよりもあのリンネになったマコトを祝福すべきだと思うけどね。
ちょっと凶暴性が増したり姿が変わっただけで結局あれは彼自身なのに、なぜ人は怪物になったと認識するのかまるで意味が分からないな、エクスマキナ王にしろ、君にしろね」
「よく分かった、お前がこの世界の敵だということを。
お前たちの思い通りにはさせない」
そして僕はもう一体の奴の首を絞めて、そのまま自身が持っていたマコトさんの槍で胸を突き刺した。
「この幾億年も繰り返される生命の進化への答え、神の創造。
君もその証明に当てはめられているのに止められるのかな」
妖精がそう目を閉じる自分に言った。
「止める、止めてみせる、彼をこの世界を救うためなら」
その祈りと願いだけはどんな壁が来ても絶対に諦めたくはない。