第1話 転生園庭(エリシオン)

文字数 4,279文字

ガヤガヤガヤ

まばゆい夕焼けに少し寒さが残る季節、行き交う人の声と電車の走る音。

いつもと変わらない帰り道、人で混み合っている駅のホームで電車を待っている俺はスマホでゲームをしていた。

「よし、これでS+レアキャラのマモンをゲットできた。
ふふん、これでヤマトに自慢できる。
それと帰ったら夕食作らないとな、うーん、父さんもいつも通り帰ってくるから、今日はハンバーグにしようかな」 

今日、私立の高校から合格通知が届き、長い受験勉強から抜けれた俺は、神楽真(カグラ・マコト)中学三年生です。 
今は父さんと二人で暮らしていて、今日は父さんも残業がないらしく久しぶりの二人で夕食が食べれる日、合格したことも伝えるから楽しみだな。

パァーン

「キャー」
女性の声と遠くから電車の汽笛が聞こえた。
後ろを振り向いてみると、なぜかは分からないが人が集まっていた。

気になって人混みの中に入り、その場に行くと電車の線路に誰か倒れていた。
倒れている人は気を失っているのか動くことはなかった。
周りにいる人も誰もいきなりのことで動けていない、助けないと。

俺は急いで、線路に降りて倒れている人を上のホームにいる人と一緒になって持ち上げた。

その倒れた人は、何とかホームにあげることができた、後は俺が……

パァーン
ギギギギィィィ!!!

あっ。

覚えている記憶はそこまでだった。

✳︎✳︎✳︎

ふと、目を開けて気づくと何もない大理石のような白い部屋で椅子に座っていた。
視線を前にすると、黒い装束をまとったタバコを噛んでいた男性の人がイスに座って本を読んでいた。

「やっと目覚めたか。
私の名はマルスと呼んでくれ。
さっそくだが少年、お前にはここではない世界に行ってもらう」

「えっ、あっ、はいっ?」

いきなり、何を言っているんだろうこの人。
えっと確か最後の記憶だと、俺はあの時電車にひかれて、死んだと思ったんだけど。

「えっと、アナタに聞くのもおかしいですけど、俺って生きてますか」

「少年、それは私が目覚めさせたから、生きているに決まっているだろう」

目覚めさせたどう言うことなのだろう。
ここは病院じゃないようだし、でもなんかマルスさんが言うには眠っていたみたいな感じだし。
うぅん、まったく分からない。

「ここは一体、どこなんですか?」

「ここは名もない場所さ」

よく分からないな、でも俺がここに連れてきたのは、このマルスさんにも何か目的があるのかな。

「俺をこんなところに連れてきて何かさせるのですか?」

そう言うとマルスさんは無言で立ち上がり、イスに本を置き、こちらに近づき、俺の顔をじっと見てきた。

「いやぁ、そんなに顔を近づけてきて、マルスさん、ちょっと恥ずかしいです」

「別にどこも悪いところも無く、大丈夫そうで結構。
では本題に入ろうか神楽マコト、貴様は今から魔法と剣の世界に行ってもらう。
そこにいる魔獣と魔獣達の王リンネを倒してくれ」

「ま、魔法、魔獣、リンネ?」

ガシャン

いきなり、聞いたことのない言葉が耳に入ってきて、驚きで立ち上がり、イスを倒してしまった。
えっと、魔法って小説やゲームで出てくる杖とかかざせば、ボッと炎が出てくるもののことかな。

「詳しいことはあちらの世界にいる私の仲間に聞いてくれ」

仲間もいるんだ、そこで魔法や剣の勉強をして、魔獣やリンネとか言うものを倒せばいいんだな。
なんとなくは分かってきたかな。

そしてふと、目線を下にやると。

あっ。

「それでなんだが……」

「あのー、すいません、今なんかパンツだけなんですけど服とかありますか」

「あぁ、そうだな……」

今気づくなんて、ボケっとしているな俺も。
ちょっと恥ずかしいな。

✳︎✳︎✳︎

俺はマルスさんに準備された服を着こんだ。
それは麻の服に鉄のように頑丈だけど動きやすい不思議な素材でできた赤色の鎧だった。

それと自分の身長よりも少し高い二メートルぐらいの赤色で綺麗に彩られた槍も貰った。

「おぉ、カッコいい。
この槍はなんですか?」

「その槍は貴様が魔術を上手く使えるようになれば、魔力をまとわせたり、そこから魔力の弾丸を発射できる魔槍ゴグ・マゴグだ」

「そうなんですか、かっこいい槍も防具もありがとうございます」

「フフッ、お世辞が上手いことだな」
あれ、本当のこと言っただけなのに。

「それで、話しの続きはなんですか?」

また俺が質問をすると、マルスさんはイスに座るように手で勧めて、自分が座ると自身もイスに座り話し始めた。

「話の続きはマギアについてだ」

「マギアですか」

「マギアというものは、貴様のような転生者達が持っている特殊な魔力性質だ。
例えば、手に持っている武器をどんなに硬いもので切っても刃こぼれや錆びたりしない能力やどんな大怪我をしても数分あれば完全にすり傷も残さずに回復できる能力などさまざまある」

「俺にもなにかあるんですか」

「貴様は、強者というマギアだ。
受けた攻撃は痛みは感じるが体にマギアをまとわせているため肉体自身にはダメージが通りづらくなるものだ」

小説やゲームでよくある能力みたいなものなのかな?
そうかこれは小説で見たことのある異世界転生なのか、その世界でそのマギアというものを使って、魔獣やリンネを倒して、勇者みたいになってその世界を平和にさせるのか。
これはやり直しなのかもしれない、次の世界であのときできなかった色々なことをするための。
そしたら、頑張らないと。
でも、まだヤマトや父さんとも別れたくなかったな。

そしてまた、俺が質問しようとすると、何もない足元から突然光が溢れた。

「まぶしっ、えっ、どういうこと」

「迎えが来たな、そう言えば転生先の世界を言っていなかったな、名はエリシオンだ。
貴様の目覚めはその世界の祝福だ、祝福された貴様には俺の仲間が必ず協力してくれるはずだ。
役目を達成したら、神楽マコト、あとは貴様自身の好きにするといい」

「まだ、聞くことたくさんあるけど、でもありがとうマルスさん。
俺を生き返らせてくれて」

光に巻き込まれて、そのまま意識を失い。
とまぁ、こんな感じでエリシオンという世界に向かいました。

✳︎✳︎✳︎

フーフーフー

何か聴こえるが目を覚ますと、街にいるのかなと思いながら俺は目を開き、辺りを見渡すと。

「うわっ、豚!?」

「ブホォ!!!」

いいや違う、豚のような姿なのだが全身薄い毛に覆われ、口から突出している牙、これはたまにニュースで見るイノシシだ。
だが、テレビで見るイノシシよりも決定的に違うのは体高が大人一人分ぐらいの巨大なイノシシだった。
それと、眉間にシワが寄ってて絶対に怒っている、目の前にいきなり現れたからだろうか。

それが俺に向かって突進してきた。
ドンッ
ガランガランッ

何とか避けて、隣にあった岩に追突したが軽自動車ぐらいの大きさの岩は簡単に崩れた、これってあたったら死ぬんじゃないのか。

その時、背中に冷たい汗が流れた。
こんなところで死ぬわけにはいかないんだ、せっかくこの世界で生き返ったんだから。

「そしたら、もう戦うしかないよね」

ギィンッ

逃げられないと思った俺は、手に持っていたルビーのように赤く輝く槍をそのイノシシに向けた。

それからどのぐらい経ったのだろう、信じるのは手に持っていた槍だけだった、突進するイノシシを避けて、叩き続けるしかなかった。

まだ魔力の出し方も分からなかったから。

ビュンッ
ガンッ

「グピィィィィ……」

「ハァハァハァ」

全身傷だらけの荒い呼吸になりながらも何とか倒せた。
だけど、よくこんな化け物みたいなイノシシよく倒せたな。
確かに肉体的には頭突きされてもかなり痛いけどやっぱりマルスさんの言った通り、アザができるだけで大きな傷はできていないな。
これが転生者の力、マギアなのか。

それにしても、辺りを見渡すとどうやらここは木々が立ち並ぶ森のようだな。
かなり深い森なのか、光は木々の間からしか降り注がなく、太陽が出ていても薄暗かった。

とりあえず、どうやって近くにある街まで行こうか。

✳︎✳︎✳︎

「どうしよう」
俺は今、前には後ろにも進めなかった。

プギィー
 プギィー 
  プギィー
グピピィ

今、俺は先ほど倒した同じ種類のイノシシの群れに囲まれている。
たぶん、この森一帯が彼らのナワバリだろう、そのナワバリに侵入して仲間の一匹を倒したから俺を追いかけてきて、そして今、囲まれてしまった。
どうする、一匹でもだいぶ苦戦したけど、今回は数匹いるけど体力が持つのだろうか。

そして、もう戦うとしかないと思った俺が槍を構えると。

「お困りのようね赤髪の少年、私で良かったら手伝うわよ」

「えっ、あなたは?」

白いマントを羽織り、動きやすそうな青と白に彩られた鎧に身を包んだ太陽に照らされる雪と同じ銀の後ろで髪を結っており、耳が尖っている胸の大きな女性が木の上に立っていた。
その姿は、聖騎士のようだった。

ビュンッ

彼女は、木から降り立つと後ろを振り向き握手を求めてきた。

「私は近くの街でモンスターを狩っている剣士のマーニ、よろしくね」

「は、はいっ」

プギィー!!!

彼女と握手をすると、イノシシたちは一斉に襲いかかってきた。

「いくよ、えーと君の名前は?」
握手をしながら、彼女は自分に聞いてきた。

「俺はマコトです」

「良い名前ね、じゃあ一気に切り抜けるわよ」

ガチャ
キィン
ドゴッ

そう言うと、彼女は腰にかけていたサーベル状の刀剣を抜き、先に向かってくるイノシシの一匹の頭に叩きつけて、ひるませた。

そのスキに彼女は俺の袖を引っ張り、そのイノシシを飛び越えて森の中を走り去った。

十分後……

俺は彼女に連れられて、森を抜けて腰ぐらいの高さの草原地帯に着いた。
久しぶりにこんなに全力で走ったから、俺はハァハァ言いながら立てずにいた。
久しぶりにこんなに走ったな。
彼女は、周囲を見渡しながら言った。

「森も抜けれたし、ここまで逃げれば大丈夫ね」

「はぁはぁ、ありがとうございます、マーニさん」

「まぁ、困ったときはお互いさまだから。
ところで君はどこから来たの?」

さすがに違う世界から来たっていうわけにもいかないしな、とりあえずここは。

「いやぁ、ちょっと覚えてないんですよね」

「そうなの、記憶がないのねごめんなさいね」

この世界については全く知らないからこう言って色々なこと知らないといけないから嘘をついてしまった、すいませんマーニさん。

「そうだ、君が良かったら、ぜひ私の街によって行かない」

「はい、お願いします」

よかった、これで人がいる街に行ける。
マーニさん、本当にありがとうございます。

そして、ここから俺の異世界エリシオンの冒険は始まりました。
ヤマト、父さん、俺この世界で頑張っていくよ。
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