第15話 天炎(ごくえん)
文字数 4,713文字
「うーん」
「あっ、起きた」
「マコト、大丈夫!!!」
ぼんやりとしていた意識はアスラさんの声によって
はっきりした。
「俺は何をしていたんだ」
起き上がるとアスラさんとマーニさんが俺の横に座り込んでいた。
「いきなり眠ってしまって、その後もなんか悪夢を見ていたのか、うなされていたのよ。
でも、よかったすぐ起きて」
マーニさんはかなり心配してくれたのか、涙のあとが目に残っていた。
そんなに意識がなかったのか。
すると、意識が無かったときに見ていた夢のようなものを少しだけ思い出した。
「天の炎……
見たことのない男の人がここに向かって天の炎か何かを発射されていると言ってたんですけど」
ボンヤリとしてはっきりとは覚えていないが、確かにこの街にそれを放とうとはしていたはずだ。
「天の炎ですって、それは本当なの」
すると知っているのか、立っていたモルガーナ先生は普段見ないような驚きっぷりで不安を感じた。
「先生、間違えではないようですよ」
アスラさんが指差す方向を見ると、空の果ての地平線から光り輝く柱のようなものが見えた。
「そうか実物は初めて見たな、天の炎」
「本当にここを潰す気なの、エクスマキナ王」
マスターと先生は空を見上げていた。
先生は下唇をかみながら、何か別のことを考えているような感じでもあった。
「マスター達は知っているんですか、教えてください天の炎について」
するとマスターは空を見上げたまま話し始めた。
「まぁ、四英雄の一人、王兵英雄ラウと帝国の王が作りだした正式名称、対リンネ超熱プラズマ収束兵器、天の炎。
情報によると帝国の北側の軍事都市から放射することができ射程範囲はこの世界全域にあたる。
威力は地上に着弾すれば、またたく間に海であろうとも地上やどんなところでも溶岩が吹き出す火山地帯と化す、環境に害を成すものと言えば帝国最強の兵器。
まさか、その威力の強さから今までリンネが現れても使用されなかった兵器をラウに使うとはね、帝国は何を考えているんだ」
もし、そんなものがここに直撃したら都市ティルウィングはどうなるかは想像する必要なんてない。
そしたら、俺はやれることをやる。
ダッ
起き上がった俺は、すぐに天の炎のところまで走ろうとした。
ガシッ
すると、俺のすることを知っているのかマーニさんは震えながら俺の腕を握り、歩みを止めさせた。
「どこに行くの、マコト」
「あの飛行艇を助けないと」
「いや君では無理だ、マコト」
すると、マスターが服のポケットから取り出したタバコを口にくわえて吸いながら言った。
「いや、一度死んでいるから分かるんですよ、死ぬ時に受けた痛み、意識がなくなるまで本当に痛かった。
みんなにそんなものを受けさせたくはない」
俺の思いをぶつけた、俺はこの世界に生きる人々にそんなことで死なせたく無かった。
すると、マスターはその言葉を待っていたのか、口角を上げて笑みをこぼし吸っていたタバコを潰して話した。
「あぁ、思ったとおりだ、君はそういう人だと思っていたよ、転生者マコト。
何、あいにくこれに対してうってつけの人物がいるからね」
マスターの視線の先にいたのは、白い杖を地面に突き立てながら、天の炎が来ても表情の変わらない冷静なアスラさんだった。
「いいですよ僕の魔術使ってください」
「ありがとうみんな、俺のわがままに付き合ってくれて」
四人にそう言うと、マーニさんが目の前にまで歩いてきて俺の両手を握ってきた。
ギュッ
「私もやるに決まっているじゃないの、なんたってマコトの初めての仲間で一番の友達なんだから」
後ろで先生もニッコリと笑顔でうなずいていた。
「うんうん、先生もバッチリよ」
「そしたら、ボクにいい考えがある。
とりあえず、マコトとマーニは二人で協力して、この後すぐに大地を隆起させて、砂塵を舞わせてくれ。
それをボクとモルガーナがアスラに魔力供給させて、砂粒の混じった巨大な氷の壁を作る。
天の炎であるプラズマが壁に阻害されて、あの飛行艇に対する負担も減るはずだ」
「じゃあさっそく行きましょう、マーニさん」
「えぇ」
「ハッ!!!」
ブゥンッ
ドゴッ
ブワッ
マスターに言われた通りに俺はマギアをまとわせた槍を叩きつけ、マーニさんは腕力と魔剣で地面を叩きつけると一気に大量の砂が空に舞い上がった。
「今だ行け、アスラ」
「砂塵絶凍、コキュートス・ゼノ!!!」
アスラさんが振った杖は、マスターや先生との三人の魔力をつむぎ、人の数倍の高さと厚さの氷の壁が作られた。
ガキィンッ
キューイーン!!!
砂混じりの厚い氷壁が空に形成された瞬間、天の炎が光を纏いながら直撃した。
氷壁は天の炎を一瞬受け止めたが、数秒後には瞬く間に蒸発し、飛行艇もとい都市の方角に向かっていった。
ガキィン
ガキィン
ガキィン
ガガガガッ
ガキィン
最後の砦である飛行艇アマテラスは、俺たちと戦ったときよりも更に隠していた砲塔を数基出現させ、同時に発射させた。
だが天の炎は多少は威力を弱めることができたがそれでも飛行艇に直撃しようとした。
「そのまま、自分を犠牲にして天の炎を止めるのかラウ」
ポツポツ
ザァァァ
突然、バケツをひっくり返したような大雨が降ってきた。
「なんで、朝はあんなに晴れていたのに」
隣で雨に濡れたアスラさんは下唇を噛みしめていた。
「もう来たのか、暴食の嵐」
ブゥゥゥンッ
ババババッ
ガンッ
ドゴッ
するとどこからか突然、音速を超えた際に出る爆音が聞こえ、飛行艇に黒い何かがぶつかってきた。
「なんだあの巨大な虫は」
その姿をよく見ると、空が透けて見えるハネを使い、飛んでいる巨大な甲虫だった。
ノコギリクワガタのようなハサミが四角に分かれており、そしてヘラクレスオオカブトのように太く分厚い牙が生え、その黒光りのずっしりとした重い体は謎の赤い紋様が刻まれていた。
「あれはリンネだ!!!」
マスターが言ったならあれがリンネなのか、かつてマーニさんの仲間を殺した魔獣の王。
全身から溢れる殺気は魔獣以上のもので、もし自分一人だけだったら、恐怖でその場から動けなくなるだろう。
「まずいこのままだと、都市に天の炎が降りかかるぞ」
そうだ、リンネで気を取られていたが、天の炎がまだ都市に向かっているんだった。
「そうはさせない、俺のマギアで止めてみせる」
ガシッ
「マコトやめて、君が死んでしまう」
「離してください、マーニさん」
そう言っても彼女は袖を離さなかった、今にも泣き出しそうだった。
すると後ろからアスラさんが歩いてきた。
「その手を離せマーニ。
僕がマコトを死なせないから」
「でも……」
「マコトしかいないんだ、あれを止めれるのは!!!」
「ーーそのごめん、マコト」
「ありがとうマーニさん、俺を心配してくれて。
絶対マーニさんの大事なものを守るから」
そう言うと彼女は離してくれた、分かっている俺のことを心配して引き止めてくれたことをでもそれでも進まないといけない。
それが転生者であり、魔王軍勇者と名乗る俺の役目だから。
カリッ
するとアスラさんがスティック状のお菓子のような何かを一本口に入れていた。
「多重術式発動、アイスシールド」
そうすると再び、先ほどと同じぐらいの大きさの氷の壁が出来上がった。
さすがに魔力が弱いのか一瞬受け止めることしができなく、すぐに突破された。
だけどその一瞬がチャンスになった。
「ありがとうアスラさん、強者のマギア発動」
ぐぅいん
天の炎を空間ごとマギアで包み込んだ。
ガキィン、ドロッ
「止まれぇぇぇ!!!」
二重の氷の壁と飛行艇の攻撃により天の炎が威力が弱まっており、マギアが突破されるギリギリのところで消滅させることができた。
ペタンッ
今のでマギアのほとんどを使って、座り込んでしまった。
隣にいたアスラさんはあんな魔力を使ったのに疲れていた様子はなく、大空を飛び回っている暴食のリンネのほうを見ていた。
「ありがとう、アスラさん」
「マコトがいなかったらできなかったことだから」
金色の長髪が風になびきながら彼はそう言った。
やっぱりアスラさんはマンガやアニメのクールな主人公みたいでカッコいいな。
ダダダッ
バッ
すると全力で走ってきたマーニさんは喜びのあまり飛び上がり、こちらに向かってきた。
「マコト、アスラ、本当にありがとう!!!」
ドササッ
マーニさんの下敷きになった俺は……
あわわわっマーニさんの胸が当たっている。
それにしてもアスラさんはかわしている、すぐに飛び込んできたのにすごいな。
モニュモニュ
「やっぱりマコトのほっぺたは、プニプニしてやわらかいな」
「うーい、やめてくださいよマーニさん」
「これは私の感謝の表現だからね」
マーニさんの下敷きになって動けずにいる俺のほっぺたを遊ばれていると、マスターと先生が目の前に立ってこう言った。
「二人を頼むマーニ、これからは大人の番だ」
「まぁ、リンネには煮え汁を飲ませられたからね。
一気に決める、マスター頼むわよ」
「あぁ、分かった」
そしてマスターは翼の生えたドラゴンの姿になり、先生を乗せてリンネに向かって行った。
そして俺とマーニさんが立ち上がった時にはもう飛び上がって行った。
それに気づいたリンネも大空から一気に滑空し、襲い掛かろうとした。
そしてマスターたちとリンネがぶつかり合うとき。
バササッ
ザァァァ
キシャキシャキシャ
リンネは小さな虫の群れのようになり、マスターたちの突進を避けて、一気にこちらに向かってきた。
マスターは先生を振り落とし、その群れを追いかけた。
空を覆う黒い影、自身の背中から流れる冷たい水。
「危ない、マコト!!!」
目の前にマーニさんとアスラさんが盾になろうとしたがリンネは二人を避けて、俺だけを狙った。
その群体の虫は飛蝗(バッタ)だった。
マギアの使いすぎで足が思うように動けずに避けれなかった。
ズザザザッ
カシャカシャカシャ
「イギャァァァァァァ!!!」
体の左側に内側から突き破られて焼かれるような痛みに襲われて、痛みと死の恐怖が襲ってきた。
「マコト!!!」
二人の呼ぶ声が微かに聞こえると、新たな痛みはなくなった。
恐らく、リンネが離れたのか?
いいや違ったマスターが本来の姿であるスライムになって俺とリンネごと包み込み、俺だけを外に出した。
「ハァハァハァ、どうなっているんだ、俺は……」
この時、俺の左目は見えず、左の手足の感覚はなかった。
見えるほうの目で見ると、マスターのスライムを半分ぐらい喰らい尽くして、リンネはそのまま外に脱出し空に飛び上がった。
バササッ
「先生、マスターやマコトが……」
マーニさんのかすれた涙声が聞こえる。
「くっ、気をつけろモルガーナ、また来るぞ」
「かなりの群体ね、そしたら私が魔弾の飽和攻撃を」
ヒューン
ヒューン
バババッ
バババッ
バババッ
「あれはクサナギノマガタマと呼ばれる、広範囲を焼き尽くす粉塵兵器。
アタシたちを助けるつもりなのラウ」
音と声しか聞こえない。
「いや、これだけでは火力不足です。
暴食聖域が張り巡らせる前に早く街に戻って住人たちも避難させないと」
アスラさんの声が聞こえながら、マーニさんに抱え込まれ血で見えづらい瞳を開き、俺は再びそのリンネの姿を見た。
クサナギノマガタマと言われるものは、ラウさんの飛行艇に搭載された兵器を意味したものだった。
その飛行艇から空中に粉塵をばら撒かせてそこにレーザー光線を当てて着火させてる広範囲を粉塵爆発させ、竜のように空を翔けていた飛蝗達を散らした。
だが生き残った飛蝗達は一つにまとまり、一体の化け物になった。
「キシャアッ、キシャァッ、クワワァッ」
その怪物は、やっと意識が保てているボロボロの俺をひと目見ると、一瞬のうちにその姿をかき消した。
俺の記憶はここまでで、あとから先は記憶はなかった。
「あっ、起きた」
「マコト、大丈夫!!!」
ぼんやりとしていた意識はアスラさんの声によって
はっきりした。
「俺は何をしていたんだ」
起き上がるとアスラさんとマーニさんが俺の横に座り込んでいた。
「いきなり眠ってしまって、その後もなんか悪夢を見ていたのか、うなされていたのよ。
でも、よかったすぐ起きて」
マーニさんはかなり心配してくれたのか、涙のあとが目に残っていた。
そんなに意識がなかったのか。
すると、意識が無かったときに見ていた夢のようなものを少しだけ思い出した。
「天の炎……
見たことのない男の人がここに向かって天の炎か何かを発射されていると言ってたんですけど」
ボンヤリとしてはっきりとは覚えていないが、確かにこの街にそれを放とうとはしていたはずだ。
「天の炎ですって、それは本当なの」
すると知っているのか、立っていたモルガーナ先生は普段見ないような驚きっぷりで不安を感じた。
「先生、間違えではないようですよ」
アスラさんが指差す方向を見ると、空の果ての地平線から光り輝く柱のようなものが見えた。
「そうか実物は初めて見たな、天の炎」
「本当にここを潰す気なの、エクスマキナ王」
マスターと先生は空を見上げていた。
先生は下唇をかみながら、何か別のことを考えているような感じでもあった。
「マスター達は知っているんですか、教えてください天の炎について」
するとマスターは空を見上げたまま話し始めた。
「まぁ、四英雄の一人、王兵英雄ラウと帝国の王が作りだした正式名称、対リンネ超熱プラズマ収束兵器、天の炎。
情報によると帝国の北側の軍事都市から放射することができ射程範囲はこの世界全域にあたる。
威力は地上に着弾すれば、またたく間に海であろうとも地上やどんなところでも溶岩が吹き出す火山地帯と化す、環境に害を成すものと言えば帝国最強の兵器。
まさか、その威力の強さから今までリンネが現れても使用されなかった兵器をラウに使うとはね、帝国は何を考えているんだ」
もし、そんなものがここに直撃したら都市ティルウィングはどうなるかは想像する必要なんてない。
そしたら、俺はやれることをやる。
ダッ
起き上がった俺は、すぐに天の炎のところまで走ろうとした。
ガシッ
すると、俺のすることを知っているのかマーニさんは震えながら俺の腕を握り、歩みを止めさせた。
「どこに行くの、マコト」
「あの飛行艇を助けないと」
「いや君では無理だ、マコト」
すると、マスターが服のポケットから取り出したタバコを口にくわえて吸いながら言った。
「いや、一度死んでいるから分かるんですよ、死ぬ時に受けた痛み、意識がなくなるまで本当に痛かった。
みんなにそんなものを受けさせたくはない」
俺の思いをぶつけた、俺はこの世界に生きる人々にそんなことで死なせたく無かった。
すると、マスターはその言葉を待っていたのか、口角を上げて笑みをこぼし吸っていたタバコを潰して話した。
「あぁ、思ったとおりだ、君はそういう人だと思っていたよ、転生者マコト。
何、あいにくこれに対してうってつけの人物がいるからね」
マスターの視線の先にいたのは、白い杖を地面に突き立てながら、天の炎が来ても表情の変わらない冷静なアスラさんだった。
「いいですよ僕の魔術使ってください」
「ありがとうみんな、俺のわがままに付き合ってくれて」
四人にそう言うと、マーニさんが目の前にまで歩いてきて俺の両手を握ってきた。
ギュッ
「私もやるに決まっているじゃないの、なんたってマコトの初めての仲間で一番の友達なんだから」
後ろで先生もニッコリと笑顔でうなずいていた。
「うんうん、先生もバッチリよ」
「そしたら、ボクにいい考えがある。
とりあえず、マコトとマーニは二人で協力して、この後すぐに大地を隆起させて、砂塵を舞わせてくれ。
それをボクとモルガーナがアスラに魔力供給させて、砂粒の混じった巨大な氷の壁を作る。
天の炎であるプラズマが壁に阻害されて、あの飛行艇に対する負担も減るはずだ」
「じゃあさっそく行きましょう、マーニさん」
「えぇ」
「ハッ!!!」
ブゥンッ
ドゴッ
ブワッ
マスターに言われた通りに俺はマギアをまとわせた槍を叩きつけ、マーニさんは腕力と魔剣で地面を叩きつけると一気に大量の砂が空に舞い上がった。
「今だ行け、アスラ」
「砂塵絶凍、コキュートス・ゼノ!!!」
アスラさんが振った杖は、マスターや先生との三人の魔力をつむぎ、人の数倍の高さと厚さの氷の壁が作られた。
ガキィンッ
キューイーン!!!
砂混じりの厚い氷壁が空に形成された瞬間、天の炎が光を纏いながら直撃した。
氷壁は天の炎を一瞬受け止めたが、数秒後には瞬く間に蒸発し、飛行艇もとい都市の方角に向かっていった。
ガキィン
ガキィン
ガキィン
ガガガガッ
ガキィン
最後の砦である飛行艇アマテラスは、俺たちと戦ったときよりも更に隠していた砲塔を数基出現させ、同時に発射させた。
だが天の炎は多少は威力を弱めることができたがそれでも飛行艇に直撃しようとした。
「そのまま、自分を犠牲にして天の炎を止めるのかラウ」
ポツポツ
ザァァァ
突然、バケツをひっくり返したような大雨が降ってきた。
「なんで、朝はあんなに晴れていたのに」
隣で雨に濡れたアスラさんは下唇を噛みしめていた。
「もう来たのか、暴食の嵐」
ブゥゥゥンッ
ババババッ
ガンッ
ドゴッ
するとどこからか突然、音速を超えた際に出る爆音が聞こえ、飛行艇に黒い何かがぶつかってきた。
「なんだあの巨大な虫は」
その姿をよく見ると、空が透けて見えるハネを使い、飛んでいる巨大な甲虫だった。
ノコギリクワガタのようなハサミが四角に分かれており、そしてヘラクレスオオカブトのように太く分厚い牙が生え、その黒光りのずっしりとした重い体は謎の赤い紋様が刻まれていた。
「あれはリンネだ!!!」
マスターが言ったならあれがリンネなのか、かつてマーニさんの仲間を殺した魔獣の王。
全身から溢れる殺気は魔獣以上のもので、もし自分一人だけだったら、恐怖でその場から動けなくなるだろう。
「まずいこのままだと、都市に天の炎が降りかかるぞ」
そうだ、リンネで気を取られていたが、天の炎がまだ都市に向かっているんだった。
「そうはさせない、俺のマギアで止めてみせる」
ガシッ
「マコトやめて、君が死んでしまう」
「離してください、マーニさん」
そう言っても彼女は袖を離さなかった、今にも泣き出しそうだった。
すると後ろからアスラさんが歩いてきた。
「その手を離せマーニ。
僕がマコトを死なせないから」
「でも……」
「マコトしかいないんだ、あれを止めれるのは!!!」
「ーーそのごめん、マコト」
「ありがとうマーニさん、俺を心配してくれて。
絶対マーニさんの大事なものを守るから」
そう言うと彼女は離してくれた、分かっている俺のことを心配して引き止めてくれたことをでもそれでも進まないといけない。
それが転生者であり、魔王軍勇者と名乗る俺の役目だから。
カリッ
するとアスラさんがスティック状のお菓子のような何かを一本口に入れていた。
「多重術式発動、アイスシールド」
そうすると再び、先ほどと同じぐらいの大きさの氷の壁が出来上がった。
さすがに魔力が弱いのか一瞬受け止めることしができなく、すぐに突破された。
だけどその一瞬がチャンスになった。
「ありがとうアスラさん、強者のマギア発動」
ぐぅいん
天の炎を空間ごとマギアで包み込んだ。
ガキィン、ドロッ
「止まれぇぇぇ!!!」
二重の氷の壁と飛行艇の攻撃により天の炎が威力が弱まっており、マギアが突破されるギリギリのところで消滅させることができた。
ペタンッ
今のでマギアのほとんどを使って、座り込んでしまった。
隣にいたアスラさんはあんな魔力を使ったのに疲れていた様子はなく、大空を飛び回っている暴食のリンネのほうを見ていた。
「ありがとう、アスラさん」
「マコトがいなかったらできなかったことだから」
金色の長髪が風になびきながら彼はそう言った。
やっぱりアスラさんはマンガやアニメのクールな主人公みたいでカッコいいな。
ダダダッ
バッ
すると全力で走ってきたマーニさんは喜びのあまり飛び上がり、こちらに向かってきた。
「マコト、アスラ、本当にありがとう!!!」
ドササッ
マーニさんの下敷きになった俺は……
あわわわっマーニさんの胸が当たっている。
それにしてもアスラさんはかわしている、すぐに飛び込んできたのにすごいな。
モニュモニュ
「やっぱりマコトのほっぺたは、プニプニしてやわらかいな」
「うーい、やめてくださいよマーニさん」
「これは私の感謝の表現だからね」
マーニさんの下敷きになって動けずにいる俺のほっぺたを遊ばれていると、マスターと先生が目の前に立ってこう言った。
「二人を頼むマーニ、これからは大人の番だ」
「まぁ、リンネには煮え汁を飲ませられたからね。
一気に決める、マスター頼むわよ」
「あぁ、分かった」
そしてマスターは翼の生えたドラゴンの姿になり、先生を乗せてリンネに向かって行った。
そして俺とマーニさんが立ち上がった時にはもう飛び上がって行った。
それに気づいたリンネも大空から一気に滑空し、襲い掛かろうとした。
そしてマスターたちとリンネがぶつかり合うとき。
バササッ
ザァァァ
キシャキシャキシャ
リンネは小さな虫の群れのようになり、マスターたちの突進を避けて、一気にこちらに向かってきた。
マスターは先生を振り落とし、その群れを追いかけた。
空を覆う黒い影、自身の背中から流れる冷たい水。
「危ない、マコト!!!」
目の前にマーニさんとアスラさんが盾になろうとしたがリンネは二人を避けて、俺だけを狙った。
その群体の虫は飛蝗(バッタ)だった。
マギアの使いすぎで足が思うように動けずに避けれなかった。
ズザザザッ
カシャカシャカシャ
「イギャァァァァァァ!!!」
体の左側に内側から突き破られて焼かれるような痛みに襲われて、痛みと死の恐怖が襲ってきた。
「マコト!!!」
二人の呼ぶ声が微かに聞こえると、新たな痛みはなくなった。
恐らく、リンネが離れたのか?
いいや違ったマスターが本来の姿であるスライムになって俺とリンネごと包み込み、俺だけを外に出した。
「ハァハァハァ、どうなっているんだ、俺は……」
この時、俺の左目は見えず、左の手足の感覚はなかった。
見えるほうの目で見ると、マスターのスライムを半分ぐらい喰らい尽くして、リンネはそのまま外に脱出し空に飛び上がった。
バササッ
「先生、マスターやマコトが……」
マーニさんのかすれた涙声が聞こえる。
「くっ、気をつけろモルガーナ、また来るぞ」
「かなりの群体ね、そしたら私が魔弾の飽和攻撃を」
ヒューン
ヒューン
バババッ
バババッ
バババッ
「あれはクサナギノマガタマと呼ばれる、広範囲を焼き尽くす粉塵兵器。
アタシたちを助けるつもりなのラウ」
音と声しか聞こえない。
「いや、これだけでは火力不足です。
暴食聖域が張り巡らせる前に早く街に戻って住人たちも避難させないと」
アスラさんの声が聞こえながら、マーニさんに抱え込まれ血で見えづらい瞳を開き、俺は再びそのリンネの姿を見た。
クサナギノマガタマと言われるものは、ラウさんの飛行艇に搭載された兵器を意味したものだった。
その飛行艇から空中に粉塵をばら撒かせてそこにレーザー光線を当てて着火させてる広範囲を粉塵爆発させ、竜のように空を翔けていた飛蝗達を散らした。
だが生き残った飛蝗達は一つにまとまり、一体の化け物になった。
「キシャアッ、キシャァッ、クワワァッ」
その怪物は、やっと意識が保てているボロボロの俺をひと目見ると、一瞬のうちにその姿をかき消した。
俺の記憶はここまでで、あとから先は記憶はなかった。