第52話 聖戦(シンギュラリティ)
文字数 2,573文字
「マコト!!!」
パチッ
ギュッ
目が覚めると、倒れ込んでいた自分の手を思いっきり強く握りしめながら、彼は涙を浮かべながら言った。
「よかった目覚めて、早く逃げよう」
今ではその言葉の意味が分かる。
俺は起き上がり、彼の握った手を強く握り返した。
「アスラさん、あなたの今までの旅全て見たよ」
「どういうこと?」
「アスラさんが俺のために何度も過去に戻り続けていたことを。
本当にありがとう、神暁明日来さん」
すると、彼は涙を浮かべながら座り込んで下を向いた。
「なんで、なんで、知ってしまったの。
知られたくなかった。
だってアナタが知ると……」
「もう後は俺に任せてくれ。
俺はあなたの盾になるから」
自分が発する敵意を感じ取ったのか、嫉妬のリンネは混沌とした色彩の空を泳ぎながらこちらに向かってきた。
ギギギィィ
ギランッ
空にいる嫉妬のリンネが目を光らせると苦しみに悶えているような人の形をした鱗が一斉に隆起して、そこから周囲を焼き尽くすように放電した。
ババババンッ
ぐぅいん
立ち上がって空に向かって手から盾状のマギアを展開させたが、放電した雷が一発当たっただけで破壊される。
だが一枚でダメなら、何枚でも。
ババババッ
パリーンッ
「痛っ!!!」
何重にも張り巡らした強者のマギアでも、ことごとく破壊されて、体は悲鳴をあげていた。
ガシッ
「マコトもう逃げよう、何処か遠くへ逃げよう」
すると、後ろにいるアスラさんが俺の腕を握ってきた。
「ダメだよアスラさん、希望を捨てたら。
一番、希望を信じたあなたが」
「バカなこと言わないで、もう勝てないんだよ。
嫉妬のリンネは、この星の最強の破壊兵器に自身の強さを合わせて存在したんだから」
「いいや、まだ勝てる方法が残っているよ、俺自身がリンネになって、あの嫉妬のリンネを倒すことだよ」
「まさか、やめて」
彼が止めることは分かっている、アスラさんは俺をリンネにさせないために旅を繰り返していたから。
彼の思いを裏切ることにはなるけど、それでも構わない。
もう、俺はどんなことがあっても目を背けないし、逃げない、大切な人たちを守るために。
そして、俺は近くにいた黒い魔獣を倒したときに出てきた魔獣結晶をひと摘みとって食べた。
「バリッバリッ、ゴクンッ」
「うっ!!!」
痛い、痛い、全身が引きちぎれるかのように痛い、でも俺はアスラさんをこの世界の滅びの運命を断ち切って見せる。
何度も俺を守ってきたアスラさんをリンネにさせないために。
アスラさんの隣にいたラプマルが質問してきた。
「いやいや驚いたよ、色欲や暴食のリンネの観察で確信を掴めていたけど、君はたった生まれて一年でリンネになると思っていた。
そう、今このときそれに変化しても不思議ではない。
しかし、君はその強者のマギアを使って、リンネの進化への源である聖域を自身の強者のマギアを使い同質化することで、人の姿のままリンネになったのかい。
君は、一体何になるのかい」
「俺はただなすべきことをなす者になる。
この星海に存在する全ての呪いを奪い祝福に変える、これが強欲のリンネの良心の願いであり、それを可能とする強欲聖域だ」
もう決めたんだ、これが俺が転生者となった理由。
彼の言う通り、俺はあのアスラさんの旅で見てきた強欲のリンネの姿にはならず、人の姿のままとなった。
ありがとう、もう一人の自分。
そして正面を見ると湖のところで先ほどから嫉妬のリンネが口を開けながら溜め込んでいた人間一人分ぐらいの超高密度の電撃エネルギー弾を体をのけぞらせて勢いをつけて叩きつけるように落とそうとした。
ラプマルが言うには一度大地に落ちれば星の地軸がねじ曲がり、星の生命の大半が環境の激変で滅びるだろうと言われているもの、あんなものが直撃したらいくら今の俺でもただではすまないだろう。
でも止めてみせる、まだこの世界を終わらせはしない。
俺は走り出して、飛び跳ねて落ちていく球体に近づき赤い魔槍に強者のマギアをまとわせて下から叩きつけた。
音を置き去りにする速さ、空を飛ぶ自由、そうかこれが彼が俺に託した大切な人たちを守る力。
そうか、もう俺は何だってできるんだ、できなかったんじゃない、できる勇気がなかっただけなんだ。
「いっけぇぇぇぇぇぇ!!!」
ギィンッ
ヒュー
ガッ
ババババッ
下から叩きつけた電撃エネルギー弾は、嫉妬のリンネに直撃して、そこから空に地上にいくつもの雷が降り注いだ。
「ンァァァァン!!!」
嫉妬のリンネには効いていないが、怒りの咆哮を上げたのは確かだった。
それの影響なのか、天の炎で焼き尽くされた黒い魔獣達が息を吹き返し、無邪気な笑い声をあげながらこちらに向かってきた。
しかし、味方であるはずの黒い魔獣には気にかける様子もなくリンネは、口からこちらからでもピリピリと微量な電気を感じるソドムの林檎のほどの大きさの高出力の雷撃弾を発射させた。
発射された直後、黒い魔獣は笑い声とともに蒸発していった。
ぐぅいん
パァァァァン
ガギィィィィィン
こちらのほうは寸前のところで俺の強者のマギアによって作られたシールドのほうが早く、なんとか防ぐことができた。
「ンァァァァンッ」
怒りと悲しみ、その背反しきれない二つの感情が空気をも震わせる。
「嫉妬のリンネ、いやバートランドさん、もういいんだよ。
俺は強欲のリンネ、あらゆるものを貪欲に望み、それを奪う者。
今、俺が望むことは、あなたの呪いを奪いとることだ」
ガチャ
俺がそう言うと、マルスさんに託された魔槍ゴグ・マゴグを両手で構えると赤く光り輝き、それ自体に様々な文字が浮かび上がった。
それを俺は読み上げた。
「ありがとう魔王様、力を貸してくれて、これで皆んなを救えるよ。
生命の祈りは星海に変革をもたらす、絶望が希望となり、呪いは祝福となる。
エルム・エルピス……」
突き出した槍は二つに分かれて、その中心から赤く輝く太陽のような光の球が出現した。
それを俺は空に打ち上げた。
打ち上げた光球は、混沌とした色彩を飲み込み、一瞬にして消し去り、全てを暖かく春の木漏れ日のような光を照らした。
嫉妬のリンネはその光に照らされ、地上に倒れ込み穏やかな眠りにつき、光に照らされながら粒子状になって消えていった。
「暖かい光だな。
俺はできたんだ、生き残った皆んなを助けることを……」
俺はそこで力を使い果たし、地上へ落ちる感覚を感じながら気を失っていった。
パチッ
ギュッ
目が覚めると、倒れ込んでいた自分の手を思いっきり強く握りしめながら、彼は涙を浮かべながら言った。
「よかった目覚めて、早く逃げよう」
今ではその言葉の意味が分かる。
俺は起き上がり、彼の握った手を強く握り返した。
「アスラさん、あなたの今までの旅全て見たよ」
「どういうこと?」
「アスラさんが俺のために何度も過去に戻り続けていたことを。
本当にありがとう、神暁明日来さん」
すると、彼は涙を浮かべながら座り込んで下を向いた。
「なんで、なんで、知ってしまったの。
知られたくなかった。
だってアナタが知ると……」
「もう後は俺に任せてくれ。
俺はあなたの盾になるから」
自分が発する敵意を感じ取ったのか、嫉妬のリンネは混沌とした色彩の空を泳ぎながらこちらに向かってきた。
ギギギィィ
ギランッ
空にいる嫉妬のリンネが目を光らせると苦しみに悶えているような人の形をした鱗が一斉に隆起して、そこから周囲を焼き尽くすように放電した。
ババババンッ
ぐぅいん
立ち上がって空に向かって手から盾状のマギアを展開させたが、放電した雷が一発当たっただけで破壊される。
だが一枚でダメなら、何枚でも。
ババババッ
パリーンッ
「痛っ!!!」
何重にも張り巡らした強者のマギアでも、ことごとく破壊されて、体は悲鳴をあげていた。
ガシッ
「マコトもう逃げよう、何処か遠くへ逃げよう」
すると、後ろにいるアスラさんが俺の腕を握ってきた。
「ダメだよアスラさん、希望を捨てたら。
一番、希望を信じたあなたが」
「バカなこと言わないで、もう勝てないんだよ。
嫉妬のリンネは、この星の最強の破壊兵器に自身の強さを合わせて存在したんだから」
「いいや、まだ勝てる方法が残っているよ、俺自身がリンネになって、あの嫉妬のリンネを倒すことだよ」
「まさか、やめて」
彼が止めることは分かっている、アスラさんは俺をリンネにさせないために旅を繰り返していたから。
彼の思いを裏切ることにはなるけど、それでも構わない。
もう、俺はどんなことがあっても目を背けないし、逃げない、大切な人たちを守るために。
そして、俺は近くにいた黒い魔獣を倒したときに出てきた魔獣結晶をひと摘みとって食べた。
「バリッバリッ、ゴクンッ」
「うっ!!!」
痛い、痛い、全身が引きちぎれるかのように痛い、でも俺はアスラさんをこの世界の滅びの運命を断ち切って見せる。
何度も俺を守ってきたアスラさんをリンネにさせないために。
アスラさんの隣にいたラプマルが質問してきた。
「いやいや驚いたよ、色欲や暴食のリンネの観察で確信を掴めていたけど、君はたった生まれて一年でリンネになると思っていた。
そう、今このときそれに変化しても不思議ではない。
しかし、君はその強者のマギアを使って、リンネの進化への源である聖域を自身の強者のマギアを使い同質化することで、人の姿のままリンネになったのかい。
君は、一体何になるのかい」
「俺はただなすべきことをなす者になる。
この星海に存在する全ての呪いを奪い祝福に変える、これが強欲のリンネの良心の願いであり、それを可能とする強欲聖域だ」
もう決めたんだ、これが俺が転生者となった理由。
彼の言う通り、俺はあのアスラさんの旅で見てきた強欲のリンネの姿にはならず、人の姿のままとなった。
ありがとう、もう一人の自分。
そして正面を見ると湖のところで先ほどから嫉妬のリンネが口を開けながら溜め込んでいた人間一人分ぐらいの超高密度の電撃エネルギー弾を体をのけぞらせて勢いをつけて叩きつけるように落とそうとした。
ラプマルが言うには一度大地に落ちれば星の地軸がねじ曲がり、星の生命の大半が環境の激変で滅びるだろうと言われているもの、あんなものが直撃したらいくら今の俺でもただではすまないだろう。
でも止めてみせる、まだこの世界を終わらせはしない。
俺は走り出して、飛び跳ねて落ちていく球体に近づき赤い魔槍に強者のマギアをまとわせて下から叩きつけた。
音を置き去りにする速さ、空を飛ぶ自由、そうかこれが彼が俺に託した大切な人たちを守る力。
そうか、もう俺は何だってできるんだ、できなかったんじゃない、できる勇気がなかっただけなんだ。
「いっけぇぇぇぇぇぇ!!!」
ギィンッ
ヒュー
ガッ
ババババッ
下から叩きつけた電撃エネルギー弾は、嫉妬のリンネに直撃して、そこから空に地上にいくつもの雷が降り注いだ。
「ンァァァァン!!!」
嫉妬のリンネには効いていないが、怒りの咆哮を上げたのは確かだった。
それの影響なのか、天の炎で焼き尽くされた黒い魔獣達が息を吹き返し、無邪気な笑い声をあげながらこちらに向かってきた。
しかし、味方であるはずの黒い魔獣には気にかける様子もなくリンネは、口からこちらからでもピリピリと微量な電気を感じるソドムの林檎のほどの大きさの高出力の雷撃弾を発射させた。
発射された直後、黒い魔獣は笑い声とともに蒸発していった。
ぐぅいん
パァァァァン
ガギィィィィィン
こちらのほうは寸前のところで俺の強者のマギアによって作られたシールドのほうが早く、なんとか防ぐことができた。
「ンァァァァンッ」
怒りと悲しみ、その背反しきれない二つの感情が空気をも震わせる。
「嫉妬のリンネ、いやバートランドさん、もういいんだよ。
俺は強欲のリンネ、あらゆるものを貪欲に望み、それを奪う者。
今、俺が望むことは、あなたの呪いを奪いとることだ」
ガチャ
俺がそう言うと、マルスさんに託された魔槍ゴグ・マゴグを両手で構えると赤く光り輝き、それ自体に様々な文字が浮かび上がった。
それを俺は読み上げた。
「ありがとう魔王様、力を貸してくれて、これで皆んなを救えるよ。
生命の祈りは星海に変革をもたらす、絶望が希望となり、呪いは祝福となる。
エルム・エルピス……」
突き出した槍は二つに分かれて、その中心から赤く輝く太陽のような光の球が出現した。
それを俺は空に打ち上げた。
打ち上げた光球は、混沌とした色彩を飲み込み、一瞬にして消し去り、全てを暖かく春の木漏れ日のような光を照らした。
嫉妬のリンネはその光に照らされ、地上に倒れ込み穏やかな眠りにつき、光に照らされながら粒子状になって消えていった。
「暖かい光だな。
俺はできたんだ、生き残った皆んなを助けることを……」
俺はそこで力を使い果たし、地上へ落ちる感覚を感じながら気を失っていった。