第43話 神蝕星命(ソドムのリンゴ)
文字数 4,186文字
空を見上げると夕焼けのように赤く、雲一つ無かったが雨がシトシトと降っていた。
西や東の地平線を見ても太陽すらも見えなかった。
ありえないことがありえる、幻が現実となり、現実が幻となる。
それでもラウさんや飛行艇に乗っていた兵士の人達が何とか魔力反応や視覚からの情報で作られた即席の地図で今いる現在地ぐらいは分かった。
作戦は飛行艇が主力となってソドムの林檎と正面から戦い、俺とアスラさんは、別方向からソドムの林檎を攻撃する役になった。
そして、先生やモーガンさんは後方で攻撃する担当だった。
「モルガーナ先生達は大丈夫かな」
「魔王軍幹部と四英雄の一人だから、大丈夫だろう。
信じることも大切なんじゃないかな」
「うん、そうだね」
ザァァァァァッ
フガク山から見える雲のない赤い空にそれはいた。
その姿は、林檎のように赤く丸く、その上には空に祈りを捧げる女性の天使のようなものがひっついていた。
ただ何かを待っているかのように静かに浮かんでいた。
俺たちを待っているのだろうか?
それを見ていると、アスラさんが前に出て言った。
「あれがソドムの林檎、僕が超えなければいけない運命」
「キミがその名前まで知っているとは驚いたよ。
魔王にでも言われたのか」
後ろから聞き慣れた声、後ろを振り向くと白い肌に鳥のような翼の生えた見慣れた妖精がいた。
「アナタは夢であった確かラプマルですか」
そこには、何故か夢の存在だった妖精のラプマルがいた。
「ここでは初めましてだね、マコト。
それとアスラ、やはりキミもそこにいたのか。
キミに妨害されていたけど、やっとこっちのマコトに会えたよ。
それで、なぜ妨害なんてやめたのか、ソドムの林檎に向けて無駄な力を使いたくないのか。
それとも……」
「お前と話すことはない、ラプラス・マルジン」
「そうかい、でもマコトはオイラのことを知っていたようだから、キミの行動はあまり意味はなさなかったようだね」
「なんかよくわからないけどラプマル、ここは危ないからどこか遠くのほうに逃げたほうがいいよ」
「そうだね、オイラは遠くで見とくから健闘を祈るよマコト。
あれはキミなら勝てるから」
「そんな奴よりも早く行こう、マコト」
「あっ、待ってよアスラさん」
先に行った彼に追いつくためにラプマルと別れた。
✳︎✳︎✳︎
そして、俺たちは遠くの天に浮かぶソドムの林檎まで攻撃のできる場所まで歩いた。
歩む道にかつて人が住んでいたであろう村は、魔獣か何かに襲撃された跡が残っていた。
家は焼け焦げ、地面にはいくつもの刀やクワなどが転がっていた。
そして、二つの湖の間を通ると、そこから木々や植物が密集するように絡まった樹木の海、樹海が広がった。
自分たちに気づいたのか、最大の敵は空から赤い円球を樹海の少し上まで下がってきた。
「ソドムの林檎、皆んなのためにも絶対に倒す」
「いや、もうアナタは戦わなくていい」
ガキィン
すると隣にいた彼が杖を振ると、いきなり周囲に透明な檻が現れて俺を閉じ込めた。
ガシャーン
「どういうことなのアスラさん、って冷たっ!!!」
彼になぜこんなことをしたのか尋ねようとその檻を強く握ると、手に火傷したかのような痛みが走った。
「長く触らないで凍傷を起こすから。
それでねマコト。
アイツは僕が倒す、アナタは何もしなくていいから」
いつも一緒に戦ってくれたのにいきなりなんで、意味が分からないよアスラさん。
彼が何を考えているのか分からなく、ただ漠然とした不安に襲われ、理由を尋ねた。
「なんで、どうしてアスラさん。
いつも乗り越えてきたじゃん、なんで今になってこんなことするの」
「もう……
いいや、マコトは見とくだけでいいよ」
アスラさんの顔は少し悲しげに微笑んでそう答えた。
その顔を見るのは初めてではないはず、どこか言葉で表すのは難しいけど、表すとすれば存在しないはずの記憶で見たことがあるような気がした。
バッ
「アスラさん!!!」
自分の叫びにも振り返らずに彼はそのままソドムの林檎に向かって飛んでいった。
いつのまに飛行魔術を覚えていたんだろう、モルガーナ先生も原理だけでしか考えられていないものと言っていたのに。
「凍らせるは楽園、救済という名の運命の存在に終わりの地へと誘おう。
アブソリュート・ゼノ(絶対凍度)!!!」
パァーン
パァーン
パァーン
彼が詠唱と共に杖を振ると空と地上にソドムの林檎を囲むようにいくつもの魔法陣が展開されて、そこから放出される冷気によって空気もろとも凍らせた。
俺は驚きのあまり、何も言えなかった。
「プーーーーーッ」
その敵は、凍りながらも重厚で聞くだけで不安になるようなラッパに近い音を上げながら何かをしようとしてきた。
ギュイン
パァン
パァン
パァン
すると凍らせたソドムの林檎から赤い光線が放射して氷を砕け散らしていた。
ビュンッ
ガンッ
ドーンッ
しかし、間髪いれずに遥か高い空から一本の巨大な槍というべきものがソドムの林檎に突き刺さり、地上に叩きつけた。
あれはラウさんの飛行艇アマテラス。
すると、地面にソドムの林檎ごと突き刺さっているアマテラスからいくつもの金属のヒモ状のものが蜘蛛の巣のように張り巡らした。
するとヒモの先端のほうには、ラウさんのマギアである創造によって地面の土を原料に作られた、巨大な大砲や電磁砲らしき兵器などの発射台が続々と出現した。
ガシャーン
ガシャーン
ガシャーン
ガンッ、カランカランッ
そして、ソドムの林檎が飛行艇アマテラスを押しのけて、体勢を立て直すために少しずつ空中に浮かぶと、おそらく数百基はある様々な砲台などが一斉に標準を合わせた。
そして、ソドムの林檎が完全に浮かび攻撃しようとすると、それに向かって発射された。
ドドドドッ!!!
爆発音がいくつも重なり、音だけでも地面を揺らして地割れを入れた。
爆炎と煙に隠れたソドムの林檎は、同じようにラッパのような音を出しながら、アスラさんとは別の魔法陣を展開させその中から大量に何かを召喚させた。
それは黒い姿をした空を飛ぶ人型の魔獣と言っていいのだろうか。
それは子供が無邪気に笑うような声で鳴きながら、宙に浮きながらも近くにいたアスラさんやアマテラスに襲いかかった。
アスラさんたちは、黒い魔獣の攻撃に押されてソドムの林檎から離されて行った。
「失楽園(ロスト・アヴァロン)!!!」
ドンッ
ドンッ
すると、モルガーナ先生の術式で樹海の木々よりも高く成長するリンゴの木が出てきて、黒い魔獣たちを串刺しにし、それを避けた魔獣はモーガンさんが持っていた魔力を弾丸代わりにしたライフル銃で全て撃ち落としていた。
それにアスラさんは一礼して、ソドムの林檎に再び向かって行った。
すると、先生とモーガンさんが氷の檻に閉じ込められている俺のところに来て脱出しようとしてくれた。
「ごめんなさい、手間をとらせてしまって」
「分かっているよ、マコト。
しかしアスラもひでぇな、これ闇魔術でも簡単に壊れないぐらい強力な氷魔術だぞ。
俺も闇魔術で術式から壊していくからマコトも強者のマギアを使えよ」
「わかりました」
ガキィン
ヒュン
ギィーンッ
しかし、氷の檻はかなり頑丈に作り込まれていて、二人の力でも壊すことが出来なかった。
だが黒い魔獣たちも待っているわけでもなく、先ほどよりも何十倍の群れが太陽を隠し、周囲を夜にさせながら進撃してきた。
その魔獣の黒い波の中にアマテラスもアスラさんも飲み込み、遠くの状況が見えづらくなった。
「モーガン、来たわよ」
先生の声の後に、また別の黒い魔獣がこちらに牙を剥いてきた。
「たくっ、これじゃあ壊す時間が無いな」
「大丈夫です、少し傷ができたからそこから自力で壊して見せますので」
そう言うと、彼はその魔獣のほうを向いた。
「あぁ、頑張ってくれ。
しかしよ、勘弁してくれよまだこんなにいるのかよ。
それもあの魔獣、ソドムの林檎から増殖してやがるし、このままじゃジリ貧だな。
モルガーナ!!!」
「なに?」
振り向く先生に真剣な顔で話した。
「アスラとマコトを頼む。
言っていなかったが、ちょっと飛行艇から降りる前から気を失いかけたことが何度かあったからさ」
「ーー分かった」
頻繁に気を失ってしまうこと、その意味は知っている。
想像はしたくはない、だけどあの俺と湖での会話で彼が何をすることは知っている。
「モーガンさん、まさかリンネになるから捨て身で敵の中に突撃するんですか……」
「なに言ってるんだよ、マコト。
俺は絶望して立ち止まったわけじゃねぇんだぞ。
だが時間がねぇんだ、お前たちに迷惑をかけるわけにもいかないからな、リンネになる魔力量全てを使って、ソドムの林檎そして黒い魔獣を絶滅させる」
「モーガンさん、ダメです。
そんなに簡単に死なないでください。
もう、誰も失いたくないんですよ」
すると彼は口角を上げて笑いながら話し始めた。
「へっ、何言っているんだよ。
俺は止まらねぇよマコト、お前こそが俺の最後の希望だ。
だからお前は突っ走れ、どこまでも突っ走れば、どんな暗闇でもその軌跡が光となるんだから。
だってよ、誰だって英雄にはなれるんだから」
彼はそう言い残すと地面に手をかざした。
「やめてー!!!」
彼は一粒の涙を流した、それは別れの涙なのか、嬉し涙なのかは誰も知らない。
だけど彼の顔は笑っていた。
「この地上にある星の魔力よ、俺に力を貸せ。
俺の名前は、帝国四英雄、万武英雄モーガン・アイハム。
俺が滅びを止める障壁になってやる!!!
天地のマギア発動、シキ•ゼロ!!!」
ババババッー!!!
モーガンさんが持っていたスナイパーライフルの形をした武器から彼の持ち得る全ての魔力を弾丸にして放出した。
正面にいた黒い魔獣は、その放射されたレーザー状の巨大な魔力光線によって骨も残さずに一瞬にして消滅した。
だが、黒い魔獣が壁代わりになったため、ソドムの林檎にまでには届くことはなかった。
ガンッ
武器を落として、モルガーナ先生に体を支えられ魔力切れを起こして口から血が出ていながらもまだ彼は笑っていた。
「へっ、なんだよ全然あたってねぇじゃねえか。
たく、俺はいつもダメだな」
「モーガンさん、モーガンさん!!!」
「最後ぐらい静かなところで穏やかに眠りたかったぜ……」
先生の腕の中で彼は静かに眠り、呼吸の音も聞こえなかった。
なんで、なんでこんなことに俺はまたマーニさんたちのように何もできないのか……
西や東の地平線を見ても太陽すらも見えなかった。
ありえないことがありえる、幻が現実となり、現実が幻となる。
それでもラウさんや飛行艇に乗っていた兵士の人達が何とか魔力反応や視覚からの情報で作られた即席の地図で今いる現在地ぐらいは分かった。
作戦は飛行艇が主力となってソドムの林檎と正面から戦い、俺とアスラさんは、別方向からソドムの林檎を攻撃する役になった。
そして、先生やモーガンさんは後方で攻撃する担当だった。
「モルガーナ先生達は大丈夫かな」
「魔王軍幹部と四英雄の一人だから、大丈夫だろう。
信じることも大切なんじゃないかな」
「うん、そうだね」
ザァァァァァッ
フガク山から見える雲のない赤い空にそれはいた。
その姿は、林檎のように赤く丸く、その上には空に祈りを捧げる女性の天使のようなものがひっついていた。
ただ何かを待っているかのように静かに浮かんでいた。
俺たちを待っているのだろうか?
それを見ていると、アスラさんが前に出て言った。
「あれがソドムの林檎、僕が超えなければいけない運命」
「キミがその名前まで知っているとは驚いたよ。
魔王にでも言われたのか」
後ろから聞き慣れた声、後ろを振り向くと白い肌に鳥のような翼の生えた見慣れた妖精がいた。
「アナタは夢であった確かラプマルですか」
そこには、何故か夢の存在だった妖精のラプマルがいた。
「ここでは初めましてだね、マコト。
それとアスラ、やはりキミもそこにいたのか。
キミに妨害されていたけど、やっとこっちのマコトに会えたよ。
それで、なぜ妨害なんてやめたのか、ソドムの林檎に向けて無駄な力を使いたくないのか。
それとも……」
「お前と話すことはない、ラプラス・マルジン」
「そうかい、でもマコトはオイラのことを知っていたようだから、キミの行動はあまり意味はなさなかったようだね」
「なんかよくわからないけどラプマル、ここは危ないからどこか遠くのほうに逃げたほうがいいよ」
「そうだね、オイラは遠くで見とくから健闘を祈るよマコト。
あれはキミなら勝てるから」
「そんな奴よりも早く行こう、マコト」
「あっ、待ってよアスラさん」
先に行った彼に追いつくためにラプマルと別れた。
✳︎✳︎✳︎
そして、俺たちは遠くの天に浮かぶソドムの林檎まで攻撃のできる場所まで歩いた。
歩む道にかつて人が住んでいたであろう村は、魔獣か何かに襲撃された跡が残っていた。
家は焼け焦げ、地面にはいくつもの刀やクワなどが転がっていた。
そして、二つの湖の間を通ると、そこから木々や植物が密集するように絡まった樹木の海、樹海が広がった。
自分たちに気づいたのか、最大の敵は空から赤い円球を樹海の少し上まで下がってきた。
「ソドムの林檎、皆んなのためにも絶対に倒す」
「いや、もうアナタは戦わなくていい」
ガキィン
すると隣にいた彼が杖を振ると、いきなり周囲に透明な檻が現れて俺を閉じ込めた。
ガシャーン
「どういうことなのアスラさん、って冷たっ!!!」
彼になぜこんなことをしたのか尋ねようとその檻を強く握ると、手に火傷したかのような痛みが走った。
「長く触らないで凍傷を起こすから。
それでねマコト。
アイツは僕が倒す、アナタは何もしなくていいから」
いつも一緒に戦ってくれたのにいきなりなんで、意味が分からないよアスラさん。
彼が何を考えているのか分からなく、ただ漠然とした不安に襲われ、理由を尋ねた。
「なんで、どうしてアスラさん。
いつも乗り越えてきたじゃん、なんで今になってこんなことするの」
「もう……
いいや、マコトは見とくだけでいいよ」
アスラさんの顔は少し悲しげに微笑んでそう答えた。
その顔を見るのは初めてではないはず、どこか言葉で表すのは難しいけど、表すとすれば存在しないはずの記憶で見たことがあるような気がした。
バッ
「アスラさん!!!」
自分の叫びにも振り返らずに彼はそのままソドムの林檎に向かって飛んでいった。
いつのまに飛行魔術を覚えていたんだろう、モルガーナ先生も原理だけでしか考えられていないものと言っていたのに。
「凍らせるは楽園、救済という名の運命の存在に終わりの地へと誘おう。
アブソリュート・ゼノ(絶対凍度)!!!」
パァーン
パァーン
パァーン
彼が詠唱と共に杖を振ると空と地上にソドムの林檎を囲むようにいくつもの魔法陣が展開されて、そこから放出される冷気によって空気もろとも凍らせた。
俺は驚きのあまり、何も言えなかった。
「プーーーーーッ」
その敵は、凍りながらも重厚で聞くだけで不安になるようなラッパに近い音を上げながら何かをしようとしてきた。
ギュイン
パァン
パァン
パァン
すると凍らせたソドムの林檎から赤い光線が放射して氷を砕け散らしていた。
ビュンッ
ガンッ
ドーンッ
しかし、間髪いれずに遥か高い空から一本の巨大な槍というべきものがソドムの林檎に突き刺さり、地上に叩きつけた。
あれはラウさんの飛行艇アマテラス。
すると、地面にソドムの林檎ごと突き刺さっているアマテラスからいくつもの金属のヒモ状のものが蜘蛛の巣のように張り巡らした。
するとヒモの先端のほうには、ラウさんのマギアである創造によって地面の土を原料に作られた、巨大な大砲や電磁砲らしき兵器などの発射台が続々と出現した。
ガシャーン
ガシャーン
ガシャーン
ガンッ、カランカランッ
そして、ソドムの林檎が飛行艇アマテラスを押しのけて、体勢を立て直すために少しずつ空中に浮かぶと、おそらく数百基はある様々な砲台などが一斉に標準を合わせた。
そして、ソドムの林檎が完全に浮かび攻撃しようとすると、それに向かって発射された。
ドドドドッ!!!
爆発音がいくつも重なり、音だけでも地面を揺らして地割れを入れた。
爆炎と煙に隠れたソドムの林檎は、同じようにラッパのような音を出しながら、アスラさんとは別の魔法陣を展開させその中から大量に何かを召喚させた。
それは黒い姿をした空を飛ぶ人型の魔獣と言っていいのだろうか。
それは子供が無邪気に笑うような声で鳴きながら、宙に浮きながらも近くにいたアスラさんやアマテラスに襲いかかった。
アスラさんたちは、黒い魔獣の攻撃に押されてソドムの林檎から離されて行った。
「失楽園(ロスト・アヴァロン)!!!」
ドンッ
ドンッ
すると、モルガーナ先生の術式で樹海の木々よりも高く成長するリンゴの木が出てきて、黒い魔獣たちを串刺しにし、それを避けた魔獣はモーガンさんが持っていた魔力を弾丸代わりにしたライフル銃で全て撃ち落としていた。
それにアスラさんは一礼して、ソドムの林檎に再び向かって行った。
すると、先生とモーガンさんが氷の檻に閉じ込められている俺のところに来て脱出しようとしてくれた。
「ごめんなさい、手間をとらせてしまって」
「分かっているよ、マコト。
しかしアスラもひでぇな、これ闇魔術でも簡単に壊れないぐらい強力な氷魔術だぞ。
俺も闇魔術で術式から壊していくからマコトも強者のマギアを使えよ」
「わかりました」
ガキィン
ヒュン
ギィーンッ
しかし、氷の檻はかなり頑丈に作り込まれていて、二人の力でも壊すことが出来なかった。
だが黒い魔獣たちも待っているわけでもなく、先ほどよりも何十倍の群れが太陽を隠し、周囲を夜にさせながら進撃してきた。
その魔獣の黒い波の中にアマテラスもアスラさんも飲み込み、遠くの状況が見えづらくなった。
「モーガン、来たわよ」
先生の声の後に、また別の黒い魔獣がこちらに牙を剥いてきた。
「たくっ、これじゃあ壊す時間が無いな」
「大丈夫です、少し傷ができたからそこから自力で壊して見せますので」
そう言うと、彼はその魔獣のほうを向いた。
「あぁ、頑張ってくれ。
しかしよ、勘弁してくれよまだこんなにいるのかよ。
それもあの魔獣、ソドムの林檎から増殖してやがるし、このままじゃジリ貧だな。
モルガーナ!!!」
「なに?」
振り向く先生に真剣な顔で話した。
「アスラとマコトを頼む。
言っていなかったが、ちょっと飛行艇から降りる前から気を失いかけたことが何度かあったからさ」
「ーー分かった」
頻繁に気を失ってしまうこと、その意味は知っている。
想像はしたくはない、だけどあの俺と湖での会話で彼が何をすることは知っている。
「モーガンさん、まさかリンネになるから捨て身で敵の中に突撃するんですか……」
「なに言ってるんだよ、マコト。
俺は絶望して立ち止まったわけじゃねぇんだぞ。
だが時間がねぇんだ、お前たちに迷惑をかけるわけにもいかないからな、リンネになる魔力量全てを使って、ソドムの林檎そして黒い魔獣を絶滅させる」
「モーガンさん、ダメです。
そんなに簡単に死なないでください。
もう、誰も失いたくないんですよ」
すると彼は口角を上げて笑いながら話し始めた。
「へっ、何言っているんだよ。
俺は止まらねぇよマコト、お前こそが俺の最後の希望だ。
だからお前は突っ走れ、どこまでも突っ走れば、どんな暗闇でもその軌跡が光となるんだから。
だってよ、誰だって英雄にはなれるんだから」
彼はそう言い残すと地面に手をかざした。
「やめてー!!!」
彼は一粒の涙を流した、それは別れの涙なのか、嬉し涙なのかは誰も知らない。
だけど彼の顔は笑っていた。
「この地上にある星の魔力よ、俺に力を貸せ。
俺の名前は、帝国四英雄、万武英雄モーガン・アイハム。
俺が滅びを止める障壁になってやる!!!
天地のマギア発動、シキ•ゼロ!!!」
ババババッー!!!
モーガンさんが持っていたスナイパーライフルの形をした武器から彼の持ち得る全ての魔力を弾丸にして放出した。
正面にいた黒い魔獣は、その放射されたレーザー状の巨大な魔力光線によって骨も残さずに一瞬にして消滅した。
だが、黒い魔獣が壁代わりになったため、ソドムの林檎にまでには届くことはなかった。
ガンッ
武器を落として、モルガーナ先生に体を支えられ魔力切れを起こして口から血が出ていながらもまだ彼は笑っていた。
「へっ、なんだよ全然あたってねぇじゃねえか。
たく、俺はいつもダメだな」
「モーガンさん、モーガンさん!!!」
「最後ぐらい静かなところで穏やかに眠りたかったぜ……」
先生の腕の中で彼は静かに眠り、呼吸の音も聞こえなかった。
なんで、なんでこんなことに俺はまたマーニさんたちのように何もできないのか……