第33話 未来(ゆめ)

文字数 4,589文字

三日間経つのは早かった、今日はこの街で初めてのクエスト、夜遅くにあるから今のうちにしっかりと眠らないとね。
心では眠ろうとしたが……

10分ぐらい経っても眠れないどうしよう、このままだと、夜眠くなっちゃうよな。

ガサガサッ

そんなことを考えていると隣のリビングのほうから何か音がしてきて、気になりそこに向かうと。

「マーニさん、何やっているんですか?」

そこにいたマーニさんは、何やらクエストに行くときに使うバックに傷を治す治癒薬や密林を進むとき邪魔な植物を払う小刀などを入れて準備をしていた。
あれ?
今日の夜の準備は昨日のうちに終わらせたんだけど。

すると見ていた俺に彼女も気づいた。
「あっ、マコト、起きていたのね。
ちょっとね、私も眠れなくて簡単な依頼を済ませようかなと思ってね」
彼女はアスラさんに言われていた約束を破ることにちょっと罪悪感があったのか、恥ずかしそうに視線を下に向けていた。

とりあえず話しからでも聞こうかなと思い、自分のほうから話しかけた。
「それでなんていうか依頼なんですか」

「ルビーの果実と呼ばれている真っ赤なナシの採取する依頼なんだけど。
すぐに終わるから別についてこなくていいよ」

「いや、俺も連れて行ってください。
その魔獣もいたりして心配だから、それともう誰も失いたくないから」

ぷにっ

そう言うと、マーニさんは俺のほおを指で突いて、笑っていた。
「もう生意気言って、でもありがとう」

「じゃあ、アスラさんも」

そう言うと、彼女は頭を横に振った。
「いいや、起こさなくていいよ。
最近クラレントのときからアスラ、なんか疲れているようなの。
ここ最近いつもため息ばかりついているし、せっかく今はぐっすりと眠っているようだし、私たちで行きましょう」
そうなんだ、そんなこと全然気にして無かった。

「そうだよねごめんね、アスラさん」

「スー、スー」
ほんのりと隣の部屋からアスラさんの寝息が聞こえた。
今はゆっくり休んでいてね。

✳︎✳︎✳︎

ゴツゴツとした岩だらけの山岳都市を抜ければすぐに黒の密林と呼ばれている密林地帯に入る。

でもやっぱり、黒の密林と呼ばれるだけあって、空は雨雲ひとつもない太陽が照りつけても、中の密林は生い茂る木々によって木漏れ日がさすだけでうっすらと暗かった。

「キェッ!!!
クワーン、クワーン」

バササッ

森に入ってきた自分達に驚いたのか、木に止まっていたキレイな鳥がここから逆の方向に羽ばたいて行った。

「キレイな鳥だね、クチバシが黄色以外は全身水色だね」

「みずいろオウムだね、この都市では幸運を運ぶ青い鳥って言われているね」

この世界の青い鳥も幸運を運ぶ象徴となっているんだな。

そして、俺たちは目的であるルビーの果物を探すために腐った木を踏みしめながら密林の中を歩き続けた。

そして、しばらくするとマーニさんがいきなり歩みを止めた。

「どうしたんですか、マーニさん」
自分も体を反転させ、彼女と対面する形になると、彼女の視線は下を向きながら、何かを言いたげそうに両手でモジモジと遊ばせていた。

「その失礼なこと聞くけど、転生者はリンネになるということが分かったよね。
もしも親しい人が、リンネになってもキミは戦える?」

「戦います、だってその転生者も理由もなく人を殺したりするのは苦しむと思うから。
もし、俺がリンネになってもマーニさん、遠慮なく自分を殺してください。
俺もこの世界の人々を殺したくはないですので」

「強いんだね、マコト。
私、そんなふうになってもまだ生きたいと思ってしまうの」

「えっと、マーニさんはエルフですから、リンネなんかにはならないと思いま……」

ギュッ

「ちょっ、ちょっとマーニさん!!!」

いきなりマーニさんが抱きついてきた、なんか様子がおかしいけど一体どうしたんだろう。

すると、彼女は俺の肩の服を濡らしながら話した。

ボロボロッ
「ごめんなさいね、こんな涙を流して、ずっとキミ達に真実を隠していたの、本当は私も転生者だったの」

「えっ、マーニさんも転生者だったんですか。
でもその耳はどう見てもエルフじゃ」

「そう、エルフだよ私は。
でもね、前の私はかつてこの世界で魔獣に殺されたの。
でも王様がなんでかは分からなかったけど私を最初の転生者として再び生き返らせてくれたの」

「じゃあマーニさんはなんでマスターのところにいたんですか」

すると、彼女は俺の肩の服にシワが出るぐらいに握ってきた、辛い過去があったのだろうか。

「忘れられたの」

「どういうことですか」

そう尋ねると彼女は自分の肩から手を離し、涙を浮かべた瞳で見つめながら言った。
「王様いいやこの世界の誰も私のことを覚えていなかった。
最初の転生者だからだと思うけどマギアも使えないの。
だから転生者として証明することもできないでそのまま自分が何なのか分からなくなって、帝国からティルヴィングまで逃げるように旅をして、マスターに拾われて住み込みで働くことになったの」

そうだったんだ、だから最初、出会ったときに記憶喪失とウソをついていた自分にここまで親身になってくれたんだ。
そしたら、次は自分が彼女を助けないと。

「そうだったんですか、言ってくれてありがとうございます。
マーニさん、今まで隠していて苦しかったんですよね」

「もうマコトは忘れないで私のことを」

ボロボロッ

「忘れないですよ俺はマーニさんのことをずっと」

抱きつきながら涙を流す彼女の頭を落ち着くようにさすった。
マーニさんもずっと知らないところで戦っていたんだ、俺もそれに応えるように彼女を守らないと、ソドムの林檎を倒して、魔獣も倒して、リンネの問題も解決して、必ずマーニさんのような人を生み出さないようにしないと。

✳︎✳︎✳︎

カシャカシャ

マーニさんの剣と腰の鎧が当たる音が聞こえる。

彼女の瞳には涙も無く、明るい未来を見ている、そんな気がした。

歩き続けると、草原だけの広場にたどり着いた。
すると目の前に三人の大きなバックを背負った商人らしき人たちがこちらに走ってきた。

「助けてくれぇぇぇ!!!」

「大丈夫ですか」

「いきなり、見たことのないモンスターが襲ってきたんだ」

商人はその追っているケモノに指を差した。

「ブゴォォォォ」

よく見てみると、あの姿は、黒と紫に彩られた禍々しい体毛を包み込んだ、自分の太ももぐらいの牙を持つ巨大なイノシシに似た姿、間違いない。

「魔獣シンビジウム。
なんでここにいる」

「マコト、この人たちを頼む。
キミの強者のマギアなら、私よりも守り切れるでしょう。
私は突っ込んでくるあのシンビジウムの群れを倒すわ」

「だけど、マーニさんをさすがに一人で戦わせるわけには」

「……」
そう言うと、彼女は無言になってちょっと怒ったのか、俺のほっぺたを引っ張った。

ビィー

「痛い、痛い、ほおを引っ張らないで」

「私はキミよりも年上で先輩なのよ、先輩らしいところをたまには見せてよ。
それとキミがいてくれたら、私、ここまで頑張れたと思うから。
その姿を見ていて、そう守るものができた勇者となった私の姿を」

ザッザッザッ

そう言い終えると、彼女は希望に満ちた顔で頬を赤らめさせながら魔獣の元に走って行った。

「マーニさん……」
俺はまだ他の魔獣もどこに潜んでいるのか分からないので、手伝いたかったけど俺は彼女の言うように商人の人を守るようにバリアを展開させた。

「フゴッ
ブゴォォォォ」

ブゥン
ガキィン
バキッ

マーニさんが魔獣シンビジウムの頭を叩き、一撃で完全に沈黙させた。
すごいマーニさん、さらに強くなったんじゃないのかな。

ブゥゥゥン

そんなことを思っていると地面が暗くなり、後ろを振り向くと。

ブゥンッ

ガンッ
キィキィキィー

「ひぃぃぃ!!!」

「大丈夫です、俺の近くにいればこのバリアは壊れません」

ムチの形をした手足、今聞いても不快な羽音。
やっぱりこの魔獣もいたんだ、ハエの姿をした魔獣フリージア。
シンビジウムは魔力が効かないのに対してフリージアは物理攻撃が効かない魔獣だ。

俺のバリアの後ろに一体いるが、マギアも最初の頃よりかは痛みもそこまで感じなくなったから我慢すれば大丈夫だろう。

マーニさんの近くには四匹いる、早く伝えないと。

「気をつけてくださいマーニさん、魔獣フリージアもいます」

そう言うと彼女も気づいたが、そこにはなんの曇りもなく、持っていた武器を腰にかけた。

「数は四体、相手にとって不足はない。
その前に早くマコト達から離れなさい」
マーニさんは無詠唱で即座に手のひらから光の魔力弾を複数発射した。

いつのまに、あんな魔法が使えるようになったんだろう。
普通は魔法を使うには、詠唱をしなければいけないのにそれを無詠唱まで持っていくなんてマーニさんも頑張ったんだろう。
やっぱりマーニさん、凄いよ。
アナタはずっとあの最初の出会いから俺にとっての勇者だよ。

ビュンッ

ガンッ
 ドーン

魔獣フリージアは魔力攻撃に弱いため、マーニさんの魔力弾によって一撃で消し去った。

それに触発されたのか、俺のバリアを攻撃していた魔獣が消滅すると他の四体が一斉にしてマーニさんに襲いかかった。

さすがに無詠唱でもあの数は相手にできない、だけど距離があってバリアも張るのに少し時間がかかる。

だけど、彼女は逃げるどころか一気に魔獣のところに向かった。
黒い魔剣は先ほどの光の魔力弾のように輝いていた。

そうか、剣に魔力をまとわせたんだ。

「魔獣フリージア。
久しぶりね、次は負けないわよ」

ザザザッ

ガンッ

ピギィ!

前にいた魔獣を一体、刀剣で叩き飛ばした。
物理攻撃が効かないから斬るまではいかなかったけど、魔力としてぶつけて叩き飛ばすことはできた。

「これで三匹」

ブゥゥゥゥン!!!

次は三匹同時にフリージアが彼女のところに飛んでいった。

「まだ、向かってきますマーニさん」 

「これでどうだー!!!」

ドゴッ

バッ、ズザザザッ

だが、彼女はひるまずに、魔力をまとわせた刀剣を一匹にあてて、ほかの二匹も巻き込んで遠くまで叩き飛ばした。

「やっぱり強いわね、でも斬れないなら、一気に吹き飛ばすまでよ」

カチャ

バッ

そう言うと、腰に剣を戻して両手を広げた。

「アルティマ・デリート!!!」

ビュイン、ビュイン、ビュイン

すると、マーニさんの詠唱とともに周囲にいくつもの魔法陣が現れた。
その魔法陣から光が出てきて、その光は彼女の広げている両手に集まり、光の球体を作り出した。

キィーン

それを放つと、魔獣達は一瞬にして光に消えて、その後に焼かれた砂が舞い上がり見えなくなった。
倒せたんだ。

「すごいよマーニさん、やったね」

「いやぁ、照れちゃうな」
彼女は恥ずかしそうに顔を赤くしていた。

すると戦っていたのとは別の魔獣が密林から姿を一瞬現れてそのまま奥のほうに逃げて行った。

「あっ魔獣達が逃げていく」

「まだあそこにもいたの、マコトはここでみんなを守っていて。
私は魔獣を追いかけるから」

✳︎✳︎✳︎

ザザザッ

それから、真上にいた太陽が段々と西に傾いているとき、刀剣を引きずらせてボロボロのマーニさんが歩いてきた。

「マーニさん」

倒れそうな彼女を支えると。

「マコト、やったね、あの時勝てなかった魔獣を倒せたね」
彼女は笑顔で親指はぐっとあげてそう言った。

そしてそのままボロボロのマーニさんに薬草をつけた後、商人の人たちと街に戻って行った。

二人であのとき勝てなかった魔獣たちを倒したんだ、そんな嬉しい気持ちになりながら太陽は密林に沈んでいった。
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