第53話 せいいき(残夢) 

文字数 2,535文字

もう、この世界のマコトに真意を伝えることもできた。
俺も最後の仕事を果たさないと。

その地は、赤い華が一面に咲き乱れていた。
その花言葉は独立。

目の前には座り込みながら悲しみに暮れた銀髪と黒髪が混ざった女性がいた。

「殺して、私を殺して。
楽園を望んだがゆえに禁断の果実に触れて、彼らを産み出し、それすらも自身の罪から逃げるために殺そうとした。
ラウに天の炎を撃ち込んだのも私。
リンネになりかけたミーナを殺すためにモードレッドのところにまで行かせたのも私。
そして、モーガンを殺すためにイガルク大陸の魔獣の魔獣障壁を解除させたのも私。
そしてソドムの林檎を使い、この星すらも殺そうとした。
誰か殺して、私を殺して!!!」

「王様……」

俺がいることに気づき、ぐしゃぐしゃな髪の毛のまま彼女は立ち上がり、こちらに涙で濡れた顔を向けた。

「アナタは……
思い出した強欲のリンネ。
私を殺しに来てくれたのね。
それもそうよね、私が転生者を呪われた存在にしてリンネを生み出した原因なのだから」

「ーー来るな、強欲のリンネ」

誰かの怒りの声とともにこの刀があるからこそあらゆる万物が滅びると言われる妖刀ムラマサとあらゆる呪いを浄化する聖剣エクスカリバー、その二つの刀と剣が自分に襲いかかった。

ぐぅいん

ブゥンッ
 パリーン

その一振りで、マギアの中でも上位存在である聖域でしか壊すことができない強者のマギアが破壊された。
この二つの妖刀と聖剣を使えるのは、彼しかいないだろう。

「カムイ・バートランドさん」

そこにいたのは水に濡れて滴るような茶髪の髪型をした、動きやすさ重視なのかマーニさんの鎧のようなものを着ておらず何者にも染まらない意味なのか黒いコートのようなものを羽織っていた。

そして、彼は次の攻撃をするのか聖剣と妖刀を腰にかけて、妖刀だけに手をかけて居合切りの体勢に入っていた。
後ろに下がっても斬られると思い、マギアも突破されるため本意ではないが聖域を使おうとした。

「やめなさい、バートランド」
そこに王様が彼の刀に手を当てて止めに入ってくれた。
ふぅ、さすがにもう力の大半は彼が持っているから戦うと確実に負けるから助かった。

「ーーですが、彼はなにをするか分かりません」

「いいや王様にはなにもしませんよ。
俺の目的はバートランドさんの中にある嫉妬のリンネを連れて行くことですから」

そうすると彼は、刀から手を離しながら驚いていた。

「ーーどういうことだ」

「この世界のマコトが決めたんだ、リンネや魔獣全てを自身に宿し、新たな世界に持っていき、もう誰も苦しまない楽園を作ると。
俺は転生者の中にあるリンネをそこまで導くものだ」

すると彼の隣にいた王様が諦めた表情で話し始めた。
「本当にそんなことができるのかしらね。
私も最初はリンネとの共生も考えていたわ、でも結果的に事態を悪化させた」

「ーーそんなことはないと思います、王様。
アナタは本当は、この世界を魔獣のいない楽園にするために転生者を作り、魔王軍ともできるだけ争わないように魔王軍と対立していた国をまとめ上げたのではないですか」

彼女はその言葉に頭を振った。
「バートランド。
結果としては、マコトがいなければこの世界は滅びていた。
それとごめんなさい、父から聞いた天章ムラマサの勇者の弟子で非業の死を遂げたアナタを最後の切り札として使おうとしてしまって」

「ーー私は別に構わないです。
だってアナタ様はかつてのあの方と同じく人の幸せを望んだ瞳をしていたのですから」

「ごめんなさい、バートランド。
もういいの、私は結局間違えていたから。
それと最後にお願いがあるの強欲のリンネ。
せめて、誰も幸せにできなかった私に愛する人だけでも幸せにさせる願いを叶えさせて」

「わかりました、王様。
行こうバートランド」

「ごめんなさいバートランド」

「ーー前を向いてください、アナタ様は新たな世界でもまだやることが残っています。
私の今の記憶がなくなっても、共に向いて行く方向は同じ。
変わった世界でも私たちは共に歩いているはずです」

話すタイミングが遅いように思われているがそれは考えや気遣いが深いために間を置いてから話す彼が何も迷いもない言葉で話した。

王様は涙を流していたがその言葉を聞いた時、迷いの無い表情になっていた。

「最後にアナタたちに本当の名前だけは伝えたい。
その名前を呼ぶことによってアナタたちの存在の意味は残すことはできるから。

強欲のリンネ、ジン•ゴルディアス•ランスロット
暴食のリンネ、ステラ•モルゴース•ラオコーン
色欲のリンネ、オラクル•ビィビィアン•ダンテ
そして、嫉妬のリンネ、マーハウス•マンダラ

せめてなら、アナタ達もここに残し愛し、共に生きたかった。
それだけが心残りですが、いつまでも私はこの世界でアナタたちを生み出した母として愛しています」

そして、俺たちは何も言わずに一礼して背を向けた。
すると後ろから声がしたが振り返らず、歩みを進めた。

「アーサー、久しぶりね」

「モルガーナ姉さん」

「ごめんなさい、今までアナタのそばにいれなくて。
アナタがこんなにも苦しんでいたことに気づかなくて」

「ヒクッヒクッ、姉さん、姉さん、なんで早く来てくれなかったの。
私だけじゃダメだったの、せめて姉さんがいたら、こんなことにはならなかったの、だからもう二度と私の前から去らないで、ずっとここにいて」

「アーサー、相変わらず私に頼ってばかりなのね。
でも、ありがとう。
本当の気持ちが知れたから、もう二度とアナタのところからは去らないわ」

そして、マコトの聖域に繋がる門の前にたどり着いた。

「ーーありがとうランスロット。
エクスマキナいいやアーサー王もこれでやっと幸せになれます」

「うん、そうだね。
リンネとして本当の名前も知れたから、あとは帰るべきところに帰るだけだねマーハウス」

後ろではバートランドさんが倒れていた。
目の前にいる彼の影とともにその門を潜っていった。

そして、転生者の影から生まれた存在である者たちは、リンネとして目覚めていない残る可能性も共に連れて、その存在を彼の元に行った。

対極をなす彼は我ら罪人を認め、全てを受け入れてくれた、なら我らは全力で彼の力となろう。

これが我ら、絶望と虚無を振り撒いた罪人のせめてもの贖罪だ。
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