第14話 おそれ(王兵)

文字数 2,606文字

また嬉しい気持ちが込み上げた、自分自身が再びこの世界に存在することができたのだから。

あれっ?
またラウさんがアマギさん達と話している、驚かしたらよくないし隠れておこう。

「それで、外にいる暴食の魔獣が擬態している人間はどうなんだ」

「今のところですと、レギオンの制御装置と遮断シールドを破壊されました」

「だいぶやられたな。
都市ティルウィングはもう魔獣に滅ぼされたのかもしれないな」

すると、アマギさんとは違う兵士がラウさんに何か言っていた。

「ラウ元帥、王様から連絡があります」

「そうなの、じゃあつないでくれ」

すると、目の前に映し出されていた赤い光の線や緑の線が引かれていたスクリーンが突然、王様の顔が映し出された。

彼女はずいぶんと慌てた様子で、以前見た綺麗な髪も今回はボサボサになっていた。

「ラウ!!!
早く、ここから退去しなさい」

大声で叫ぶ彼女にこちらも何かあったのか不安になった。

「どうしたんですか、王様。
何かありましたか」
だがそれでも不安に思っている兵士たちの中でラウさんだけは、いつもの調子で口元を上げながら少し笑みを浮かべながら話していた。
兵士たちを不安を覚えさせないためなのだろうか?

「それが、天の炎が何らかの誤作動で発射されたのよ」

彼は王様の深刻な表情を見ながらその話しを聞くと、笑みは無くなったが、でも落ち着いた様子で話し始めた。

「そうですか天の炎がですか、しかしあれはまだ安全の為にまだ発射のプログラムすらも組んでいないはずですが」

「それが……」

プツンッ、ザー

スクリーンはホラー映画のテレビで見る灰色と様々な色が混ざった砂嵐だけが映し出された。

「回線が切れた、ムラマサに何かがいるのかな」

「しかしラウ元帥、よく落ち着いていますね」

「まぁね、だって小生とこの飛行艇を飛ばせる優秀な兵士達がいれば、いくら帝国最強の兵器でも絶対に勝てるから」

言葉だけで言えば、強がりとも思えるかもしれないけど、彼の口は笑っていたが目は真剣そのものだった。
それを見た兵士たちは徐々に冷静を取り戻したようだった。
凄いなこの人は。

「ところで天の炎は反応があるのかな」

「はい、すでに放射されてこちらに到達する時間が約十五分後になります」

「そしたら、すぐにお前たちは離脱機に乗り込め」

その言葉に兵士達は驚きの声を上げた。

「元帥殿は逃げないのですか」
すると、何も映っていないスクリーンを見ながら話し始めた。

「彼らとは対話の道を開きたいからね、小生らが来るまで人類と魔王軍で争いあって、長い歴史の中で
かなりの死傷者が出たのだろう。
それに魔王は気付き、自らの命を持って魔王軍の勢力を弱めることで対立させないようにして、帝国にこの世界の敵、魔獣とリンネに戦わせることに専念させようとしたのだから。

だが、あの天の炎が都市クラレントに住民もいるのに直撃してみろ、元々魔王軍の都市の一つ、再び残った魔王軍による復讐の戦争が始まる。
それを再び起こさない為にも、小生の命をかけて天の炎を防ぎたい。
王様とは敵対したわけではないから君たちは帝国に戻るといい」

「いいや、そうだとしても私たちは元帥閣下の元には離れたくはないです。
なぜなら、私たちがいることによってラウ元帥も天の炎に打ち勝てるのですから」

彼の後ろにいた兵士達は一斉に敬礼をして、ここを動かない決意を固めたみたいだった。

「プッ、ハハハッ。
そうか、確かにそう言ったよね、皆、ありがとう。
では行くか」

「ハッ!!!」

「では、皆、小生は飛行艇の復旧にかかるから引き続き、天の炎に対策できる準備を同時に進めてくれ」

そして、ラウさんは自分のところへと歩いてきた。

「ほら、マコト。
少し、こっちに来てくれないか」

あっ、やっぱりバレていたみたい。

「うん、わかった」

そして、俺はラウさんと一緒に色々な配管が付いている廊下を歩いていた。

すると、ラウさんが振り向き俺のほうを見ていた、その表情はこの前のように楽しそうに微笑んでおらず、無表情で話してきた。
「そうだマコト、今日ははっきりと顔が分かるぞ」

「ええっ、どんな顔なんですか?」
そうなんだ、次は俺の顔が分かるんだ、よかった、また、何か思い出せるキッカケになりそうだ。

「この前、興味深そうに見ていたこの絵の人物だ」
すると見せてきたのは、以前名前を思い出すきっかけになったマコトの似顔絵が描かれた紙だった。

「やっぱり、この絵は俺だったんだ」
俺がその紙をニコニコしながら見ていると、額に冷たい感触を感じた。

カチャ

鉄砲???
確かに自分の額に当たっているのはそれだ。

「えっ?」

「君がマコトに何らかの関係があるのは確信した。
あの時、天の炎の計画を知っていたのは王と小生と君しかいない、天の炎をいきなり発射させて何が目的なんだい。
イタズラにしてはあまりにもヤンチャがすぎるよ」

何のこと、分からない?
それよりも何でそんな微笑んでいるのに奥底では怒りに満ちたような顔をするの?

「いやだ、怖い、やめてラウさん。
俺は何も知らない」

「信用できないな、忘れたといってもそれを言葉にするのは簡単だからな。
確かに小生も王様に見られてはいないとはいえ、君を簡単に入れたのは悪いからね。
だからその責任を取るまでのことだよ」

「やめて、俺を消さないで」
何でこんな時に初めてこの世界に存在できたときに目から流したものが出てくるの、今の心は喜びじゃないのに。

「ごめんなさい、ごめんなさい、俺何にも知らないんだよ。
だからね、だからね……」
何か言わないと、何か言わないとでも何も思い浮かばない。
浮かぶのは、目から出てくる水だけ。

「本当に何も知らないのか……」
ラウさんは俺の肩を握って真剣な眼差しでそう言った。

「知らない、ラウさんが言っていること全然わからない」
何で分かってくれないの、やっぱりラウさんも。

「そうかその涙は嘘とは思えないな、それは疑ってすまなかった、代わりに……」

「来ないで、来ないで、俺に関わらないで」

ダッ
そして、俺はそこから逃げる為に走り出した。
心や体が震える、存在を消される不安、殺される。
やっぱり誰も信じちゃいけないんだ、この世界に自分を分かってくれる人はいないんだ。

あぁ、だめだ、また俺はどこかに帰らないといけない、だけど俺自身がこの世界に存在できるのはいつなんだ。
いやだ、消えたくない、ずっとこの世界にいたい!!!

そんな願いは叶うことなく、いつものように俺はこの世界から存在を消し去った。
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